春の足音 【月夜譚No.184】
可愛らしいイースターの飾りに、思わず足が止まる。カラフルな色遣いの卵に、円らな瞳の兎達。春がもうすぐそこまで来ていると教えてくれているようで、なんだか心が浮き立ってくる。
彼女は暫く考えてから、足先をイースター色に染まった店の方に向けた。待ち合わせまでにはまだ時間があるし、少し見ていこうと思ったのだ。
その店は雑貨店で、文房具や日用品が所狭しと棚に並んでいる。加えてファンシー寄りの店らしく、如何にも女の子が好きそうな可愛いデザインの商品が多い。
店先の飾りの通り、今の時期に目玉になっているのはイースターをモチーフにしたもののようだ。マグカップやハンカチなど、愛らしい兎がそれぞれ違ったタッチで描かれている。
彼女はそれ等を順番に見ていって、棚の端に置かれた一つに目を留めた。
そこにあったのは、兎のシルエットを模したネクタイピン。他の商品とは違ってシンプルで、けれど可愛さは損なっていない。
彼女は口元を緩め、それを手にレジへ向かった。
きっと、これなら彼も気に入ってくれるだろう。数分後に見られるであろう、恥ずかしそうにしながらも微笑む顔を想像して、彼女はヒールを鳴らした。