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第三話 姉の部屋から聞こえるのは…… ★★


 幼き頃の話が続いたから、今回は少し時がすぎ、私が高校生の頃の話を書こうと思う。

 今度はピチピチJKな百亭(ももてい)を想像していただけると(略)



 今回は三つ年上の姉とのエピソードだ。

 でもその前に、この頃の私の状況を少し。


 小学校に上がってからは、幼女時代みたいに色んなものが見えることはなかった。

 でもふと「あれ?」と思うものによく遭遇した。


 たとえば歩いている道のわきに、赤いランドセルを背負った女の子が立っている。

 それが視界の隅に入って、どんな子だろうと視線を向けると……誰も立っていない。


 こんな感じで視界の隅に何かが見えて、いざ視線を向けると何もない、というのがたびたびあった。

 当時の私は、幽霊といえば前回の着物の女性のようにはっきり見えるものだと思い込んでた。

 だからこの視界の隅に移るものたちは、幽霊じゃなくて幼女時代に見てた不思議な存在たちかも? と思ってた。


 でも前みたいにちゃんと姿をとらえることができない。

 だから毎回「なんでだろ? 見間違いかなぁ」で済ましていた。

 でも今思うと見間違えすぎ……。




 さて、そんな風に不思議体験が落ち着いて(?)だいぶだった頃の話だ。

 この頃の百亭一家は貸家から普通の一軒家に移り住んでいた。


 私の部屋は二階のベランダに面していて、その隣に姉の部屋があった。

 私と姉の部屋の境は壁じゃなくて引き戸で、将来的に繋げて使えるような部屋だった。


 将来つなげて使えるのは便利だけど(現に私も姉も家を出た今はそうしてる)、難点があるとすれば音漏れだ。

 ただの壁より、断然音が漏れる!


 でもまあ、部屋はお互い六畳ほど。

 私も姉もその引き戸から離れて生活してるし、テレビの音が漏れるくらいで大きな問題はなかった。


 そして最近の私と姉は仲が良いけど、十代の頃はそこまでじゃなかった。

 姉は女の子らしいレディなタイプで、私がヤンチャな男の子みたいなタイプだったからかも?


 あと姉は思春期以降、あまり家族に干渉されるのを好まなかったから、リビングとかで姉の気が向いた時におしゃべりをする感じ?



 そんな姉の部屋から、時々ため息が聞こえるようになった。


「はぁ〜……」


 それが聞こえると、毎回ドキッとする。

 だって、けっこう近い距離で聞こえるから……。


 自分の部屋に誰かいるのかと思って振り向くと、それは姉の部屋の方から聞こえてて、姉のため息だと分かる。


 でも、ため息がそんなに大きく漏れるって、ヤバくない?

 どんだけ普段から音漏れしてんの!?

 それともため息の音って、他の音より響きやすいのかな?


 な〜んて思っていた、ある日。


「はぁ〜……」


 その日もまた「なんか疲れてる?」とか「嫌なことでもあったのかな?」と感じる、憂鬱そうなため息が聞こえてきた。

 

 でもさっき書いた通り、私と姉は今ほど仲良くない。


「大きなため息が聞こえたけど、どうかしたの?」


 なんて声をかけることはしない。

 そんなことしたら、姉に「ほっといてよ!」と怒られてしまいそうで……。


 だから私はこの日も「またか」と思いながら、ふとトイレに行きたくなって廊下に出た。


 そして、ビックリして立ちつくす。


 姉の部屋の扉が全開になっている。

 そして部屋の電気がついていなくて、薄暗い。


 つまり……姉は、部屋にいなかった。


 じゃあ、さっきのため息は!?

 ゾッとした私は、聞き間違いか、猫のため息を勘違いしたんだろうということにしてトイレに逃げ込んだのだった。



 その頃の百亭家には猫が二匹いた。

 でも……明らかに猫のため息じゃないんだよなぁ……。


 うまく説明できないけど、少し声が混ざった長めのため息で、明らかに若い女性だって分かるし。

 でも思い返せば、姉の声とは少し違ったような?



 残念なことに、それ以降もそのため息は時々聞こえてきた。

 でも怖いから、姉が部屋にいるかは確かめないようにしてやり過ごした。

 部屋の主の姉なら、もしかしたら心当たりがあるかもしれないけど、姉は私より怖がりだから聞けやしない。


 「誰もいない部屋からため息が聞こえるんだけど、なんだろ?」


 なんて話したら、姉は怖くて部屋にいられなくなっちゃう!


 たしかこの頃、姉は怖いテレビだかネットの話だかを見て「夜は電気をつけたままじゃないと寝られない!」なんてことがあったし。


 ていうか普通に考えて、私も自分の部屋からため息が聞こえるって言われたら……。

 めちゃ怖いがな。



 そうしてやり過ごして、どのくらい経っただろう?

