聖剣とは口だけではない
「うわぁ....。ここが王都....!」
ロジーが感動したように言う。
『なあなあロジーさんよ。』
俺たちは今、王都を一望できる丘の上にいる。
というのも、ハゲ連盟長にほぼ無理やりという感じで王都に送られているからだ。
「私、こんなに大きな街見たことないです....。」
『ロジーさんロジーさん。無視しないでくれや。』
ロジーはそんなこと言っているが、俺からしたらまだまだだ。小さい頃に父親に連れて行ってもらったニューヨークや、俺が自宅を守護していた東京の大きさはこんなものではなかったからだ。
だが、機械や科学が進歩していない世界だということを考えると、十分大きいと言えるかもしれない。
「あそこが王城ですか!街が大きいだけあってお城も大きいですね!」
『あれ?ロジーさんわざと無視してる?』
だがそんなことよりも。
「おおっ!あそこは高そうな住宅街ですね!貴族達が住んでいるのでしょうか?」
『おいエロボディガール!聞いとんのか我ぇ!』
「なんですかエクスカリビンさん!さっきからうるさいですね!」
『そりゃそうだろ!なんたってこんな奴に俺は持たれなきゃいけないんだ!俺はお前に持たれたいんだよ!』
そう。今俺を持っているのは....。
「僕は結構嬉しいでしゅよ?」
『お前に聞いてねえよ!お前喋り方もうぜえんだから黙ってろ!』
とっても汗臭いマッチョマンに持たれているのだ。
「ありがとうございましたー!」
『もう二度と俺にその顔みせんじゃ....イヤーッ!やめろーっ!こっち来んな!』
「ロジーしゃん、こちらこしょありがとうございましゅた。またエクスカリビンしゃんを持たせてくだしゃい。」
「わかりました!さようなら!」
『わかるな!』
やっと地獄が終わった。マジで疲れた。歩いてる時は臭い息切れするし汗は臭いしで大変だったわ。
あいつは連盟長が俺たちが王都に行く際に付けてくれた荷物持ちだが、剣に対して興奮する謎の性癖を持っていたのだ。
俺と喋りたくないと言っていたロジーと、その荷物持ちは利害が一致したらしく、王都に行く途中はずっとその荷物持ちが俺を持っていた。
今度がないと助かるが、今度からは駄々をこねまくってロジーの良心につけ込んで無理やりにも俺を持たせるつもりだ。
「はぁーっ。ほぼ休まずに来たから流石に疲れましたね....。宿屋に着いたらすぐにお風呂に入りましょう。」
『そうだな。俺も汗だくだよ....。』
「何言ってるんですか。剣が汗なんてかくわけないじゃないですか。」
何も知らないロジーがそんなことを言ってくる。この野郎....。
『お前がなあ!変な野郎に俺を持たせたせいで!俺は鞘の中までそいつの汗でベタベタだよ!どうしてくれんだよ!このままじゃ俺を剣として使うときに切れ味が落ちるぞ!?』
俺がそう言った瞬間、ロジーが目を逸らした。これは言い負かせてやらないといかんぞ。
『今少しでも申し訳ないと思ったな?思っただろ?それなら俺を風呂に連れてって洗え!そのエロボディと一緒に俺を洗え!』
「い、いや、それは....。」
『なに!?嫌だっていうのか!?それならば俺にも考えがある!大声でお前の恥ずかしい過去を....。』
「分かりました!分かりました!ですからそれだけはやめてください!」
よし、俺の予想通りだ。こいつはキレてる時と俺と話している時以外は結構オドオドしてる感じだし気も弱い。
そこにつけ込んで申し訳ないと思わせると言うのが俺の戦法だ。
こいつは俺に対しては短気だし当たりが冷たい気もするが、見た目は可愛いし、体もナイスバディだ。
これは風呂を期待できるぞ....!
