2 5.21同時多発襲撃事件(2)
少し遅れました申し訳ございません。
大陸暦1024年5月21日0730 東京湾
「よし、まもなく敵の首都だ!全騎突入隊形作れ、中枢に食らいつくぞ!」
カーサス隊を率いる若い竜騎士は、威勢に満ちた声で号令した。勿論時速200㎞で飛行する竜の上では声など聞こえないため、ハンドサインで実際の指示を下しているのだが。
後席の相棒が、魔法で表示させた地図とコンパスを見つつ前席の騎手へ叫んだ。
「おい、あと20分後に敵の中枢だ。魔法は〈火球〉で構わないか?」
「いや、出し惜しみはなしだ!〈轟炎〉をぶちかましてやれ!」
「は!?帰投を考えたら1発しか撃てないぞ!?」
「問題ない、俺も撃つ!こいつは賢いからな、大丈夫だ!」
「わかった!頼むぞ、相棒!」
そのような会話を交わしているうちに、彼らは摩天楼の中へと突入した。それは、日本人が「台場」と呼ぶ地域である。
しかし、中枢とは離れているため、攻撃はしなかった。また、高速すぎたということもある。
「おい、あの建物を見たか!?でかすぎるだろ!」
「ああ!なんて技術を持っているんだ、ニホンは……」
「しかも、遠くのものはさらに高くなっているぞ!こんなの序の口だというのか!」
驚きつつも、手綱は惑わない。なぜなら、下手をすれば衝突してしまうからである。速度は時速100㎞までに落としたものの、それでも相当早いのだ。地上50メートルを高速で飛行、ビルの群れをすり抜けて目的地へと向かう。
大河や巨大な橋を抜けて、一路敵の喉元へ。仲間も流れ行く風景に目をみはっていたが、なにより彼らが驚いたのは人の多さだ。
「おい、何て人通りだ!?それに、馬のいない馬車なんてものも走ってやがる!」
「ああ!帝都エル·フリージアなんて比じゃねえ!」
「これはいい土産話が出来た!……おい、そろそろじゃないか?」
「……そうだな、この辺じゃないか?」
「よし!全騎攻撃開始!」
彼は、己が乗騎に翼を振らせた。それを理解した仲間たちが速度と高度を落とし、各々が狙い定めた目標へと急降下を始めた。
「おらぁ!竜騎士サマのお通りだ!」
驚愕する人々に向かって、遠慮容赦なくその口から火炎弾を放つ竜。
直撃を喰らい焼け死ぬ者、そして驚き叫ぶ者。あるいは呑気に携帯端末で撮影する者。
それに対し、その若き竜騎士は平等にあざ笑った。
「はははは、愚鈍な者どもめぇ!天の裁きを喰らいやがれ!」
そして放つのは、破壊力の結晶である〈火槍〉。アスファルトを焼き、多くの人を炭に変える一撃。
自分に敵うものはいないという事実に陶酔する竜騎士は、更なる破壊を後席の相棒に指示した。
「あのでっかい建物、あの中には人がたっくさんいるぜぇ!やっちまえ!」
「おうよ!〈轟炎〉!」
彼らが狙ったのは、新橋駅。
そして、150メートルから投射された〈轟炎〉は外れることがない。
なぜなら、半径50メートルを焼き払う高位の火炎魔法なのだから。
着弾、炸裂。
爆風と爆炎が駆け巡り、建物を倒壊させ、人を焼く。誤算があるとするなら、木っ端微塵に吹き飛ぶのではなく原形をとどめていたということだろうか。コンクリートは、予想よりも爆発に強いのだ。
「……これで俺はもう魔法を使えないぞ!」
「構わん!」
彼は愛竜を旋回させ、更なる敵を求めて疾走させた。
同様の被害は、銀座や箱崎、月島など湾岸部より少し内に行ったところで多く発生していた。すでに日は昇り切っており、襲撃開始から1時間は経過していた。そして、とある一部隊は皇居にまで迫っていたのだ。
「きゃぁぁぁぁぁぁ!」
「うわぁぁぁぁぁあぁ!」
「たすけ……ガ八ッ」
たった数騎の竜騎士により、大勢の人々が混乱し、逃げまどい、そして命を落とす。オフィスビルへと炎弾が撃ち込まれ、車が蹂躙され、電車が破壊された。
