第十三話 母の家系がスピリチュアルになった理由 ★
今回は番外編だ。
まだ私の不思議体験ネタはあるんたけど、これまで小出しにしてきた母の家系の話を詳しく書いてみようと思う。
母の家系の話はすべて口伝で伝わってるものだし、こういうネット上に書いていいのか分からないけど……。
多くの人が読むわけじゃないし、いっか。
(とはいえ読んでくださる方がいてビックリ&めちゃ嬉しいです、ありがとうございます! 投稿する前は「こんなエッセイ読む人いるんかい」だったので)
最初の挨拶や各話でちょこちょこ書いてるけど、母方のおじいちゃんは祈祷師だった。
拝んだり払ったり、スピリチュアルカウンセラーみたいなことまでできたりと、すごい人だった。
けれども、おじいちゃんは昔から霊感とか不思議な力があったわけじゃない。
その力は強制的に継がされたものだ。
これは先代が亡くなると発生するらしい。
本人の意思に関わらず、幽霊に対する耐性をつけさせられたり、お経を覚えさせられたり。
なんでこんな仕組みなのかというと……。
それは、この祈祷師が代々受け継がれてきた職業的なものではないからだ。
初代・祈祷師のご先祖さまが懲罰的に負った、一族で償わなければならない負債のようなものらしい。
初代のご先祖さまが、具体的にどんな事をしたのかは分からない。
ただ、何かひどく罪深いことをした……。
その償いとして、代々祈祷師として人々を助けなければならなくなったと言われてる。
けれども子孫が未来永劫ずっと償う必要はない。
代々祈祷師として活動していき、最後にお寺を建てて人々の魂を救うというのが終着点らしい。
その時に一族は祈祷師という役目から解放されるんだとか。
この懲罰的な負債を初代のご先祖さまに課したのは、村の長とかえらい神主さんとか、そういうんじゃない。
なんと……神さまなんだとか。
つまり、懲罰というより神罰なわけだ。
びっくりだね!
ご先祖さま、一体どんな悪いことしたの……。
だいぶ現実離れしてきたけれど、大丈夫だろうか。
これがノンフィクションだと信じてもらえるのかどうか……まあ気にせず進もう。
母の一族が代々強制的に祈祷師を継がされてきたのは、神罰ゆえだ。
だから祈祷師になるための力にも、神さまが関わっている。
祈祷師を継ぐと、最初に書いたとおり急にいろいろな能力に目覚める。
これはその人本来の力じゃない。
龍神さまが、身体の中に入るからだ。
実際には、みんなただ単に「龍神さまが入る」って言ってた。
それが単に力を借りるだけなのか、それとも憑依的なものなのか?
まあ幽霊に完全に憑依されるのとは違うだろうけど、ある程度身体なのか魂なのか、その中に共存してるんじゃないかと思う。
だから祈祷師は先代が死なないと次に継げないのかなと。
この龍神さまが、祈祷師の神罰を課した神さまと一緒なのかどうかは分からない。
伝えられてる話だと「神さま」と「龍神さま」で呼び方を使い分けてたから別の気もするけど……どうだろ?
それはともかく、この龍神さまは気性が荒いらしい。
だから龍神さまが入る=祈祷師を継ぐと、気性が荒くなってしまう。
親戚も代々のお客さんも、みんなそう言ってるから、初代からずっとそうなんだろう。
別人になるわけじゃないから記憶もちゃんとあるけど、とにかく性格が変わる……
伯父さんが後を継いで少しして、私にもそれがようやく分かった。
これまで書いてなかったけど、この伯父さんというのはただの母の兄ではない。
双子の兄だ。
母は二卵性双生児だった。
お腹の中で一緒に過ごしたからか?
