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12 反攻作戦1 アーケロン城塞

 

 軍用ヘリコプターの群れが、羽音を撒き散らしながら異世界の空を飛翔する。総勢48機からなる軍勢は、明確な殺意でもってアーケロン城塞へと接近していた。立ちふさがる巨大な崖を無視して。




 ◇




「それ」を最初に見つけたのは誰だったか、気がついたら騒いでいた。一介の歩兵隊長に過ぎないダリル・ロールは同僚たちとともに空を睨む。そこには、埋めつくさんばかりの黒い影の群れがひたひたと迫っていた。


「おい、なんかくるぞ!」


「龍じゃない……?」


「……敵襲!」


 迫り来る者は明らかに味方ではないと感じて、物々しくなる城内。


「あれは、地獄の使いだ……もう終わりだ、俺たちは助からねえ……」


 その時、傷のついた鎧を着た壮年の兵士がポツリと言った。確か、デリックと言ったか。彼はリュケイオン攻略部隊の生き残りだ。


「もしかしなくても、戦ったのか?」


「ああ。奴らには、雷撃も効かないし投石機が可愛く見えるような攻撃力を持っている。そして、もう逃げられない」


 瞬間。

 流星が着弾した。


 爆炎、衝撃、土煙。


 吹き飛ばされてグワングワンするダリルの視界に入ってきたのは、無残にも引き裂かれた部下や同僚だった。


 彼には一瞬何が起こったのかわからなかった。


「……嘘……だろ」


 先程まで話していたデリックも、下半身がなくなっていた。

 凄まじい威力を持つ魔術が着弾したのだと、彼はそう思った。


 空を睨むと、かなり大きくなってきた影たちが、それぞれぶら下げた箱から流星を射出していた。


「不味い!」


 ダリルは無様にも地に伏せる。弓を避けるのと同じ要領だが、それが功を奏した。


 弾着、弾着、弾着。


 ハイドラ70ロケット弾が地を揺るがし、城壁を破砕する。先陣を切ったAH-1Sたちによる猛烈な火力投射である。

 それらは攻城兵器や兵の集合場所に打ち込まれ、効率的に敵兵を殺傷した。


 膨大な人馬の骸を晒すアーケロン城塞は、最初の攻撃ですでに回復不可能な混乱を被っていたのだ。


「おい、起きろダリル!早く城内に!」


「……あ、ああ!」


 血まみれの同僚に助け起こされて、ダリルは走った。そこかしこで煙が燻り、巨大な窪地が形成されている。そしてばら撒かれている、大量の血と肉片。

 今日は肉料理は無理だな、とどこか他人事のように思いつつ、近くのにある城内への扉へと駆け込んだ。




「あ、危なかった……」


「ざっと5000が犠牲になった。ここの兵力は2万だからまだ持つが……大打撃なのは変わらないな」


「責任は上がとってくれるだろ。それよりもどう生き残るかだ」


 見張りの兵たちは、先程圧倒的な破壊を叩きつけた鋼鉄の魔物がまだ近くを舞っていることを確認している。

 しかし、と前置きをしてダリルはその場にいる同僚たちに聞いた。


「なあ、あれ、本当に魔物なのか……?」


「少なくとも、人間が扱えるような物じゃねえ。空を駆け、猛烈な流星を携えているなんてドラゴンみたいじゃねえか」


「どうかな、案外人間なのかもしれない……リュケイオンでも同じ奴にこっぴどくやられたらしいから」


「……それもだが、あいつに一矢報いる方法はないのか?」


「……無理だ、弓じゃ威力が足りないから魔術をぶち当たる必要があるが……魔術師の数が少ない。あっさり避けられるだろう」


「うむむ……」


「だぁぁぁくそったれぇ!」


 城内の一室でうんうんと頭を捻っている彼らは、極度のストレスで爆発あるいは放心寸前だった。すでに精神が限界だったのだ。


 そんな彼らのもとに、ある命令が届く。


「伝令!敵の天馬より敵兵が降下!数およそ300!残存戦力はこれを殲滅せよ!」


「場所は!?」


「多岐にわたる!また先程の鋼鉄の天馬も舞っているため注意!」


「んなこたぁわかってる!いくぞ野郎ども!」


 限界だった精神は、判断を鈍らせてしまった。先程の鋼鉄の天馬ーーーー攻撃ヘリの生み出した惨状を知っていて、それでも喜び勇んで城外に出ようとしているからだ。


 武器を手に通路を駆けて、城外へと飛び出した彼らが見たものは。