『なあお前よお。風呂で男の人の体を洗うってことをお前理解できてねえんじゃねえの?』
ロジーと風呂から上がった俺は、呆れたようにまだホクホクしてるロジーに聞いた。
「いえ、そういうわけではありませんよ....。そもそも貴方は男の人じゃありませんし。」
このエロボディガールはなんと俺に見られるのが恥ずかしいのか俺を洗ってる間ずっとタオルを体に巻いていたのだ。こういう時は脱ぐなら脱ぐで着るなら着るではっきりしていただきたいものだ。
「だいたい、今日は他に人がいませんでしたからよかったですが、お風呂で剣を洗うなんて普通では変な人だと思われますよ?」
まあ確かに日本やアメリカでそれは変人だ。そして俺はこの世界のことがわからないがこっちでも同じなようだ。
『風呂にタオル巻いて入る奴だっておかしいと思うぞ?』
「貴方を洗い終わった後は私もタオル脱ぎましたよ。」
『そん時俺は脱衣所で待機だったじゃねえか!お前が今日着けてんの緑だってことくらいしかわかんなかったじゃねえか!』
まあ色を知るだけでも結構ラッキーだったと思うが、それでも男としての欲には逆らえない。
『なあ。今からでもいいから入り直さないか?』
「嫌ですよそんなこと。エクスカリビンは剣だから大丈夫ですが私は人間なんでふやけちゃいますよ?それにこれ以上入ったらのぼせそうです。」
『ええやんけ。のぼせるナイスバディ美女。絵になるやんけ。』
「良くないですよ!ここまで頑張ってきたのにここでのぼせて死亡とかになったらもう大変ですよ!」
俺たちがそんなことを言い合っていると、ドアをノックする音がした。
「ロジー様。夕食をお持ちしました。」
「あ、はい!ありがとうございます!」
今俺たちが泊まっている宿屋は、そこそこ高いところだ。だから、飯も持って来てくれるし、プールもあるし、ベッドメイクもあるそうだ。なんでも、連盟長が英雄ロジー様(笑)を並の宿屋に泊めたらまずいと思って高めの宿屋に泊めようと奮発したらしい。
「本日のメニューは、ドラゴン肉のハンバーガーとマンドラゴラのサラダに雪精のアイスクリームです。」
「ハンバーガーですか?聞いたことのない料理ですね....。説明してもらってもよろしいですか?」
「分かりました。ハンバーガーとは、肉とか野菜とかをパンで挟む料理なようです。」
まさかここにも同郷人が。
この世界は以前から俺が住んでいた地球と関わりがあるのだろうか。
「それってサンドイッチみたいなものですか?」
「そうだと思います。厨房のシェフがそんなことを言っていたはずです。」
なんだそのおぼろげな記憶は。
それから、ウェイトレスは軽く挨拶してから去って行った。
『なあロジー。俺この宿屋の厨房のシェフに会いたいんだが。昨日の音楽家には色々あって会えなかったが、今度こそは会いたいんだ。』
俺はテーブルに料理を置いているロジーにそんなことを頼んでみた。
因みに昨日会えなかった音楽家は、王都で普段生活しているらしい。今度ロジーにその人の家に連れて行ってもらおうか。
「エクスカリビンってたまに大して関わりのない人に会いたいって言いますよね。恥ずかしかったりしないんですか?」
『俺は生まれてこのかたそんなことはなかったなあ。学生やってた時はほぼ毎日陽キャ生活だったぞ。と言うかこんなことを聞くなんて、さてはお主コミュ障であるな?』
「そ、そんなことないですよ!なにせ出会って2日も経ってない変な人間みたいなものに対しても臆せず話しかけたりできますから!」
『お前その変な人間みたいなのって俺のことだろ?せめて聖剣って呼んでくれよ....。』
俺がそんな愚痴みたいなことを言ってると、ロジーは食べる準備ができたのか「いただきます!」と言って料理を食べだした。
一口一口美味そうに食べるのが恨めしい。食欲失せるような話でもしてやろうか。
