第十七話 昼下がりの雷雨の怪異 ★★★
これは私が大学生の頃の話だ。
けっこう前だから、もっと早くエッセイに書く予定だったんだけど……。
タイトルを見れば分かる通り、★三つだからなかなか書く気が起きず。
だってエッセイに書くことで何かしら良からぬものを引きよせて、同じような現象が起こったら嫌だ!
でも長く続いたこのエッセイも、次回で一旦おわりにする予定……。
だからその前に、思い切って書こうと思う。
あとこの体験談を思い出していて気がついた。
私は電気が消える現象がトラウマなんだけど、その原因は第九話じゃなくてこっちだと思う。
これがあったから、第九話の時により暗闇が怖かったんじゃないかな?
それにしても、なんで私のとこに来る何者かは電化製品に異変を起こしたり、スイッチを消したがるんだろうか?
まあ幽霊らしい姿でバーンと出てこられるよりはいいけど……電化製品が急に切れるのも普通に怖いから、本当にやめてほしい。
良くある、心霊スポットで電化製品がおかしくなるのと同じ仕組みなのかな?
カメラのシャッターが下りなくなったとか、電源が入らなくなったとか。
その点、亡くなった私の父はスイッチを入れるタイプだから、本当に良かった……グッジョブ、父。
あれは大学ニ年か三年の夏休みのことだった。
八月下旬くらいだと思う。
私の夏休みの予定はそんなになくて、サークル活動やサークルの合宿以外はたまにバイトしたり友達と遊んだり、そんな感じ。
インドア派だから、家にこもってテレビを見たりゲームしたりなんて日も多かった。
その日の午後も自室でソファに寝転んで、携帯ゲーム機でゲームをしながら、録画したテレビ番組を見ていた。
それは最近は放送が減ってしまって残念な心霊番組だ。
心霊スポットにレポーター(お笑い芸人的な人)と、俗にいう霊能者が行ってロケをするというやつ。
時刻はたぶん、午後14時くらい。
平日の真っ昼間で、両親も姉も仕事でおらず、家には私一人だった。
心霊番組を見はじめて、どれくらい経ったか?
その日は晴れていたけれど、急に雲が出てきて雨が降り出した。
夕立というより、かなり雨が激しくてゲリラ豪雨的な感じ。
「すごい雨だなぁ……今日は家にいて良かった〜」
なんて思いながら、テレビを見つつゲーム機を操作していたんだけど、そのうちに雷も鳴り出した。
しかもけっこう近くて、光ってから音がするまでが短いし、雷鳴もめちゃ大きい。
それで近くに落ちたら怖いなぁ、なんて思っていたら──。
バリバリバリッ、ドォーーン!
激しい音と振動と共に、急に部屋の電気が消えた。
もちろん、テレビも。
落雷による停電だ。
ソファの上に寝転んだまま、固まる私。
まだ昼とはいえ外は雷雲が空を覆っていて、部屋の中はかなり薄暗い。
バチバチという窓を打つ雨の音が、急に大きくなったような気がした。
(部屋が急に暗くなると、怖っ……)
そう思ったとき、パチパチっと電気が瞬いて明かりがついた。
良かった、一時的な停電だったのか……と、安堵。
私は少し待って、雷の音が落ち着いてるような気がしたから、消えてしまったテレビをつけた。
そしていそいそと、途中まで見ていた心霊番組を再生する。
テレビの中では自殺者が多発しているという、とある鉄橋のロケをやっていた。
せっかくつけ直したし、ゲームを一時中断してテレビを見ることに。
すると、またもや窓の外から激しい破裂音がした。
再び電気が消えて、部屋が暗くなる。
けれども、今度はテレビは消えなかった。
「えー、この橋が今回体験談が寄せられた……」
テレビでは真夜中の真っ暗闇の中、鉄橋でのロケが続いている。
大きな雨の音と、部屋まで振動するような雷鳴。
消えてしまった電気は、まだつかない。
そんな薄暗い部屋で見る、心霊番組──。
(なんかヤバいな……)
じわじわと恐怖がわき起こりだして、テレビを消したくなる。
けれども行動に移す前に、雷の音はしなかったような気がするけど……唯一ついていたテレビも、消えた。
一瞬の静寂。
呆気に取られていると、すぐさまテレビだけ復活した。
またテレビいっぱいに映る暗い背景と、不気味な鉄橋。
部屋の電気は相変わらず消えたままだ。
テレビの内容が内容だけに、私はすっかり怖くなっていた。
(今はこの番組を見るの、やめよう……)
そう心に決めて、ソファから立ち上がる。
すると、それを察したかのようにテレビが消えた。
間髪いれずに、またつく。
