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1 5.21同時多発襲撃事件(1)

投稿した日にちに意図は......あります(粛清

「ブリッジ、面舵右30度!」


『面舵30度、ようそろ!』


「さらに敵機4、右舷より接近!」


「CIWS、トラックナンバー6209から6213を照準!AAWオート!」


『タンホイザー3が着艦を要請しています!』


 海上自衛隊航空母艦〈かが〉、その中枢たるCDCでは怒号が飛び交っていた。

 実に200機以上にも上る謎の敵―――竜による襲撃、そして単艦での対空戦闘。約20キロ西を航行しているはずの護衛艦〈すずつき〉に救援を求めたが、どうやら〈すずつき〉も多数の敵機に襲われているらしい、支援攻撃は不可能との返事だった。

 ただし、こちらには最新鋭のF-35戦闘機が12機も搭載されている。ドアガンを搭載したSH-60Kヘリと合わせれば航空機が21機。誤射さえ気をつければ捌けないことはない。

 現に、200いた敵のうち4分の1はすでに海に叩き落とされていた。


「艦長、敵残存はおよそ140です!」


「ああ。航空管制、味方の損害は?」


『味方機に被弾機はいるものの、撃墜機は0!まだやれます!』


「むしろやれなきゃ困る!いいか、怪物と戦うのは自衛隊のお家芸だ!ゴジラと戦ったのだ、羽トカゲくらい簡単に落とせるはずだ!」


 艦長が昔のアニメのネタで檄を飛ばした。堅物な者なら眉をひそめるかもしれない。

 しかし、実際士気は上がるのだ。今まで無口を通していた第4護衛隊群司令が口を開いた。


「まだ終わりじゃないぞ!ここで引いたら誰が守るのだ、日本を!」






『だとよ、フルクラム2』


「わかってる……Fox2!落ちろ羽トカゲ!」


 戦闘機を駆るパイロットが、半ばやけっぱちの声と共に機体を捻らせた。

 自衛隊の次期主力統合打撃戦闘機、ロッキードマーチンF-35BJは、最大速度マッハ1.7に加え驚異的な運動性能を誇る第5世代戦闘機である。故に、精々時速200㎞しか出せない飛竜など敵ではないのだ。

 ―――しかし、いかんせん数が多い。


『機銃弾弾切れだ!補給に戻る!』


「了解、カバーする!」


 フルクラム隊を取りまとめるそのパイロットは、必死に頭を回転させた。味方は弾切れで戦線離脱するが、敵は増えているようにも見える。

 そのなかで、いかに効率良く海に叩き落とせるか。


 炎弾に貫通力がないことが判明しているとはいえ、甲板上の弾薬に誘爆した場合は悲惨を極める。故に、一騎たりとも通す訳には行かないのだ。


 機体をロールさせ、機首を引き上げる。その先には、急降下を仕掛ける敵の竜の姿があった。それを機銃のレティクルに捉え、彼は右手の親指の位置にあるボタンをぐっと押し込んだ。その動作に即応して、機体が金属の雄叫びのごとき重低音を立てた。搭載されたM61A2バルカンが火を噴いたのだ。


 放たれた20㎜弾の群れが被膜や甲殻を引き裂き、あっという間に肉片へと変えて海に散らす。


「ターゲットデストロイ!……あれは?」


 その時、視線の先にある巨大な空母の甲板が突如として火花を放った。否、甲板にいる人間が一斉に射撃を放ったのだ。

 レーダーからいくつかの反応が消えうせた。ふと見ると、翼を奪われ海へ落ちていく幾つもの影。


「すげえ……あれが特戦か……」


 空を飛ぶ敵を小銃で撃墜してしまう腕前を持った部隊など、見たためしがない。ふと見ると、その横では回避機動中にもかかわらず1機の戦闘機が艦首のスキージャンプ台から発進しようとしていた。


