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神様の役割

 白蛇の妖怪を水神に戻す計画を実行するには、まず山の所有者に許可を取らなくてはいけない。


 大人が行かないと話にならないだろうということで、その辺はケンジさんが担当してくれることになった。


 (ほこら)やグッズのデザインは、美術の得意なミサキに頼むことにしたのだが、携帯が壊れてしまったので直接会いに行くしかない。

 ヒカリにお願いして、俺達はミサキの家まで連れて行ってもらうことにした。


 久しぶりに会ったミサキは、仏頂面(ぶっちょうづら)をして不機嫌なオーラを出しまくっている。


 玄関の中にさえ入れてくれず、ミサキは自宅のドアの前で

「何の用?」

 と冷たく言い放った。


 俺の隣では、レンが居心地悪そうな顔をしている。

 ヒカリは「あの子も私のこと苦手みたいだから」と言って、どこかに姿を隠していた。


 俺は、これまでの経緯(いきさつ)手短(てみじか)に説明して、ミサキにデザイン案を出して欲しいと伝える。


 何だか怒っているみたいだし、断られるかなと思ったが

「それくらいなら、手伝ってあげてもいいけど」

 と、意外にも良い返事がもらえた。


 しかし、俺が満面の笑みで

「ありがとう! ヒカリちゃんも喜ぶよ!」

 と言った瞬間に、ミサキは般若(はんにゃ)のような形相(ぎょうそう)になる。


「はあ? もしかして、あの女のためにやれってこと?」


 ミサキの刺々(とげとげ)しい口調に(ひる)みながらも、俺はいつもの調子で軽口を叩く。


「顔が怖いよ。鏡を見てきたら? 妖怪みたいだぞ」


 俺の言葉にミサキは顔を真っ赤にして怒り出し、家の中へ入るとドアを勢いよく閉めた。


「おい、冗談だよ」

 と呼びかけたがミサキは顔を見せてくれない。


「今のはハルトが悪い」


 レンに言われて、俺は納得がいかなかった。


「何でだよ。ミサキが理由もなく、いきなり怒り出したんじゃないか。俺は何も悪いことしてないぞ」


「君がヒカリの名前なんか出すからだろ」


 レンが呆れた顔で俺を見る。


「別にいいじゃないか。ヒカリちゃんのためにやっているのは本当のことなんだから」


「君は鈍感過ぎる」

 レンは溜息(ためいき)まじりに言うと、少し離れたところで待っていたヒカリのところへと向かう。


 俺とレンは新しい携帯を購入するために、一旦自宅へ戻ることにした。


 ヒカリは明日の朝になってから俺達を迎えに来ると告げ、切り裂かれた空間の中へと姿を消す。


 久しぶりに我が家へ戻ると、姉のユカリがリビングのソファに寝っ転がりながらテレビを見ていた。


「ただいま」


 俺が声をかけると、けたたましい悲鳴を上げる。


「俺だよ、俺!」


 オレオレ詐欺みたいなことを口走りながら、なんとか落ち着かせると、ユカリは周囲を見回しながら尋ねた。


「妖怪は連れてきてないでしょうね?」


「俺だけだから大丈夫だよ。それより、携帯が水に浸かって壊れちゃったんだ。新しいものを買ってもらいたいんだけど、母さんに連絡してくれない?」


 俺が頼むと、ユカリは仕事中の母さんにメールをしてくれた。

 ほっと一息ついたところで、お腹が鳴る。

 母さんからの返信を待つ間、ユカリと一緒に近所のラーメン屋で食事をすることにした。


「急に帰ってくるし、携帯は水没したって言うし、いったい何があったのよ」


 ユカリに聞かれて、俺はこれまでのことを簡単に説明する。


 最後にミサキを怒らせた話をすると、ユカリにも

「それはハルトが悪いね」

 と言われた。


 俺が納得いかない表情をしていると、ユカリに

「あのさ、ミサキちゃんが何であんたと同じ高校を受験したのか、本当に分かってないの?」

 と尋ねられる。


「制服が可愛いからって言ってたけど……」

