聖剣はうるさい
会場全体に厳かな音楽が流れている
ここは、冒険者連盟の本部だ。そして、今、優秀な戦績を残した冒険者に行われる授賞式が行われている。
会場には、冒険者連盟の連盟長、幹部、職員、そして私を冷やかしに来ただけの知り合いの冒険者達がいる。きっとあいつらは私がメダルをもらった瞬間「うぉおおおおおおおッ!」だなんて叫び出してめちゃくちゃにするつもりだろう。こんなことなんて少し考えればわかっただろうに、嬉しさのあまりに浮かれて招待しまくった私が憎い。
「それでは、ロジー。前へ来なさい。」
連盟長が私の名前を呼んだ。私は言われた通り前に歩み出た。横にいる冒険者達がクラッカーを用意しているのが見える。あいつらめ、終わったらしばいてやろう。
「汝、ロジーは15歳という若さにしてこの冒険者連盟にも数人しかいない剣聖というクラスに就き、さらに17歳でリッチーを討伐、18歳にてイビルデーモン、ジャイアントトータスを討伐、19歳にて竜王の巣を制圧した。よって、その功績を称えてこの東方より伝わりしこの『カタナ』という聖剣とメダルを授ける。」
連盟長はそう言って、見たことも無い形をした剣とメダルを厳かな仕草差し出した。その剣には、ところどころ金で装飾されていた。それにかなりの量の神聖な魔力を感じる。
私が厳かな仕草で差し出された聖剣とメダルを受け取ろうとした瞬間....。
『どうもー!!新人聖剣のエクスカリビンです!!よっろっしっくっねええええええかわいこちゃん!』
厳かな雰囲気をぶち壊した馬鹿みたいな声が響き渡る。
私は思わず辺りを見回した。冒険者達が邪魔をしたわけではないらしい。それに、私以外は誰も驚いたような反応をしていなかった。
「どうされた?」
「い、いえ。顔の前に虫が....。」
「そうであるか。最近は虫の増える時期でもあるからなあ。」
『お?驚いてるか?そりゃそうだよなあ。周りの人達はなぜ聞こえてないんだとか思ってるんだろ?』
なんなんだこの声は。若い男の声のように聞こえる。
私は自分が握っている剣を見下ろした。
まさかこの剣が喋ってるのか?
『それについて説明してやるよ。今お前の頭の中に直接話しかけてるから聞こえてねえんだ。声を出しているわけではないから大声を出しても喉が痛くなんねえってわけよ。俺は剣だから喉なんて無いんだがな!ハハハハハ!』
そうだ、やっぱりこの剣が喋っているんだ。それに妙に馴れ馴れしいし。
私がそんなことを考えていると、後ろが騒がしくなってきた。
そして、知り合いの冒険者の中でも特に仲がいいやつがクラッカーを手に持ち、立ち上がって叫んだ。
「ロジィーー!おめでとぉーー!」
そして、パパパパーンッ!
やっぱりやりやがったか。
そいつが叫んでから少し経った後、幹部の一人が額に青筋を浮かべながら怒鳴った。
「おい貴様ら!何やってる!」
「ひゃー!逃げろい!」
バカと勇者は紙一重とはこのことだ。連盟クビになっても知らんぞ。
『おいおい騒がしいなあ!もっと俺様みたいに静かにできないのかオイ。』
それはお前が言っては一番いけない気がする。確かにこいつの声は私以外に聞こえないから静かだけど一番言ってはいけない気がする。
「すまない、ロジー。奴らは厳重注意の上、自宅謹慎に処しておく。」
連盟長が申し訳なさそうに頭を下げた。ほれ見たことか。
「それでは、式を終わる。この後、晩餐会があるから大いに食べ、大いに飲み、大いに喋るよう。」
「うぉおおおお!」
さっきの馬鹿以外の冒険者達が雄叫びをあげた。お前ら私の式より晩餐会の方が楽しみだっただろ。
「それで、あなたはなんなんですか?聖剣と言う通り魔力は強いですし扱いやすそうですがなんでそんなに喋るんです?もう少し静かにできないんですか?」
『ほうほう、敬語系女子か。ごっさ可愛いやんけ。』
「話を聞けよ。」