 ある日リビングに母と二人でいた時に、ふと母が言った。


「お姉ちゃんね、お人形さんをお寺に納めたいんだって」


 お寺とは、前回の話に出てきた市松人形を納めたところだ。

 そこに、姉が所有してる人形を持って行きたいらしい。


 実は姉は、前回の話で出てきた市松人形を気に入っていた。

 まあ姉の雛人形の代わりだったし、お寺に納める時も「私の人形だからさぁ……」的なことを言って名残惜しんでいた。


 私の雛人形の代わりはいないから「市松人形は姉妹共有なんじゃね?」と思ってたけど黙ってた。

 別に私は市松人形に愛着なかったからね。

 それに市松人形ってだけで怖い。


 そもそも私と違ってレディな姉は、お人形自体が好きらしい。

 だからこの頃の姉は、いわゆるビスクドールというものを何体か買って持っていた。

 フランス人形みたい、っていうと分かりやすいかな?

 母によると、理由はよく分からないけど、姉はその人形をお寺に納めたいと。


 そこで思い出されるのは、あの魂の入ってしまった市松人形だ。

 姉がお寺に持って行きたいってことは、その人形に魂が入ったってこと?


 そう思うと同時に私は悟った。


 姉の部屋から聞こえるため息、その人形じゃないの!?

 


 だから思い切って、母にこれまでのことを話してみた。

 すると母は少し気味悪がった感じで「お姉ちゃんは怖がりだから、そんなこと言わない方がいいよ」とだけ。


 信じてくれたんだか、どうなんだか……。



 そしてさらにひと月後? もっとかな?

 姉と私の二人でリビングにいた時に、姉が急に話しだした。


「私さぁ、前からビスクドールに憧れてて何体か買ったけど、最初の頃は知識とか全然なくてそのまま飾ってたから、顔がほこりで黒く汚れちゃって、呪いの人形みたいになっちゃってさぁ」


 私はその「呪いの人形」のところでゾワっとした。


「不気味な感じになっちゃったからお寺に納めようと思って、ずっとスーツケースに入れて部屋に置いてたんだよね。それでこの間ようやくお寺に行ってきたよ」


 聞けば、人形二体だったかな?

 それをタオルでくるんで、長い間スーツケースに押し込んでいたらしい。

 そしてそのスーツケース、比較的私の部屋寄りに置いてあったとか。


 もうぜったいそれじゃん!

 ぜったい人形のため息じゃん!

 そんなかわいそうなこと、するなしー!


 と、心の中で叫んだ私。


 そしてふと気づく。

 そういえば、ここ最近あのため息を聞いてない。


「お寺に行ったの、いつ?」


「ニ週間くらい前だけど、なんで?」


 確かにここニ週間はため息を聞いていない。

 それにもうお寺に納めたんならいいよね……?


 私はついに、姉の部屋から聞こえてきた、ため息の話をした。

 もうこんな事は起こさないで欲しいという思いも込めて。


 でも……。

 姉は案の定、怖がってあまり真面目に聞いてくれなかった……。


「やめてよそんなこと言うの! 猫のため息を勘違いしたんでしょ」


 みたいな。


 もー!

 私がどんだけため息を聞き続けたと思ってるんだか!

 その度にドキッとか、ヒヤッとかしたんだぞー!


 母も姉も、ちっとも分かってくれないこの辛さ。



 ちなみに友達とかにこういう話をしても、嘘だと思ってるわけじゃないみたいだけど、信じられないって感じで、


「へぇ、なんか怖いね〜……」


 みたいな若干引き気味の感想は返ってくるものの、私を本気で労ったり共感してくれる人はいない。


 だから大人になるにつれ、あんまり周囲に話さなくなった。

 そういうのも、今回エッセイを書いてみようと思ったきっかけの一つだ。

 溜め込んでばかりだと良くない気がして。

 


 それにしてもスーツケースに押し込められたお人形さんは、その状態が苦しかったのか?

 それともお寺に納められる自分の最期を思って、嘆いていたのか……?


 私に何かを訴えたかったのかもしれないけど、前回に引き続き今回も何も分からず。

 力になれなくて申し訳ない。


 ちなみに姉は、今も相変わらず人形が好きだ。

 ビスクドールとはちょっと種類が違うけど、けっこうリアルなやつ。

 人形は特に魂が入りやすいから、注意したほうがいいのになぁ……。



 これを読んでくださってる奇特な方の中にも、家に古い人形をしまい込んでる姉みたいな人はいないだろうか?

 思い当たる節があるなら、綺麗にして飾るか、人形を納められるお寺に持って行った方がいい。


 もし、誰もいないはずの部屋からため息が聞こえてきたなら、それはきっと……。


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