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第四話 母が妊娠中に狂いかけた話 ★


 ちょっとショッキングなタイトルだけど、今回は番外編だ。

 なにせ私が生まれる前の話だから。

 前回は姉の話を書いたから、母が姉を妊娠中に経験した不思議体験を書こうと思う。



 母も姉も本人は霊感なんてないと思ってる。

 私が何かちょい怖な不思議体験をしてそれを話すと、母も姉も「自分は霊感なくて良かった〜」的な反応をする。

 でも母は、霊感とは違う特殊な力を持ってると思う。


 なんだろう、憑依体質の一種なのかなぁ?

 たとえば法事で和尚さんがお経を唱える中、手を合わせて目を閉じてると……。

 身体がゆらゆらと揺れだしてしまう。


 母は自分で気づいていることもあれば(でも自分では止められない)気づいてなくて、周りが「え、なに?」みたいになってることも。

 一度、あまりにも揺れて周りの人たちが騒然としたからか?

 和尚さんが何かを察してお経を中断し、母の背中をさすって収めてくれたことがある。


 まあこれだけなら、ただトランス状態に入りやすいだけか?

 と思うんだけど……。



 そんな母が父と結婚して少しした頃。

 母は姉を妊娠をした。

 もちろん喜んだ父と母なわけだが。

 まもなく母は重いつわりに苦しむことになる。


 つわりというのは全くない人もいれば、酷すぎて入院する人や、出産するまで吐き続ける人もいるくらい個人差がある。

 母は重いほうだったらしい。(そしてそれは私にも遺伝した……)


 父はそんな毎日辛そうな母を思い、二人でお参りしたことのある浅草寺で、あるものを買ってきたそうな。

 それは銀色のネックレスで、ペンダントトップをパカっと開けると中に観音さまがいる。


 このネックレス、今も浅草寺で売ってたりする。

 ペンダントトップなんて書くとチープな物を想像する人もいるかもしれないけど、本堂の中でお守りなどと一緒に売っていてそこそこのお値段の本格的なやつだ。


 母は父親(私のおじいちゃん)の影響で信心深かった。

 それにこの時の母はつわりがあんまりにも辛くて、それこそ神さまにすがりたいくらいだったらしい。



 だから母はペンダントを家の棚の上に置いて、毎日祈ったそうな。

 ちゃんと水を入れたコップをお供えしてまで。



 けれども……。

 つわりはちっとも治らない。

 母は辛い日々にやさぐれ始めていた。


 そんなある日、母に異変が起こった。


 とにかく落ち着かなくて、じっとしていられない。

 夜も眠れないし、夜の町をフラフラと彷徨うようになってしまった。


 父は母をとても心配したけど……。

 仕事があるもんだから、家で四六時中、母を見張っているわけにもいかない。

 かと言って、もうお腹も膨らみだした妊婦の母が睡眠も取らずに歩き回っているのを放っておくわけにもいかない……。


 一方、母はとにかく辛かったらしい。

 私が話を聞いても詳しく説明できないみたいだけど、じっとしていられないっていう精神状態が怖い。

 しかもつわりでしんどいのに、身体を休めることすらできないってことだから、そりゃ大変だろう……。

 

 とにかく、当時の母も自分が異常なことは自覚していた。

 自分は狂ってしまったとさえ思ったのだとか。


 そして、母は思いつく。

 実家に帰って、父親(私のおじいちゃん)を頼ろうと──。



 けれども当時の母は東京に住んでいて、実家は東北の奥地。

 昔のことだから、何本もの電車を乗り継いで何時間もかかる。

 そう気軽に帰れる距離じゃなかった。

 しかも母は妊婦だ。


 父は実家に帰ると言い出した母を心配し、仕事を休んでついていくことにした。


 しかし先ほど書いたように、とにかく電車に乗る時間が長い。

 母は電車でも大人しく座っていることができず、車両内を歩き回ったり、あとは車両と車両の間のスペース(有料列車にあるやつ)で父と一緒に座り込んだりして、なんとか実家までたどり着いたとか……。


 実は、母はほとんど実家に帰っていなかった。

 私にとっては優しいおじいちゃんだったけれど、母にとってはそうじゃなくて、とても怖い人だったんだとか。

 だから家を出て数年、結婚の挨拶くらいでしか帰らなかったらしい。


 とはいえ、おじいちゃんも祈祷師になるまでは普通の「お父さん」だった。

 けれども、強制的に祈祷師を継がせられてから豹変した。

 とにかく、怖い! 怒る!