「おうおうおう!ちょろいもんだぜ!」
竜騎士たちは、さながら血に飢えた獣のように手当たり次第に破壊をまき散らしていった。現代では、民間人への意図的な攻撃は戦争犯罪と呼ばれ、国際法で裁かれる。しかし、異世界にはそのような“不便な”法律は存在しなかった。
「……広大な緑が広がっているところもあるな……だが、あそこにはさすがに人はいないだろう。こっちだ」
「了解。おい、〈火球〉はあと何発撃ち込める?」
「あと4発ってところだな」
「あいよ」
ふと見ると、地面で何人かの紺色の服と鎧みたいなものを着た者たちが何やら盾を構えていた。何やら怒鳴っているが、よく聞き取れない。そもそも言語が違うので聞き取れたところであまり意味はないのだが。
「おっと、敵兵のお出ましか?」
「かもな、……そんな装備で俺たち栄えあるタイランディウス帝国の竜騎士にかなうかよ!」
「ははは、違いない!」
そういうと、部下を伴って一直線に急降下した。彼らは槍を携えて、串刺しにせんと迫る。
―――瞬間。
「ガス弾、放て!」
盾の向こうから突き付けられた筒先から、何かが射出された。本能で竜は身をひるがえしたものの、時すでに遅し。
着弾したガス弾から催涙ガスが放出された。もろに吸い込んでしまった竜は七転八倒し、竜騎士はたまらず投げ出された。
「げほ、ごほ……なんだこの攻撃は……卑怯だろ……!」
「……くるぞ!」
後席の航法手がクロスボウを構えたが、その時にはすでに紺色の服を着た男たちが迫っていた。
武器を取る前に盾で殴られる。しかし、朦朧とする意識の中で必死に短剣を引き抜き、目の前に突き立てた。
(やったか!?)
「甘いな、若造」
短剣を突き立てられた壮年の男は、微かに嗤った。まるで、人生の重みを痛感させるかのように。視界が晴れて、初めて自分の突き立てた刃が何の意味もなしていない―――鎧に止められてしまったことを悟った若い竜騎士は驚愕した。
(嘘だ、確かに渾身の力でもって騎士鎧の隙間を突いたはずなのに!)
「相手が身をよじらないとは限らないだろう?油断しちゃいかんよ」
そう呟いたその男―――壮年の警官は、竜騎士の右手を取ると捻り上げた。そのままの動きで肘を極め、地面に叩きつけて無力化。
しかし、他はそう上手く行ってはいなかった。例えば、ほんの10メートルほど先。そこにいたのは、
―――槍に貫かれた年若い警官。
それを見て、はらわたがカッと熱くなった。彼は、出動前に「こんど、子供が生まれるんです」と笑ってのだ。
「ちょっと、調子に乗りすぎじゃないかねぇ?」
彼は、よどみなく拳銃を抜いた。
事前に敵の凶悪性は説明されており、こうなることを考えなかったわけではない。
しかし、いざ実際直面してみるとなかなかに受け入れがたいものだ。とりわけ、部下が一人死んだというのは。
「やれやれ、結局おいちゃんも人を殺すことになろうとはねぇ」
30年の奉職で一度も犯罪者相手に撃たなかった拳銃だが、訓練を怠ったことはない。S&W M37拳銃のハンマーを起こし、照星に槍を引き抜こうとしている若い竜騎士を捉えた。昏倒した竜騎士を念のため両足で抑え込みつつ、両手で拳銃を保持。
「……若いな、お前も、俺も」
最後にそう呟いて、大きく息を吸って、止めた。
撃発。
銃口から毎秒300mの亜音速で躍り出た38口径の拳銃弾は、一瞬にして10メートルの距離を詰め―――竜騎士の兜と胴鎧の隙間、首筋に直撃した。回転しながら突入した拳銃弾は神経や血管を引き裂き、中枢神経を破壊して停止する。
がくんと痙攣し斃れる竜騎士。それを確認して一息ついた彼のもとに、一人の警官が走り寄ってきた。
「隊長、無事ですか!?」
「ああ、おいちゃんは大丈夫だ。むしろ、死傷者の後送を急ぎなよ」
「了解です!」
