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さとる

作者: 武井 こらむ
掲載日:2025/11/11

ある夏の日、大人になった僕の元に同窓会のハガキが届いた。同窓会のハガキと暑い夏の日が重なって、大切な夏の思い出が鮮明に甦った。


それは小学6年の暑い夏、あいつは転校して来た。名前は「さとる」苗字は、思い出せない。何故なら、もう数十年も前の話しになるからだ。でも、苗字は思い出せないのに、さとると過ごした時の事は、数十年たった今でも覚えている。


さとるは、みんなと少し違っていた。

僕達の小学生の頃は、殆どの男の子が、Tシャツに短パンだったが、さとるは、長いズボンを履いていた。物静かな感じだったが、人に好かれ、面白くて、スポーツも勉強も出来た。


あまり、人に本音を見せないし、1人でいる事の方が多い僕の事を、何故かいつも物静かに見守られている様な視線があった。それはさとるだ、僕が顔を上げた時に目が合うと、さとるは、真っ直ぐな唇の口角を上げて、ニヤッとするのだ。怖いとか不気味な感じはしない、僕が思ってるだけかも知れないが、さとるの視線は優しく包み込むような感じだった。

そしてさとるは、お洒落でもあった、髪型も洋服も、周りの子達よりも、飛び抜けていて、そして少し大人びていた。


ある日学校の帰り道、また視線を感じた僕は、その視線の先にいる、さとるを見た。手を上に大きく振りながら、僕の方に駆け寄って来た。いいや、それは僕にか⁈ そう思い振り返ったが誰もいない、やはり僕にだ。

いつもいる取り巻きはいなく、1人だったさとるは、僕の前にくると「桜井くんだよね、同じクラスの」と言った。


さとると話したのは、それが初めてだった。


僕と真逆のさとるは、人気者で、いつも周りに人がいたので、僕はそれを横目で見ながら、1人で本を読んでいるような子供だった。そんな僕の名前は、桜井翼と言う。


いつしか僕等は友達になった。


僕は、さとるの話しや、僕と真逆な性格が魅力的だったのだろう、さとるといる時は、楽しくて仕方がなかった。

相変わらずのさとるは、取り巻きの多いクラスの人気ものだったが、何故か帰りは1人だった。 


帰る方向が一緒な事もあって、その時から僕等は、いつも落ち合う所を決めて、一緒に帰るようになった。

ふざけたり笑ったりした時間は、僕にとって光のような眩しい時間で・・だか、思い出すのはその光だけなのだ。


さとるは帰り道、僕の家の前で一旦止まり、「また、明日」と言って手を上げ、帰って行く、だかある日、僕はさとるの家を知らない事に気が付いた。

後を追うのは、と思い、思い切ってさとるの家は、何処にあるのか聞いてみた。さとるは、微笑みながら、今度の帰り道、家に遊びに来ないかと誘ってくれた。


僕は、この"親友"の家に行ける事が楽しみで仕方がなかった。遊びに行く前の日は、寝れなかったくらいだ。


そしてその日は、夏休みに入る1日前だった、いつもよりもとても暑かったのを覚えている。蝉の声がうるさくて、眩しい光に目が追いつかないくらいだった。


僕は通信簿を受け取り、教室を出ていつものように、さとると落ち合う場所へ向かった。さとるは、もう着いていて、僕を確認すると僕の歩調に合わせ、一歩先を歩き始めた。


少し歩くと広々とした林があり、さとるはその中をどんどん進んでいった。「こんな場所に林なんかあったかなぁ・・・」僕は小さい声で呟いた。しばらく歩くと、その奥にさとるの家があった。


さとるの家は、普通の木造の一家屋で、大きな庭があり、胡瓜や茄子、トマトなどが植えてあった。

玄関の扉は、昔ながらの引き戸になっていて、さとるに促されるままに、家に上がった。

家の中には、おばあちゃんがいて、優しい笑顔で迎えてくれた。


昼ご飯や縁側で冷たいスイカをご馳走になり、いつものように楽しい話しをしながら、あっという間に、時間は過ぎていき、帰る時間になった。「今日は楽しかったよ、ありがとう」と伝え、さとるの家を出た。

