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二人の恋の落着  作者: ライトミリタリーユーザー百合に最近興味持ち
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前編

そこでは、明確な意思に基づいて相手を致死に至らしめる一撃の応酬が行われていた。直径わずか数ミリにすぎない金属の塊が幾つも宙を飛び交う。一見ちっぽけなように見えても超音速で移動するその物体はちっぽけであろうと人体に命中すれば致命となる威力を秘めた恐るべき代物である。


人類が血みどろの歴史の中で編み出した現在最高の殺しのツールである弾丸、それらが硝煙特有の臭いや轟音と何十発も敵対する者同士の間を往復していた。しかも往復しているものは軍用の小銃弾だ。


その場はまごうことなき戦場、互いが殺され殺し合う生き地獄に他ならなかった。鉄筋コンクリートが剥き出しという装飾が見事に存在しない屋内施設で熾烈な戦闘が生じており、現在進行形の戦いの輪の中には女魔族の傭兵の姿もあった。そこは彼女の拠点なのだから。


人間の開発した兵器を軽視しがちな魔族であるにもかかわらず、現代兵器を脅威とみなす女傭兵は同時に卓越した現代兵器の使い手でもある。彼女はベルギーのファブリク・ナショナルハースタル社が特殊部隊向けに開発した口径5.56mmの銃器FN-SCARLを構え、射撃姿勢を取る。射撃姿勢は魔族の身体能力に物を言わせたものではなく、極めて堅実な姿勢だった。つまりグリップを握りしめながらハンドガードをもう片手で保持し銃全体を支えるというものであり、狙いにしてもSCARの標準装備であるレールに装着されたCQBタクティカルスコープを除いて定めるという妥当な物。


人間を上回る身体能力を持つ魔族が人間のために編み出された射撃姿勢を取るべきでないという見方も存在しているが、女傭兵個人としては基本に忠実なスタイルを取るようにしている。そのまま狙いを定めると同時に引き金を引いてはすぐ離すという形で発砲する。引き金を引く力は例えるなら武装メイドを細心の注意を払いながら愛撫するときのようなたおやかで繊細な力だ。何故かといえば引き金を強く引きすぎてしまうと狙いがそれてしまうためだ。


屋内戦は一般にセミオートを使うのが定石とされているが、セレクターレバーをあえてフルオートに合わせている。長年の実戦経験から弾丸の残量を的確に把握しながらフルオート射撃できるという技術を女傭兵は培っているためだ、残弾が残っていることも分からないほどフルオート射撃を加える無様なまねを彼女が部下の前でしたことはない。


女傭兵の正確な短連射が敵兵目がけて放たれる。計5発発射された5.56mm弾は間髪入れず、悉くが敵兵の脳天に命中し、盛大に温かい血潮とどろりとした脳漿をまき散らしながら絶命した敵兵が床に倒れこんでゆく。FAST系列のバリスティックスヘルメットとバリスティックスタクティカルゴーグルで頭部を保護していたが、拳銃弾はともかく小銃弾を完全に貫通させないなど不可能だ。


自らの手で立った今人の命を奪っておきながら女傭兵の姿にさしたる変化はない。もう何百年も戦場に身を置いてきたために人を殺したところで一々動揺しはしないし、明らかな敵に容赦する趣味はない。彼女の部下もそれについては同意見だ。


どちらかというと女傭兵は歓喜していた。平静であるように見えながらその実は総身は喜びに戦慄いており、凄まじい喜悦に恍惚としていた。彼女は強敵との戦いに喜びを見出しもしなければ、殺戮に法悦を味わうタイプでもないが、厳然たる戦闘狂である。戦闘狂としての彼女の本質は戦うことそのものに喜びを見出すタイプであり、そのため平成であるように見えて銃弾飛び交う戦場にいながら総身は喜びに戦慄いていた。


