AIおまかせモード
『依美へ
依美のことだから、夏休みの宿題はもう終わって暇を持て余していると思います。
だからお父さん達が開発したゲームのオープンβに参加することをオススメします。
絶対に気に入ると思うので、ゲームをするのに必要なVR機器の最新の物を送りました。
楽しんでね。
お父さんとお母さんより』
私は家に届いた大きな配達物を受け取った後、両親から来たメッセージを読んでいた。
頼んでもいない物が届き、久しぶりに両親からメッセージが来たと思ったらこんな内容だった時の娘の気持ちを考えて欲しい。
しかし私は怒ってはいない。両親はメッセージに書いてあったようにゲーム開発をしているためほとんど会社に泊まっているけど、お金をもらって自由に暮らしているし、両親がオススメする物は全て今の私の好きな物になっている。
そして、夏休みの宿題が終わって暇なのも事実だし、私はゲームをする事にした。
今の時代のVR機器は、ヘッドホンとアイマスクがくっついたようなヘッドセットと、指先に付けるバイタル計測機器だけ。私が子どもの頃は棺桶みたいな箱に入っていたのが、今では縮小化が進んでいるのだった。
ゲームの簡単な説明を読むと、一昔前にアニメで流行った没入型VRMMOらしい。テーマは、ファンタジー世界でなりたい自分になろう。
要するに、異世界でやりたいことをやってれば強くなれるよというゲームらしい。
他にも色々書いてるけど、私は取説は読まない人間なのだ。感覚で色々やってる方が楽しい。
そういうわけで、ヘッドセットを付けて、寝ることにした。
実際には寝ているわけじゃないらしいけど、難しいことは気にしない。
目を瞑っていると意識が一瞬遠くなり、次の瞬間には野原にいた。
『ようこそINFINITY WORLDへ。』
私の目の前に、白いボールが飛んでいた。何これ。
『私はこの世界の神の代理人です。あなたたちのような異世界からの迷い人に力を与え、導く存在です。』
白いボールは女性の声をしている。どうせなら姿を見せて欲しい。
『申し訳ありません。それはまたの機会に。』
断られた。まあいいけど。
『それでは、あなたのこの世界での姿を決めてください。』
ここからはキャラメイクらしい。私の目の前にはタッチパネルが表れ、現在の私の姿が映っている。
『性別や体格など全ての部分を変更できますが、今の姿からかけ離れすぎると動きに影響が出る可能性がありますのでお気を付けください。』
といわれてもなぁ、どうしようか。
『職業選択後に決めることも出来ますがどうしますか?』
あ、じゃあそれでいいかな。
『それでは先に職業を選んでください。この世界の職業は、あなたのやりたいことに直結しますので、慎重に決めてくださいね。』
やりたいことに合わせた職業を選べと…私って何をしたいんだろう?
『もしよろしければ、私に任せてみませんか?私があなたの秘めたる欲望に合わせた職業と容姿を創りますので。』
あー、AIおまかせモードってことね。正直やりたいこともないし、それでいっか。
『分かりました。少々お待ちください。』
目の前のタッチパネルが消え、私はする事が無くなった。
…あれ、もうキャンセルとか出来ないってこと?
『それではあなたに合わせた職業と容姿にします。』
一瞬視界が真っ白になったかと思うと、すぐにまた野原が見えるようになった。
…あれ、ちょっと視野が低くなった気がする。
『こちらが現在のあなたの容姿と職業と名前です。』
目の前に半透明のディスプレイが出てくる。タッチは不可能っぽい。
『名前:クララ
職業:アイドル Lv.1』
容姿は、パステルピンクのロングヘアを赤い大きなリボンでツーサイドアップにしている可愛い女の子。シルバーのメッシュも混ざっている。胸はDらしい。身長は151cmで体重は43kg。そんな情報が3Dモデルとともに書いてある。
服装は、髪色に合わせたパステルピンクのTHEアイドルって感じのひらひらドレスだった。
『どうですか?可愛いでしょう。』
白いボールは自信が有るらしい。
いや、かわいいけど…なんでアイドル?
『私の分析の結果、あなたは目立ちたがっています。しかし、普段の長身貧乳に自信が出ず、教室の端でボッチです。しかしここは自由に生きて良い場所です。ですからこの姿になりました。』
確かにそんなことを思ったことはあるけど、さすがにズバズバ言いすぎでは?ログアウトするよ?
『ちなみに顔はメイクしただけです。整った顔をしてらっしゃるのですね。』
いや、そんなこと初めて言われた。AIはお世辞も言うのかー。
『まあ普段は前髪で目元が隠れているみたいですし仕方ないですね。』
あれは授業中暇なときに寝てても気付かれないためであって…というかこいつどこまで私の記憶を見たの?プライバシーが…。これは親に改善の文句を言わないと。
『それではそろそろお別れです。次は姿を見せるかもしれませんよ?』
あ、ちょっと、キャンセルとか調整とか、最終確認ぐらいしなさいな!
『じゃあ行ってらっしゃい~!』
白いボールがご機嫌に跳ねている。
私は絶対にこのことも親に言いつけるからなー!
私は足下に現れた白い渦に吸い込まれたのだった。