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第二話 はじめて幽霊に震え上がった話 ★★


 前回、幼女な私は幽霊っぽいものを含め、色んなものが見えていたと書いた。

 その頃はそれらがどういう存在か分かってなかった、とも。


 そしてそのニ年後くらいに、私ははじめて自分が幽霊と認識する存在に出会い、震え上がることになる。

 今回はその時のお話を。




 あれはたぶん、小学校一年生か二年生くらいの時だと思う。

 少し成長した幼女・百亭(ももてい)をご想像いただきたい。

 たぶん、この頃もまだ可愛らしかったはず(しつこい)。



 当時住んでいたのは特殊な貸家で、大きさは普通の二階建ての一軒家くらい。

 その一階には店舗が入ってて、ニ階に百亭一家が住んでいた。

 間取り的にはリビングダイニングがなくて三部屋あったから、3Kって感じ?


 その中の一部屋に母と私と、そして姉の三人で布団を敷いて寝ていた。

 ちなみに三つ年上の姉は不思議な体験はほとんどなく、むしろ私以上に怖がりだ。

 でも姉に絡んだエピソードがいくつかあるから、そのうち載せようと思う。


 で、私は部屋の一番奥に寝ていた。


 季節は真夏だったような気がする。

 当時はエアコンなしで、扇風機だけで夏を乗り切っていた百亭一家。


 そんなだから寝苦しかったのか?

 私はふと、夜中に目を覚ました。

 そして、気がついてしまった。


 足側の白塗りの壁に、誰かが立っていることに。


 赤、金、黒、白。

 そんな色鮮やかな着物を着た女性だった。


 着物はとても立派で、ドラマの大奥に出てくる女性みたいな、重そうで派手なものだった。

 長い黒髪は結っていなくて、そのまま垂らしている。

 そして真っ白な顔をして、にらみつけるような鋭い眼差しで私を見つめていた。


 私は本能的に恐怖を感じ、震え上がった。


 それが幽霊だとか、生きていない人間だとか察したわけでもなく、ただひたすらにその人が怖かった。


 だからすぐさま、横で寝ている母を揺り起こした。


「お母さん、起きて! あそこに誰かいる!」


 たぶんそんなことを言いながら必死に起こしたと思う。

 そして起こされた母は、びっくりして壁を見て……。


「なんだ。何もないじゃない」


 と、ひと言。


 もう女性の姿は消えていた。


「寝ぼけたんでしょ、さあ寝るよ」


 私は納得いかないものの、確かにあの女性はもうどこにもいない。

 恐怖の余韻は消えないものの、仕方なく母に慰めてもらって再び眠りについたのだった。




 そんな恐怖体験をしてから思い出した。

 自分にはかつて、人には見えない存在が見えていたことを。

 でもこの頃はまだそれらと、今回見たザ・幽霊な着物の女性が同じ存在だとは思えなかった。


 だって前は怖くなかったのに、どうしてこの時は怖かったんだろう……?


 その理由はまだ少し後になってからなんとなく分かった。

 たぶん私が幽霊やお化けという存在を認知したからだと思う。

 本とか大人の話とかで。


 そして、もしかしたらだけど、幽霊=怖いものという意識が芽生えたから、前まで見えてた不思議なものたちが見えなくなったんじゃないかな?


 とはいえ、実はこの頃はまだ完全に見えなくなったわけじゃなかった。

 この体験の後、小学生の中学年くらいまでは、ふと見えてしまうことがあった。

 でもその話はまた今度にするとして……。



 この着物の女性は何者だったのか?

 なんで幼き私の前に姿を現したのか?

 寝起きに見たから、母の言うとおり寝ぼけただけかもしれない。


 でも後日談がある。



 そもそもこの頃住んでいた借家は、父と母がそろって「ここには何かがいる」と言っていた。

 父も母も霊感がない(と思う)のに。


 両親いわく、誰もいないはずの廊下からパタパタとスリッパで歩く音がするらしい。

 私にはその音が聞こえていたか覚えてないけど……。

 聞こえても母の足音と区別がつかなかったんじゃないかな?

