1-7.仕様の確認
試しに近くの木の幹に当てたけど、カンと軽い音がするだけで何も起こらない。
「これは武器にならない」
「そっかー。でも、さっきは出来たんだよな。なんか条件があるんだろ。別の枝でも試してみろ」
ここは森。落ちた枝はいくらでもある。
その中の一本、大きく曲がって良い感じの枝を手に取った。
途端に体が熱くなる感覚がした。
さっきの木の幹に枝を打ち付ける。枝はなんの抵抗もなく幹に入っていき、断ち切った。
ズシンと音を立てて木が倒れる。
「え……」
「へえー」
「ヨナ様! お怪我は!?」
驚く僕と感心するキアと心配するティナ。三者三様で、倒れた木を見つめる。
「おい。色々試してみようぜ。あ、木を切り倒すのはやめてくれよ。森に悪いから」
キアに言われるままに、いろんな枝を手に取った。
どの枝でも、体に熱を持つ感覚がした。けど、一度手放した枝では二度とその感覚は起こらなかった。
「ヨナ様、次はこれを」
「うん」
ティナに手渡された枝を受け取る。初めて触れた枝なのに、切れなかった。
「落ちてる枝じゃなきゃ駄目なのかもなー」
「人から渡されたのでは意味がない? 拾うのが大事なのかな」
「たぶんな。なあティナ、お前が運んで、落した枝はどうなるか試してみろ」
「あなたの指図は聞きません!」
「ティナ、お願い」
「はいヨナ様!」
「アタシの扱いが雑だな!? 仕方ないけど」
ティナが集めてきて、一度地面に落した枝は、ちゃんと効果を発揮した。近くの木の小枝を容易く切り落とした。
何度も試してる間に、枝の振り方や力加減なんかも身についてきた。難しくない。元々剣術指導は受けていたから、その応用をすればいいだけ。
「自分で拾った枝なら何でもいいし、拾うまでに枝がどうしてきたかも関係ない、か。あとは、地面じゃなくて建物の床に落ちてたならどうかとか、枝じゃない木の棒だったらどうなるかとかも気になるよな。棍棒とかでも切れるようになるのか?」
「さっきから、どうしてキアさんがあれこれ考えてるんですか」
「お前らについて行ったら、楽に生きていけそうだからな!」
「そんな不純な目的で同行なんかさせませんよ!」
「まあまあ。固いこと言うなって。ヨナに授かった力、もっと研究しようぜ!」
「それはいいけど。そもそもこの力がなんなのか、僕自身もよくわかってない」
わからないまま手探りで調べるよりは、指針があった方がいい。
「それもそうか。よし、だったら詳しい奴に聞いてみよう」
「あてがあるんですか?」
「アタシの村に、頭のいい学者先生が来てるんだよ。しばらくいるって言ってたから、聞いてみるといい」
「学者か」
学問にもいろんな分野がある。こんな得体の知れない力について助言が得られるとは限らない。
訊いてみる価値はあるだろうけれど。
それよりも。
「キアさん、今あなたの村と」
「お? そうだけど?」
「森に住んでるんじゃないんですか?」
「あー。それは……まあなんだ。色々あるんだよ」
「怪しいですね。ヨナ様、やっぱりこの人、信頼すべきじゃないとおもいます!」
「確かに怪しいけれど」
「はい。なにより格好に信用がおけません」
「それはいいから」
「ほらそこ。コソコソ話すんなって。どっちにしろ、お前たちはこの森から出られもしない。村の位置も知らないだろ」
「それはそうですが」
「しかも、もうすぐ日が暮れる。森の中で安全に夜を超すのも、アタシがいなきゃ無理だろ?」
キアの言うとおりだ。
少なくとも、彼女は悪人ではなさそうだ。こちらを利用したがってるなら、敵ではない。
「わかった。協力してほしい」
「そう来なきゃな! よろしくな、ヨナ!」
屈託のない笑みと共に手を差し伸べられたから、それを握り返す。
「まずは焚き火だ。枝を集めて火をつけてくれ。火打ち石は貸す。アタシは食料を獲ってくる! よっと」
キアは火打ち石を投げて渡すと、近くの木にするすると登り、枝から枝へと飛び移ってどこかへ行ってしまった。
「すごい身体能力ですね」
「うん。ティナは真似できる?」
「いいえ。木登り自体、やったことありません」
呆気に取られる時間は一瞬だけ。キアが言っていたように、空は暗くなり始めている。枝を集めないと。
能力を試すために、あちこちから枝を集めていたのは事実で。それが周りに散乱していた。それを一箇所に集めるだけだから簡単だ。枝を手に取り運ぶたびに体が熱くなる感覚も、次第に慣れていく。
「集めて、どうすればいいんだろう」
「こう、山を作るように組み立てて、着火剤となるものを載せるんです。乾いた草とかですね」
「ティナは焚き火ができるの?」
「外でやったことはありませんが、パン窯で火を焚くのと同じだと思えば慣れたものです。わたし、パン屋ですから」
えっへんと胸を張るティナ。頼れるなあ。
僕も街に出ることはよくあったし、国民の仕事を手伝ったりした。でも、力仕事がメインで火は触らせて貰えなかった。
僕にはできないことだらけだ。
ティナのおかげで焚き火は無事についた。暗くなった森の中で、しっかりと明かりを確保できている。
「お。ちゃんとできたようだな。ほらよ、夕飯だ」
キアが戻ってきて、何かをドサッと地面に落した。
数羽のウサギだった。
「皮を剥いで内蔵を取り出して焼くんだ。王子様にはできるか?」
「ヨナ様に変な絡み方しないでください! ヨナ様、わたしがやります!」
「ナイフを持ってないでしょ? 僕がやるから、ティナはやり方を教えて」
「はい!」
短めの枝を手に取る。体が熱を持ち、これが剣のような切れ味になったことがわかった。今は剣というよりナイフだけど。
ティナに教えられるままにウサギの皮を剥いでいく。初めてなのにうまくできたのは、枝の切れ味が良いから。面白いようにスパスパと切れる。
その間にキアは自分のナイフを手に取り。
「……キアさんは何をなさってるのですか?」
「なにって。お前らと同じだよ。獲物の皮を剥いでるんだ。まあ皮というか鱗だけど」
「鱗? キアさんそれは」
「見てわかるだろ? トカゲだよ。ウサギと一緒に焼いて食うんだ」
「トカゲを!?」
「美味いんだよなー。すばしっこいから、あんまり捕まえられなかったけど。ヘビとかカエルとは、また違った味がして。うん、トカゲが一番美味い。……なんだよ。やらねぇぞ。一匹しか捕まえられなかったんだからな!」
「食べないから。警戒しないで」
「ヨナ様。この人、ヘビやカエルも食べると言っていました」
「うん」
「変な人ですよ」
「悪い人ではないから」
とにかく、肉の下ごしらえは終わった。




