なんなんだこの鎧立て
結構ヤバいかも。私は久しぶりにそんなことを思った。
目の前にいるこの鉄の塊みたいなやつは、ぱっと見だがこの前戦ったイビルデーモンや竜王と同じくらいの強さだと思う。勝率で言えば、2:8だ。ちなみに、2が私だ。
以前は仲間がいたり悪魔の活動場所じゃない昼間の地上にいたから勝てたが、今は違う。
こいつは平地での戦いに慣れているようだし、私はただのモンスター狩りだと思って鎧を着ていなかった。
『大丈夫か?勝てそうか?』
エクスカリビンは心配そうにそんなことを聞いてくる。こいつは普段は色々アレだが、戦闘になるとなかなか使いやすい。だが、そのエクスカリビンがいるということを加えても、やはり五分五分が良いところだろう。
「まあ、やれるだけ頑張ってみます。」
私がそう答えると、エクスカリビンが呆れたように、そして力強く言った。
『負けたら頑張りましたじゃすまねえからな。絶対勝てよ。』
私は、その言葉に微かな笑みで返した。
「ダレトシャベッテイタノカワカラナイガ、ジュンビハデキタヨウダナ。ソレデハイカセテモラウゾ、ニンゲンヨ。」
私はゴクリと唾を飲み込んだ。今回の勝負はあいつの初撃を耐えられるかどうかが重要なようだ。
鎧の男が、「フゥーっ」と息を吐いた。そして剣を構えて踏み込んできた。
そして....。
鎧の男の体がぶっ飛んだ。
ヤバい。何がヤバいって色々とヤバい。
なんか知らないけど目の前にいた鎧の男ぶっ飛んだしそのせいか砂埃もヤバい。
私の人生今まででヤバいことなんて量指で数えきれないほどあるが、そのどれより今回の方がヤバい。
そして、少しだけ砂埃が治まってくるとその鎧の男が元いたはずの場所に私とあまり変わらないくらいの少女がいてその遥か右の方にある岩に鎧の男が突き刺さってたからなおさらヤバい。
その少女は、キッと鎧の方を向くと、見た目にしてはありえない言葉遣いをして怒鳴った。
「何仕事サボっといてくれてんじゃボケ!さっさと働けこのクソやろう!」
「ヒィッ!モウシワケアリマセン、ダンナァ!」
....旦那?この目の前にいるのはどう考えても女性なんだけど。
と、その少女は私の方を向いてから申し訳なさそうに頭を下げて言った。
「その、すまないな、うちのアイアンゴーレムが。強い奴に会うと戦いたくなるとか言って俺が何度やめろと言っても聞かないんだ。」
....俺?
「え、いや、その、いいんですけどね....。俺って....。えっ?」
さっきのアイアンゴーレムとか言った奴を殴り飛ばした時も思ったが、これまた色んな意味でやばい奴にあってしまったかもしれない。
「その、お詫びと言っちゃあなんだがな。俺たちは今飲食店を営んでいるのだが、どうだ?食べて行かないか?もちろん、お代は結構だ。」
「あ、はい、ありがとうございます。え、でも....。えっ?俺?」
『こいつ頭大丈夫なのか?そりゃあ一人称俺な女の子は漫画やアニメではたくさんいるが、現実で見たのは初めてだぞ?』
さっきまで黙っていたエクスカリビンが、そんなことを言ってきた。「まんが」や「あにめ」は分からないが、多分珍しいということだろう。
「さっきからどうしたんだ?ずっと俺のことをチラチラ見ているようだが....。」
「い、いえ....その....ね?」
本当はなぜ一人称は俺なんだと聞きたいんだが、先程アイアンゴーレムに振るわれた豪腕が私にも飛んできたらやだから、直接は聞かないでおく。キレた時のための保険だ。
その少女は、私が聞きたい意図が分かったのか大きく頭を振って応えた。
「今日の主のパンツの色だな?」
『それは口で言うものじゃない。見せるものだ。』
私はエクスカリビンを森の方へ投げ飛ばした。
「そ、その、俺は大丈夫だと言っているのだが....。」
「いえ、そういう訳にはいきません!」
私は一人称俺少女の店の中で伝票を片手に戦争していた。
先程エクスカリビンが言ったことは、女性に対して言ってはいけないこと殿堂入りしている言葉だ。
だから、さっきこの一人称俺少女はお代はいらないとか言ってたけどそういう訳にはいかない。ちなみに今エクスカリビンは、森の中で待機中だ。とても丈夫な剣だから壊れることはないだろうし、アイアンゴーレムがあそこの森はあまり人が入らないとか言ってたから大丈夫だろう。