 それに両親とも「足音だけだし悪い霊じゃないだろう」と気にしてなかったし。



 そして足音の他に、母の親戚(母の兄妹とか私のいとことか)が家に泊まりにきた時に、そろって言うことがあった。

 それはリビング代わりの部屋にあった、市松人形についてだ。


 これは姉が生まれた当時、ひな人形の代わりに買ったものらしい。

 確か神棚(母が信心深い)の横のタンスの上に飾ってたかな。

 母の親戚が来るとこの部屋で寝てもらってたんだけど、みんなそろって「あの人形が怖い」と言う。

 まあ市松人形ってだけで怖いんだけど。

 

 そんな親戚たちに、父(おしゃべり好き)が私の見た着物の女性の話をしたら、それはこの人形じゃないかと言い出した。


 確かにその市松人形の着物は赤で派手だし、髪は長くて結ってない。

 市松人形だから目は一重で、見ようによっては鋭い眼差しだ。


 でも私にはあの女性と人形が同じかなんて分からないし、そもそもとても怖かったから思い出したくもない。

 それに幸いにも、あの女性が再び姿を現すことはなかった。



 そして少し時がすぎ。

 小学校高学年の頃。

 例の祈祷師のおじいちゃんが、我が家に遊びにきた。


 その頃の私の家は関東にあり、おじいちゃんは東北奥地に住んでいたから、めったに会えなかった。

 その前に会ったのは三歳くらいかな?

 一年ほどおじいちゃんの家に一緒に住んでいたから、その時以来だ。


 そして我が家に来たおじいちゃんは、例の市松人形を見てこう言った。

 ……とはいえバリバリの東北弁だから、私が意訳して書く。


「この人形な、神棚に近いから魂が入ってるぞ。もうお寺に納めた方がいい」


 魂が入っているっていうのは、つまり中に霊的なものが住み着いているということだ。


 なんてこったい!

 怖すぎる!!


 人形というのはそもそも魂が入りやすいという。

 まあ人の姿をしてるしね。

 そして、人形とかそういうものにお(そな)えものをあげたり祈ったりすると、さらに魂が入りやすくなるそうだ。


 うちの場合は人形に祈ってたわけじゃないけど、母が毎日神棚に祈ってる念が、すぐそばの市松人形にも届いてしまったんだとか。

 それなら、やっぱりあの着物の女性はこの市松人形だったんだろうか?



 おじいちゃんにそう言われてみれば、思い当たる節がある。


 この市松人形はガラスケースに入ってて、乾燥しないよう、コップに水を入れて中に一緒に入れていた。

(まてよ、その水ってお供えにカウントされないか? だから魂が入ったんじゃ……)


 その水は蒸発して少しずつ減っていくから、たまに交換する感じ。


 ある日、父が家にいた時、どうにも喉が乾く。

 水を飲んでもお茶を飲んでも、乾きが癒えない……。

 なんでだろうと不思議に思っていたら、ふと見た市松人形のコップが空になっていた。

 コップの水を補給したら、喉の渇きは癒えましたとさ。


 つまり、人形から水を入れてくれというメッセージだったのかも?


 ちなみに父は神様とか幽霊とかの存在は信じていないわけじゃないけど、霊感がないからその部屋で寝ていた。

 別に人形を怖がるわけでもなく。

 そしておじいちゃんに魂が入ってると言われた後も変わらずに過ごした。

 強者だ。


 まあ、さすがにおじいちゃんにそんなことを言われたから、間もなくしてその市松人形は人形寺というところに納めた。

 お寺でお焚き上げされて、中の霊は成仏してくれたと思う。



 それにしても、あの女性は何を訴えたかったんだろうか……?

 あの時怖がらずに、おじいちゃんに聞けば分かったかもしれないなぁ。


 あ、でも……。

 恨みつらみとかだったら怖いから、聞かなくて正解だったのかも?


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