出会い
いつもの帰り道を、いつものように歩いている。
いつものコンビニで夕飯を買って、いつもと同じように歩いている途中で日をまたぐ。
そんな生活でいいのかと自問しても、何もしないのが一番楽だと、結局その答えにたどり着く自分に嫌気がさす。
今日もいつものように課長に怒鳴られた。
パワハラとかそういうコンプライアンスは実際にこの世にはあるのだろうかと疑問に思う。
社畜。
僕にはその言葉が一番似合う。
ふふっと苦笑いが出る。
さっき電車の中で読んだネットニュースを思い出す。
僕がこんなふうに安月給で心身ともに疲弊しながら、時間を犠牲にして働いても、よくわからない芸術作品が高値で取引されている。
栗栄太なる謎の人物の絵が、一つ数百万で売れたらしい。それから火がついて、富豪たちが彼の作品を欲しがっているという。
僕には理解しかねる。
買いたい人が買いたい値段で買っているのだから文句はないけれど、僕にも書けそうだな、なんて思う絵がそんな高値で取引される、と考えると、社畜であることがみじめに思える。
そんなことを考えながら歩いていると、いつもの道に、見たことのないものが落ちていた。
近づいてみると、人形だった。手足頭に紐が付いててそれが木の柄につながっていた。あやつり人形だった。
あやつり人形はハットをかぶっていたけれど、ちょうど僕と同じようなスーツを着ている。それだけでなんだか親近感がわいた。
それに小さい頃、今は亡き両親と海外旅行に行った際、ストリートパフォーマンスであやつり人形をやっていて、食い入るように見ていたことを思い出した。
口には出さなかったけれど、本当は欲しくて、憧れていたのだ。
大人になってもたまに動画でも見ていたし、調べていたりした。
社畜に成り下がってからはそんなことは記憶のどこかにしまっていたけれど、実際にあやつり人形を見て思い出した。
たぶん捨ててあるものだろうし、持って帰っても文句は言われないだろう。
右手にエコバックを、左手にそのあやつり人形を持って、家に向かった。