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正体



「陛下!!」



王城の兵士が突然、王の執務室へと走り込んで来る。

その慌てように王も、その場にいた宰相ですら何も言えなくなってしまう。

何より、その兵士の顔色は真っ青であった。



「…どうしたのです」


「あ……ま、魔神が…魔神が目覚めるという神託がくだりました…!

その証に魔王が復活致しました…!!」


「なっ…!?」


「何ですって!?」



王と宰相はあまりの事に驚きを隠せなかった。


昔、魔王が勇者に倒され、魔神が永き眠りから目覚めた時…。

まず、世界は大陸の十分の一を残し、死の大地となり幾多の動物と植物が絶滅した。


その影響は未だに残っていて北の大地では魔神と共に死の力までも眠っていると言われている程に何も無い地となっている。


昔の話では、勇者は魔神によって蘇った魔王と相討ちになり、魔神はしばらく死の力を放出した後眠りについたのだという。

本来であれば結界を張るか倒すのだが魔神の近くには死の力が渦巻き一歩でも足を踏み入れた者は灰となり消えてしまい何も出来なかったらしい。


そんな魔神が目覚める…それは、冗談であって欲しい事であり、死の宣告のようなものであった。

だが、賢王と謳われるウィリアムはすぐに考えを巡らせた。

少しでも、国民が生き延びられるように。



「ルーク、情報を規制し、すぐにラハトを探し出せ。

費用は自由にしろ。

すぐに取り掛かってくれ」


「承知いたしました」



宰相、ルークは頭を下げるとすぐに仕事へと取り掛かる。



「お主、名は?」


「はっ、パージュと申します」


「では、パージュよ、今日から余の近衛だ。

先程の話は誰であろうと話さぬように」


「はっ!」



パージュが部屋を出ていくのを確認すると王は1人溜息を吐いた。

そして、1つの水晶を取り出し各国の王へと伝達をする。



『魔神 復活 兆し

至急 リースベルへ来られたし』



王は伝達をしたのを確認すると1人、溜息を吐いたのだった。





一方その頃。

元勇者ラハト…もとい、現狩人ライトはルーベル、リーグと共に森にいた。



「今日は何もいねぇなぁ……」



ルーベルは斧を担ぎながらそうぼやいた。

確かに今日は何もいない。

まるで、この森から逃げていったように静かで…それが余計に不気味であった。



「…ん?

逃げていった?」



俺の中で何かが引っかかった。

そうだ。

()()()()()()()()

何に?


動物が逃げるものといえば…魔物か魔族だろう。

だが、この周囲には魔物がいるとは思えない程静かで普通の森だった。

そう、荒れていないのだ。

魔物ならば魔が取り付いたことにより暴れるため森が荒れているはずだし、何より魔物の場合は周囲に魔を撒き散らし腐敗させる。

だから、こんな綺麗なはずがない。

ならば………。



「ルーベル、リーグ!!

村に戻るぞ!!

村が危ない!」


「は?

急にどうした、ライト」


「そうだよ。

村が危ないって……森に何もいないんだぞ?」



呆れているような口調のルーベルとリーグに俺は思わず顔を顰める。

だが、2人にとってはそれが当然なのだ。

魔族や魔物なんてこんなところには滅多に出ないのだから。

もしかしたら2人は見たことすらないのではないだろうか?



「…ここに何もいないからだ。

動物達が逃げる奴等は何だと思う?」


「…群れとかか?」


「まぁ、確かに逃げるかもしれないが……。

その場合なら何かしらいるはずだろう。

それがいないって事は魔物か魔族の可能性が高いんだ。

魔物の場合ならば森が荒れているはずだ。

って事は……」


「……魔族」



リーグの答えに俺は頷くと村に向かって走り出す。

全速力では2人が追いつけないので程々に抑えているが。

そして、村に着くと皆がいつも通りに過ごしていた。

ホッとしたのも束の間、フードを深く被った赤い目の男が視界に入った。


赤い目は魔族の証だ。

俺はルーベルとリーグに皆を避難させるように伝えるとそいつに向かってゆっくりと歩き出した。



「ここじゃ見ない顔だな。

旅人か?」


「っ……!?」



フードの男は俺が声をかけると動揺したのか大きく肩を揺らしたが少しして落ち着いたのかゆっくりと頷いた。



「…あぁ。

仕事でな」



仕事、仕事と言った。

魔族にとっての仕事と言えば魔王に仕える事、勇者を殺す事、魔物の管理、魔族以外の土地の奪取だ。

この中で、魔王に仕える事、魔物の管理はない。

魔王は俺が倒したし、魔物はこの辺にはいなからだ。

と、なると…。

俺を殺しに来たのか土地を奪取しに来たのか…だ。



「ライト!」


「こっちは終わった」


「あぁ、先に行っててくれ。

すぐに追いつく」



ルーベルとリーグは何か言いたそうにしていたが、魔族の男が口を挟んできた。



「……ライト、ライトか。

偽名を使っているんだな」


「……さぁ、何の事やら?」


「偽名だと?」


「偽名?」



どうやらこの魔族は俺に用があるらしい。

が、偽名なんてここで言わないで欲しかった。

まぁ、そんなに長くは持たないと思っていたのだが。



「…ライト、偽名って」


「我等の王を殺した貴様を我等は赦さぬ。

だが、我等が偉大なる王は蘇った!