『敵、確認』


『小隊、撃ち方始め。短連射』


『402中隊第1小隊へ、支援射撃を開始する』


 殺到する5.56㎜弾と12.7㎜弾の群れだった。

 ヘリボーンしていた隊員たちが小銃を構え、射撃を開始したのだ。城壁の中に侵入を許してしまった城塞は、脆い。


「まずい、一瞬で半分やられた!」


「戻れ戻れ!」


 鋼鉄製の胸当てなど、5.56㎜弾を防ぐには薄すぎる。バタバタと倒れていく味方に戦意を失い、慌てて城内へと戻る帝国兵。

 しかし、いくら撃たれて数が減ったとはいえこの出口付近に集結した部隊は1000近くもいる。それが一気に反転すればどうなるか。


『馬鹿め』


 答えは、将棋倒しである。


 運良く銃撃を生き延びたダリルは城内へ戻ろうとして後ろの兵に押されて転倒しーーーー上から積み重なってきた兵とその装備の重みにより呼吸ができなくなった。

 酸素を求めてもがくダリルに神が寄越したのは酸素ではなくーーーー無慈悲な小銃擲弾の群れだった。




 ◇




「擲弾命中、通路啓開!」


「よし、突入するぞ!402中隊第4小隊が4つの集結地点(Assy)を確保している、俺たちはほかの小隊と連携して制圧を行う」


 89式小銃を携えた小隊長は叫び、隊員に突入を指示した。4個分隊28人が一斉に突入を開始する。無線機で連絡を取り合いながらの作戦だ。


『リュケイオンHQよりアーケロン攻略部隊各位、後詰めの空挺団および特戦の発進準備が完了した。損害が一定を超えた場合は空挺団および特戦の到着を待て』


『了解』


 リュケイオンからの指示と中隊長の返事を小耳に挟みつつ、小隊長は小銃を構えて歩く。

 すでに分隊単位に分離しており、制圧を開始している状況だ。


「いいか、アーケロンの内部地図は捕虜から入手している。迂闊だったなと言ってやりたいが、それは後として俺たちの向かうポイントだ。ーーーーポイント6-1……食堂を制圧する」


「了解」


 建物内故に口数は最低限に。隠し扉等があるのは確定だが、こればかりは気をつけるしかできない。地図はあくまで表向きのものしか入手できなかったからだ。

 城内は入り組んでいるというわけでもなく、比較的単純な部類だった。そこかしこで銃声と怒声が轟いている。


 そんな彼らが少しばかり歩いた時。


「エンゲージ!」


 複数の人影を見つけた。

 向こうもこちらを視認したのか、剣を引き抜き突進してくる。


「うぉぉぉぉ……がっ!?」


 そして、無慈悲に射殺された。タタタタタ、という銃声を置き去りに飛翔した小銃弾が脳や心臓を粉砕したのだ。


 銃口が火を吹くたびに2人、3人と斃れて行く。

 瞬く間に10人程の帝国兵がその骸を晒した。


「クリア!」


「クリア!」


「クリア!」


 そして、彼らは城の奥へと進んでゆく。




 無論、自衛隊が完勝できたわけでもない。


「不味い、数が多い!」


「くそったれ、撃て撃て!」


「手榴弾行きます!」


 ある分隊は、広間に集結していた敵の只中へ飛び込んでしまい大損害を受けていた。瞬く間に小銃手が2人、剣を喰らって死亡し、分隊長も重傷を受けていた。

 瓦礫に身を隠し、直射される弓から身を守りつつ散発的な射撃か手榴弾を放り投げるしかできない。明らかにジリ貧だった。


 その時、銃撃の火線が増えた。

 解放されっぱなしの扉から迷彩服の男たちーーーー陸自隊員が突入してきたのだ。


「2小隊第4分隊より3小隊第1分隊!救援に来たぞ!」


「負傷者後送する、死亡者は諦めろ……」


「くそったれぇ!」


 近くを走っていた別の分隊が合流し、2丁となったの分隊支援火器による猛烈な弾幕で撤退支援を開始する。敵もここが激戦地とみたか増援がどんどんなだれ込んできた。


「……俺のことはいい、早く脱出しろ!」


 重傷を負いつつも拳銃で牽制していた分隊長がそんなことを言ったが、隊員たちは切り捨てた。


「置いていけますかよ!あんたの息子に末代まで呪われちまう!」


「あんたはまだ生きてるでしょうが!……クソッ、リロード!」


 第1分隊の分隊支援火器手が最後のベルトリンクをMINIMI分隊支援火器に差し入れる。その間、他の小銃手たちが銃身が焼けるのも構わないフルオート射撃で時間を稼ぎ、食い止めた。