小さい頃は母が学校で具合が悪くなって家に帰ると、兄(伯父さん)も体調を崩して早退してた、なんてことが良くあったらしい。
あとは同じ場所を怪我したりとか。
そういうシンクロは一卵性双生児だけかと思ってた。
今の母は小柄で優しいし、面倒見がいい。
でも子どもの頃は同級生より身体が大きくて足が早くて、男子にからかわれても腕力でやり返すくらいに強かった。
だから大人しい兄(伯父さん)がいじめられると、守ってあげていたんだとか。
そういうわけだから、大人になっても母と伯父さんは仲が良かった。
結婚は伯父さん夫婦の方が先だったから、いとこ達とは歳が離れてるけど、夏になると毎年伯父さんの家に泊まりに行って、海に連れてってもらった。
気のいい面白い伯父さんって感じ。
そんな伯父さんは祈祷師を継いで、ちょっととっつきにくい雰囲気になった。
朗らかな感じがなくなってしまって。
けれども第八話で書いたとおり、困ったときは助けてくれてた。
それが変わったのは……私が大学を卒業し、社会人になる前後かな?
なんと、百亭一家は伯父さんから絶縁宣言されてしまったのだった。
簡単に書くと、伯父さんは母や私や姉に、伯父さんの祈祷師の仕事を手伝うよう要請してきたらしい。
いや、要請というより命令に近いな。
お客さんの相手などで女手が欲しくなったからっぽいけど、母だけならまだしも、私や姉は自分の仕事がある。
だから母が断ったら、絶縁されてしまったというわけだ。
その際に母は色々言われてかなりショックを受けたから、百亭一家も怒り心頭で絶縁上等だった。
母は六人兄妹で、母と仲のいい姉妹とはそれからもコッソリ付き合ったけど、やっぱりみんな祈祷師を継いだ伯父さんには逆らえない。
行事があれば、みんなそっちに参加した。
その頃の母は寂しそうにこんな事を言っていた。
「おじいちゃんが、兄妹仲良くしろよ〜って言ってたのは、この事だったんだねぇ」
おじいちゃんは亡くなる数年前に病に倒れ、介護が必要になった。
母の兄妹みんなが引き取りたがらないから、母が狭い我が家におじいちゃんを連れてきてお世話をすることに。
その後、入院もしたけど、母がせっせと病院に通ってお世話した。
その頃に、おじいちゃんにしきりに言われたことらしい。
その時はまだ兄妹みんな仲がいいし「はいはい」って適当に返事していたとか。
その頃にはもう老いて、祈祷師としての力はほとんどなくなっていたおじいちゃんだけど、きっとこうなる事が分かっていたんだろうなぁ……。
母が絶縁された頃には、伯父さんはだいぶ性格が変わってしまっていて、尊大になっていた。
簡単に言えば、偉そう。
別に祈祷師になればみんなが同じ性格になるわけじゃない。
私が知らなかっただけで、伯父さんには昔からそういうところが少しあって、そこが気性が荒くなることで悪い方向に作用したのかもしれない。
あれからだいぶ時が経ち……。
結果的に言うと、今は六人兄妹で伯父さんだけが孤立している。
最初は逆で、母だけが兄妹から爪弾きにされてしまった。
でも他の兄妹たちもだんだんと尊大な伯父さんについて行けなくなったり、逆に伯父さんから母と同じように絶縁宣言されたり……。
だから今の母は、伯父さん以外とは仲良くやってる。
母は双子の兄だから、いつか和解できればと思っているようだけど……どうかな。
伯父さんには伯父さんの苦労があるんだと思う。
おじいちゃんが生きてる時に聞いた話だけど、祈祷師は一代おきに力が強い人がなるって言われてた。
おじいちゃんの先代は、あまり祈祷師としての力が強くなくて、逆に初代は強い力を持っていたとか。
三代だけだし、たまたまじゃ?
と思ってたけど、伯父さんはおじいちゃんほどの力はなくて、言うことがあまり当たらないって言われてる。
だからおじいちゃんの頃から付き合いのあるお客さんも、離れて行ってしまったと……。
そういうのもあり、伯父さんの心はどんどん頑なになってしまったのかもしれない。
でも伯父さんも、そしておじいちゃんも、この祈祷師を継ぐ業を終わらせるために頑張っていた。
おじいちゃんは祈祷師としての修行の他に、お寺を造るためか?