「いや、じゃあせめて割引だけでも....。」
「いえいえ、本当にそういう訳にはいきません!」
「いや、そんな遠慮.....。おっと、時間か。失礼。」
私と一人称俺少女がそんな果てしなき戦いをしていると、突然、一人称俺少女がそんなことを言った。
そして、一人称俺少女は着ていた長袖をめくって、手首につけている腕輪を外した。
その後、一人称俺少女はうーんと伸びをして....。
「あーっ時間か!私のこの力もどうにかならないもんかね....。お、いらっしゃいませ〜。」
普通の女の子の喋り方を始めた。
「え?....え!?」
「どうされたんですか?....あ、そうか。神器さんがやってたってことですね?」
「た、多分そうだと思います。」
やってたとか神器とかよく分からないが、まあとりあえず本人がそう言っているんだからそういうことだろう。というかそれよりも、さっきの俺人称はどこ行ったのだろうか。
「ゴーやん!あれ持ってきて!」
「カシコマリマシタ、アネゴ!モドッテコラレタンデスネ!」
初めて会った時の殺気はどこに行ったのやら、完璧な腕前で雑用をしていたアイアンゴーレムが元俺人称少女の声を聞いて鎧立てを走って持ってきた。そして、鎧立ての腕の部分に先程元俺人称少女が着けていた腕輪を付けた。
すると、咳き込むような音がしてからエクスカリビンとは違う渋い男の声が聞こえてきた。
「ゴハッ!いい加減新しい鎧立てを買えと言っているだろう!喉がイガイガしてしょうがない!」
「仕方ないでしょこのところ不景気なんだから。もっと我慢しなさいよ。」
もう私は何を信じればいいのか分からなくなってきた。喋る剣はクラスがクラスだから何度も見たことはあるが、喋る鎧立てなんて今までで一度も見たことがない。しかもエクスカリビンとは違って直接声を出しているようだから尚更分からなくなってくる。
「おっとそういえばお会計がまだだったな。おいアリザ。この人はアイアンゴーレムに襲われた人だからお代は割引にしといとくれ。」
「あいあい。ゴーやんまた襲ったの?もうこれ以上やるようだったら解体するよ?それにしてもあなたよく無事だったね。ゴーやんに襲われて無事な人とかこのんところ見てないよ?」
もうすっかり砕けた口調のアリザとか言った元俺人称少女は、珍しいものを見るように言った。
「い、いえ、その件なんですけども。その、うちのエクスカリビンがなんかもう超次元な失礼なことをしたので、割引をなくして普通の代金にしていただきたいなと....。」
私がそう言うと、アリザが嬉しそうに応えた。
「そういうことなら、普通の代金で!いやあ、良かったー。ここ2日お客さんが来なかったからね....。そういえば、超次元な失礼なことってどういうこと?私ちょっと気になるんだけど。」
まずい。それを答えてしまうと豪腕が飛んでくるかもしれない。
私が鎧立ての方をチラッと見ると、鎧立てが微かに頷いたように見えた。どうやら私の意図が分かったようだ。
そして、鎧立てはドヤっとしたような声で答えた。
「このお客さんが持っていた聖剣が俺がアリザのパンツの色を教えてやると言ったら真っ先にがっついてきた。」
ちっとも分かってなかった。
そして、アリザが相当頭にきたのか鎧立ての反対側の腕部分をもいだ。
「おい、なんでそんなことをする!ものを大切にしろと言っているだろ!」
「神器さんだって私をもっと大切にしてよ!この前私の体を売ろうとしてたし!」
本当にエクスカリビンを置いてきてよかった。こんな話をしていると一番にがっついて来るであろうからだ。
「それでは、私はこれで失礼させていただきます。ごちそうさまでした。」
「はーい!また来てね!」
「今度は聖剣を持って来い!」
聖剣は持ってくる気はないが、まあ今度から昼食を食べる際にまた来よう。
さあ、本当に嫌だが、エクスカリビンを回収に行こう!
どうも、古丸助左衛門です!
まずは、投稿が1日開いて申し訳ありません!
いや、いろいろ忙しかったんです!
話は変わりますが、ただいま僕は花粉に襲われて絶賛花粉症中なのでまたちょくちょく投稿が空いてしまうかもしれません。申し訳ない限りでございます。
読んでくれた方、ありがとうございました!