 すでに300は殺しているが、弾薬に余裕がない。まして、このフルオート射撃で第1分隊の弾薬はほとんど切れかけである。


『手榴弾一斉に投げろ!その隙に脱出だ!退路は確保した』


『安心しろ、出口にはヘリが待機している』


「了解」


 退路を確保していた402中隊の面々から無線が入った。

 彼ら401中隊が突撃している間に、402中隊は退路を確保および捕虜の後送をしていたのだ。


「手榴弾、今!」


 合図とともに、10を超える爆発物が投擲される。

 からんからんと転がってきた物体に怪訝な視線を向けた帝国兵たちは、次の瞬間襲いかかった爆風と破片により全身を引き裂かれて息絶えた。

 他の兵が肉壁となりあまり殺傷力を発揮できなかったが、隙を作るには十分だった。


「今だ、いけっ!」


 遠慮容赦のない分隊支援火器のフルオート射撃が吹き荒れ、その間に負傷者を担いだ隊員が広間から脱出。最後に分隊支援火器手の2人が置き土産の手榴弾とともに部屋を出た。


「……おい、弾薬切れだろ!?これ使え!」


「感謝します!」


 小銃手の1人に担がれている負傷した分隊長が、己の小銃を弾切れの分隊支援火器手に渡した。ありがたく受け取る隊員。

 自衛隊の採用するMINIMIでは小銃弾倉用の給弾口は普通使用されていない。また、どちらにせよ故障が増えるため使うべきではなかった。


「……がっ!後ろに弓兵だ!」


 その時、最後尾を走っていた分隊支援火器手が追いかけてきた弓兵の矢が命中しよろめいた。

 防弾服のセラミックプレートは鏃の貫通を防いだが、衝撃まで殺せるわけではない。


 それを好機と取ったかいつのまにか接近していた他の弓兵が、彼に矢を雨あられと射かけようとして、


「させっかよ!」


 9㎜拳銃や89式5.56㎜小銃の前に倒れ臥す羽目になった。

 走りながらの射撃だが、距離が近いため問題にならない。しかも、弓兵は速度の確保のために革鎧しか装備していなかったが故に防ぎようがなかった。


「よし、切り抜けたな……」


「しれっと拳銃撃ってた貴方が言わないでくださいよ」


「……さて、な。……とりあえず、そろそろ出口じゃないか?……ゴホッ」


 分隊長の言う通り、彼らは確実に通用口へと接近していた。扉を荒々しく開け、廊下を走り、偶然会敵してしまった敵は容赦なく射殺しながら。


 その時、彼らの視界に迷彩服を着た人間の姿が見えた。


「402中隊2小隊だ、大丈夫か!?」


「戦死2、重傷1!回収機は!?」


「3機が外で待機している!早く!」


 言われるままに通用口を駆け抜けた彼らが見たものは、ホバリングする3機のUH-1Jヘリと、M197機関砲を構えて入り口を睥睨するAH-1Sヘリだった。


「急げ急げ!」


 ヘリに負傷者から運び込まれた。先に乗ったものから後続を引き上げながら、追いつかれる前に搭乗する。


「がっ!」


「亜門2曹!……これでもくらえ!」


 1人の帝国兵が矢を射かけ隊員の肩を射抜くが、反撃とばかりに小銃が連射され鎧を着た死体が1つ生み出される結果に終わった。


「上昇、開始します!」


 全員が乗ると同時に高度を上げて離脱する。


 ヘリが地上から離れた直後ーーーー毎分780発の発射速度を誇るM197 20㎜機関砲の前に倒れ伏した。


 ガタタタタッという耳を劈く発射音が去った後に残されたのは、死体の山とヘリのエンジン音だけだった。


『兵力の大体半分を仕留めた。こちらの死者は18。……今城壁の外に釣り出している、空挺団が到着するまでは機銃掃射で持たせるぞ』


 攻撃部隊長の苦渋の決断が行われた。ヘリ部隊だけでは2万の大軍を相手取るには不足が多かったのだ。

 それでも敵戦力は半減しているが。


 AH-1Sヘリコプターが降下し、渡り廊下で見張りをしていた兵を吹き飛ばす。

 ドアガンを装備したUH-1Jヘリコプターが中庭に集結した敵兵に遠慮容赦ない銃撃の嵐を加える。

 去り際に手榴弾を落としておくのはお約束である。


 約1時間、散発的な射撃は続いた。




