勇者と魔王
魔王：「フフフ……勇者よ、よくぞここまで辿り着いたな！」
勇者：「魔王……覚悟しろ！」
魔王：「さあ、来るがいい！ここがお前の死に場所ダァー！！」
先輩：「なあ、後輩よ」
後輩：「……なんですか、先輩？」
先輩：「後輩は、『勇者と魔王の物語』をどう思う？」
後輩：「どう、と言われても……よくあるジャンルの物語としか……」
勇者：「はぁああああーーー！！！」
魔王：「フハハハハハ！！」
先輩：「そう、よくあるジャンルの物語だ。今日はこのジャンルについて話をしようと思う！」
後輩：「はぁ……それはいいんですけど…………、あれについて何か説明はないんですか？」
先輩：「あれ？」
勇者：「“封・殺・剣”！」
魔王：「甘いわ！“ミラーフォース”！」
先輩：「あぁ、ちょっと間違えて異世界から来てしまった“勇者さん”と“魔王さん”の事なら気にしなくていいぞ！」
後輩：「いや、あれを気にするなと言われても無理ですよ！思いっきり部室の中で魔法やなんやらぶっぱなして戦ってるんですよ！？どう見ても最終決戦ですよ！？」
先輩：「大丈夫だ。私達の方に攻撃が来ないように、戦う前に話はつけてあるから」
勇者：「そうだ、君達に被害が及ぶことは決してない！」
魔王：「なにせ、我と勇者の力を合わせて二重の強固な障壁を展開しているからな！君達は安心して役目を果たしたまえ！」
後輩：「なんで勇者と魔王が協力してるんですか！？」
先輩：「おっ、いいことを言うじゃないか後輩！そこなんだよ！」
後輩：「どこですか？」
先輩：「本来、勇者と魔王を題材にした物語と言うのは、悪の根源である魔王を正義の勇者が退治するという『勧善懲悪』ものだ。だからこの二人が協力するという事は決して無い！」
後輩：「そうですね」
先輩：「ところが最近は、勇者と魔王がなんだかんだで協力し新しい敵を倒したり、そもそも魔王が良い奴だったり、勇者が魔王を兼任している話もあったりする」
勇者：「魔王！どうして、世界を破壊しようとする！？」
魔王：「世界を破壊だと？それはお前たち人間の方だ！」
勇者：「な、なにぃ！？」
後輩：「確かに最近はそういう話もありますね。……なんかあっちの人達もそんな感じみたいですし」
先輩：「しかしこれは物語の多様性という面でみれば、単調になりつつあった勇者と魔王を題材にした物語に様々なパターンが生まれたから、むしろ喜ばしい事なのだ！」
後輩：「はぁ……」
先輩：「だが私はそこで思った。このジャンルは勇者と魔王が対になることが前提なんだが、そもそも魔王と対になるのは勇者じゃなく、同じ王様の国王が適任だと！」
後輩：「確かに、言われてみればそうですね」
先輩：「では何故、国王VS魔王とならないのか？私はそれが不思議で仕方なかった！」
後輩：「で、結論は出たんですか？」
先輩：「勿論だ！そうじゃなかったら、こんな話を振ったりしない。……で、結論から言うと、そんなことをしても面白くないからだ」
魔王：「勇者よ、お前は何故あんな国王のために戦っている？」
勇者：「俺は国のためじゃない、世界のために戦ってるんだ！」
先輩：「勇者と魔王の物語は基本的には悪を倒す“勧善懲悪”のジャンルとして確立しているところがある！それが国王ＶＳ魔王になってみろ？それは国同士の戦いになって、“戦記物”になっちゃうだろ？
それはそれで面白いかもしれないが、読者的には魔王が出てくる時点で、“勧善懲悪”の物語をイメージしてしまいがちだ！そこに勇者が登場しなかったらガッカリしてしまうだろ！？私はガッカリする！」
後輩：「なるほど確かに……」
先輩：「だから勇者と魔王の物語では国王は脇役になるしかなく、登場も下手をしたら最初と最後だけになるのも仕方ないのさ！つまり、魔王ＶＳ国王という図式は成立しないというわけだ！」
魔王：「見事だ勇者……。さあ、トドメを……」
勇者：「……それはできない。“ハイ・ヒーリング”！」
魔王：「……何故、我を回復させた？」
勇者：「お前と戦って、本当に戦わないといけない敵が解ったからだ。
……魔王、俺と一緒に来い！腐敗しきった王国をぶっ倒して、俺とお前で新しい平和な世界を作るんだ！！」
魔王：「フッ……その言葉を待っていたぞ、勇者！我とお前が手を組めば、この世で出来ないことはない！」
後輩：「……なんだか、すごい展開になっちゃいましたね……」
先輩：「なるほど、勇者と魔王が手を組んで真の悪者だった国王を倒す……“アリ”ね！」
