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約束

「レン! もう着いたのか? 夕方頃に来るって聞いていたからビックリしたよ」


 俺の言葉に、レンは爽やかな笑顔を浮かべる。

 大学生になったレンは、高校生の頃よりもさらにイケメンになっていた。


「思ったより道が()いていて、早く着いたんだ。ホノカさんのところへ食事を届けるんだろう? 僕も一緒に行くよ」


 レンはそう言って、俺の(あと)についてくる。


 ホノカの住処(すみか)へと(つな)がる隠し階段は、茂みの奥にある。

 この隠し階段は、妖怪や神仏(しんぶつ)などの「人ならざる者」と深い関わりがあるものにしか見つけることは出来ない。


「ミサキちゃんからの告白を断ったんだって?」


 突然レンに聞かれて、俺は反応に困ってしまった。


「何で知ってるんだよ」


「ミサキちゃんが泣きながら僕に電話をかけてきたんだよ。『ハルトに振られた』って言ってさ。……まだヒカリのことを待ち続けているのか?」


「そうだよ。イザヨイは、ヒカリちゃんが目覚めたら俺のところへ来させるって言ってただろう?」


「でも、もう何年も音沙汰(おとさた)がないじゃないか」


 レンの言う通りだった。

 この数年間、ヒカリからはもちろんのこと、イザヨイやハヤテからも、何一つ連絡はない。


 でも俺は、きっとまたヒカリに会えると信じていた。


「大丈夫。俺とヒカリちゃんは、いつか必ず結ばれる運命なんだから」

 俺がそう断言すると

「君は相変わらず思い込みが激しいね」

 と言ってレンは笑った。


 長い階段を昇りきり、ようやくホノカの住処に辿(たど)り着いた時には、レンも俺も汗だくになっていた。


「遅いじゃないの! ランチタイムはとっくに過ぎてるんですけど」


 階段の出口のところで待っていたホノカが、腕組みをしながら俺に文句(もんく)をぶつけてくる。


「早く食べたかったら、自分で取りに来ればいいだろ! それに、神様なんだから人間の料理を食べる必要なんかないじゃないか。しょっちゅう食事のデリバリーをさせられる俺の身にもなってくれよ」


 俺が日頃の不満を爆発させると、ホノカはムッとした顔で言い返してきた。


「あらぁ、生意気なことを言うじゃない。せっかく良いことを教えてあげようと思っていたのに」


「どうせ(たい)した話じゃないくせに」


「態度悪いわね。あんた人間なんだから、もうちょっと神様を(うやま)いなさいよ」


「敬ってほしかったら、もう少し神様らしくしろよ!」


 頭にきた俺は、()台詞(ぜりふ)を吐いて(きびす)を返し

「帰ろう」

 とレンに声をかけた。


 すると、ホノカはレンの腕を(つか)

「あら、レン君はお茶でも飲んで行きなさいよ」

 と言って、強引に連れて行こうとする。


「いや、僕は……」

 とレンは断ろうとしていたが、ホノカに何やら耳打ちされて顔色を変える。


 呼び止めるレンの声を無視して、俺は先に一人で階段を降りていった。


 少し降りてから、前回渡した鍋を回収し忘れたことに気付く。

 仕方なくホノカの住処へと戻ると、家屋(かおく)の中から話し声が聞こえてきた。


 ホノカとレンの声だけでなく、もう一つ聞き覚えのある声がする。


 その声の(ぬし)が誰なのか分かった瞬間、俺は勢いよく引き戸を開けて部屋の中へ踏み込んだ。


 そこには、ホノカとレンに向かい合って座る、ヒカリの姿があった。


「ヒカリちゃん!」

 俺は我を忘れて駆け寄り、彼女の手を取った。

 (ぬく)もりが手の平から伝わってくる。


 本物だ。

 本物のヒカリだ。


 話したいことも聞きたいことも山のようにあるのに、何一つ言葉にならない。


 そんな俺の様子を見て、気を()かせたレンが静かに席を立ち、ホノカを連れて部屋から出て行った。


 ヒカリは座卓(ざたく)の方へ視線を動かしながら

古文書(こもんじょ)を返しにきたの」

 と言った。


 座卓の上には、父さんの形見の古文書(こもんじょ)が置かれている。


「ハヤテがずっと持っていたみたいで……返しに来るのが遅くなってしまってごめんなさい」


 ヒカリが申し訳なそうに目を()せる。


「古文書なんかどうでもいいよ! 俺は、ヒカリちゃんに会いたかっただけなんだから!」


 そう言いながら、俺は力を込めてヒカリの手を握る。

 そして、ずっと知りたかったことを尋ねた。


「最後に会った日、どうして『ここでお別れ』だなんて言ったの?」


「……底根(そこね)の国を出る時、ハルト君が仮面の男を『父さん』って呼んでいたでしょう? それが気になって……お父さんの形見だと言っていた古文書を読ませてもらったの」


 ヒカリは古文書を見つめながら話し続ける。


「そこには、『死後、妖怪退治の罪を底根の国で(つぐな)わなければならない』と書いてあった。だから、これ以上ハルト君を巻き込めないと思ったの」


「じゃあ、俺のことを嫌いになったわけじゃないんだね?」


 俺が確かめると、ヒカリは(うなず)いた。

 そして、彼女は俺の手を握り返しながら言った。


「ハルト君、好きだよ。あなたから離れて忘れようとしたけれど、どうしても出来なかった。だから妖怪になって、これからも私のそばにいてくれる?」


 俺は「好きだよ」と言われたことに舞い上がり、深く考えずに

「もちろんだよ! ずっとそばにいるよ」

 と答えた。


 ヒカリは満面の笑みを浮かべると

「それじゃあ、さっそく妖怪になるための準備を始めましょう」

 と言って、杖で空間を切り裂く。


 あれ?

 もしかして俺、とんでもない約束をしちゃったんじゃないか?


 その時、レンが血相(けっそう)を変えて部屋の中に飛び込んできた。

 その後ろからホノカも顔を出す。

 どうやら、二人とも部屋の外で聞き耳を立てていたようだ。


「ハルト! 今すぐにさっきの約束を取り消せ!」


 レンに言われて、俺はヒカリの顔を見る。


「妖怪になれば、ずっと一緒にいられるよ」

 ヒカリはそう言って、上目遣(うわめづか)いをしながら腕を(から)ませてくる。


 その愛らしい仕草(しぐさ)と表情に胸を撃ち抜かれた俺は、覚悟を決めた。


「俺、妖怪になるよ」

 俺が宣言すると、レンは頭を(かか)えてしゃがみ込む。


 ホノカは

「ハルト君って、本当にバカだね」

 と言って呆れた顔をした。


 ホノカの言う通り、俺はバカなんだと思う。

 でも、大好きな相手と一緒にいることを迷いなく選べるんだから、バカで良かった。


「妖怪になれたら、一番最初にレンのところへ知らせに行くよ」

 と俺が言うと、レンは(あきら)めたようにため息を一つ()き、苦笑(にがわら)いしながら

「待ってるからな。約束だぞ」

 と言った。


「行きましょう」

 ヒカリが瞳をきらめかせて俺に微笑みかける。


 俺は、これから始まる新しい日々に胸を(おど)らせながら、切り裂かれた空間へと足を踏み入れた。

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