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24.マデリンの来襲、再び②

よろしくお願いします。

 三日前にマデリンの真実を問い質したいと、ウィラードに言ったが一筋縄ではいかなそうだ。

 マデリンは首を横に振って「侍従を装った男に見張られているからと言って、わたくしが貴方達の味方とは限らなわ」と強気の態度だ。

 だが、アリーチェも負けじと強気に出た。

「私はマデリン様の味方です!」


 マデリンは驚いた顔をしていたが、次第に馬鹿にした顔に変わっていく。

「城にいた貴方が反王家派か王家派かの踏み絵代わりに使われていたのは知っているのよね? 道具として扱われてきて、よくもまぁ、人を信じるような言葉を言えるわね? わたくしだったら絶対に信用しないわ」

 マデリンの言葉に、アリーチェは悲しそうにゆっくりとうなずいた。

「王族から傷つけられて城から逃げ出した時、私もマデリン様と同じように『絶対に誰も信じない』と決めていました。でも私の周りには、私を信じて助けてくれる人達がいた。だから今度は私がマデリン様を信じます!」


 苛立ったマデリンが「信じるなんて簡単に口にしないで!」とアリーチェを睨みつける。普段は穏やかなアリーチェの垂れ目がキリッとして、マデリンを見返す。

「信じるのが簡単だなんて思っていません。人を信じるのは、自分の身を亡ぼす事だと知っています!」


(信じては裏切られ、心をすり減らしてきたのだから)


「努力すれば両親も私を愛してくれると、幼い私は信じていました。でもそれは叶わず、愛されることは早々に諦めた。それでも両親を信じていたんでしょうね? 両親に必要とされたくて必死に働きました。でも、両親は私が稼いだお金では足りず返す当てもない借金をして、私の大事なお店は奪われてしまった。今度は実の親という人達のところに放り込まれました。実の親なら家族にしてもらえるのでは? とまた愚かにも信じてしまった。だから、家族と認めてもらうために中傷に耐え、王女に相応しくなろうと必死に努力ました。でもやっぱり私は受け入れてもらえず、卑しい平民の私は王家のための道具でしかないのだと思い知らされました。信じて裏切られるなら、もう誰も信じたくない。そう思っていた私を救ってくれたのが、ウィラード様やクロイツンド家やこの店の人達です。だから今度は私が、マデリン様を信じます」

 

(誰も信じられない孤独は辛い。周りの人を疑い続ける孤独は、自分も傷つける。同じ痛みが分かるから、ウィラード様達がしてくれたように、マデリン様を信じて、孤独から抜け出す手助けをしたい)


 鼻を上に向けたマデリンは、挑むように高慢な物言いをする。

「わたくしが反王家派で、貴方にそれを手伝えと言ったらどうするのです?」




 アーバスノット国は建国より王家が統治する国なだけに、王家派が強い力を持っている。しかし、今の国王になってから反王家派の力が増している。

 現国王は能力が低いだけでなく、嫌なことから目を背け逃げ出す傾向がある。その尻拭いをさせられていたのがウィラードの父だったが、いい加減堪忍袋の緒が切れ体調も崩し二年前に引退して領地に引っ込んだ。

 懐刀を失った国王は余計に愚策を打ち出し続けるし、自分の地位を守る頼みの綱である『星の乙女』は国民から嫌われているせいか星は瞬かない。そのせいもあり中立を保っていた貴族はもちろん王家派だった貴族も、反王家派に寝返る事態に陥っている。


 そんな中に現れたのが本物の『星の乙女』だ。

 戴冠式の交代劇はスキャンダルでもあったが、嫌われ者のマデリンが『星の乙女』ではなかった事実は、国民の安堵を生んだ。それに加えて戴冠式でアリーチェの頭に乗せられたティアラが放った光の量が、今まで伝承されていた話からは考えられないほど眩く輝いていた。これを目の当たりにした国民が、国の未来が明るいと期待した。

 それによって劣勢になりつつあった王家派が息を吹き返し、二つの派閥の争いは激化する一方だ。

 王家派にとっての『星の乙女』は、王家の威信を取り戻すために必要な道具。

 反王家派にとっても『星の乙女』は、王家派が力を取り戻す切り札。最も邪魔な存在だ。


 アリーチェが反王家派に寝返れば、反王家派の力は増し勝利を得るだろう。だが、自分達が力を手にしたのなら、王家の象徴である『星の乙女』は反国王派にとって脅威でしかない。あっという間に消されてしまうだろう。




「うーん、それは困りますね?」

「ほら、やっぱり口だけね! 嘘を吐くならもう少しまともな嘘にしなさいよ!」

「それは、マデリン様にも同じ事が言えますよ?」

 マデリンは口元を引き攣らせて「わたくしがいつ嘘を言ったというのですか!」と怒り出す。

 アリーチェは変わらず穏やかな口調で、返事を返す。

「例えマデリン様が反王家派だったとしても、私に手を貸せとは言いません。だってマデリン様は今までだって、イブンセン家からの命令と真逆の事をしていますよね? マデリン様はイブンセン家に従いたくないのです。違いますか?」


