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魔力ランクS少女ロロのお話(魔番まつがい含む)

ロロとユーリの甘い放課後 【ロロシリーズ②】

作者: 飛猫社

 以前書いた「ロロの学園見学」の主人公ロロのお話です。いつかこの子を主人公とした長めのお話を載せたいと思ってます。


(うん、あれはどう見てもユーリが困っているわ…!!)


 低木の生垣に身を隠しながら、ロロは確信した。

 

 ロロが平民ながら魔力持ち、しかもランクSであることが判明してから半年。孤児であったロロはルーク公爵が後見人となり、同じく平民出身でランクSの魔力持ちであるユーリと共に魔法の使い方などを学ぶために学園に編入した。編入すると決まってからもいきなり平民であったロロが貴族ばかりの学園で過ごせるわけではないので、3か月はルーク公爵邸にて貴族と接しても恥ずかしくないよう礼儀作法からダンスから叩き込まれた。

 編入して3か月。いまだに慣れないことは多いものの、友達もできそれなりに充実した日々である。


 ロロはユーリと共にルーク公爵邸より毎日馬車で学園に通っている。

 ロロは8歳で学園初等部2年に編入したのだが、8歳年上のユーリは高等部1年。しかも貴族ばかりで構成される生徒会メンバーで平民ながら1年にして既に書記として在籍している。

 そんなユーリは忙しく、一緒に帰ろうとすると早く学校が終わるロロはユーリを待たなければいけない。

 ユーリはいつも「先に帰ってくれていい」と言ってくれるが、ロロにすると一緒に帰ったほうが馬車も何回も屋敷と学園を往復しなくて済むし、待っている間に出された課題をしたり図書館に行ったりと、それはそれで待つ時間も楽しいので毎日ユーリが終わるまで待っている。


 今日はいつもよりも迎えに来るのが遅い。

 遅くなりそうなときは必ず前もって知らせてくれるのに、今日は何も言っていなかったのに、まだ迎えに来ていない。


(何かあったのかな…??)


 そう不安に駆られたロロは、身支度をしてユーリを探しに図書館を出た。

 さてどこを探そうかと思うよりも前に、ロロはユーリをすぐ見つけた。

 まっすぐな漆黒の髪、ひょろっとした男性にしては線の細い体。あれは間違いなくユーリだ。

 図書館と校舎をつなぐ渡り廊下に立っている。

 なんだ、迎えに来ていたところだったのかと声をかけようとして、ユーリは一人でないことに気づく。

 ユーリの前に、いかにも貴族の令嬢といった女性が立っていた。

 さっと近くの低木に身を隠し、様子を伺う。

 何の話をしているのかは聞こえないが、話している様子からして、女性がユーリに言い寄っている様子だった。甘えた様子で腕を掴み、何か一生懸命に話しかけている。

 ユーリの方はどちらかというと淡々とした様子で、表面上は穏やかに対応していた。

 でも、一緒に暮らしているロロにはわかった。

 ユーリはイライラしている。ニコニコと笑っているが、なかなか去ろうとしない令嬢に困っている。

 しかし、平民の身分のユーリが貴族相手に邪険にすることはできない。

 この国では身分は絶対なのだ。

 幸い身分以上に魔力持ちを貴重と見る国なので、何か不敬をしたところでランクSのユーリが処罰をくらうことはないだろうが、あまり不興をかわない方が良いに決まっている。余計なやっかみも厄介であるからだ。

 

(まあ、ユーリなら何とかするかしら? とりあえず、居場所もわかったし、図書館でもう少し時間を過ごしましょう)


 身に危険が及んでいるわけではなさそうだし、ただ単に令嬢はユーリに恋心をもってアプローチをしているだけだ。ならば、人の恋路を邪魔するのは野暮というものだ。

 そう判断したロロは、これ以上の見学は止めて図書館に戻ろうと背を向けたところだった。


「-あ、ロロ? 僕を探しにきてくれたのかな?」


 ユーリに声をかけられた。


(しまった、見つかってしまったわ…! ていうか、もしかしたら既に気づいてた??)


