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21.街で人気のハンバーガー店

本日二話目の投稿です。

よろしくお願いします。

 そこから怒涛の商品開発と人材育成と店舗開設準備が始まった。

 平民にも販売できる価格にするために、材料を見直す必要がある。商品開発を担当するクロイツンド家の厨房には、連日グイドと定食屋の料理人も来て試行錯誤を繰り返していた。

「細かく刻んだ野菜を入れすぎるとコストは抑えられますが、崩れやすくなるし満足感が減りますね。比率としては、やっぱりウィラード様の時ぐらいが丁度いいかと思います」

 試食したアリーチェの言葉に全員がうなずく。

「ハンバーグがある程度の価格になるのは仕方がないですから、もう少し安価な別商品を作ることも考えた方がいいかもしれませんね」

「確かにグイドさんの言う通りですね。サンドウィッチとは違う何かを考えた方が、いいかもしれませんね。お店の売れ筋で何かありますか?」

 多忙な中でも楽しそうに取り組むアリーチェに、グイドはにこやかな表情を向ける。




 突然クロイツンド家の使用人がグイドの店に現れ、「当家の大事なお方が貴方とお会いして話がしたいと申しております。都合がいい日を教えていただきたい」と言われた。グイドは迷わず、「今、行く」と答え馬車に乗り込んだ。

 クロイツンドの屋敷に来たグイドは、部屋で待っていたアリーチェを見て「やっぱりな」と満足げに笑った。


 アリーチェのパンの味が忘れられず、グイドは名前を聞かなかった事を後悔した。

「あのパンは絶対に売れる。旦那の為だけではもったいなさ過ぎる! 何より、俺がまた食べたい!」

 何としてももう一度アリーチェに会いたくて、知り合い貴族に探りを入れようとまでした。だが思ったのだ、「あれだけのパンを貴族が作れるわけがない」と。なら平民かと言えば、立ち振る舞いは美しかった。

「やっぱり貴族なのか……?」

 そう思った時に、王女が取り違えられていた事件を思い出した。本当の王女はパン屋の娘……。


「だから俺は、『お嬢さん』は第一王女殿下なんだと分かった。まさか、第一王女殿下から直々に声がかかるとは思わなかったけど、光栄です」

 グイドはそう言って、ニカッと笑った。

 そしてハンバーガー店を作りたいというアリーチェの申し出を、「こちらからお願いしたいくらいです」と喜んで快諾してくれた。




 とにかく騎士団からの催促がうるさくて、アリーチェもグイドも休む暇なく駆け回っていた。

 何とかコストを下げた騎士団向けのハンバーガーは完成したが、店で働く従業員や店の準備など細々とした事が短時間では準備しきれない。それでもグイドの店やクロイツンド家も総出で、開店に向けて一丸となって取り組んでいる。


 その甲斐あって、ついに明日開店というとことまでこぎつけた。

 開店と言っても、騎士団からの注文が多過ぎて暫くはそれだけで手一杯。店頭での販売は、もう少し先の話だが、一区切りだ。


 中古の店を大急ぎで内装工事したとは思えないほど、白い壁に木のテーブルが映える真新しい店も完成した。

 オープンを前に最終チェックに来たグイドとアリーチェが、明日に向けての準備で大忙しの厨房から出てきた。

「ついに、ここまで来ましたね。四店舗持っているけど、こんなに短時間で店を作ったのは初めてですよ」

「急がせてしまって申し訳ありません。でも、グイドさんのおかげで、ここまで来れました」

 アリーチェがグイドに店を作ろうと提案してから、今日まで一カ月足らずだ。目が回るような忙しさだった。

「とんでもない、アリーチェ様の人徳です。この机や椅子、内装の手配なんかはスタン商会が手伝ってくれましたよ。「アリーチェ様の役に立ちたいから、何でもいいから手伝わせてくれ」って言ってね」

 グイドの言葉にアリーチェは驚いた。

「……みんな、王女になった私に愛想を尽かしたかと思っていました……」


 王女になってからのアリーチェの噂話は、酷いものばかりだ。アリーチェの力では噂を否定することもできず、放っておくしかない。そうしている間に、噂のアリーチェはどんどん愚かで我が儘な『ゴミの乙女』になっていく。誰もがそれを信じているのだろうと、アリーチェは思っていた。


 グイドはアリーチェの言葉を、首を振って否定する。

「今出回っている世間の評判は当てにならない事なんて、楽しそうに動き回るアリーチェ様を見ていれば誰にだって分かりますよ。王女になる前に聞こえていた『試行錯誤を繰り返して美味しいパンを作り、優しい笑顔の看板娘』の方がしっくりくる。というか、正しいんだろうな。以前のアリーチェ様を知らない俺がそう思うのだから、昔を知っている奴等が下らない噂を信じるはずがない」