そして、走り去っていく警官。その後ろ姿を見ながら、彼はつぶやくのだった。
「若い。そう、若いんだよ―――おいちゃんも、君たちも、この国も、そしてこの世界も」
ほぼ同時刻、霞が関ではある戦いがなされていた。
国賓を出迎えるために使用されるホテルにおいて、若き異国の王が剣を片手に叫ぶ。
「不届き者が!〈風刃)!」
日本人には決して視認することのできない力の流れとともに、世の理を書き換える術―――魔法が発動した。それは、流れ弾により割れた窓から突入しようとした竜騎士に対して突き刺さる。
「がっ!?」
「邪魔だ、去れ!」
王族としての威厳とともに放った一撃は、飛竜の心臓を貫徹、即死させた。まさしく会心の一撃である。
エルヴィス国王ファーヴニルはふぅ、と一息ついて後ろを振り返った。
「けがは、ありませんでしたか?」
後ろに立っていた人物たち―――外務省の要人や拳銃を構えたボディーガードは、あっけにとられていた。
「むしろ、国王陛下こそ!」
「ええ。しかし、これは……間違いなく、今の竜騎士はタイランディウス帝国軍所属の騎士です」
「タイランディウスというと……貴国と戦争状態に突入した?」
「はい」
エルヴィス国王がここにいる理由は、単純に彼が日本に対して国交を樹立するために向かったためである。
中型の快速帆船一隻で向かうと言い出した彼に対して側近は慌てふためいたものの、「それがせめてもの礼儀というものだろう?」といって反論を封じた。そしてその日のうちに、技術院院長および数名の家臣を伴って出港。
長崎沖で海上保安庁の巡視船に臨検され、使者として国王陛下御自らが乗船していることが判明し慌てふためいたのは5月17日の夕刻のことだ。
それから数日、要人として東京へと移動した彼は天皇や首相との面会を経て、今は外交関係について交渉しているところだった。といってもエルヴィス国からは食料および資源の供給を、その代わりに一部の技術及び軍事力の提供が主な趣旨だったが、これが難航していたのだ。
なぜなら、日本には「武器輸出三原則」や「憲法9条」があり、基本的には他国への武力行使ができない。しかし、ここをクリアーすることが出来なければ問題の解決にはならなかったのだ。
日本側としても、できるだけ戦争は回避したいが食料問題や資源問題などがあり、攻めあぐねたところである。一部の閣僚からは「同盟を結んで集団的自衛権を行使すれば」という暴論まで出ていたが、その中でのこの襲撃なのだった。
ある外交官が耳打ちした。
「国王陛下、我が国の立場としては大げさには言えませんが、これで貴国への軍事的支援が可能になりました」
「本当ですか?」
「ええ。実に74年ぶりに日本は敵国に本土を攻撃されました。おそらくは、個別的自衛権による“防衛出動”が命じられるでしょう。要するに、殴られたら殴り返せるようになるということです」
「……それは、喜んでいいのかどうかわかりませんね。実際に、我が国のせいで貴国のたくさんの国民が死んでしまったのですから」
すでに、交渉に当たる面々には日本がこのような異世界に来てしまった原因も明かしていた。
そう、自らの国の窮地を救うためだけに日本を召喚したということを。それを聞いた総理大臣は、小さく息をつくと「その分、貴国には譲歩していただきましょう」とだけ言った。
しかし、その「譲歩」の内容もタイランディウス帝国の示した条件に比べたら雲泥の差があった。
その時、携帯電話を耳に当てていた外務省職員が国王に向かって口を開く。
「―――国王陛下、たった今閣僚会議で自衛隊の出動が決定されました。まだ、侵入してきた敵の駆除というレベルでしょうが、じきに“タイランディウス帝国への派兵および大陸の調査”も含まれてくると思われます」
「……感謝します」
