魔の森
数日がたち、俺は村の外へ出てきていた。
理由はただ1つ。
俺の正体がバレたからだ。
勇者だとバレたからには村を出ていかなければならなかった。
どこから国にバレるかは分からないのだから。
特に、この国はウィリアムの治める国だ。
あいつにバレたら俺は逃げ切る事は出来なくなるだろう。
そのため、俺はさっさと村から退散し、魔王の元へ向かう旅に出た。
『ラハト、聞こえるか?』
鞄の中から突然、声が聞こえてきた。
魔王の声だ。
俺は水晶を取り出すと近場にあった切株に腰をかけた。
「あぁ、久しぶりだな。
魔王…本当に復活したんだな…」
『あぁ、そうみたいだ。
どうやら、魔神様が目覚めたようだな…。
まぁ、その話は置いておくとして…ラハト、合流はどうする?』
「取り敢えず、今魔国に向かってる」
『っ…!
そ、そうか!!
ならば、魔の森の入口で待っている!』
「おう。
分かった。
んじゃな」
魔の森は魔国の外にある森で強い魔物がうじゃうじゃいる。
魔国への入口はそこだけではないため魔族ですら避けて通る事が多いらしい。
まぁ、俺や魔王にとっては全て弱い奴等ばかりなのだが。
「よし…ちょっと走るか」
次の瞬間、そこからラハトは消えていた。
一方、その頃。
リースベルの王宮では……。
「お父様」
「アーシャ?
済まないが、今は忙しい。
話ならば後に……」
アーシャと呼ばれた少女は少し青みがかった銀髪に澄んだ青の瞳という王族の証である髪色をしっかりと受け継いでいた。
アーシャ・ラナート・リースベル。
彼女はれっきとした王女であり、王位継承権2位の持ち主である。
そして、何より、勇者であるラハトに想いを寄せる1人であった。
「お父様、私をラハト様の捜索に関わらせてください。
私ならばラハト様をすぐに見つけられますわ」
「…アーシャ、自分が何を言っておるのか理解出来ているのか?」
「はい。
私には婚約者なんていませんもの。
それに、多少は武術の心得もありますわ」
彼女に婚約を申し込む者は国内外問わず、多くいた。
だが、その度に彼女はラハト様よりも強く、頼もしい方でしたら、と無茶難題を口にしてきたため婚約者などいなかったのだ。
小さい頃には婚約者がいたもののなんと、その家の不正を暴き婚約を破棄するどころか国外追放にしていた。
優秀ではあるのだが優秀すぎて扱いにくすぎる程でありこれも国王の悩みの種の1つであった。
「…認める代わりに期限をつけるぞ。
1年だ。
その期限内に見つけられなければ…婚約者を選ぶ。
拒否は認めん。
良いな?」
「はい、構いませんわ」
可憐な笑みを浮かべるアーシャに出てけという風に手をヒラヒラさせると1人になったその部屋で国王は頭を抱えた。
どこで育て方を間違えた…!
と。
「ふふっ、ラハト様……すぐに向かいますわ」
彼女、アーシャは浮かれた様子で王城の廊下を歩いていく。
「アーシャ、そんなに浮かれてどうかしたのかい?」
「えぇ、お兄様。
私、ラハト様を探しに行ってきますわ」
そんな彼女の言葉に彼女と良く似た兄はピシャリと固まった。
「……アーシャ?
ラハトを探しに行くって……父上には…」
「もう許可を頂いて来ましたわ」
相変わらず行動が早い妹の行動にこの時ばかりは頭を抱える兄。
そんな事に気付かずアーシャは嬉しそうに微笑んでいる。
それが更に、兄にダメージを与える事に彼女は気づかない。
「アーシャ、何故……」
「お兄様ばかりずるいんですもの。
私だってラハト様と旅をしてみたいのですわ」
「いや、私の時は魔王を倒すためにだね…」
必死に妹に説明するものの全く聞く気がないようだった。
…ラハトに想いを寄せるこの妹はただラハトと共にいたいというだけである。
それを理解している兄、キュリオスは溜息をついて妹を見送る事にした。
「ラハト…頼むから本性を見せないでくれよ……」
どこにいるかも分からない友に向かってキュリオスは呟いた。
アーシャと会う時、ラハトは勇者verで接していた。
それはもうキラキラとした笑顔に紳士的な発言に彼と親しい者であれば皆「…誰?」という程別人の様に感じるはずだ。
実際の彼はそこら辺の村で狩人として生きていそうな奴なのだから。
その次の日、さすがというべきなのか既に準備はしてあったようでアーシャはラハトを探す旅に出た。