 図星のマデリンは、それでもまだ素直にはなれない。アリーチェをやり込められないかと必死に頭を働かせる。

「イーリカがマリーを罰したから、イブンセン家はスコット家に罪を押し付けて自らは隠れた。イブンセン家を捕らえ損ねた王太子は、もう一度反王家派を動かすために必死になって餌を撒いた。それが家族での昼食会よ」

 あの時の悲しみや怒りや悔しさがこみ上げてきたアリーチェは、あれも計画の内だったのかと思うと呆れてしまう。その様子を見てマデリンは、楽しそうに笑う。


「あの昼食会にいた使用人は反王家派が多かったの。『星の乙女』が王家に罵られるところを目の前で見せつけて、『星の乙女』と王家が決別したと思わせたかったのよ。そうすれば反王家派がまた派手に動き出すと、王太子は思ったんでしょうね」

「なるほど、その計画はイブンセン家にはバレているという事ですね。なら次の手を打たないといけませんね」

 自分の暴露に傷ついていないアリーチェに、マデリンは目を見張る。それに気づいたアリーチェは、のんびりと微笑んだ。

「私が道具なのはもう知っています。この問題を早く解決して『星の乙女』の役目を終わらせるためにも、私は道具に徹することにしました。それに、ウィラード様を信じると決めたのは私ですから、騙されていたとしても自己責任です。もちろん腹も立ちますし、悔しいですけどね。それでも、ウィラード様を信じたい」


 マデリンは人を信じられるアリーチェが羨ましいような、「お人好しの馬鹿」と罵りたいような複雑な気持ちだ。

 そのお人好しの馬鹿は、マデリンの心の中に覗き込んでくる。

「マデリン様が一人で何を抱えているのかは分かりませんが、一人では何もできませんよ?」

 「うるさい! 分かっている。だから助けを求めている!」と叫び出しそうなのを抑えたマデリンは、アリーチェを睨みつける。


 アリーチェはその視線も笑顔で返すと、予想外の質問をする。

「『星の乙女』って本当に嫌な役ですよね? 幸せだった人はいるのかな?」

 急な質問に少し面食らったが、マデリンは即答した。

「他の人は知らないけど、少なくともわたくしは幸せではなかったわ」

 そう断言したマデリンの言葉は意外だった。我が儘の限りを尽くしていたのに、『星の乙女』でいた間は幸せではなかったのか?

「あんな態度を取っていたのだから仕方がないけど、国王や王妃だけでなく王太子や第二王女からも蔑まれていた。わたくしが悪辣姫と呼ばれるようになったのは、クラーラを信じていただけなのに……。人からの愛情を受けたことがないと、なおさら愛情の真偽なんて分からないものよね……?」


「マデリン様は怒るかもしれませんが、私の育ての親はマデリン様を本当に愛していましたよ? 毎日マデリン様の幸せを祈っていました」

 そう言われてマデリンが喜ぶことはなく、怒りに満ちた視線を向けられた。こうなることはアリーチェも予想していたが、それでもマデリンの両親の気持ちを伝えておきたかったのだ。

「もちろん、だからマデリン様が幸せだと言うつもりはありません。ただ、私が見てきた事実を伝えたかっただけです」

「その両親は貴方には無関心で、貴方を働かせて自分達は遊んでいたのでしょう? そんなにヘラヘラ笑いながら、よく言えるわね?」

「確かに親子としては全く機能していませんでした。でも、彼等がいたからパン屋として身を立てられたし、今まで生きてこれたのは事実です」

「違うわ! 王女を助けた報奨金でパン屋を始めたのよ! 全部貴方のおかげで成り立っていた生活だったのに、感謝なんてする必要がない! 善人ぶるのは止めて!」


(善人? 私は善人ぶっているの?)


「善人ぶっているのか、分かりません。生きるために沢山のことを諦めてきたから、「仕方がない」と思うことが日常でした。そういう毎日を自分に納得させるために、なるべく物事に執着しないようにしてきました。だから、私も周りに無関心なのかもしれませんね。それが善人と感じられるのかもしれません」

「そう。私とは逆ね。沢山のものを欲し、何でも与えられた。でも本当に欲しいものは与えられず、執着しすぎて周りが見えなくなっていた。だから偽物に飛び付いたんだけど……。所詮、偽物には偽物が相応しいってことよね」

 欲するものは何も与えられず、何も持てなかったアリーチェ。

 欲するものを欲するだけ与えられたが、一番欲しいものは手に入らず全てを失ったマデリン。

 過程は違えど、育ての親から何も得られなかった二人。

 育ての親からは愛されず利用され、無理に元の形に戻された今も、自分の意思とは関係のないことに翻弄されている。二人の置かれた状況は、今も同じだ。


 マデリンは「そろそろ時間かしら?」と、少し残念そうに立ち上がった。

 アリーチェは「次はお店ではなく、クロイツンド家にいらして下さい。私の作ったお菓子も食べて欲しいです」と微笑んだ。


 酔っぱらいの侍従を連れたマデリンは、アリーチェに毒気の抜けた険しい瞳を向けた。刺々しさがない分、切迫した緊張感がある声で「気を付けて」と言って帰って行った。


読んでいただき、ありがとうございました。

まだもう少し続きますので、よろしくお願いします。

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