 内心冷や汗をかきながら、殊更ゆっくりと振り返ってユーリを見る。

 ユーリはニコニコと笑っていた。が、顔が「助けろ」と訴えている。


(…仕方ないわね…)


 ここは、可愛い妹的立場でこの令嬢を追い払うことにしよう。

 そう考えたロロは、眉をしかめてお腹を両手で押さえた。


「ユーリ、あのね、お腹痛いの」

 

(本当はどこも悪くないんだけどね…!!)


 ユーリは慌ててロロのもとに駆け寄ってくる。さすがに腕を掴んでいた令嬢も小さな女の子がお腹を押さえて蹲っているのに引き留めるわけにはいかなかったのだろう。あっさりとユーリを解放した。


「大丈夫? ロロ?」

 優しく抱き上げる。

 華奢で女性と見間違えるような体型をしているが、ユーリも男性である。ロロくらいの女の子を抱き上げるのは造作なかった。

 あまり演技は得意ではないから、もう何も言わずにロロは抱き上げてくれたユーリの首に両手を回し、ギュッと抱きついた。

 ユーリはしっかりとロロを抱くと、女性を振り返る。

「…申し訳ありませんが、ロロが体調を崩したようですのでこれで失礼します」

 にっこりと微笑みかけながら、しかしはっきりとした強い口調で告げる。

「…わかりました。」

 女性も常識はわきまえているのだろう。ユーリに抱きつきながらそっと女性を見ると、心配そうにロロを見ている。心も優しい女性なのだろう。

 そんな女性にお腹が痛いフリをしているなんて心が痛む。

「でも、ユーリ様にそんな小さな妹君がいらっしゃったなんて知りませんでした。お大事になさってくださいませ」

 そう告げられたとき、ピクっとした。


(わたしはユーリの妹じゃないわ…!)


 思わずそう告げようと顔を上げようとしたら。

 それを察知していたのか、ユーリの手がロロの頭を押さえて上げさせてくれなかった。傍から見たら、ただ単に頭を撫でているように見えただろう。

 ユーリはクスっと微かに笑う。

「いいえ、彼女は妹ではありません」

 少しずれた眼鏡を押し上げて位置を直す。

「ロロは僕の数少ない友達ですよ」

 そう言って幸せそうに笑い、その場を立ち去った。


 しばらくそのまま抱っこされていたが。

「…ねえ、そろそろ下ろしてほしいわ、ユーリ。歩けるもの」

「いけません。お腹、痛いんだよね?」


(嘘だとわかってるくせに…!!)


「…お腹痛いんじゃなかったわ。そう、お腹が空いたの!」

 もうそろそろお腹が痛いフリはいいだろう。ロロは顔を上げてユーリを見る。

 ユーリは面白そうに器用に片方の眉を上げて見せた。

「へえ?」

「そう、ユーリを随分と待ってたからお腹が空いてしまったわ! 帰りにカフェに行きましょう。ね?」

 さり気なくユーリが遅くなったことを責める。

 責められていることがわかったのだろう。ユーリが顔をしかめた。

「うまいこと言ってくれるね」

 これはユーリの降参だとわかったロロはふふんと胸を張ってみせた。


 馬車に乗り、少し離れた街中のカフェに行く。

 ここのシフォンケーキが美味しいらしい。内装も随分と可愛いと評判だった。

「まあ、かわいい!!」

「…まあ、すごいね、これは…」

 中はパステルカラーの世界だった。女の子の世界だ。リボンにハートにお花柄。男は居づらい。

 ユーリは自分のいる場所ではないと言いたげだ。居心地が悪そうだ。

「じゃあじゃあ、このバニラシフォンケーキ。もちろん生クリームはたっぷりとつけて。それにイチゴのタルト、チョコレートプディングもね!」

 席につき、ウキウキと注文するロロ。

「ユーリは何にする?」

「…僕はコーヒーだけでいいよ」

「え? それだけ?」

「うん。もうこの店内にいるだけでお腹いっぱいだよ」

 そう言って苦笑する。


(いつもはわたしと同じくらい甘いものに目がないのに。外だと他の令嬢の目もあるから恥ずかしいのかしら?)