彼にはそうとしか言えなかった。しかし、自国の民が救われる公算が高まり、心の中では飛び上がらんばかりだった。
首相は、記者会見でこう述べた。
「我が国は、今日74年ぶりに本土への武力攻撃を受けました。この霞が関の外でも今まさに戦闘が起こっているでしょう。
―――これ以上の被害を出さないためにも、個別的自衛権を発動、自衛隊法第76条に基づき陸上自衛隊及び航空自衛隊の防衛出動を行います。緊急の必要があり事前に国会の承認を得るいとまがないため、総理の権限として発動するのです。
私は約束しましょう。日本国民を、全身全霊で守り抜くと!」
防衛出動の行使を受けて、練馬駐屯地と立川駐屯地はにわかに騒がしくなっていた。
第1普通科連隊と第1飛行隊に出動命令が下ったのだ。
「隊長、装備は通常で大丈夫ですか!?」
「ああ!いいか、相手は竜騎士、その上どうやら小銃弾は通用しないらしい!」
「ええ!?」
「なに、相手だって生き物だ!パンツァーファウストぶちかませば沈黙するだろ!」
「当たればいいですけどね!」
やけっぱちの会話で緊張をごまかしつつ、装備を整える隊員たち。
すでに73式トラックや高機動車は車庫から引き出されており、出撃の準備は整えられていた。
第1普通科連隊の中で2個中隊約500人が出撃、敵の撃滅に当たる。どうやら竜の甲殻は堅牢で、7.62㎜クラスでも貫徹できないという情報が入ってきたが、そこは立川のヘリ部隊に引きずり落としてもらうしかなさそうだった。
市街地戦を想定している以上、精々5.56㎜クラスのアサルトライフルしかないのだ。
「よし、全員乗車!時間がないぞ、急げ!」
「了解!」
準備を済ませた隊員が次々と車両に乗り込み、全員乗り込んだ車両から駐屯地を出発する。
向かうは銀座。
日本の中枢と言って差し支えない場所だった。
通行制限された高速道路を車両に揺られること1時間、霞ヶ関インターチェンジおよび神田橋インターチェンジから高速道路を下りて、やけに閑散とした都心へ入る。
そこに広がるのは、まさしく「戦場」だった。未だに火が燻り、煙が上がる。機動隊により避難誘導はあらかた終わったとの報だったが、油断はできなかった。中年の分隊長は、車両を運転する3曹に命じた。
「ここで車両を止めろ。いいか、一撃でやられることを防ぐために散開しろ!」
「了解です」
車を止めて、隙のない動作で全員が降車。周囲を警戒する。
「よし、他の分隊と協力してしらみつぶしに探すぞ!」
「了解!」
「初弾は込めたな!?奴さんが現れたら、遠慮はいらない、ぶちかませ!」
どこから来るかわからないという得体の知れない不安の中、小走りでクリアリングを行う。
この通りに敵がいないことを確認し、交差点で横を覗いた。
―――こちらに向かってくるサラリーマンと、それを追う竜騎士が見えた。
竜騎士が、槍を構えて急降下する。
「やめろぉ!!」
隊員の一人が叫び、飛び出した。
「撃ち方、始め!短連射!」
即応して、5.56㎜の軽い銃声が多重に響き渡った。
今回隊員たちが装備している銃は89式小銃。新型の19式小銃も一部部隊に配備が始まっているが、主力は未だに89式なのである。
そして、中距離の対人戦に強いアドバンテージを持つ小口径弾の連射は、確かに威力を示していた。
声にならない悲鳴と共に、竜が地面に叩きつけられる。
そう、舞鶴沖で特戦が行ったように皮膜を引き裂いたのだ。距離50メートルならば、自衛隊員にとっては外すことの方が難しい。
すぐさま隊員たちが距離を詰め、民間人を保護。別の隊員は止めを刺すべく接近した。そこでようやく墜落の衝撃から立ち直った2人の竜騎士が立ち上がり、槍や弓矢を構えたが、直後に隊員の射撃が襲いかかった。
鋼の騎士鎧であれど、この距離ならば5.56㎜弾にも貫徹できるのだ。
心臓や肺、脳を引き裂かれくずおれる竜騎士。