さっきからうるさいこの聖剣にストレスが限界を迎えた私は晩餐会が始まる前までの空いた時間に休憩をもらい、この聖剣を問い詰めることにした。さっきから乙女に言わないほうがいい下ネタなんかも連射してるし。
『で、なんだって?俺に自分のことを教えろって?そういうことは自分からするもんじゃ無いのかいエロボディちゅわん?』
私は思わず壁を殴った。日々剣を振り鍛えている私の腕から振るわれた拳を壁は耐えきれなかったようで、四方にヒビは入った。
よし、こういう時は深呼吸だ、落ち着け私。
『壁を殴るのはないんじゃないかい筋肉ガール?....ごめんて!すまんて!謝るから俺を折り曲げようとすんなって!曲がっちゃうから!折れちゃうから。』
このクソみたいな聖剣の悲鳴を聞いて少しスッとした。
「それで、私から先に自己紹介すればいいんですね?私はロジー・アンセルン。普段はこの国の周辺の村を旅しながら自分を鍛えています。クラスは剣聖です。」
『剣聖ってなに?すまんね、俺の元いた場所には剣なんていう非効率な武器を使ってる人なんて滅多にいないから。あそこはマジで銃社会だよ....。』
元いた場所ってなんのことだよ。それに「銃」ってなんだよ。
まあそれは後で説明してもらうということでとりあえず教えてあげよう。
「剣聖とは、剣の中に宿る魂や精霊を使って戦うクラスです。魂や精霊の宿った剣とは、その剣を使って大戦果を挙げた英雄の魂だったり、長い年月が経って精霊が宿ったりした剣のことです。」
『なんか厨二病みたいだな。』
「だまらっしゃい。そういえば、あなたはどっちなんですか?英雄の魂ではどう考えてもないですし、精霊ならこんなに新しそうな剣には宿りませんしね。」
『まあそのことに関しては自己紹介と一緒に説明するよ。』
そう言って、エクスカリビンとかいう聖剣はゴホンと咳払いをしてから言った。
『改めて、俺の剣としての名はエクスカリビン。だっせえ名前だろ?こいつはなあ、神さんがつけてくれたんだい。』
この剣私のことを厨二病みたいだとか言ってたけどこっちの方が厨二病っぽいぞ。なんだよ神がつけた名って....。
「剣としての名?それなら他の名前があるんですか?」
『もちろん!よくぞ聞いてくれた!我が本名は吉田アレキサンダー!生まれはアメリカカリフォルニア州、育ちは群馬県、そして自宅警備員として働いていた場所は東京都!どうだい、すげえだろ?』
「ちょっと何言ってるかわかんないですね。」
『そうだ、ここ日本ちゃうんだった....。そりゃ分かんねえだろうな。』
なんだか意味わかんない言葉を連呼してるけど頭大丈夫だろうか。というかこの剣なんなんだ?剣に生まれとか育ちとかあるのか?
私がそんなことを考えていると、エクスカリビンがなぜだか叫んだ。
『おぉー!すげぇ!本当に心読めた!ありがとう神さん!それで?剣に生まれとか育ちとかあるのかって?....やめろ叩きつけようとすんな!いいのか!?この建物内の全ての人に俺の声が響き渡ってみんなわらわら寄ってきたところをお前の恥ずかしいでっち上げ話を大声で言っちゃうぞ!?』
「やめてくださいそれだけは!というかでっち上げ話ですか!心が読めるとかはもっと早く言ってください!」
『へいへい。で、生まれや育ちがあるんかって?そりゃあるかもしれないけど俺にはないさ!なんせ元人間だしね?だから信じてくんない?お前の心今全否定してるよ?』
そりゃそうだろう。今まで精霊が宿ったり魂が宿ったりするのが常識だったはずなのに人間自体が宿るとかどんな珍現象だろうか。
「それなら、なんで剣になったりしたんですか?というか剣が人間が変形して出来上がっただと私もその力使えないかもしれないですよ?」
『剣が人間に変形とかグロいこと言うなあ....。まあとりまそれは置いといて、なんで剣になったりしたかって?そりゃお前、名誉の死ってやつだよ。』
「うわぁ....。」
『おいやめろよその顔。本当に名誉の死だって!』
「聞きたくないですが名誉の死とは?」