お坊さんになる修行もしていた。
おじいちゃんの代である程度お金が貯まったけど、お寺を建てるには莫大なお金が必要だ
たぶん足りなかったか、先におじいちゃんが老いてしまったか。
そして伯父さんも、祈祷師を継いだあとはおじいちゃんの代で貯まったお金で、お寺を建てるための土地を買ったりしてたっけ。
今はその地から離れて、故郷の東北奥地に移り住んでしまったけど……。
うーん、なんだか暗い感じになっちゃったから、最後はおじいちゃんのエピソードをいくつか書こうと思う。
母は、うちの父とは再婚だ。
つまり、バツイチ。
母は若かりし頃、初婚の相手と出会って恋に落ちた。
そして結婚することになり、二人で母の実家に挨拶に行ったそうな。
するとおじいちゃんは、母だけにこんな感じのことを言った。
「あの男はろくでもないやつだから、結婚すると苦労するぞ。やめた方がいい」
けれども母も若い。
おじいちゃんにそんな事を言われても、自分の目と心を信じて結婚してしまった。
すると……。
その相手は豹変。
働かないわ、酒を飲んで暴力を振るうわ。
それこそ、ろくでもない男の典型だった。
母は最初は一生懸命働いて尽くしたけど、ついに限界がきて離婚した。
そうして数年後、父と出会う。
母は初婚の失敗もあったし、父のことをなかなか真剣に考えられなかった。
けれども父は母に猛烈アタック!
結婚してくれとうるさいから、根負けした母は一つ条件を出すことに。
「私の父(百亭のおじいちゃん)が結婚していいって言ったらね」
母は実家に一緒に帰っておじいちゃんに会わせ、また意見を聞こうと思ったわけだ。
しかし……。
その翌日のことだったか。
急に家に電話がかかってきたと思ったら、父(これは百亭の父)からだった。
しかも、今母の実家にいるんだとか。
父は母と結婚したいあまり、一人で母の実家に挨拶に行ってしまったらしい。
その頃のおじいちゃんはまだ若いから、とても怒りっぽくて、怖い人だった。
そんなおじいちゃんの所に一人で……しかもなんか上手くやってるぽい。
母はびっくりしたらしい。
そして、父に会ったおじいちゃんが、母に告げた言葉はこれ。
「あの男なら問題ない。ただし金は貯まらんぞ」
そうして結婚した両親は、確かにお金は貯まらなかった。
父は中卒だし、お金をコツコツ貯める方でもなかったから……。
でも母が少しずつ貯めてたし、おじいちゃんの遺産も入ってマイホームが買えたから、生活に困ることはなかった。
ああ、おじいちゃんが生きてたら、私も色々見てもらいたかったなぁ……。
とか書いてたら、一つ思い出した!
第二話で書いた、おじいちゃんが家に遊びに来た時のこと。
当時小学生の私は、学校以外では勉強をやらなかった。
授業も興味があるやつしか聞かなかった。
全国の県を答える小テストとかやっても、覚える気がないから散々な結果に。
ついに担任から「このままだと授業についていけなくなります」(私どんだけ)と言われた母は、慌てて私を学習塾に入れたのだった……。
そんな勉強ができない私を見て、おじいちゃんは言った。
「大丈夫、この子は賢くなるぞぉ」
ほんまかいな。
でも母は少しは安心したと思う。
はたしてそれは当たったのかどうか……。
でも入った塾は個人指導だったから、授業についていけなくなることはなくなった。
それに元々、数学は好きだった。
数学以外は基本的に暗記できれば点が取れる。
だから中学に進学してやっとテスト勉強をするようになった私は、そこそこの成績を取れるようになった。
そして高校も大学も、無事に第一志望に合格することができたのだった。
両親の結婚。
母が私を妊娠したとき。
そして、私が小学生で落ちこぼれ認定を受けたとき。
思い返せばけっこうおじいちゃんに助けられてて、感謝しかない。