はっきりいって破たんした精神の主という他ないが、本来ならば喜びを思う様噛みしめていた思考の中にはこれまで感じたことのない雑念が混じっていた。それは武装メイドと共に過ごすこととどちらが楽しいのだろうかという物で、存外彼女も恋する乙女であるのかもしれない。乙女というには人をたやすく殺せる彼女は物騒すぎるし、実年齢は約300歳ほどなのだが。


戦いがもたらす高揚、脳裏に雑念がよぎっていながらも同時に彼女の思考はどこまでもクリアだ。その気になればどこまでも非情にかつ正確な指示を下せるのが彼女の指揮官としての真骨頂であり、彼女のいる場のみならず他の場所でも同時進行で戦いが進んでいるため、女傭兵は脳内によぎる思いに惑わされずに的確な防戦の指示を下していた。当然銃声に負けないため大声で叫んでいるのだが、その声はどこまでも野太く武装メイドとのまぐわいでみせるような可愛げのあるものではない。


指示を下しながらもチラりと襲撃者の遺体を一瞥する。全身を黒一色で塗り固めた個人装備で武装した兵士。頭部を覆うFASTヘルメットにタクティカルゴーグル、下顎のハーフマスク。黒塗りの戦闘服に同色のプレートキャリア。腕は黒のメカニクスグローブで下半身は黒のミリタリーブーツ。火器はMP-7をメインアームとし、サイドアームは9mmオートのFN-X。


襲撃者の装備は悪いものでなく、練度も正規軍の歩兵部隊と比べても何ら見劣りのするものではない。傭兵という職業柄、恨みをどこかで買ってしまい拠点が襲撃されるという状況を想定して休日でも歩哨を立て、監視カメラやドローンなどの侵入者を察知するシステムを導入していたから応戦できているが、それらがなければ前触れなく攻めてきたこの部隊の前に敗北していた可能性もある。


問題なのはこの襲撃者の正体だ。襲撃者の正体がわかりさえすれば襲撃者を送り込んできたものと交渉するなどして襲撃をやめさせることができるが、正体を特定できなければ第2、第3の襲撃が今後も繰り返される恐れがある。最悪なのは敵の正体が国家組織だった場合だ。こちらをどこかの国家が本気でつぶしにかかってきたのだとしたら、非合法の傭兵部隊である以上厄介なことになる。


犯罪者を潰すためにどんな手を使おうと民間人を巻き込んだり、やりすぎさえしなければ国家はどんな手も駆使できるからだ。最もその場合でも潜伏しながら活動を継続できなくもないが、国が相手だとすれば少々困ったことにだろう。


いずれにしても正体の詮索は後回しだ。戦況は全体的にこちらが優勢であるが、完全に襲撃者を撃退できたわけではないのだからいまするべきことは襲撃者の撃退に全力を尽くすことだ。そう考えた女傭兵は思考を素早く切り替え尚も銃撃を加えようとしたのだが・・・。


銃撃を続行しようとした彼女の体に衝撃が走った。背筋を灼熱の熱さと絶対凍土の寒さを伴った衝撃が駆け抜け、彼女の心身を徹底的になぶりものにしていく。相手をいたぶり傷つき苦しむ様を楽しもうという底意地の悪い笑みを隠そうともせずに。


彼女は銃撃戦の真っただ中にいながら呆けたように立ち尽くしていた。部下が慌てて遮蔽物の影に身を寄せなければ、あっけなく死んでいただろう。その顔面は常と同じ無表情で感情の機微の読み取りは難しいものだったが、まるで蝋人形のように血の気の失せた顔をしているということが雰囲気から察せられた。


女傭兵から戦闘能力を奪ったもの、それは部下らからのある知らせだった。遮蔽物に隠れながらコンピューターパッドを通じて、拠点内の監視カメラが教えてくれる映像を見張っていた部下は拠点の後方地点に襲撃者と同じ格好の者が侵入しているというのが内容だった。


それだけの知らせならば別働隊による挟撃という危機的状況でも動じはしなかっただろう。対策を普通に考えるだけだ。彼女を動転させたのは、その次のことだ。後方に回り込んだものの数はどう見えても3,4人でありこちらを挟み撃ちできる数ではないということと、明らかに武装メイドの独房に向かっているということだった。