『聞きたくないとか言うなよ。まあ名誉の死というやつは、俺が自宅を守護してたら、どっかの頭のネジがぶっ飛んで逆向きにしまったんじゃねえのってくらいの馬鹿が車で家に突っ込んできてそのまま御陀仏ってわけよ。』
「どうしようこれ捨てよっかな。」
『おいなんでそうなるんだよぉ!』
「いいですか?今から晩餐会が始まります。無礼講ではあるものの、何かやらかすと後々の評価とかに影響してきますので守ってもらいたいルールが二つあります。」
俺、ことエクスカリビンはロジーとかいうエロボディ短気娘の腰にかけられていた。「もうちょい上にして柔らかいのに当ててほしい」とかわめいてみたら頭から湯気出して怒り出した。
『お前評価とか気にすんのか。』
「しますよ何言ってんですか。」
嘘つけぃ!このエクスカリビン様の心を読む目で覗けば、評価なんてどうでもいいから黙っててほしいとか思ってるぞ。
でもこれ以上おちょくるとこいつ壊れそうだからやめとこう。
『それでルールとはなんなんだい嘘つきガール?』
「ッ....。スゥー....。それではルールを教えます。その1。私以外の話しかけるな。その2。私に話しかけるな。」
『それは無理だぜベイベー。』
「この世に無理とかいう文字はありません。」
何そのナポレオンみたいなの。
俺も日本でお笑いとか見なかったわけでもないからこうまで言われると逆に話しかけたくなっちゃうんだよなあ。
と、そこにどっかで聞いたことあるような音楽で聞こえてきた。まさか同郷人がいるのか?
『なあロジーさんよお。さっそくルール破って悪いんだがこの曲を演奏してるやつに合わせてくれねえか?』
「本当にさっそくですね....。でもそれくらいならいいですよ?この曲が気に入ったんですか?」
『まあ、そんなところよ。それよりお前、踊らんでいいのか?さっきの式で騒いでた奴らがくるくる踊ってるぞ?』
「い、いえ、その、ねえ?私にも事情があるんですよ。」
ほほう、その事情とやら、気になるなあ。ちょいと心を読ませてもらうとするか。
『ふむふむ。お前、生まれ育った村の雨乞いの儀式の踊りを踊って大恥をかいたことをあるな?それがトラウマになって踊れなくなったんだな?』
「うわああああ!なんで言っちゃうんですか!私がちょっと逸らしたんですから察してくださいよ!」
『それを砕きたくなるのが俺の性。』
「砕きすぎですよ!ノリとかそれだけじゃなくて私の心も砕いてますよ!」
俺たちがそんなことを喋ってるとさっき騒いでた奴らに中にいた男がロジーに話しかけてきた。
「どうしたんだいロジっちゃん?さっきからずっと独り言呟いてるようだけど。」
「いえ、なんでもないです....。」
『ぶっはっ!ざまあねえや!』
「ッ....!」
「ロ、ロジっちゃん?目がめっちゃ怖いよ?竜王と戦った時とかもそんな目してなかったよね?」
それな。この娘めっちゃ怖い顔しとるぞい。なんかテレビでやってたエイリアンとかよりも怖いぞい。
「だからっ!なんでもっ!ないですっ!」
「ヒィッ!はいっ!」
『おいおい。あいつは関係ないだろ?なんで睨んでやがんだよ。謝ってこいよ!』
「お前のせいだろおおおおおおおお!」
そう怒鳴ってロジーは俺を床に投げつけた。
その瞬間、曲の演奏もそれに合わせてくるくる踊ってた連中もお偉いさんに媚びってた奴らも止まった。
ロジーも周りの様子に気付いたのか顔がどんどん赤くなっていった。に
そして、消え入るような声で言った。
「す、すいません....。」
どうも、古丸助左衛門です!
いやあ、今更ですけど僕って飽きっぽいですね!
まあ言い訳すると本文の内容の2倍の量になるのでやめておきますが、この小説もすぐ終わりそう....。
内容の解説の入りますが、三つ目の文章の塊的なやつだとロジーからエクスカリビンに語り手がバトンタッチしています。
そこを気をつけて読んで頂ければ幸いです。
読んでくれた方、ありがとうございました!