 予想外の誉め言葉に、アリーチェの胸のわだかまりがとける。


「それに、アリーチェ様は正しい目をお持ちだ。ハンバーガーは平民街でこそ売れる商品だ。だからこそ、平民街での商売に熟知した俺を頼ってくれたんですよね?」

 グイドの言葉にアリーチェは苦笑するしかない。

 平民が食べるパンは硬い。だから柔らかいというだけで話題になる。大口を開けて食べるのは貴族の婦女は好まないが、平民は気にしない。騎士団で大人気というフレーズだけで、人が呼び込める。それだけ騎士団は、平民にとって憧れの存在で人気なのだ。ハンバーガーには平民が喜ぶ要素が詰め込まれている。


「ハンバーガーを食べた時のグイドさんの評価が高かったので、きっと私に手を貸してくれると思いました」

「ハンバーグを出す店はいくらでもある。アリーチェ様が俺の店に来てくれて、俺は運が良かった」

「私もグイドさんに会えて、運が良かったです」

 アリーチェが笑うと、つられてグイドも笑った。


 グイドは店の外を歩く人達を見て「本物を見ないで噂を信じるなんて馬鹿だ。だが、馬鹿な奴等が多いのも事実。ならそれを逆手に取ればいい」と呟いた。

「アリーチェ様、俺達平民は、働き者の王女様なら大歓迎です。下らない噂なんかくそくらえだ! アリーチェ様はこんなに生き生きして働いているのだから、城に籠っている方が可哀相ってもんだ」

 グイドの言葉がアリーチェの心の棘を抜いてくれた。

 世間は一生懸命働くアリーチェを憐れむが、アリーチェは自分が作ったパンで人を笑顔にしたいのだ。




 ハンバーガー屋は、オープンと同時に大盛況となった。当初は騎士団からの注文が予想以上な上に、日を追うごとに増え続けて店だけでは間に合わず、クロイツンド家の厨房も修羅場と化した。今はお店の全員が仕事にも慣れ、クロイツンド家の厨房は日常に戻り、平民街の店舗は大人気だ。あまりの好調ぶりにグイドは店舗を増やすことを早々に決めていた。

 アリーチェも店が気になるし、新店舗の準備も手伝いたい。だが、なかなか思うようにいかない。以前の様に気軽に平民街に行けない状態になっていた。


 クロイツンド家の厨房での話題は、ハンバーガーの二号店についてだ。

 オープン早々大人気となった一号店に続き、グイドは早々に二号店を出店した。

 一号店は平民街のど真ん中で、客層は完全に平民がメインだ。だが、これが意外にも主人の命を受けた貴族の使用人が買いに来るのだ。という事もあり二号店は平民街の中でも貴族の生活エリアに近い場所を選び、メニューも内装も少し高級感を出した。


「ハンバーガーの二号店も絶好調のようですよ? アリーチェ様の指示通り内装に少し高級感を出したら、お忍びで来る貴族が常連化してるそうです」

 グイドと連絡を取り合っている料理長が、アリーチェを褒めつつ報告してくれた話で厨房は盛り上がる。

 そうなるとシェラも料理長に負けまいと、アリーチェの話題を振りまく。

「実は平民街だけではなく、社交界でもアリーチェ様の話題で持ちきりなんですよ?」


 ハンバーガー店が大成功してから、アリーチェの噂はまたも一転した。

 平民街での噂は、ハンバーガー店の成功に関することが主だ。アリーチェ自身が考えた全く新しいパンを、「安価な値段で柔らかいパンをみんなに食べて欲しい」と惜しげもなく提供した事。ハンガーガー店の利益の一部を国の孤児院に寄付たり、誰でも通える学校を作っている事まで暴露されている。

 その話のおかげで税金を使うのではなく、むしろお金を生み出してくれる王女様と喜ばれている。この噂に関しては、グイドが一枚噛んでいるはずだとアリーチェは睨んでいる。


 社交界での噂は主にウィラードとの仲睦まじい話だ。あの冷徹で人に興味がないと有名なウィラードが、どこに行っても「アリーチェが」と惚気ているのだ。これで騒がれないはずがない。「歴代のクロイツンド家で最強騎士と呼ばれたウィラードを骨抜きにした王女」と騒がれている。これは完全にウィラードの策略だと、アリーチェは確信している。


 この噂のおかげで、アリーチェが外出するとやたら人の目が集まるようになってしまった。アリーチェを一目見ようと人だかりもできる。そのせいで外出ができなくなってしまったのだ。


 アリーチェの中傷も収まりを見せ、クロイツンド家は春の日差しのように長閑な毎日だ。

 オーブンから流れてくる甘い香りが余計にみんなの笑顔を誘うと、激しい足音共に青い顔をしたグイドの部下が駆け込んできた。

「……アリーチェ様! 助けて下さい!」


読んでいただき、ありがとうございました。

まだ続きますので、よろしくお願いします。

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