そして、また消えて、そして──。
私が恐怖で立ちつくす中、テレビが数秒おきについたり消えたりを繰り返していた。
どのくらい経ったか、何度目かにテレビがついた時。
画面いっぱいに、髪をぐちゃぐちゃに乱した女の人っぽい顔が映った。
アップの白い顔と、開いた赤い口、首の下の方に白装束のようなものも見えた。
でも一瞬すぎて、どんな顔だったかは分からない。
そのあとすぐさまテレビが消えて、静寂が戻る。
(今の顔、なに……)
驚いたものの、女の人のアップはわざとらしいというか、いかにも幽霊っぽい姿だったから、すぐに察した。
心霊スポットでの心霊体験を元に作った再現VTRの、ワンシーンだ。
その番組自体、ところどころでそういう再現VTRが入るから。
でもテレビがついたり消えたりも怖かったし、女の人のアップがあんまりにもタイミングが良すぎて怖い。
しかも部屋の電気もテレビも、ぜんぜん復活しない。
そもそも、こんなに停電が連発したのは初めてだった。
そして、こんなに長いのも。
私は薄暗い部屋の中、雷鳴と激しい雨の音を聞きながら、ソファに戻る。
そしてすがるように、中断していた携帯ゲーム機を手にとり、ゲームを再開した。
恐怖から目を逸らすには、ゲームに没頭するしかなかった。
けれども……。
細かいことが色々と気になってしまう。
(最初の停電の時、電気もテレビも消えて、復活したのは電気だけだった。なのになんで二回目は……)
ブレーカーが落ちたり、雷で停電が起こった時、つけたままの電気は復活時にまたつくことは経験的に知ってる。
でもテレビは……ついたっけ?
しかも私が見ていたのは、録画した番組だ。
(もし停電が直った時にテレビがつくことがあるとしても、録画の再生は止まって、普通に地上波の番組が映るもんじゃないの?)
気になるのはそれだけじゃない。
(そもそも停電で電気だけ消えて、テレビだけついてるってありえるんかな……)
電気が消えたのが停電じゃなくて、雷による電磁波的なもの(そんなのあるんかい)であれば、ありえるのか?
それならテレビがついたり消えたりを繰り返したのも、分かるような……。
とりあえずそういう事にした。
だって、怖いから!
ゲームに集中する事、10分くらいか?
そのくらい長く感じたけど、案外もっと短かったのかもしれない。
急に電気がついた。
テレビはつかない。
その後も少しの間はゲームを続け、雷と雨が収まるのを待った。
そうしてもう停電の恐れがなくなったのを確認してから、私はテレビをつけた。
テレビの中では録画再生の続きじゃなくて、地上波のテレビ番組がやってる。
内容はぜんぜん覚えてないけど、平日の昼間らしいのんびりしたワイドショーだったか、バラエティーだったか。
とにかく私が見ていた心霊番組みたいな怖いやつではない。
私は一つだけ確かめたいことがあった。
だから勇気を振り絞って、さっきまで見ていた心霊番組を再生する。
停電時によく分からなくなったから、少し前に戻してキリがいいところから。
するとテレビの中では鉄橋でのロケをひと通りやって、別の心霊スポットに移った。
次は室内の話だったと思う。
「あれ? ない……」
なかった。
テレビが消える間際に見えた女の人のアップなんて、なかった。
しかも鉄橋のロケは再現VTRもなかった。
その番組を最後まで見たけど、あの女の人らしきアップなんて、どこにも……。
私は考えた。
あの時、テレビはついたり消えたりしていた。
だからどこかのタイミングで、録画再生から地上波に切り替わったんじゃ?
でもテレビ番組欄を確認しても、その時間に心霊番組はやっていない。
黒い背景をバックに、あんないかにも幽霊みたいな女の人のアップは……普通のテレビ番組には出てこない。
(じゃあ、あの女の人はなんだったの……?)
可能性としては、雷で電波が入り乱れ、予想外の映像が映ってしまったとか?
しかしよりによって心霊番組を見てる最中に、幽霊っぽい女の人のアップが映るだなんて……偶然がすぎる。
それ以来、私は部屋が急に暗くなるのが怖くなった。
別に幽霊らしきものに何か悪さをされたとかじゃないけど……。
次に同じ現象が起こった時も、同じとは限らないから。
これを読んでいただいている奇特な方も、激しい雷には気をつけた方がいい。
これから季節は夏、雷も多くなる。
特に入浴中の停電は、やばい。
霊的なものは、水場に集まりやすいっていうから──。