『フルクラム3、発艦するぞ!』


 猛烈なF135ジェットエンジンのうなりとともに、機体が猛烈な速度で射出された。

 それを見届けたのちに、機体を引き起こし周囲を見渡した。―――敵など、見渡す限りにいる。

 幸い機銃弾は300発も残っており、AAM-5空対空ミサイルも4発が爆弾倉の中に存在した。

 〈かが〉の航空指揮所から無線が入った。


『フルクラム1は発艦したフルクラム3と編隊を組み東方向の防空に当たれ!遠慮はいらない、ぶちかませ!』


「ラジャー!」


 応答し、機体を回頭させる。

 突然急襲を受けてから30分、すでに多数の敵を撃墜していた。自分もすでに1回補給で帰投しているが、それでも疲労はぬぐえなかった。

 HMDに映る敵のうち密集したグループに狙いを定め、ロックオン。


「ええい、行くぞ!Fox2!」


『Fox2、Fox2!』


 僚機の兵器倉からもミサイルが放たれ、合計8発の魔弾が別々の方角へと飛翔する。AAM-5はそれぞれインプットされた赤外線画像情報をもとに、一直線に迫っていった。

 ―――極超音速で放たれる矢は、トカゲごときに躱せるものではない。


『命中、命中だ!これだけで20は落としたんじゃないのか!?』


「そうかもな!ミサイル0だ、突っ込むぞ!」


『ああ。……空母は大丈夫か?』


 これだけの敵に群がられていながら、未だ空母には致命的な損害はない。今のうちに、畳み掛ける―――そう思った瞬間、航空指揮所から信じたくない報告がきた。


『敵、母艦に乗り込んできた!現在特戦が対応中!』







 168SOFの第2分隊は、左舷後部の飛行甲板にて今まさに降り立ってきた竜と戦っていた。

 竜ヶ崎たちは焼け焦げたヘリを盾にしつつ、銃撃を浴びせる。


「くそ、目だ!目を狙え!」


「了解!……思いの外効きが悪い!」


 そう、実は、飛竜の甲殻は数発の7.62ミリ弾如きに貫徹されたりはしなかったのだ。

 そして、その甲殻を引き裂ける対空ミサイルは撃ち尽くしてしまった。ミニガンは右舷で盛んに対空射撃を行っている。

 飛行しているならば皮膜を引裂き撃墜することができたが、足場があるならば皮膜は必要ない。現に、何発もの銃弾を食らっても構わず火炎弾を口から放っていた。


 不意に、飛竜の背中に乗る騎手が何かを唱え始めた。

 ―――呪文!


