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お悩み掲示板

 出来上がった神社のホームページは、なかなか良い出来栄(できば)えだった。


 だが、実際の神社の方はハリボテ感が凄い。

 鳥居だけはちゃんとしていたが、(ほこら)なんか正面の体裁(ていさい)を整えただけで、裏から見るとペラッペラだ。


「いくら何でも、これは(ひど)くない?」

 と俺は抗議したが

「経費削減だよ。どうせ誰もここまで来やしないし、動画を撮る時にそれっぽく見えれば十分(じゅうぶん)なんだから。こんなことなら、鳥居(とりい)(さく)も手を抜いて作ればよかったな」

 とケンジさんは悪びれた様子もなく言った。


「それより、妖怪退治の報酬はいくらもらったんだ?」

 ケンジさんに尋ねられて、俺は正直に百万円だったと答える。


「安いな。俺なら最低でも三百万円は払ってもらう」

 とケンジさんが言うので、俺は軽蔑(けいべつ)眼差(まなざ)しを向けた。

「それはボッタクリ過ぎでしょ。父さんが普段もらってた謝礼の十倍じゃん」


「君の親父さんが良心的過ぎたんだよ。こっちは命懸けでやってるんだぞ。しかも今回は烏天狗(からすてんぐ)までいたんだろう? 三百万でも安いくらいだ」


 ケンジさんは天狗に対して、かなりの恐怖心を(いだ)いているみたいだ。


「天狗ってそんなに怖いの?」

 俺はケンジさんに聞いてみた。


「天狗は妖怪というより神に近い存在だからな。天狗を敵に回すということは、神様に喧嘩(けんか)を売るようなもんなんだよ。君が戦った烏天狗(からすてんぐ)は位が下の方だから命拾いしたけれど、もし大天狗(だいてんぐ)遭遇(そうぐう)したらすぐに逃げた方がいい」


 ケンジさんは話し終えると、ビデオメラを取り出して撮影を始める。

 何やら一人で(しゃべ)りながら境内(けいだい)をぐるりと周り、一旦カメラを止めてから俺に声をかけた。


「この後は、レン君も(まじ)えてライブ配信をしよう。ハルト君も出演してもらうから」


 ケンジさんに言われて、俺もとうとうユーチューブデビューだ! と気合いが入る。

 今までは、顔の良いレンしか動画に出演させてもらえなかったのだ。


 地面にビニールシートを敷いて、俺達はノートパソコンの前に座った。


 ケンジさんの合図で、いきなり配信が始まる。

 レンとケンジさんは打ち合わせをしていたようで、会話をしながら水神にまつわる言い伝えについて話したり、ノートパソコンをもう一台使って神社のホームページの紹介をしたりしている。


 その様子をボーっと見ていると、ケンジさんが俺を引き寄せて真ん中に座らせた。


「というわけで、ハルト君は参拝者が集まらないと妖怪に命を奪われてしまうんだ。みんなの信仰心で妖怪を水神に戻し、ハルト君の命を救おうじゃないか」


 ケンジさんは俺の背中をバシバシ叩きながら視聴者に訴えかける。


 そういえば俺、参拝者を集めないと死んじゃうんだった。


「みんな、どんどんホームページにアクセスして参拝してね。お悩み掲示板というコーナーには、神社で絵馬に願い事を書き込むみたいに、みんなの悩みを書き込んでくれ。内容は配信で紹介することもあるけれど、個人情報を書かなければ特定されることはないから大丈夫。誰にも言えなかった悩みを吐き出してスッキリしよう!」


 ケンジさんは軽快な口調(くちょう)で配信を続ける。


 こんなんで参拝者が集まるのかなぁと半信半疑だったが、掲示板のコーナーにポツリポツリと悩みが書き込まれ始めた。


「早速どんなお悩みがあるのか見ていこうか。何々、えーっと『体重が減らない』それは()っちゃ()しているからでしょ。お次のお悩みは『薄毛(うすげ)(つら)い』これはもう、思い切ってカツラにするか坊主(ぼうず)にするかだね」


 ケンジさんが辛辣(しんらつ)なアドバイスを送り始めたので、俺は誰も書き込まなくなってしまうのではないかと不安になる。


 だが、ケンジさんの毒舌(どくぜつ)は視聴者にとってお馴染(なじ)みのようで、その後も書き込みは続いた。


 成績が上がらないだの、ゲームの課金がやめられないだの、色々な悩みを読み上げながらコメントしていたケンジさんだったが、ある悩みに目を止めて急に真顔になる。


 掲示板には、こう書き込まれていた。


「いじめられていて死にたい」


 短い文面だったけれど、切実(せつじつ)な気持ちが伝わってきて、胸に突き刺さるような痛みを感じる。


「死にたい、か……」

 そう呟くと、ケンジさんは神妙(しんみょう)な顔をして黙ってしまった。


 ライブ配信で沈黙しちゃダメだろ、と思ったけれど、俺だって何を言っていいのか分からない。


 レンも困ったような顔でケンジさんを見ている。


 その時、(しげ)みの方から甲高(かんだか)い声が聞こえてきた。


「死ぬくらいなら、全部放り出して逃げればいいではないか」


 キンキンと頭に響く声で言いながら、雑草をかき分けて白蛇が姿を現す。


 すかさずケンジさんが実況を始める。

「白蛇の妖怪がアドバイスをくれるみたいだから聞いてみよう。顔出しはNGだから、声だけ配信にのせるよ」

 そう言って、白蛇に続きを話させようとした。


 だが白蛇が口を開く前に、俺は思わず自分の意見をぶつけてしまった。


「何で、いじめられている方が逃げなくちゃいけないんだよ。そんなの、悪い奴に負けたみたいで悔しいじゃないか」


 俺の言葉に、白蛇は目を細める。


「逃げることは負けではない。今、立ち向かう力がないのなら、まずは敵の手が届かないところへ身を(ひそ)め、心身の回復に(つと)めて力を(たくわ)えろと言っているんだ。その後は反撃するも良し、嫌なことは忘れて(おのれ)の幸福を追求するも良し、好きにすればいい」


 白蛇は語り終えると、俺達に背を向けた。


「簡単には逃げ出せない状況かもしれないよ?」

 俺が言い(つの)ると

「私には、死を選ぶよりも逃げることの方がずっと容易(たやす)いと感じられるがね」

 白蛇はそう言い残して、草むらの中へと姿を消した。


「えーっと、それじゃあ今日の配信はここまでということで。ちなみに、白蛇の妖怪が助言してくれることは滅多(めった)にないから期待しないでね」


 ケンジさんはそう言って配信を終了し、大きく息を()く。


 ちょうどその時、カッパ達を引き連れてどこかへ行っていたヒカリが戻ってきた。


「ひと仕事終わったから、今日は帰ろう。反省会をするから、みんな俺のマンションに来てくれ」


 ケンジさんに(まね)かれて、俺達は自宅にお邪魔することにした。

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