我等が神も漸く、お目覚めになれたのだ!

貴様には死という道しか残されていないのだ、勇者、ラハトよ!」


「ラハト?」


「勇者?」



俺は魔族の言葉に小さく舌打ちする。

そして、その意味を理解すると固まった。

あの魔王が蘇った。

俺が倒したはずの魔王が。

ありえない。

そう笑い飛ばしてしまいたかった。

だが、我等が神の目覚め、という言葉によりそれが真実であると理解してしまった。

魔神が目覚める時、勇者に倒された魔王が蘇る、その話は何度も耳にしていたから。



「……はっ…。

よりによって俺の代かよ」


「ふっ…どうした、勇者よ?

恐れ入ったか!」


「……はっ、吐かせ。

俺が恐れる?

恐れてんのはそっちだろうが。

1度俺に倒された魔王が蘇ったくらいでなにいい気になってやがる。

もう一度倒せばいいだけだろうが。


で、その負け犬に飼われてる犬は何しに来たんだよ?

わざわざ俺に教えに来てくれたってのか?

違ぇだろ。

テメェらはそんな親切じゃねぇよなぁ?」



俺は魔族の男を煽るように言葉を選んでいく。

まぁ、全て本音ではあるが。



「……余程、我に殺されたいらしいな?

貴様の力は魔王様を1度倒した事で衰えているのだろう?

それくらいは知っている!!」


「……は?」



俺はこの魔族の勘違いにハテナを頭に浮かべた。

当然だろう。


何が俺の力が衰えている、だ。


それはギリギリで倒したような奴が代償に魔王を倒すための力を差し出したからだろう。


そういう奴は確かに衰えている、と言えるが……。

俺は軽く遊びに行く程度のノリで倒しちまったんだ。

そんな俺のどの部分に衰える要素があるっつぅ話だ。



「はぁ……俺の平穏な生活邪魔したうえ、俺が衰えてるだぁ?

……バッカじゃねぇの?

ま、テメェくらい衰えていたとしても片手で倒せるけどな」


「お、おい…ライト?」


「どうしたんだ…本当に、勇者様なのか?

ライトが……?」


「……ルーベル、リーグ、その話は後でな。

今は…コイツを倒す」



ルーベルとリーグを一旦静かにさせると既に魔族は怒りで肩を震わせていた。



「き、貴様……殺すっ!!」



魔族は一気に距離を詰めるとそのまま至近距離で魔法をぶっぱなしてきた。

しかも火球だ。

簡単な魔法とはいえ至近距離でやられたら髪が燃えるので面倒なのだ。

しかも、今は手持ちの武器がただの鉄剣しかない。

相棒のバルムンクは呼べば手元に来るがあいつはウザイからやめておきたかった。


そのため、火球をただ切り裂く事しか出来なかった。

本来ならば跳ね返してやるのだが……そんな事をすれば剣が持たない。

しかもそんな事して避けられれば村に被害が出る。

それは俺が避けても同じだ。


つまり、村を守るためにも適度に手加減をしながら魔法を切って消滅させるしか方法はないのだ。

……つぅわけで、かなりシンドイ。

何で俺がまたこんなことをしなければいけないのか…。

本当に理解に苦しむね。



「てか、さっさと片付けねぇと俺の居場所バレんじゃん」



俺は一応これでも勇者だったからな。

迷惑なことに。


まぁ、とにかくそのせいで色んな国から追手がいるのだ。

特にこの国の王…ウィリアムは手強いからな。

見つかれば今度こそ逃げきれないだろう。



「チッ…仕方ねぇな。

来い、バルムンク!」


『やっと呼び出す気になったかこの若造が。

ふん、さっさと切り落とせ』


「うっせぇ、分かってんだよ」



俺はバルムンクを一振りすると見えない刃が魔族の男の足を切り落とした。



「で?

これでも俺が衰えてるって?

だったら、その衰えている俺にさえ負けるテメェは何なんだろうなぁ?」



俺は満面の笑みで問いかける。

魔族はそんな俺の笑みにヒッと息を詰まらせた。

その俺を見る目には怯えの色が含まれている。



「魔王に渡せ」



俺は通信用の水晶を魔族に渡すと逃がしてやる。

あいつが復活したっていうのならば俺だってあいつとの約束を果たす。

そのためにコイツを利用してやるだけだ。



俺はこれから変わるだろう生活を思って笑みを浮かべるのであった。


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