帰り道、僕は楽しかった時間を噛み締めながら、家路に向かう途中、さとるの両親に会って無い事に気付いた、おばあちゃんと暮らしているのか・・。何となくそんな事は、聞かずに終わってしまったが、また会った時にでも聞こうと思っていた。

そんな事もすっかり忘れ、楽しい夏休みも、もう半分終わりに近づいていたそんなある日、夏休み中にまた、さとるに会おうと思い、さとるの家に行ってみる事にした僕は、この前の道を歩きはじめた。だか、途中思い出せない・・この前見た林が見つからない。「あれ、こっちだったよな・・」どうしても思い出せない僕は、諦めて家に帰る事にした。


それからあっという間に夏休みが終わり、新学期になったが、あれを最後にさとるには、会っていない。

さとるは、夏休みの間にまた転校してしまったようだった。最初の頃は、ショックで淋しくて、泣きそうになっていたが、仲良くしてくれる友達が少しずつ増え、その時は、さとるの事もすっかり忘れてしまっていた。


しかし大人になるにつれて僕は、夏になると決まって、さとると過ごした時間を思いだしていた。そして何か辛い事があった時もさとるの事を思い出しては、頑張ってきた。


そう、そしてあの時さとるは僕に、使い捨てライター位の大きさの細長い液晶画面が付いていて、そこに数字を入れられる小さい機械をくれたのだ。さとるは「君が本当に辛い時、ここに書いてある番号を入れてくれれば、助けに行くから」と言ってくれた。その機械の裏に数字が打ってあった、そのパスワードは、"3106 " 。


そしてこれをお守りのように、今の今まで僕は大切に持っていた。が、しかし、僕は、これを今まで一度も使った事は無かった。でもこの"お守り" がある事で僕は、いつも、いつでも強くいられたのだ。


そんなさとるの事を思い出し、懐かしい人との再会にワクワクしながら、同窓会のハガキに出席として、投函した。


それから1ヶ月後、同窓会の日が来た、場所は僕の家からそう遠くはない場所だったが、初めて行く店だった。

それほど大きくない店だったが、僕ら同級生と担任の先生との貸切で、人数は30人位は集まる予定のようだった。


店に入ると「さくら〜い」クラスメートの1人が近付いて来た、僕も懐かしくて嬉しくなり、みんなにも次々に挨拶をした。


だいぶ時間も立ち、みんな酔った人や、途中で帰る人なども出てきた時、キョロキョロしながら僕は「さとるは、来てないの?」とみんなに聞いた。仲の良かった友達たちが口を揃えて、「さとる?」と聞き返してきたのだ。

「さとるって誰だ?苗字は?」と言ったので、僕も「実は苗字は思い出せないんだ」と答えた。

だか、誰一人分からなかった。担任の先生にも聞いてみたが、覚えてはいなかったのだ。

それどころか、僕は勉強も運動も出来て、みんなの人気者になっていた・・。それはまるで、僕が見ていた、あの"さとる"だった。

僕の記憶違いか・・いいやそんな事はない、確かにさとると話した・・記憶が・・。でもまた、顔が思い出せない・・さとるの顔が・・。


あっそうだ、僕にはお守りが・・とポケットに手を入れた時、フラッシュバッグしたように、一瞬記憶が戻った、さとるの声で、この事は、"絶対に内緒だよ"と言われた事を突然思い出した。