 ユーリは甘党だ。いつもケーキもクッキーもロロと同じように食べるのに。

 せっかくお友達にこのカフェを教えてもらってユーリと楽しむために来たのに。

 少し面白くなかったが、そんな気分もすぐにやってきたケーキに目を奪われると忘れてしまった。


「…うう」


(しまった、しまったわ…)


 カフェに入った時はお腹が空いていると思っていた。目の前にデザートが並べられた時も楽勝だと思ったのに。

 食べられると思ったのに、まだ半分以上も残っている。


(困ったわ…残すなんてもったいないし、せっかくユーリに連れてきてもらったのに)


 貴族ならば残すことは問題ないのだが、平民であるロロからすれば残すなんてとんでもないことだ。もったいない。しかもデザートなんて嗜好品は高級である。そんな罰当たりなこと、ロロはしたくなかった。


(どうしよう…)


 少しずつ注文すればよかったと後悔していたら。

 目の前にあったシフォンケーキのお皿がスッと取られた。


「-そうなると思ってたよ」


 ふと顔を上げると、しかめっ面のユーリ。

 でも、一緒に暮らしているロロにはわかる。

 この顔は本当に怒っているわけではない。隠そうとしているが、自分の予想が当たってご満悦のときの顔が見えている。


「大体ね、ロロがシフォンケーキ、イチゴのタルト、チョコレートのプディング3つも食べられるわけないよ。まだこんなに小さいのに」


 ため息まじりに頭に手をポンっと置かれた。


「だから僕は自分の分は頼まなかったんだよ」

 そう言ってロロの食べかけのシフォンケーキを食べ始める。

「それ、食べかけ…!」

「だから?」

 ユーリは「なんてことない」とどんどん食べていく。

「残すの、もったいないでしょ? 砂糖なんて貴重なんだから。僕は残すなんて考えられないよ」


(…わたしと同じ考えだ…)


 それが無性に嬉しい。ユーリは平民だ。同じ価値観を持っていることが嬉しかった。きっとルーク公爵はロロの食べかけなんて食べないだろう。彼は生まれながらにして超一流の貴族だから。


「…ユーリ、ありがとう」

「ん」

 ロロが食べきれないと思っていたデザートはあっという間にユーリが平らげてしまった。

 やっぱりユーリは男性だ。

 いくら線が細くても、ロロを軽々と抱き上げられるし、食べきれないと思った量のデザートもすぐに食べてしまった。


「これに懲りたら、今度はデザート、頼む前に量考えようね?」

「うん」

「そして、僕の好みも考えて頼んで」

「ん?」

 シュンとしていたが、ロロは思わず顔を上げてユーリを見た。

 ユーリは「どれも甘すぎだよ」としかめっ面で舌を出して見せた。

「僕は柑橘系が好きだから」

「…ん、わかったわ」

 確かにいつもそういったデザートを選んでいた気がする。


(今度から気をつけよう)


 小さくガッツポーズをする。

 そんなロロの頭を優しくユーリが撫でてくれた。


「あと、令嬢が離してくれなくて困っていたところ、助けてくれてありがとう、ロロ」

 ユーリの声が優しい。

「助けずに図書館に戻ろうとしたときは、なんて薄情な奴なんだと思ったけど」


(やっぱり元々気づいていたのね!)


 頭上で楽しそうな笑い声がする。


(まあ、いっか)


 ユーリは楽しそうだし。

 これはこれで良かったと満足するロロなのであった。


 その後ルーク公爵邸に戻って、カフェで満腹になってしまい夕食を食べられなくなったユーリとロロはルーク公爵にクドクドと怒られてしまったけれど。

 なかなか日頃怒られないユーリが一緒に注意を受けるのは面白かった。

 ただし、反省していないことがバレて、しばらく間寄り道禁止令をロロは追加で出されてしまった。


(ルーク様、嫌い! ちょっと夕食食べられなかっただけなのに!!)


 その後しばらくロロはルーク公爵と口をきかなかったが、それはまたいつか。

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