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ボクの使命〜世界の理〜

作者: 宇野午葉

天使の名前が出てきますが、宗教は全く関係ありません。あくまでフィクションとして、お楽しみ下さい。

ボクは魂の管理者。


いや、管理者と言うほどボクは偉くないか。


ボクは、毎日時間がきたら壷の蓋を開けて、

時間になったら壷の蓋を閉める。


ただ、それだけ。


ボクに与えられた仕事はたったそれだけ。


壷。

壷は“魂の壷”と呼ばれている。


青くて

赤くて

黄色くって

緑だったり

紫色だったりする

不思議な色の壷。


壷は新しい魂が産まれる場所。


どういう仕組みになっているのかは分からないけど、蓋を開けるとキラキラと輝く魂が溢れ出す。


壷から溢れ出た魂は“転生の部屋”に入り、やがて地上に産み落とされる。


そして、地上で生をまっとうした魂は“再生の門”をくぐり抜け天界に戻ってくると、再び“転生の部屋”に入り地上に産み落とされる日を待つ。

魂のサイクルはこんな感じ。


いつからこんな風になっているか分からない。


いつからボクがここに居て、何故こんな風に魂のサイクルを理解しているのかも分からない。


ボクは気がついたら、毎日時間通りに壷の蓋を開けては閉め、開けては閉めを繰り返してた。


別に不満がある訳じゃない。


壷から溢れ出る魂は、いつも綺麗で、ボクはそれを見るのが大好きだから。


大きさも、色も、輝きも一つ一つ違う魂は、見ていて飽きる事はない。


でも、壷が開けられる時間は限られているから、ボクは壷の蓋が閉まっている多くの退屈な時間を、地上の様子を見る事で消費する。


壷の横には、地上の好きな場所を見下ろすことが出来る穴が開いているのだ。


地上では、生を受けた魂達が歌い、泣き、笑い、怒り、喜ぶ様子が見える。

ボクはいつもその様子を眺めては、一緒に歌い、泣き、笑い、怒り、喜ぶのだ。


ある時。

生をまっとうして“再生の門”へ向かうはずの魂が、地上をさまよっているのが見えた。


最初はあまり気にしなかった。


だけど、地上をさまよう魂の数は徐々に増えていき、“再生の門”をくぐるはずの魂が少なくなってくると、さすがに心配になる。


今まで調和の取れていたサイクルが崩れとどうなるか・・・


漠然とした不安にかられて、地上に魂を回収しに行こうかとも思ったが、ボクは壷の側を離れる訳にはいかない。


悩んでいるうちに、壷の蓋を開ける時間になった。


キラキラ

フワフワ

色も、形も、大きさも様々な魂達。


壷から溢れ出る魂達を眺めていると、いい事を思いついた。


ボクは魂の中から、一際輝きの強い魂に手を伸ばす。


すると、その白く輝く魂はボクの誘いに応じるように、ちょこんと手のひらの上に乗った。


温かい・・・


初めて魂に触れたボクは感動した。


ずっと、気がついたら一人この場所に居たボクには、その魂の温もりがひどく懐かしいものに思え、泣きそうになる。


いけない。

感傷に浸ってる場合じゃないな。


ボクは白く輝く魂から手を離すと、壷の蓋を閉めた。


他の魂達が“転生の部屋”へ向かう中、ボクが触れた魂はフワフワとボクの周りに漂っていた。


「君にお願いがあるんだ」


手を差し伸べ、白く輝く魂に語りかけると、その魂は再びボクの手のひらの上に収まった。


「地上でさまよっている魂を、導いてやって欲しい。やってくれるかい?」


ボクの問いかけに、白く輝く魂は一瞬光を強めた。


ボクはそれを肯定の意味だと捉え、白く輝く魂に感謝の気持ちを伝えるべく、優しくキスをした。


すると、

魂は今までとは比べものにならないくらい、強い光を放った。


あまりの眩しさに、思わず目を瞑る。


目を閉じても、しばらくはチカチカと光が瞬いて見えた。


やがて、光が治まるのを待って、ボクは恐る恐る目を開ける。


「!!」


まず目に入ったのは純白の翼。


それから、艶やかな黒い髪。


濡れて光る黒曜石のような瞳。


それは柔らかな微笑みを浮かべた一人の女の子のものだった。


茫然とするボク。


だって、そうでしょう?


