店主は強し
「ごめんなさいって、エクスカリビン。機嫌直してくださいよ。」
俺の刀身を丁寧に拭きながらロジーがそんなことを言ってくる。
昨日、森の中でしばらく放置された俺は、危うく中年オヤジ冒険者に連れていかれるところだった。
そのことをいまだに根に持ってる俺は、昨日から一回もロジーを無視し続けているのだ。
「だって元はと言えばあそこであんなことをエクスカリビンが言ったのが悪いのですよ?あんなこと言わなければ私は森の方へ投げたりしませんでしたし。」
本人は結構反省しているようだが、そう簡単に許すわけにはいかない。
オヤジ冒険者に連れていかれそうになったのもそうだし、もうすぐであのアリザとかいった俺人称少女のパンツが見ることが出来るところだったんだから許してたまるか。
「じゃあ、本当に嫌ですけど今日もお風呂で洗ってあげますから。だから許してくださいよ。」
ぐっ....。なんたる悪魔の誘惑。だが、俺はその程度じゃ釣れないぞ。
「それに、今日は体洗ってるとき一緒にいていいですから。」
....。
「だから、許してください。」
『もちろんさ。約束破んなよ?』
「どの依頼がいいと思いますか?」
『俺としては何でもいいができれば硬くないやつがいいな。体が折れるとか考えると悪寒が走るぜ。』
俺たちは今、冒険者連盟の王都支部にいる。
冒険者連盟とは、まあ簡単に言えば軍隊規模にデカい傭兵団のようなものだろう。というのも元々は、冒険者連盟は冒険者ギルドという国営の機関だったらしい。だが、国が隣国と戦争に入ったとき冒険者ギルドが戦争に使われ始めたため、冒険者ギルドがただの軍隊と化すのを危惧した冒険者ギルドの長はどうやったのかは分からないが国から冒険者ギルドを切り離し、今の冒険者連盟を作ったそうだ。
「この依頼なんてどうですか?私としてはいいウォーミングアップになると思うんですが....。」
『なになに?....は?ロックイーター?名前が硬いから却下だ。』
こいつは俺の話をちゃんと聞いていたのだろうか。ロックイーターってことは岩喰いってことだろ?そんな固そうなやつと戦ったら俺が折れそうだ。....今のはダジャレじゃないぞ。
「それならこれはどうですか?結構いいと思うんですが。」
『今度はなんだ?。....ダンジョンの中にある食材を取ってきて欲しい。ダンジョンは高難易度なため、戦い慣れている方に限る。えらく上から目線の依頼だな。依頼主はアリザ?どっかで聞いた名前だが....。まあでも、ちょうど良いんじゃないか?高難易度ということはお前の肩慣らしには合うだろうし、このダンジョンに生息するモンスターは硬いやつはいなさそうだ。』
俺は依頼用紙と受付の横に貼ってあるモンスター生息域早見表を見比べながらそう答えた。
「そうですか!それでは依頼してきますね!」
なにが嬉しいんだか顔を輝かせてそう言ってロジーは受付の方ヘと駆けて行った。
『最初はなにが嬉しいんだか分からなかったが、そういう事か。それにアリザってここの店の主だったよなあ。ああ、なんで思い出せなかったんだ俺。』
俺は、幸せそうに昼飯を食べるロジーを眺めながらそう呟いた。
「昨日ぶりだな、聖剣よ。」
俺にそう言ったのは、腕輪をつけた状態のアリザ。この腕輪は、ロジーが言うには俺のような存在らしい。そして、この腕輪をアリザが着けていると人格なり喋り方なりが変わるのだとか。
『おう、昨日ぶりだな。それでお前、パンツはまだ見せてもらえるのか?』
「その事なんだが、申し訳ないが見せてやれない。主に今度そんなことをすると鎧立てにつけた状態で風呂に沈めるぞと脅されてな。」
『そうか....。それなら多分しょうがないんだろうな。お互い、変な主人を持つと大変だよな。』
「全くその通りだ。お前が酒を飲めたら今度いっぱいやりたいくらいだ。」
俺としても本当にその通りだ。ロジーやアリザとかは、俺たちのことを一体なんだと思っているんだ。この腕輪も、どういう力があるのか分からないが、相当な力を持っているはずだ。あいつらはただ便利なだけの道具だと思っているのだろうか。
『そういや、お前どんな力を持っているんだ?アイアンゴーレムを吹っ飛ばすくらいに強い力を得られるとか?』
「いや、そういうわけではない。俺の力は封印だ。こいつの強すぎる力を抑えるためのな。」
なんじゃそりゃ。抑えてるって嘘つけ。
『お前抑えてるって、どの口が言うんだよ。抑えてる状態でアイアンゴーレム吹っ飛ばしますとか言ったら俺もうロジーを驚かして今手に持ってるスープ落とさせるからな。』
「抑えてる状態でアイアンゴーレム吹っ飛ばします。」
『ワッ!』
俺はそう聞いた瞬間先程言った通りロジーを驚かした。ロジーは驚いて、椅子から転げ落ちて顔でスープを受け止めた。
....面白い反応するしもう少しロジーで遊ぶか。
『お前の主はどんだけ力持ってるんだよ。これで王都更地にできますなんて言ったら今立ち上がろうとしてるロジーをまた驚かして転ばしてやる。』
俺の意図が分かったのか、腕輪は頷いてから言った。
「王都更地にできます。」
『ワッ!』
さらに驚いたロジーが、立ち上がろうとしていたところをまた転び、さらに転んだ勢いで机を蹴り上げて、机の下敷きになった。
