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リストラ賢者の魔王討伐合理化計画  作者: 平尾正和/ほーち
第四章 連合のリストラ編
32/33

第1話『賢者の帰還』

大変お待たせしました。

あと、内容をお忘れの方用に簡単なあらすじを。

前話に登場人物紹介を書いておりますので、よろしければそちらも参考にしてください。


敏腕経営アドバイザー社賢(やしろ・たかし/ヤシロ)は、ある日彼を逆恨みするリストラ対象者に襲われ意識を失うも、気づけば賢者として異世界に召喚された。

賢者スキルと日本での知識を駆使し、産業改革、組織改革を進めるヤシロは、やたら死にまくって魔石という異世界固有の資源を無駄遣いする勇者パーティーの討伐計画を見直すことにした。

豪華な装備を貸し与えつつも勇者たちを借金漬けのうえ薬漬けにし、無茶なレベルアップ作業を行わせる傍ら、自身は美人秘書を伴っての視察旅行に出かける。

視察の結果、敵の首魁である魔王アンセルモと対面し、講和の余地なしと判断したヤシロは、人類圏へと帰還したのだった。

 魔王の下を辞して10日ほどで、ヤシロとクレアはレジヴェルデ王国王都に帰還した。

 出発から換算して1ヵ月足らずといったところか。


「魔王に、会っただと……?」


 ヤシロの報告をうけ、国王アーマルドは頬をひくつかせながら、なんとか声を絞り出せた。

 宰相イーデンは同じく顔をひきつらせていたが、大神官フランセットは諦めたように肩をすくめて首を振り、元帥グァンは呆れ半分感心半分といった苦笑を漏らす。

 そんな首脳陣の反応を意図的に無視し、ヤシロは淡々と報告を続けた。


「なるほど。つまり、襲い来る魔物を倒すことは、半ば敵を利する行為につながるというわけか……」


 人類圏に侵攻する雑魚魔物を倒したところで、存在力の半分が魔物どもを指揮する騎士級魔人に奪われる。

 そして騎士級魔人が得た存在力の1割が上位の男爵級魔人へと流れ、男爵級魔人が得た存在力の1割が子爵級魔人へ……といった具合に上位の魔人へと流れていくことで、魔王を始めとする魔人たちの強化につながるのである。


「なるほど、だから特殊部隊を設立せよというわけじゃな」

「ああ、そうだ」


 グァンの言葉にヤシロは鷹揚に答えた。


 〈支配〉スキルによって上位者に流れる存在力だが、どこかで断ち切ってしまえば上には流れなくなる。

 例えば騎士級魔人を倒したあと、雑魚魔人を倒した場合、騎士級の上位である男爵級魔人に存在力が流れることがなくなり、倒した者がすべての存在力を得られるのだ。


「理想を言えば騎士級魔人を倒したあとに雑魚を倒していきたいところだが、連中は後方で身を隠していることが多いからな」

「しかし、男爵級以上であれば、砦や廃墟などに陣取っておる事が多いので、狙いやすいというわけじゃな」

「ああ。雑魚魔物を倒した際の存在力が騎士級魔人に流れるのは防げないが、そこから上に流れるのは阻止できる」

「なるほどのぅ……。つまり勇者パーティーによる拠点の襲撃というのは、図らずも理にかなっておったのじゃなぁ」


 グァンは独り言のように呟きながら、何度も頷いた。


「まずはテストケースとして、現状で優秀な伍を中心に小隊を組み、それで敵の拠点を落としてみたいのだが」

「ふむ。昇格(クラスアップ)済みでレベル20超えの伍か……。おるにはおるが、防衛の要でもあるからのぅ」

「言いたいことはわかるが、彼らが前線で頑張れば頑張るほど、魔王軍の強化につながるかな。ここらで大幅な方針転換は必要だと思うぞ」

「……承知した。早急に手を打とう」


**********


「次の角を右だ」


 ジェリー率いる伍は、現在彼の先導でジャラザーク砦内部を進んでいた。

 砦までの行程は小隊を組んで進み、ジェリー隊の力を温存しながら砦までたどり着くことができた。

 残りの隊員はジェリー隊が砦に侵入するための血路を切り開くため、半数ほどが犠牲になっている。

 貴い犠牲ではあるが、軍全体からすれば微々たるものであった。


「二つ目の扉だな」


 ジェリーたちは迷いなく砦内部を進む。

 それもそのはずで、ここジャラザーク砦はもともと人が作ったものなのだ。

 砦内部の構造といった情報は、すべて人類の手にある。

 魔王軍が多少手を加えている部分もあるが、大幅に変更されているところはなさそうである。


「扉の向こうに敵がいるな。5匹ほど」


 密偵の索敵能力で敵の配置を看破したジェリーに従い、他のメンバーが隊列を組む。


「まずはラルドが突入し、続いてケインとセリムが飛び込め。カラムは後方から援護。俺も可能であれば援護に回る」


 小声で出された指示に全員がうなずき、装甲騎士のラルドが扉の前に立つ。

 他のメンバーに目配せをしたあと、ラルドは扉を蹴破り、盾を構えて突進した。


「おおおおおお!!」


 雄叫びとともに突進したラルドの先には、剣や盾を構えたリザードマンの群れがいた。

 向こうも侵入者に気付き、扉の前で待ち構えていたようだが、ラルドのシールドバッシュによって、扉を半包囲するように立っていた3匹がふっ飛ばされる。


「せいやぁっ!!」


 ラルドのすぐ後ろから扉をくぐった騎士のケインは、部屋に入るや右前方に素早く踏み込み、ラルドに押されてバランスを崩したリザードマンに向けて、鋼のロングソードを振り下ろす。