ここにはボク以外に魂しか動くものは居なかったんだから。


彼女は、あんぐりと口を開けて突っ立ってるボクを見ると、純白の翼を広げて跪き、頭を下げる。


「わたしに生と使命を与えて下さったあなた様に感謝します、創造主。」


ボクの耳に届いた心地よい音色が、その女の子が発した言葉だと理解するのに、少し時間がかかった。


それから、はっと気がついて女の子に言う。


「創造主?ボクが創造主だって?!違うよ!全く違う。ボクは“創られたもの”さ。間違っても創造主とは呼んではいけない」


女の子は跪いたまま、腑に落ちない表情でボクを見上げる。


「それに使命なんて大げさなものでもないし。君にはちょっとボクの手伝いをして欲しいだけさ。さぁ、立って」

と彼女に促す。


「ではマスターとお呼びすればよろしいですか?」


可愛らしく上目遣いで尋ねる彼女に、ボクは慌て首を横に振った。


「ボクはメタトロン。ただここに居て、毎日壷の蓋を開け閉めするだけの存在だ。マスターだなんて、大層なものじゃない」


「しかし・・・」


何か言いかけた彼女の言葉を遮ってボクは話続ける。


「ボクと君は家族であり、友達だ。ボクの事はメタトロンと呼んでおくれ。君の事は・・・そうか。産まれたばかりだからまず名前をつけなきゃね。どんな名前がいい?」


ボクがそう訊くと、彼女はにっこりと微笑んで

「メタトロン様にお任せします」

と答える。


キラキラと眩しい彼女の笑顔は、朝日に反射して輝く湖のようだ。


「ジブリール。ジブリールなんてどうたい?