ロジーが昨日腕輪はノリが悪いとか言っていたが、そんなことはない。よく分かってらっしゃるくらいだ。
「あぁっ、料理が....。」
そう嘆いてるロジーに、俺たちは更なる追い討ちをかけることにした。
『王都を更地にできるって言っても相当時間かかるんだろ?3分以内ですとか言ったらあいつの恥ずかしい情報を漏らすからな?』
「3分以内で....モゴッ!」
「言わせませんよ!なにやってくれてるんですか!」
「それでは、依頼の説明をさせてもらうわね。」
そう言って、アリザがテーブルの上にダンジョンの地図を広げた。腕輪は、封印の時間だの何だの言って今は鎧立てに付けられてる。
テーブルの反対側では服を着替え終えたロジーが髪を拭いている。スープを顔面で受け止めた時にスープが服の中にまで入ってしまったらしく、さっきまで風呂に入っていた。服は、アリザから貰ったものだ。
「私がとってきて欲しい食材は、ここら辺にあるの。」
アリザはダンジョンの奥の方にペンで丸をつけた。
『それにしても馬鹿でかいダンジョンだな。これもう自然に作られたやつじゃないよな?』
「それは私にも分からないわ。でも一つだけ分かることがある。それは、このダンジョンにある食材は、とてつもなく美味しいということよ!」
そうアリザは鼻息荒く言った。どうやらその食材を売りにしてこの料理店を繁盛させるつもりなようだ。
「それなら、その食材を回収できたら私にも少し分けてください!」
「もちろん構わないわよ。でも代わりに報酬はお金じゃなくてその食材よ。」
「えっ。」
「それじゃあ、行ってらっしゃい!」
そう言ってアリザが俺たちを持ち前の怪力で店の外へ放り出した。
「....なんというか逞しいですね。」
『そりゃあ素手でアイアンゴーレムをぶっ飛ばすくらいだからな。』
ガチャっと鍵が閉まるような音がした。そして、いつのまにか扉に「CLOSE」と書かれた立て札が掛かっていた。
『....そういえばダンジョンの場所教えて貰ってなかったな。』
俺の言葉にハッとした表情になったロジーは、物凄い速度で店の扉を叩き出した。
『ここがそのダンジョンの入り口か。えらく物騒な入り口してやがるな。』
俺は依頼のダンジョンの入り口の前でそう呟いた。
そのダンジョンの入り口は、巨大な龍の顔を思わせる形をしている。やはりこれは自然にできたダンジョンではないようだ。
「そうですね....。でも、中にいるモンスターは私からしてはそこまで強くないですから大丈夫です。いざという時はエクスカリビンのビームで横穴を作って逃げますよ!」
なんと逞しいことだろうか。これこそ脳筋理論というものだろう。
『まあこんなところでたむろしているだけだと時間の無駄だし、さっさと入ったらどうだ?』
「それもそうですね。ではお邪魔します!」
そう言ってロジーは昆虫を取りに行く少年のようなノリでダンジョンに入って行った。
ダンジョンの中に入ると、早速えげつないものが出迎えた。
『おい....。もう帰ろうぜ?』
「何言ってるんですか。探検はまだ始まったばかりですよ?」
いつから探検になったんだとか色々と聞きたいが、俺たちを出迎えてくれたものに速攻でメンタルブレイクされた俺は、聞く気にはなれなかった。
俺たちを出迎えてくれたのは、巨大な槍に貫かれた半分腐った人間の死体だったからだ。
「ウオォォォ!」
「イヤーッ!変態!露出狂!こっち来ないでください!」
『おい、叫んでる暇があれば手を動かせ!左斜め後ろから投槍接近!』
ただ今、ダンジョンの中腹で乱闘中です。いや、途中までは順調だった。ゾンビだのスケルトンだの気色悪い系のやつに耐性があるらしいロジーが冷静に対処していたからだ。
だが、ダンジョンの中腹辺りで、ダンジョンが本気を出してきた。それも女性キラーのものを。
そう、みんなも絵くらい見たことがあるであろう、性欲旺盛サテュロス君たちである。そして、先程から巨大な男根を肥大化させてロジーに襲いかかっているのだ。
「もう嫌です!帰りたい!!」
『だから俺始めに言ったじゃん!!」
「ぜぇ、はぁ、もうやだ....。」
なんとかサテュロス君たちを倒せたロジーは、もうまさに満身創痍疲労困憊だった。
『まあ初めて持ってかれたって訳ではないからまだマシじゃね?』
「それはそうですけど!」
そして、パシッと頬を叩いてロジーは立ち上がった。
「さあ、多分もうサテュロスは出ないはずなのでずんずん進んでいきましょう!」
ロジーは半分自分に言い聞かせるように叫んだ。
ロジーのその叫び声がダンジョン内に響いた。そしてダンジョンの奥の方が騒がしくなってきた。そして何かの集団が大量に走ってきた。
「ウオォォォ!!」
『うわまたきたよ。』
そう。走ってきたのは紛れも無い。
「もうやだああああ!」
「ウオォォォ!」
サテュロス君たちであった。
どうも、古丸助左衛門です!
今回も内容に関しては説明することもないので本日あったことを書きます。
なんと、以前から遅すぎて困っていたパソコンが治ったのです!
いやあ、本当に良かった!
これで、小説がより書きやすくなります!
読んでくれた方、ありがとうございました!