問題児
あれから1ヶ月。
俺は既に馴染んでいた。
「ライト!
狩りの時間だぞー!」
「もうそんな時間なのか……。
分かった、すぐ用意する!」
俺はこの村でただの狩人、ライトとして既に村の人々から信頼を得ることに成功していた。
基本、のんびりで人が良いこの村の人達はすぐに俺を歓迎してくれた。
今では元からいたように接してくれる。
本当にこの村を選んで良かった。
狩りの準備をして仲間と共に森へ入るとすぐに今日の獲物がやってきた。
「猪だ!」
猪は村人となってからよく食べるようになったが正直あまり好きにはなれない。
俺としては猪よりも兎やキジの方が好きなんだが…こいつを狩らなければ皆が餓えることになってしまうのだから仕方ない。
背に腹はかえられない。
「ルーベル、リーグ、俺が先行する」
「了解!」「おう!」
ルーベルは斧を好んで使うため行動が遅い。
リーグの場合は弓なので倒すには時間がかかる。
よって、俺が行く以外の選択はない。
これでも元勇者な俺は力をセーブしつつも簡単に猪を狩ることが出来た。
その後は猪をルーベルが背負い、鳥をリーグが矢で落とし俺が拾いながら村に戻ると皆が今日の成果を褒め称えてくれる。
程々に相槌をうちながら周りに集まってきた子供達の相手をする。
「ライト兄ちゃん!
俺にも狩りを教えてくれよ!」
「ライト兄、遊ぼっ!」
「ライト兄、俺も!!」
「あっ!
ずるい!
ライト兄、私もー!!」
そう言って飛びかかってくる子供達を適当に相手をしていると母親達が微笑ましそうに見ていた。
「いつもありがとうねぇ……。
この子達の面倒を見てもらっちゃって」
「問題ないですよ。
俺も楽しんでますから」
「そう…?
ならいいんだけど……」
お願いするわね、と言って家事に戻っていくと俺は子供達に軽く基礎を教えた。
とはいえまだ子供なので基礎をやっていると分からない程度に遊びながら、だが。
そんな事をしながら暮らして2ヶ月が過ぎた頃。
王宮では……。
「陛下!!
依然としてラハト殿は見つからず……」
「一体どこへ消えたと言うのだ……。
まさか、国外へ出たとは言うまいな…」
「そのような報告は上がっていませんが……あの勇者様ですので……」
あの、というのもラハトはこれまでの勇者とは異なり問題児としても有名であり、その行動は各国の国王を初めとした重鎮達の頭痛の種であったのだ。
だが、それでも力は申し分ないどころか今までの勇者とは桁外れの強さである。
にも関わらず、ラハトは自分を一般人に毛が生えた程度の強さ、としか認識していないのだ。
それ故に各国で色々な問題を起こしてくれた。
そんな奴でも一応は勇者である。
他国には渡したくは無い存在であった。
それと同時に自国にも居て欲しくは無い存在でもあったのだが。
この国の宰相の禿げているのはラハトの行動のせいだという噂が兵達の中にあるのは仕方の無い事である。
「全く……どうしてこうもあの勇者は……」
「…心中、お察し致します」
賢王、ウィリアム・ラナート・リースベルは問題児、ラハトに今日も頭を悩ませるのであった。
だが、この数日後思いもよらぬ形で問題児の居場所を突き止めることになるのだった。
しかし、それと共に更なる悩みの種を抱える事になる。
賢王、ウィリアム・ラナート・リースベルは生涯ラハトに振り回され『不運な賢王』などというなんとも不名誉な名と共に将来、語られることになるのだった。