 竜ケ崎はすかさず残骸から顔を出し、銃を構える。この距離で呪文だ、何が来るかは分からないがよくないものだとは容易に想像がついた。

 距離は25メートル、600メートルもの射程を持つこの銃(SCAR-H)にとっては近すぎる距離。

 飛竜の頭が邪魔だが、かまってはいられない。


「ままよ!」


 ダンダンダン。

 3連射された銃弾が鱗に火花をちらし、―――敵の騎手の頭に突き刺さった。

 その衝撃に一瞬硬直し、そして落馬ならぬ落竜する。


「お見事、隊長!」


 間を開けず、別の竜に向かい想士が射撃。

 正確に目を射抜き、着弾した弾丸は鱗の裏側に跳弾して飛竜の脳を破壊する。

 飛竜は痙攣し、そして崩れ落ちた。

 騎手がもんどり打って倒れるが、その時には別の隊員が近接格闘を仕掛けていた。

 竜ヶ崎も、正確な射撃で竜の頭を破壊。


「……おーおー、なんで撃たないのかねぇ……高田、これで全部だな?」


「ええ。空を舞ってる連中も少なくなってきましたし。戦闘機様々です」


 打ち上げる弾幕の隙を付いて5騎もの飛竜が降り立ってきたときはどうしようかと思ったが、幸い隊員一人ひとりの対応が良く、大した損害もなく討伐できた。


 その時、最後の1騎が戦闘機の射撃によって叩き落とされた。

 それを見た隊員が歓声を上げる。


「やった、全機撃墜、全機撃墜だ!」


 ―――そう、守りきったのだ。


『艦長より、全艦に達する。本艦はこれより救難捜索部署を発動、生存者を収容する。その後艦載機を収容、舞鶴へと帰投する』


 想士はふう、と一息ついて汗を拭った。


「隊長、何だったんでしょうか、この敵は」


「わからん。だから生存者を収容するんだろ。幸いと言っていいかはわからんが、特戦の方でも大内2曹が、その……騎士鎧へし折って制圧なんて真似してるわけだし」


「大内2曹……」


 どうやら、先程落竜した騎士は無事に騎士鎧をへし折られて制圧されたらしい。

 へし折った隊員の馬鹿力に戦慄しつつ、想士は空を見上げる。

 太陽はすでに昇っており、たなびく雲を清冽な朝の光が照らしていた。


 そのとき、想士たちの気分を大きく害する艦内無線が入った。


『それと、もう一つ伝えるべきことがある。先程入った無電だ。―――この攻撃は、北海道及び東京にも仕掛けられたようだ。北海道は幸い迎撃が間に合ったらしく被害は少ないが、東京は……』


 そこで艦長は一旦言葉を切る。そして、言いづらそうに言った。


『死傷者5000名以上、6000も超えたかもしれん。木更津や千葉も狙われたが、皇居や秋葉原、銀座などが集中的に狙われたらしい。陸自や空自の防衛出動によって全て撃墜されたが……』


 東京が、焼かれた。

 そのことに、想士たちは戦慄する。


「うっそだろ、70年ぶりに本土が焼かれたというのか……!」


「みたいだな……信じたくはないが」


 犠牲者が5000人以上。東京大空襲などよりははるかに少ないものの、確実に戦後日本が被った最大の被害であった。


「おいおい、相手はどんな奴らなんだ?」


「わかりません。むしろ、生存者から聞き出した方が早そうですね」


 竜ケ崎の嘆きに返しつつ、ふと水平線を見渡すと。視界の中に護衛艦の細いシルエットが見えた。


「〈すずつき〉か。おそらくは協同して生存者の救助に当たるんだろうな」


「むしろそうじゃなかったらどうするんです……?」


 そんな彼らのもとに、秦がやってきた。

 彼は素早く犠牲者の確認をする。


「第2分隊、犠牲者はいないな?」


「竜ごときにやられたら特戦の名折れですよ。ええ、いません」


 それに対し、竜ヶ崎はにやり、と笑って答えた。


「いや、わからんぞ?あの火炎弾は、貫通力はともかくとして威力は30ミリ砲レベルだった。かするだけならともかく直撃したら、まず命はなかっただろうな」


「うへぇ」


 秦は、「まあ犠牲がでなくて本当に良かった」とだけ言い、他の分隊の方へ向かっていった。






 十数分後、最初の生存者が救助された。

 海面を漂っていたところを〈かが〉から発進した内火艇により助け出されたのだ。万が一の抵抗を防ぐため特戦の隊員が同行し、着剣したSCAR-H改を突きつけながらの救助。


「ウィンチ、引き上げろ!内火艇の収容急げ!」


「生存者引き渡します!」


 やがて、数人の男が格納庫に連れ込まれた。

 生存者は多数と思われるので、格納庫を臨時の捕虜収容所とすることとなったのだ。

 捕虜となった男たちは開口一番に、銃を突きつける想士や竜ヶ崎の前でこう言った。

「我々は、拷問の後に殺されるのか?」と。

 竜ヶ崎が、あくまで厳つい声を崩さずこう返す。


「貴国ではどうなのかは知らんが、我々はあくまで捕虜は人道的に扱う。我々は野蛮な国ではないからな。―――むしろ、なぜ我々の言語を話せる?」


「……それは安心した。俺たちがあんたらと喋れるのは、〈意思疎通〉の魔法を俺の周りにかけたからだ。この範囲内なら自動で翻訳される」


 魔法の言葉を聞いた周囲の面々が、目をみはった。


「魔法!?竜だけでなく、そんなものもあるのか!?」


「あ、ああ。むしろ知らないのか?」


 そんなやり取りを聞きつつ、想士は実感せざるを得なかった。

 ―――ここは異世界、前の世界の常識は通用しないのだと。


 そんな彼をお構いなしに、徐々に捕虜は収容され格納庫に運び込まれた。

 航空母艦〈かが〉には捕虜収容施設はないものの、400名分以上の宿泊スペースがある。しかしそこへ見張りを立てる必要もあり、準備の間はこの格納庫で特戦が見張ることとなったのだ。