それを聞いて彼女は一つの結論を下した。勿論その結論が確実に正しいとは限らないが、今回襲撃してきた勢力は武装メイドの関係者、前回取り逃がしてしまった資産家の私兵ではないかということ。襲撃の目的は寝返った可能性のある武装メイドの暗殺もしくは時点で救出だ。


わざわざ寝返った可能性があるといっても私兵を駆使して武装集団に攻撃を仕掛けるなど正気の沙汰とは思えないが、事実は小説よりも奇なりとイギリスの詩人バイロンも言っている。武装メイドは捕虜の身でありながら、拷問もされず、客観的に見れば女傭兵の慰み者にこそなっていてもかなりの好待遇を受けている。腹の立つ言い方だが、お気に入りの性奴隷と判断せずに裏切ったと判断しても不自然ではないし、裏切り者の抹殺に動くこともありえる。


柄にもなく女傭兵は武装メイドが殺されるという可能性に怯え、狼狽していた。最初は一方的な暴行によるものだったとしても本当に女傭兵は武装メイドを愛している。それが身勝手と言われるものだとしても。その武装メイドが殺されてしまう。物言わぬ冷たい骸となり、笑顔を見せることもなくなり、床に射殺体として無惨に転倒するだけ。


そんな姿など決して見たくはない。そんな姿を想像するだけで気が狂いそうになるし、底知れぬ深い絶望に捕われてしまう。武装メイドと語らったり、それ以外にも他愛もなく武装メイドと一日過ごせないなど絶対に嫌だ。そもそも好きな人だからこそ武装メイドが自然死以外に死ぬならの手で殺したいとも彼女は思っているのだ。


このまま何の手も打たなければ武装メイドは死んでしまう。それを避けるためには助けに向かわねばならないが、攻撃を受けている状況で部下を救援に向かわせるわけにもいかない。女傭兵が単身救出に向かえば問題はないが、攻撃を受けている状況で指揮官が持ち場を離れるわけにはいかない。


そのためこのままでは武装メイドが殺害されるとわかっていても、殺されるのを座視するしかなかった。

武装メイドを救出に向かいたいのに向かえないというジレンマと大切な人が無残に殺されるという絶望に二重苦を味わいながらも、彼女が選択したのはこの場に踏みとどまって戦闘を続行するというもの。


余計な感情を切り捨てどこまでも冷徹に指示を下すというのが彼女の指揮官、傭兵としてのあり方だ。武装メイドを切り捨てたいと真に思っているわけではないが、彼女は断腸の思いで武装メイドを切り捨てることを選択した。微かに震える手のままSCAR-Lを握りしめて再び戦闘に復帰しようとする。恐怖と絶望によって思考がマヒしていたためか、普段ならまずやらない友軍誤射や自身を殺傷する危険がある安全装置のかかっていない状態で銃口管理を怠っていたことが彼女の精神状態を物語っている。


武装メイドを見捨てたうえで戦闘に復帰しようとした彼女を止めた者がいる。武装メイドの独房に敵がいると知らせたうえでかなりの古参の兵士だ。


「隊長、悪いがあんたを戦闘に参加させるわけにも指揮させるわけにもいかねえよ。」


「どういうこと? 返答によってはただじゃすまないわよ。」


「そんなおっかねえ目で見ないで下さいよ、チビりそうだ。うちの隊は必要に応じて現場指揮官が指揮に耐えうる精神状態でないと判断した場合、一時的に指揮権をはく奪することが可能でしょう。」