うん大丈夫、"お守り"の事は、誰にも言ってはいない。そして僕は気づいた、みんなといる時は、このお守りを、表に出すことが出来ない事に。


同窓会もお開きとなり、ほろ酔いになった僕は、みんなと別れ、1人で家路に向かって歩き初めていた。そこは薄暗い道で、少し先の街灯の電球も切れかかっていた。その場所に差し掛かった時、「桜井くん」と僕を呼ぶ声がした。さとるの声・・「さとる?何処にいる?」「今日は来なかったの?」僕は続けて質問した、さとるを探しながら、そしてまた、さとるが居なくなってしまう様な気がしたから・・。でも、さとるの姿は何処にも無い。「さとる、何処にいるの?」

再度僕は声をかけた、その時、ポケットの辺りに蛍の光の様な黄緑色を感じた。お守りだ、お守りから光が放たれている。僕は目を細めた、小さい耳鳴りがした後、僕の前にあの時のさとるが現れた。


「さとる!」僕はさとるを見て声をあげた。さとるは「久しぶりだね」と言うとニヤリと微笑んだ。

「さとる、本当に久しぶりだよ、でもさとるは、あの時のままだね、僕は随分と年をとったけど」その返事に口を開いたさとるは「僕は、年を取らない、だから死ぬ事もない、だからずっとこのままなんだ」と。僕は、何となく理解しようとしていたが、頭がいっぱいになってしまっていた。でも続けて「どうしてあの時、僕の所に現れたの?」と聞いていた。

その問いにさとるは「君が呼んだんだ、心の中で。そして僕は少しだけ君の生きるお手伝いをしたに過ぎない、が、桜井くんは、僕の事を親友だと思っていてくれていた、今の今まで。僕は、それが何より嬉しい、でも・・今日で会うのは最後なんだ」


僕は、こう言われる事を何故かわかっていた。そんな事を思っていると、さとるは少しずつ薄くなっていく、そのなかでさとるは「もう一度会えて良かったよ、ありがとう」っと言ってあの忘れられない、あの時の顔で、ニヤリと笑った。

お礼を言うのは、僕の方だよ、さとる・・。僕は心の中で呟きながら、消えゆくさとるを見ていた。

ポッカリ空いた心は、不思議と悲しさや寂しさはなく、清々しい気持ちさえする。さとるの存在が、いつも僕が僕らしくいれた、その事にも感謝しかないと感じた。

そしてそれと同時にあの機械も僕のポケットから消えていた。うん、確かにさとるは居たのだ。ずっと僕の中に。


その後数年立ち、僕は結婚し、子供にも恵まれ、慌ただしいがとても幸せな時間を送っていた。

そんなある日、息子の部屋で最近の話しなどしていた時、なにか悩みがあったように見えたので、話しを聞き出そうとしてみたが、「悩みなんか無いよ」と息子に笑い飛ばされた、僕に心配かけないようになのか・・。


息子がトイレに立った時、僕は何気に、少し開いていた机の引き出しに目を止めた後、目を見開いた、そして声を出しそうになった口を塞いだ。

あの数字を入れる機械を息子は、持っていたのだ!

取り出そうと手を延ばした時、息子が帰って来たので、僕は、何食わぬ顔で、話しの続きを聞いていた。

僕は、話しを聞き終えて椅子から立ち上がる際に、少し開いていた机の中を息子に気付かれないように、もう一度そっと覗き込んだ、だがあの機械はもう無かった。


「さとる」だ、あれは、間違いなく、さとるだ。

さとるが、僕を安心させてくれたのだと思った。

本来ならきっと、僕にはあの機械は見えない筈なんだ、

でもさとるは、僕に教えてくれたのだ、息子は、大丈夫だと。

僕は、あらためて再確認した、さとるは、間違いなく僕の親友だと。もう、僕は会う事がないが、いつも側にいてくれている事に気が付き、そしてまた感謝した。

そして僕は息子の部屋を出た。


もうそろそろ夏も終わりのサインを出している風にあたりながら、僕は窓を開けて空を仰ぎ、そして僕は"親友"に「ありがとう」と心の中で呟き、そしてニヤリと微笑んだ。

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