「んっ。それで、明日はどうしますか?私はここ二日、剣を振ってないのでモンスター狩りのついでに体を慣らしたいのですが。」
ロジーが、ハンバーガーをゴクンと飲み込んで、残されたデザートに手を伸ばしながらそんなことを言ってきた。
『俺としてはモンスターと戦うのはやだな。この身をモンスターに打ち付けられると考えるだけで背筋がゾワだわ。』
「そんなこと言わないでくださいよ。それに貴方を剣にした神様はモンスターに貴方を打ち付けるために剣にしたのだと思いますよ?」
アイスクリームを一瞬にして吸収したロジーが頬を膨らませながら文句をいった。
くそう。無駄に可愛い顔しやがって。
『そ、それならとりあえず明日だけな?俺としてもモンスターを切るっていう感覚が気になるし。そんなに気持ち良さそうでもないけどなあ....。』
俺がそう言ってやると、ロジーは嬉しそうな顔をして「ありがとうございます!」と言った。
美人はこういう時は強い。
『ヒャッホーウ!おいロジー!次はあそこにいるモンスター殺ろうぜ!』
「分かりました!思いっきり行きますよ!」
『おう!ドンと来い!』
昨日あんだけ渋っていた姿はどこに言ったのやら、やけにテンションの高いエクスカリビンを振り回しながら私は答えた。
本剣に聞くと、『なんだかモンスターを切るとスカッとするぜ!』とのこと。
私としても、聖剣というものを使ったことがなく使ってみたかったため、好都合だ。
私がエクスカリビンが指していた方向にいるモンスターに狙いを定めると、距離がかなりあるにも関わらずモンスターに向けて突きをした。すると、エクスカリビンの先っぽからビームが出た。これがこの聖剣のすごいところだ。
この聖剣を振り回してみて、やっぱり中身があれだけどちゃんと聖剣なんだなあと実感した。この聖剣は、どうやら持ち主がイメージした通りに攻撃を拡張できるらしい。かといって遠距離戦や中距離戦だけというわけでもなく、近距離で攻撃を拡張しなくても十分戦えるほどの切れ味を持つ。
私は聖剣と呼ばれる剣以外はたくさん使ってきたが、今まで使ってきた剣の中でこの剣がダントツで一番使いやすい。
それに、なんと言っても普段は邪魔でしかないこの剣の口が役に立つということだ。敵が死角に回り込んだり後ろにいたりする時、この普段うるさい聖剣はいち早く教えてくれる。今日はその便利な力のおかげで、いつもなら切り傷が二つほどついているはずが無傷だ。
『よおしナイスショット!これでここら一帯は制圧したな。』
「そうですね。それにしても今日は今までで一番モンスター狩りが楽しかったです!」
『だろうな!何せ俺という最高の剣を使っているんだからな!』
そこは謙遜しろよと言いたいが、全く本剣が言っている通りだし私もそう思っているからそれは言わないでおく。
「それでは、このままの調子で冒険者連盟に行って依頼を受けますか?」
『おう!そうしようぜ!』
私たちが明るくそんな掛け声を上げていると、突然後ろが騒がしくなった。
そして....。
『ッ!ロジーッ!伏せろ!』
さっきの明るい感じはどこに行ったのか鋭い声がエクスカリビンから発せられた。
私は咄嗟に言われた通りに伏せた。その瞬間、耳の上をものすごい勢いで何かを振った音が聞こえた。
私は恐る恐る顔を上げた。すると、そこに大きな影が立っていた。
「ホウ。イマノケン、ヨクヨケタナニンゲンヨ。」
そこには、ありえないほどの大きさを持つ剣を担いだ鎧の男がいた。
どうも、古丸助左衛門です!
今回は、また4千文字を超えました!いぇい!
ここまできてわかったのが、体の調子がいい時は4千文字を超えて、そうでもない時は超えないようです。
以上、どうでもいい僕の知識でした。
読んでくれた方、ありがとうございました!