 実際、彼らならば200人以上を相手取っても丸腰ならば鎧袖一触である。

 一対多の戦闘など十八番なのだ。


「……意外と多いな。100人くらいか?」


「いや、どうも1騎に2人乗ってるみたいだ。CIWSでミンチにされたり、携SAMで焼かれた分を考えれば生存率3割は妥当じゃないか?」


「なるほどな……」


 なかなかにダークな会話を交わしつつ、てきぱきと集計をする。戦闘結果として司令部に伝達しなければならないのだ。


「収容区画、用意完了しました。立哨も配置済みです」


「了解。……移送を開始だ。喜べお前ら、今日の夕食は魚だぞ」


 秦が命じ、それにしたがって移送する。

 さすがに戦意を失っているのか、反抗しようとするものはいなかった。








 この日、救助された生存者は〈すずつき〉〈かが〉合計102名。

 彼らは自らを「タイランディウス帝国第2飛竜軍団所属の竜騎士」と名乗った。聴取によると、もともと「エルヴィス国」に攻め込む予定だったが、皇帝の判断により攻撃目標を日本にしたとのこと。


 また、今海戦による損害はSH-60K3機が被弾により喪失、パイロットは救出されたため無傷だった。重傷者はいるものの、奇跡的に死者は出なかったのだ。


 しかし、東京の被った被害はさらに悲惨だった。







 割り当てられた3人部屋の中、竜騎士ルクアは出された料理に舌鼓を打っていた。あまりの美味しさに、若干興奮しつつ同室の相棒に話しかける。


「なあ、ヘレン!こんなに美味い魚料理があるのか!?これは美味い、美味すぎるぞ!」


 相棒であるヘレンは、そのハイテンションにげんなりしつつも肯定した。


「あんたのそのテンションにはついていけないわ……でも、美味しいわね。故郷のノスレフグルーフ産の魚よりも脂が乗ってるし」


「ええ!スクアにも喰わせてやりたいなぁ」


 彼女たちは、運良く小銃で乗騎の皮膜を撃ち抜かれただけだったため死ななかったのだ。

 愛竜も収容されたため、再び会えるだろう。

 それにしても、この料理といい与えられた服といい捕虜としては破格の待遇である。

 彼女たちは、テーブルの向こうに座るもう一人の少女に向かって話しかけた。


「あなたも、食べたらどうだ?たしかに大勢死んでしまったが……」


 彼女は、うつむいたまま答えなかった。―――否、泣いていた。


「……ルイスは、もういないの。私の相棒は、胸から血を噴いて、落ちて……シーバーグも、死んじゃった……」


 そういわれると、黙るしかなかった。

 目の前で相方を失い、その上竜も死んだ。

 それは、目の前の少女にとっては大きすぎる絶望なのだろう。


 不意にルクアは、少女の桃色の頭を抱いた。


 そして、耳元でこう囁いた。


「だとしたら、その相方の分まで生きろ。そして、見届けるんだ。この戦の、行く末を―――」


 ヘレンは金髪の女騎士に抱き締められている桃髪の少女騎士を見て、なにも言えなかった。

 いくら待遇が保証されているとはいえ、丁重に扱われると保証されているとはいえ。自分たちの身分が敵の捕虜であるということは変わらない。

 不意に、この巨大な船から降りるまでが長い、ひたすらに長い旅路のように思え心細くなった。

 あるいは、どうなるかわからないという恐怖。

 自分が心の奥底に封じていたそれらが、一気におそってきたからだ。


「ねぇ、ルクア。我が祖国(タイランディウス)は、どうなるのかしらね……」


 その問いに、答えはなかった。

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