 俺が答えると

「あんた、本当にバカだね」

 と言って、ユカリは話題を変えた。


「でも、ミサキちゃんにデザインしてもらわなくて良かったかもね」


「何で?」


「だって、白蛇の妖怪を神様に戻すには人間の信仰心が重要なんでしょ? 神社の外観だけで人を集めたって意味ないじゃん」


「じゃあ、どうすればいいんだよ」

 俺は少しムッとした声で言った。


 そこへ、注文していたラーメンがテーブルに届く。


「たとえばさ、このお店の看板メニューは『とろける厚切りチャーシューメン』だよね」

 ユカリは、目の前のチャーシューメンを指差しながら話し始める。

「これを目当てに遠くからもお客さんが来るし、土日には行列ができるくらいの人気店になったのは、このラーメンのおかげでしょ?」


「まあ、そうだね。だから何? 神社でラーメン出せってこと?」


 俺の察しの悪さに苛立(いらだ)ったのか、ユカリは溜息(ためいき)をつく。


「ハルトと話していると疲労感がハンパないわね。神社でラーメン出してどうすんのよ。たとえ話だって言ってるでしょ。私が言いたいのは、大事なのは中身だってことよ」


 ユカリはチャーシューメンを(すす)りながら話を続ける。


「ラーメン屋がこだわるべきなのは、外観じゃなくてラーメンの味でしょ。神社なら、神様のご利益(りやく)を全面に押し出した方がいいと思うんだけど」


「でも、レンが……俺の友達が『神様には願いを叶える力なんて無い』って言ってたよ。人間の悩みや苦しみに寄り添うことしかできないんだってさ」


 俺が言うと、ユカリは身を乗り出してきた。


「それ良いじゃん。悩みを聞いてくれる神様って需要ありそう」


「そうかなぁ……」


「あんたみたいな能天気な奴には分からないだろうけど、誰だって何かしら悩んでるんだよ。占いがどうして(すた)れないか分かる?」


 ユカリに聞かれて、俺は当然のように答える。


「未来を知りたいからじゃないの?」


「そういう人もいるかもしれないけど、大多数は正確な未来を予知して欲しいわけじゃないと思うよ。だって、もしも悪い未来を教えられたら困るじゃない。占いに頼る人は、悩みや迷いを抱えていて、どうしたらより良い未来にできるかを知りたいんじゃないかな。占い師の役割って、心の支えになるという点では神様に似ているのかもね」


 ユカリの話を聞きながら、俺は白蛇の意地悪そうな顔を思い出す。


「でもさあ、白蛇の妖怪が人間の悩み相談にのってくれるとは思えないんだけど。あの白蛇、性格悪そうだったし」


「悩みを告白するスペースだけ用意しておけばいいんだよ。本当に神様から返事がくるなんて、誰も思わないんだから。参拝する人は悩みを告白できてスッキリするし、あんた達は何もしなくていいし、みんなハッピーじゃない」


 ユカリの思いつきを、俺は一蹴(いっしゅう)した。


「答えがもらえなきゃ意味ないだろ」


「分かってないなぁ。悩んでる人の大半は、とっくに答えなんか自分で出しているんだよ。だけど周りに反対されたり自分の判断に自信がなかったりして、決断が出来ないわけ。だから、神様に話を聞いてもらうことで『きっとうまくいく』って思えたら、前に進めるじゃない」


 ユカリの話を聞いているうちに、何だか凄く良いアイディアのような気がしてきた。


「そうか! 人助けになるならやってみる価値がありそうだな。ありがとう姉ちゃん。たまには良いこと言うね」


 俺が言うと、ユカリは心外(しんがい)だという顔をする。


「『たまには』なんて失礼ね。私は常に良いことしか言わないわよ」


 ユカリの辞書に「謙虚」という文字はない。


 俺はチャーシューメンを食べながら、早くヒカリやレンに会って、この話をしてやりたいなと思った。

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