ボクの提案に彼女は満面の笑みを浮かべる。


「可愛らしい名前をありがとうございます、メタトロン様」


ジブリールは喜んでくれたようたが、ボクはひとつ気に入らない事があった。


「ジブリール。ボク達は家族であり、友達だって言っただろ。ボクの事は呼び捨てで構わない。あと堅苦しい言葉使いも禁止」


ジブリールは少し考え込んだが

「うん。わかったわ、メタトロン」

と言って笑ってくれたので、ほっとした。



やがて、ジブリールは地上の魂達を“再生の門”に導く為に地上へと向かった。


ボクは地上の様子を穴から見ていたが、迷子の魂の数は意外に多くて、ジブリール独りでは大変そうだった。


そこで次の日、ボクは壷の蓋を開けた時に、ジブリールの時と同じように、一つの魂に手を差し伸べて、こうお願いした。


「地上の魂を救って」

と。


その青く輝く魂は、ボクの願いを受けて、漆黒の翼と、輝く金色の髪に、瑠璃色の瞳を持つ少年の姿になった。


漆黒の翼を持つ少年は、なかなか愉快な少年だった。


少年は、まずボクに一礼すると、産まれた喜びを歌にして披露してくれた。


それから、ボクがその少年に“イスラフィル”と言う名前を付けてあげると、名前をくれた感謝の気持ちだと歌を歌い、仕舞いにはボクの手を取って踊り出した。


やがて、休憩しに戻ってきたジブリールも交えて、三人で友情の歌を歌い、次に壷の蓋を開ける時間になるまで三人で輪になって踊った。


今まで独りだったボクには、三人で過ごす時間はとても楽しいものだった。


ボクは相変わらず、毎日時間になると壷の蓋の開け閉めを繰り返す。


ジブリールとイスラフィルは翼をはためかせて、地上を飛び回る。


暇なボクは、その様子を穴から眺めていた。




ボクは毎日“魂の壷”の蓋を開ける。


壷からは毎日新しい魂が溢れ出る。


その上、何度も“再生の門”をくぐり、転生する魂もいるもんだから、地上に産み落とされる魂の数も徐々に増えていく。


当然、ジブリールとイスラフィルの仕事の量も増えてくる。


二人では仕事をさばききれなくなったので、ボクは仲間を増やす事にした。


壷から溢れ出る魂に手を差し伸べる。


ボクが触れると、魂は白い翼や、黒い翼を持つ者に姿を変えた。


仲間が増えた事で、静かだったこの場所も、一段と賑やかになった。




“魂の消滅”に最初に気づいたのはイスラフィルだった。


転生を繰り返した魂は摩耗し、やがて消滅する。


良く考えれば、毎日魂が壷から溢れ出る中で、地上の魂を調整するには、ある程度の魂の消滅は必然な結果だと思う。


ボクは冷静にそう分析した。


そんなボクとは対象的に、心優しいイスラフィルは、魂の消滅に立ち会い、消えゆく魂を哀れみ、讃え、労い、その気持ちを歌にした。


イスラフィルの優しい歌声は、魂に直接響く不思議な音色。


彼のその歌声は、消えゆく魂に安らぎを与え、残される魂に希望を与えた。


やがてイスラフィルと、彼と同様の黒い翼を持つ仲間達は、魂の消滅に立ち会いう事を自分達の仕事とした。


単純に、地上の魂を“再生の門”に導くだけでいいと考えていたボクは、イスラフィルが違う仕事をし出した事に驚いた。


でも、よく思い返してみると、ボクは最初に“地上の魂を救って”とイスラフィルにお願いしたんだっけ。


だったら、イスラフィル達が自分達の能力を使って、消えゆく魂に安らぎを与えるのも、残される魂に希望を与えるのも、決して間違った事じゃない。




それから、地上の魂が増えるにつれて、仲間の数も段々と増えていった。


いつしか、白い翼を持つ仲間達は“天使”と呼ばれ、

黒い翼を持つ仲間達は“死神”と呼ばれ、

ボクは“神”と呼ばれるようになる。


“天使”とは、神の使者として、魂を天に導く者という意味。


“死神”とは、神の代行者として、死に立ち会う者という意味がある。


ボクは“神”と呼ばれる事に抵抗があったが、(だってボクも“創られたもの”だし)

「大所帯となった天使と死神に組織的な活動をさせるには、トップに立つ者が必要だ!」

と言うジブリールに、無理やり神の座に祭り上げられた。


さらに、

「メタトロンは壷の蓋を開ける以外は暇だよね」

と言うイスラフィルの一言で、天使と死神達を管理し、それぞれに仕事を割り振る役目をやらされ、ボクは忙しい日々を送ることになった。



この役目は、ジブリールとイスラフィルが居なくなった今も変わらない。


忙しい日々の中で、ボクは唯一の楽しみは“地上の様子を見る”こと。


それは、ジブリールとイスラフィルが地上を飛び回っていた頃から変わらない、ボクの趣味。


ほら、見てイスラフィル。

君によく似た漆黒の翼を持つこの少年は、初めて魂の消滅に立ち会って涙しているよ。


あぁ、どう思うジブリール。

君によく似た純白の翼を持つこの少女は、君と違ってニコリとも笑わないんだ。

天使だってサービス業なんだから、スマイルは必須なのに・・・


こうして、今は思い出の中に居る、二人に話しかけるのがボクの日課。



いつか


“魂の壷”が壊れる日が来るまで


二人が飛び回った地上を見つめ


二人が愛した人間達を守る


それは


二人がボクに託した

“最後の願い”


それを叶えることが


ボクの使命

この作品は、死神の役割や、天使と死神の始まりを考えてできた、『最後の願い』の補足的な物語となりました。今後は死神&天使シリーズとして、関連する物語を作る予定です。是非、次回作品も読んでください!

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