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1-13.異能

 この世界の人間は時々、常人には出せない不思議な能力に目覚めることがある。

 常識外の怪力を発揮したり、口を動かさずに自分の考えを相手に伝えたり。これが異能で、異能を獲得した人間を異能者と呼ぶ。


 ゾーラの使うような魔法も、異能のひとつだ。つまり彼女も異能に目覚めた人間。


 一生を終える前に異能を得る人間は、だいたい千人にひとり程度。誰が何歳で目覚めるかは完全にランダムで、性別や立場の貴賤は関係ない。遺伝もしない。

 有効な異能者は、貴族に召抱えられることもあるという。能力にもよるが、それほど貴重なもの。


 この子も、知らないうちに異能者になってしまった。


「見つけたのは偶然よ。道端に咲いている小さな花に、この子が触れたの。すると花が一回り大きくなった。ありえないことね。見間違いだと思ったけれど、その後も何度か繰り返して確信した」

「それで……なんで立てこもりに繋がるんだ?」

「周りの大人に異能を知られる前に、詳細をちゃんと把握しておきたかったのよ。家に案内してもらって話してたら、外に出ていた母親が帰ってきて。追い出そうと、ちょっと手荒な真似をしたら、なんか騒ぎになって」

「それはお前が悪い」


 キアが呆れた口調で言い切った。


「詳細を把握って?」


 尋ねると、ゾーラは僕の方を見た。


「簡単なことです、ヨナ……くん。花を大きくさせると聞いて、どんな異能だと思った?」

「植物を成長させる、みたいな?」

「普通はそう考える。けどありえないのよ。一度咲いた花が、それ以上大きくなることはない。花が咲けば、あとは枯れるか、果樹によっては実に変わるか。成長っていうのはそういうもの」

「たしかに……」

「だから、この子は成長なんかさせてない。植物に作用して、ちょっと大きくするだけ」


 この人は本当に頭がいいのだろう。直感で考えたこと以外の視点で物事が見られる。さすが学術院だ。


「考えようによっては、こっちの方が有用でしょうけど。草を成長させて季節外れの花を咲かせても、あまり意味がない。農家にとっても、種まきも育てるのも収穫も、季節は決まってるんだから。乱しても迷惑なだけ」

「たしかに」

「けど、一回り大きな麦が収穫できたらみんな喜ぶ。だからこの子の異能をみんな使いたがるでしょうね。だから危険なの」

「危険? どんな?」

「大人たちが、この子に力を使わせたがる。リスクも知らずにね。異能については、わかってないことも多い。さすがに、命を削って能力を発揮するなんてことは無いわ。けど、力を使えば疲れるのは確か」


 普通に力仕事をするのと変わらないな。働けば疲れる。


「ああ。そりゃまずいな。子供にさせるべきじゃない」

「ええ。あなたの言うとおり。村の大人たちが大喜びで、作物に異能を使わせる。村長の孫なんだからと、村の農作物全部にさせようとするでしょうね」

「こんな小さな子には重労働すぎるよな」

「そう。小さいうちから身の丈に合わない労働をすれば、その後の体の成長にも影響が出る。異能で不幸になることは、あたしは許せない」


 だから、この子に自分の力の性質と、大人の言うことを安易に聞いて力を使わないってことを教えなきゃいけなかった。

 他にも、どれだけ力を使えば疲れるのかの感覚も本人に覚えさせる。それ以上は駄目だと学ばない限りは、使うべきではないと。


 ゾーラはこの子のこと、真摯に考えているらしい。同じ異能者として放っておけなかったのだろう。


「でも、確かにやり方はまずかったわね。多少苦労してでも、家族には話すべきだった」


 本当はそれも嫌だったのかもしれないけれど。家を取り囲み攻撃してきた、血の気の多い男たちには辟易してたようだし。

 彼らの方が正しいとわかってはいても。


 だからゾーラは自分の非も理解していた。


「ご家族に心配かけたのは申し訳なかったわ。ごめんなさい。あなた方が息子にちゃんと気を配って、力を使いこなせるよう尽力するなら、あたしから言うことは無いわ」


 ゾーラが頭を下げれば、両親や村長たちも恐縮した様子を見せた。

 これで一件落着なのかな。

 じゃあ、次は。


「あなたのことを訊かせてもらえるかしら、ヨナくん?」



 村長の家の件は解決したし、ここから先は他人には聞かれたくない。ということで、場所を移動することにした。お腹もすいてきたし。

 村唯一の、宿屋兼、食堂兼、雑貨店の食堂スペースに入る。テーブルがふたつに小さなカウンターの、全部で十席あまりしかない小さな食堂だ。メニューも簡素でパンとスープのみ。スープの中身も日によって違うらしいから、いい加減なものだ。


 これが、大都市同士を結ぶ道の経由地にある村なら、もっとしっかりした施設があるのだろう。けどこの村は、森に囲まれた中にある集落といった感じの場所。つまり僻地だ。


 たとえ王都から歩いて行ける距離にあったとしても、人通りが少なければそんなもの。


「たまに食えば美味いもんだぜ、ここのスープも」

「トカゲ焼いて食べる人の美味しいは、信頼できません」

「なんだよー。トカゲ美味いだろー」

「え。この子トカゲ食べるの?」

「そうなんですよ! ありえないですよね!」

「ええ。トカゲは黒焦げになるまで焼いて秘薬の材料にするものよ」

「それはそれでどうかと思います! ……このお店、パンも硬いです。焼き加減も甘いし、まだまだですね」

「文句があるならティナが教えてやればどうだ?」

「はい! 検討します!」

「やるのかよ……」


 ティナたちはすっかり打ち解けているようだった。


 ゾーラが悪人ではなかったことがわかって気を許したのかな。

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