「・・・・私がそれに該当するといいたいの。」


「ええ、そうです隊長。手は震えているし、銃口管理をおざなりにし、銃火の前で棒立ちになる。そんな相手に指揮をまかせるわけにはいきませんよ。」


「そうね、私にも自覚はあるわ。いいわ、指揮権の剥奪には応じる。でもそれだけじゃないと私にいいたいんでしょう。」


「とりあえず、この場では私があんたに次いで先任だ。だから命令させてもらいますが、あんたはとりあえず後方に回った敵の排除に動いてもらいましょうか。」


「・・・指揮権の剥奪の行使と今の命令は客観的事実に基づいたものばかりではないでしょう。だから例は言わない、でも酒ぐらい後でおごってあげるわ。それじゃあ悪い虫けらを退治しに行ってくるから、ここは任せたわよ。」


そう言い残すと女傭兵はそのまま走り去っていた。愛しの武装メイドを救いに向かうのだろう。


「やれやれ好きな人を助けにいくのにも状況をお膳立てしてやらないといけないとは難儀な御仁だぜ。まああの人にこの命は捧げている、例え恋愛感情を抱いた相手と精神的につながらないならせめて肉体的に繋がりたいなんて言う理由で好きな人を襲うようなものだろうと、初恋の相手をむざむざ殺させるもんか!」


「てめえら、隊長がいないからって情けない姿を見せるなよ。敵を血祭りに上げろ! 我らの戦女神に勝利を!」





















最後のあたりは、少し駆け足気味になりましたね。申し訳ありません。一応女傭兵さんはちゃんと性的な面以外でもセリフのみの武装メイドが好きです。最後はハッピーエンドになる予定です。


銃口管理 基本的に銃器は極めて危険な武器であり、万が一の友軍誤射や自身の殺傷も考えられる。そのため銃口を基本的に人に向けないように管理することで誤って銃による殺傷を回避しようという考え方。基本的に実弾を込めていない状況でも徹底する。ローレディポジション ハンドガードとグリップを握ったうえで銃口を下向きに保持するというのも銃口管理の一種のはず。


引き金を力を込めてひかない 自衛隊ではガクびきと通称される。Gate自衛隊にも登場している用語。後はライジングサンあたりか。引き金を力強く引いた場合狙いがそれてしまうため、引き金を引くときは力を込めずに引き、またひきがねをゆっくりともどすようにする。フルオート射撃で弾丸をばらまくのではなく、狙いをつけたうえで連射をごく短い間行うためこれに基づいて行っている。


一応傭兵という職業でかなり有能という感じにしているかららしいことを書いてみました。ミリタリー知識があるにしても浅いので間違いがあった場合はご容赦ください。傭兵隊で指揮権をはく奪とか現実には内部崩壊待ったなしかな、規律とかにもよるけど。


武装メイド「女傭兵さんは引き金を引く力を私を愛撫するときと同じとみなしていたんですね・・・。正直言ってショックです・・・・。」


女傭兵「ご、ごめんさない、気を悪くしたなら謝るから・・・・。あれはただの例えよ、引き金とあなたを同列にみなすわけがないじゃない! お願い、許して・・・。」


武装メイド「さあどうしましょう? このままもしかすると嫌いになってしまうかも知れませんよ。」


女傭兵「そんな・・・・・。」


武装メイド<基本無表情なんですけど、私は彼女の表情の微妙な違いをちゃんと判別できますよ! だって大好きな人なんですから。今は私に嫌われると思って本気で狼狽しちゃってますね、普段はクールなんですけどこんなかわいい表情見せてくれるから時々いじわるしたくなっちゃいます♡>


武装メイド「嘘ですよ、私は貴方のことを絶対に嫌いになんかなったりしません。だから気を落とさないでください。」


女傭兵「そう、ならよかった。本気で嫌われたらどうしようと不安だったわ・・・。」ニパァ


武装メイド<た、たまに笑顔を見せてくれるんですけど、その破壊力がすごすぎます・・・・・。思わずこっちもにやけちゃいそうです。>


この後はひたすらイチャコラした


武装メイドについては一応サンドラ・ステイシーという名前を用意していますが女傭兵は名前を考えていません。このまま名無しで通すかもしれませんが、この作品を気に入ってくれた方がいたなら感想欄で名前を知らせてくれませんか。気に入ったものを使うかもしれません。









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