「ギィェッ……!!」


 肩口から袈裟懸けに斬られたそのリザードマンは、その場で絶命。

 ケインはさらに部屋の奥で構えていたリザードマンに向かって行った。


 ケインに続いて武闘法士のセリムと魔剣士のカラムが踏み込む。

 セリムはケインとは反対側、左前方に踏み込み、ラルドに押されて体勢を崩した別のリザードマンに踏み込んでいった。

 さすが拠点防衛に配置された魔物と言うべきか、ほんのわずかな時間で体勢を取り戻し、セリムに対して剣を振り下ろしてきた。


「甘いわっ!!」


 しかしセリムはその剣筋を見切り、最小の動きで交わしながら、がら空きになった顎に強烈なフックを打ち込んだ。


「ギャブゥッ……」


 レベル30を超える武闘法士の右フックは、リザードマンの頭の大半を吹き飛ばした。


「ギギィェッ!!」


 魔物の頭を一撃で吹き飛ばすような大振りのフックを放ち、隙のできたセリムに対し、奥に控えていた個体が襲いかかる。


「ギャペッ……!」


 しかしそのリザードマンは、剣を振り上げたまま弾かれたように体をのけぞらせた。


「カラム、ナイス!!」


 魔剣士カラムの放った《ウィンドブレット》がリザードマンの額に当たったのである。

 下級の攻撃魔法だけに大したダメージとはならないが、一瞬の隙を作れれば充分であった。


「オォラアァッ!!」


 右フックを振り抜いた体勢から身体を捻り、低い姿勢から放たれたセリムの左ストレートがリザードマンのみぞおちを打つ。


「ギャボァッ……」


 強烈なボディブローを受けたリザードマンは腹に大穴をあけて絶命した。


「そりゃぁ!!」

「グペァッ……」


 ラルドの正面にいたリザードマンは、シールドバッシュを受けた直後、彼の振り下ろしたメイスに頭を潰された。


「ギャギャッ!? ギェッ……」


 のこる1匹だが、突入直後にジェリーが投げた紐付きクナイの紐に脚を絡め取られてバランスを崩し、その隙を突かれ、1匹目を倒したケインによって続けざまに斬り殺された。


「クリアっ!」


 5匹のリザードマンを倒したあと、部屋に入ったジェリーの掛け声を受け、他のメンバーは構えをといた。


 その後もジェリー隊は順調に砦内を進行する。

 そして何度目かの扉を潜った先に、それはいた。


「グアアオオオオオオッ!!」


 雄叫びをあげ侵入者を威嚇するように巨大なメイスを振り上げる巨躯の魔人。


「あれが、男爵級魔人ジラルか……」

「グガオァウガァオァウゥオァ!!」


 ジラルはなにかを訴えようと声を発したが、ジェリーたちには意味不明な喚き声にしか聞こえなかった。


「んー、でかいな、とりあえず」


 初めて男爵級魔人を前にしたジェリーだが、それほど緊張はしていなかった。


「なぁ、ダンジョンのボスとどっちが強いかな?」

「さぁて、案外あっちのほうが強かったりしてな」

「まぁ威圧感って意味じゃあ大したことねぇかもな」

「おいおいみんな、油断は禁物だよ」


 そんな軽口を叩きながら、ジェリー体は魔人ジラルに向かっていった。


**********


「ジェリー隊、無事男爵級魔人を討伐したとのことです」


 元帥の執務室で報告を受けたヤシロとグァンは鷹揚に頷いた。


「魔人とかいうのも案外大したことなかったみたいじゃぞ?」

「まぁ、ジェリー隊は特別レベルの高い伍だからな。冒険者ギルドでもトップランカーらしいじゃないか」

「しかし、拠点にたどり着く行程で小隊の半数が犠牲になったと聞きます……」


 二人の会話に割って入るようにそう言ったクレアは、沈痛な面持ちであった。


「しかしのぅ、戦場での損失に比べれば微々たるものじゃしなぁ……。こりゃ案外上手いこといくかもしれんの」

「案外は余計だ。想定通りだよ」


 そこに新たな伝令が飛び込んでくる。


「謁見の間へ。王がお待ちです」


 伝令に従いヤシロとクレア、グァンが謁見の前行くと、すでに宰相イーデンに大神官フランセットがいた。


「本来であれば連合の首脳会議で伝えるべきことだが、諸君らには先に知っておいて欲しいと思ってな。忙しいなか呼び立ててすまん」


 そう言って一度言葉を区切った国王アーマルドは、一同を見回したあと重々しく口を開いた。


「ドレッサ共和国より人類連合から離脱したいとの申し出があった」


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