隊員たちは竜騎士の無力化を確認した後に、もがいている竜にも念のため眼球に一発撃ち込んだ。
大きく痙攣し、動かなくなる竜。
「クリア!」
「クリア!」
「生存者後送します!」
その時、目の前に1機のヘリがホバリングしてきた。立川基地所属の、陸上迷彩塗装のUH-1汎用ヘリコプターである。
ドアガンナーが叫んだ。
「生存者を乗せてくれ!皇居まで輸送する!」
「了解!」
そう、皇居も戦場となっていたのだ。
もともとその前身である江戸城は城塞である。現代では戦略的な価値はないに等しいが、今回の襲撃に当たって広大な敷地は避難場所として活用されていた。皇居周辺にはすでに警察の特殊部隊であるSATが展開していることもあり、竜騎士が攻め込むことは実質不可能と言ってよかった。
民間人を預け、隊員たちは銃を構え進撃を開始する。
―――自分達の首都を取り戻すために。
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―――襲撃発生後約4時間、午前11時30分頃に最後の竜が撃墜、騎手である2人の騎士の死亡が確認されてようやく事態は終息した。
他にも北海道や木更津等へも襲撃は発生していたが、いずれも小規模であり大した犠牲は出なかった。
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「AWACS、こちらコーメット1!敵空母および護衛の船艇群発見!」
『了解、コーメット隊は正当防衛行動に基づき全艦撃沈せよ』
館山沖500㎞、航行する飛竜母艦を視認したF-2戦闘機隊は攻撃を開始しようとしていた。
元はといえば上空で警戒管制を行っていたE-767のレーダーに反応があったため調べにいくはずが、飛竜の飛来方角を考えたら空母がいるのではないかということになり、急遽装備していた対空ミサイルを用いて攻撃を実施することにしたのだ。
『生存者を救助させるために、数隻は生かしておけ』
パイロットたちは、マイクをオンオフするジッパーコマンドで了解の意を伝えた。
―――距離30㎞、方位150。
「急降下開始、低空からぶちかます。いくぞ!」
一糸乱れぬ動作で編隊が高度を下げ、低空から接近。敵が接近してくる轟音に気がついたときにはもう遅い。
―――捉えた。
「―――赤外線が出ている?……いや、いい。フォックス2、フォックス2!」
なぜか発せられている赤外線を捉え、シーカーがロックオン。
それを確認し、発射ボタンを押しこんだ。
翼下から切り離され飛翔を開始する4発のAAM-5は、全て同じ目標へと飛翔する。
「命中、今」
マッハ4で突入した高機動対空ミサイルが、接触信管で炸裂した瞬間である。艦内にめり込んではぜたミサイルは木造のキールをへし折り、タイランディウス帝国にとっては高価な飛竜母艦を一瞬で海の藻屑へと変えて見せた。
僚機もミサイルや機銃を放ち、思い思いに蹂躙する。
『これくらいでいいだろう、よくやった。ミッション終了、RTB』
AWACSの役割を持つE-767からの無線が入ったときには、1隻の飛竜母艦と数隻の切り込み船とよばれるガレオン船が残るだけだった。
事件全体の犠牲者は約6000人、さらにはオフィス街への襲撃だったため経済機能や物流機能に大きな影響が出た。鉄道の運休など言わずもがなである。
それに対して、捕虜は36人。
彼らは皆器物損壊や殺人の現行犯として逮捕され、留置所に連行された。
そして、この事件を受けて、首謀者の引き渡しを目的に異世界―――セルムブルク大陸への自衛隊派遣およびエルヴィス国への軍事的·人道的支援が開始されることになった。
国民はニュースやSNSでこれを知ったが、悲惨極まる同時襲撃事件の直後だったため目立った反発はなかった。