第五十四話 わたしじゃ、いや?
僕の声にリリーがハッと目を開き、僕を見つめる。
「ルイス」
「うん。戻ったね」
「よかったぁ……!」
ちゅっ♪
今度はリリーから、涙の混じった少ししょっぱい味のキス。ぎゅっと抱き付いてきて、何度も何度も。
「ごめんね、不安だったでしょ」
「ううん。……ぐすっ。よかった、よかったぁ!」
「ちゃんとここにいるよ? ほら、ね?」
「うん! うん!!」
ちゅっ、ちゅっ、ちゅぅぅぅっ♪
何度も何度もせがませる。ごめんね、リリー。また不安にさせちゃったな……。でも、心に誓ったんだ。もう決して祈と離れない。祈を守り続けるって。
しばらくして、祈が落ち着いた頃。お互い正面を向いてベッドに座り、僕の右手とリリーの左手を重ねてきゅっと手を握りあっていた。
「ルイスは好きな時にあの姿になれるのかな?」
「うーん、多分そうだと思うよ。また祈大好き! ってなったらなれると思う」
「そっか。そっか……」
「ん~? もしかして、結構気に入った?」
「べ、別にそんなんじゃない。ただ、昔を思い出しただけ。……こんなに小さくはなかったけれど、なんか懐かしくなっちゃって」
僕はそっと隣を向いてリリーを抱き寄せる。そしてリリーの耳許で問いかける。
「あの姿で僕がいると嫌かな?」
「ううん、全然そんなことないよ。むしろちょっと嬉しいかも。こっちに来てから、身分のせいでちっとも友達とか出来ないし。はじめてのお友達みたい」
「友達?」
「うん。……うん?」
僕の質問の意味が分からなかったのだろう。僕を見て、どういうこと? とアイコンタクトで聞いてくる。
「僕たちさ、恋人……婚約者、だよね」
「うん。そうだけど、なんで?」
「あの姿でも、僕は僕だよ?」
「うん、それは分かるけど……」
僕は先程と同じ手順で、一瞬で女の子の姿になってリリーにキスをする。
ちゅぅっ♪
「女の子同士は嫌、かな?」
日本で男の娘度を高めるために結構頑張って学んだ、見る人がグッとくる、女の子が可愛らしく思える角度からリリーを見つめてそっと囁きかける。ちょびっとだけうるうるっと涙目になることも忘れなかった。
そのリリーは、僕が女の子になった瞬間から、キスをしている間も、僕が問いかける時も、ただただずっと目を大きく見開いて驚いていた。