 ◇




 1時間後、第1空挺団のC-1輸送機とは別にC-130輸送機が高高度を飛行していた。世界屈指の戦闘集団を乗せて。


「よし、HALO降下用意!928SOF、アクション!」


「ラジャー!」


 解放された輸送機のハッチから次々に飛び降りる隊員たちは、増強された特殊作戦群第928特殊作戦隊の面々計30人だった。

 それぞれM82狙撃銃やSCAR小銃を携えており、降下した後は敵中枢への打撃を担当する任務が与えられていた。


 高高度降下低高度開傘(HALO降下)で急降下して行った彼らは、申し合わせ通り高度1000でパラシュートをオープン、城内のテラスへと降り立った。


『スクワッド4,5は退路確保、2はバックアップ。3は狙撃ポイントへ移動せよ』


 テラスから侵入した小隊長はマイクに吹き込み、その指示に従って分隊員が展開する。狙撃チームが狙撃ポイントを確保するまでは、直接領主を叩く第1分隊に出番はない。敵首魁の大まかな位置は把握済み。

 尋問様様だ。


「まあ、食い意地張ってる女騎士をメシで釣っただけなんだけどな」


「隊長、それは言わないお約束です」


 尋問といっても実際はそれだったが。


 とはいえ、敵の首魁ーーーー城主と部隊の指揮官がいるのは最上階の一室という情報を得ている。ならば、乗り込んで追い詰め、窓際に出てきたところを狙撃チームに殺ってもらえばいいのだ。


『第1空挺団より特戦、402中隊および401中隊二個小隊と共同して退路の確保および制圧にあたる。ああ、安心してくれ。回収はCH-47が来るはずだ』


「そりゃよかった。特戦はこれより作戦行動に移る。くれぐれも誤射に気をつけてくれ」


『ああ、お互いにな。帰ったら酒でも飲むか』


「はは、それが一番だ」


 無線を切ると同時に、気配を殺して廊下へ出る。カッティングパイ式のクリアリングを行い、敵兵を見つけたら7.62㎜小銃弾の餌食にした。


 盾持ちもいたが、残念ながら特戦の使用銃弾は7.62㎜弾だ。5.56㎜弾ならばかろうじて鎧の貫通を防げても、7.62㎜弾の貫通力は防げない。


「クリア」


 次々と制圧(クリア)して、奥へ奥へと進む。




 扉を蹴破った先には、怯えた顔の数人の参謀と、苦虫を千匹噛み潰した顔の将軍、そしてうろたえている貴族らしき男がいた。


「まて、俺は帝国の第2皇子だ!交渉に使ってくれて構わないから兵の命だけは助けてくれ!」


 貴族らしき男は、そう叫んだ。

 そこで、引き金にかかっていた彼らの指が止まる。まさか皇子クラスの要人がいるとは予想していなかったからだ。セルムブルグ共通語は齧っただけの彼らだが、ニュアンスは伝わった。


 しかし、次の言葉と行動が皇子の運命を決めてしまった。


「なーんてね……〈火きゅ」


「させっかよ」


 〈火球〉のk音が発された段階で隊長は手を振っており、それを視認した狙撃手は容赦なく12.7×99㎜NATO弾を撃ち込んだ。装甲車すらぶち抜くそれは人体相手にはオーバーキルであり、特戦随一のスナイパーが外すはずもなく。


 頭部が爆ぜた。


 バタリ、と倒れる第2皇子。


「……っ!?」


 驚愕する将軍と参謀に銃口を突きつけつつ、隊長は片言のセルムブルグ共通語で命令した。


「武器、捨てろ。両手、上げろ」


 2人は素直に従った。





「敵首魁無力化。敵残党、帝国領へ敗走しています」


「そうか。そいつらについては捨て置け。むしろ降伏した連中の後送が厄介だな……」


「むしろここ(アーケロン)に捕虜収容所を作りましょう。捕虜だけで5000……とりあえず、帝国は戦力のほとんどを喪失したのは確かですね」


「そうだな」






ーーーー大陸歴1034年6月28日、アーケロン城塞陥落。




いかがだったでしょうか?


いつも感想、評価、誤字報告ありがとうございます。

では、次回もよろしくお願いします。

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