 祈祷師を継ぐと、性格が変わる──。


 これは代々言われてることで、おじいちゃんの後を継いだ伯父さんも同じだった。

 私が小さな頃は、伯父さんはとても穏やかで優しい人だったんだけど……。


 まあ、その理由とかも聞いてるけど、話がずれるので今回はこの辺で。



 そんなこんなで実家に滅多に帰らない母が妊婦姿で帰ってきて、助けて欲しいと頼むもんだから、おじいちゃんはさっそく祈祷師として拝んでくれた。


 すると、おじいちゃんはこんな事を言ったという。(実際はバリバリの東北弁だから……略)


「女の人が怒っているのが見える」


 なんの心当たりもなかった母は「え?」と返したそうな。

 おじいちゃんは続けた。


「なにか観音様を怒らせるようなことをしなかったか? 観音様に祈っても聞いてもらえなかったから、観音様を粗末に扱おうとしただろう?」


 それを聞いて、母はハッとした。


 母は父が浅草寺で買ってきた観音様のネックレスに、つわりが治るよう毎日祈っていた。

 けれども、つわりはちっとも治らない……。


 やさぐれ始めた母は、こう思うまでになった。


「まったく、いくら祈っても効かないじゃない! もうこのネックレスは浅草寺に返しちゃおうか」


 なにも、捨てようとまで思ったわけじゃない。

 ただ、つわりでしんどくて不安定な精神状態の中、「こんなの効かないわ!」っていう憤りからそう考えたんだと思う。

 捨てないところが母らしい。


 だがそれでもダメだったらしい。

 つまり、母がおかしくなってしまったのは、神様の祟りだったというわけだ。



 そうして、おじいちゃんからも観音様に謝ってもらい、狂いかけた母は元に戻った。


 じゃあつわりは?

 って聞いても、母は覚えていないらしい。

 たぶん程なくして収まったんだろうけど、この狂いかけた事件が衝撃的すぎて記憶がないそうで……。



 今回、浅草寺の名前を出していいのか悩んだけど、浅草寺については他にもエピソードがあるから思い切って載せた。

 この一件以来、母はもう観音様に失礼のないようにと心に誓った。

 そして今も初詣やなにかの節目の際には、浅草寺に行っている。

 正月に毎年家族で浅草寺に行っていたのは、今となってはいい思い出……。



 まあ、私の解釈としては、観音様が直々に母を祟ったわけじゃないと思う。

 おじいちゃんが最初に言った、怒っている女の人というのは観音様ご本人ではないんじゃ? と思って。(知らない人もいると思うので書くと、観音様は日本だと女性だ)


 たぶん、観音様の手先となって人々の願いを聞き届けたりする、眷属とか神使(しんし)って呼ばれる存在なんじゃないかなぁ?

 そうじゃなきゃ、おじいちゃんは最初から「観音様が怒ってる」て言いそうなもんだし。


 ちなみに眷属や神使の分かりやすい例は「お稲荷さん」だ。

 稲荷神社というと狐が祀られてると思ってる人も多い。

 でも実際に祀られているのは狐ではなく人の姿の神様で、その眷属があの「お稲荷さん」と呼ばれる狐だったりする。



 そんなこんなで、神様に祟られたことのある母は「むやみやたらに、あちこちの神様に祈るもんじゃない」と、浅草寺以外のお寺や神社では祈願をしなくなった。

 中途半端な気持ちで祈って、また祟られたら……という意味だ。

 そして百亭家の家訓として、仏像や神様を形取ったものは家に敷地に入れたらいけないと言われて育った。

 そういうものを買ってきて、何か祈ったら……略。



 最初の方で母は憑依体質の一種と書いたけど、ここまで書いて少し違うかもしれないと思った。

 きっと祈祷師という血筋上、祈る力が人より強いんじゃないかな?

 だから前に書いた市松人形も、母の祈りで魂が宿ってしまったと……。


 ちなみにそんな母は、実家にいた頃はおじいちゃんやおじいちゃんのお客さんから、祈祷師の後を継いだらどうかと言われていたらしい。

 母は嫌がったし、そもそもうちの家系の祈祷師は継ぎたくて継げるもんじゃないんだけどね。

 でもおじいちゃんにもそう言われたということは、何かしらの才能があると思われてたのかもなぁ。



 最後に。

 実は私は仏像が好きだ。

 浅草寺にお参りに行くと仲店通りで売ってて憧れていた。

 でも百亭家の家訓により、買うことは禁止されていて……。


 しかしとある経緯で一体だけ、仏像というか神様の像を手に入れた。

 その話は、また今度。


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