第二十二話 この世界には萌えという要素が足りない!! 前編
こんばんは。五月雨葉月です。
よろしくお願いします。
この世界に来て、最近色々なストレスが貯まってきた。
例えば、食事。
さすがは王族に出す食事。とても美味しく、高級なものばかり出てくる。
これには全く不満はない。
テーブルマナー等にも、議員時代の名残で覚えていて、さらにマナーの違いも少ない事から直ぐに順応することが出来た。
しかし、不満はそこではない。問題は料理の種類だ。
そう、日本食が全くと言っていいほど無いのだ。
揚げ物はある。でもさつま揚げのような物は無い。
魚料理はある。でも刺身や寿司のような物は無い。
蒸し料理はある。でも茶碗蒸しのような物は無い。
汁物はある。でも味噌汁や豚汁のような物は無い。
それでも食べ物はまだいい方だ。
例えば娯楽。
前までは暇な時には本をひたすら読んでいたが、ほとんど読み尽くした今は、特にやることがなく、二人の妹の遊び相手をして気を紛らわしていたが、ずっと遊んでいるのも多少疲れる。
映画。アニメの劇場版やアクション映画、祈と一緒に見た恋愛映画まで、月に数回も見た時もあった。
しかし、電気が無く、代わりに魔法や結晶で明かりを確保していた。
他には……アニメに漫画、ラノベに同人誌、美少女ゲームにコスプレ。
そう。萌えに関する事が皆無と言ってもいいほど無いのだ。
挿し絵がついている小説はあるが、それでも真面目な小説だ。
アニメはそもそもテレビが無い。
ゲームも同じ事が言える。
漫画や同人誌は言うまでもない。
コスプレは…………まあ、この世界の服がコスプレみたいな物だが。
しかし――――そうだ。女装、女装がしたい。
コミケの売り子や祈と遊ぶとき。
仕事の時はもちろん違うが、それ以外の普段の半分ほどを女装して過ごしていたと言っていたと言っても過言ではない。
うーん、あのスカートの感触とサラサラの長い髪の毛の感触が忘れられない……
せっかく魔法が使えるなら本当に女の子になりたい気もするが、残念ながら性を替える魔法は存在しない。
造ればいいじゃん、とも思うが、どうやら新たな魔法を造る事には相当な労力と時間、それにかなりの力を要する様だ…………ぁ!!??
「うぐぁぁぁ!? 」
突然、身体中を突き抜ける刺すような痛み。
それも尋常でないレベルの痛みだ。
あまりの痛みに床に倒れんだ。倒れた痛みも感じない。
「あ、あぁぁあ!! いっ……うぐぐぅっ!? 」
何だ!? 何故痛む!?
転がりながら簡単に確認してもどこも何も変化している様には見えない。
「お、お兄ちゃん!? 」
誰かが駆け寄ってくる慌ただしい足音。そしてグラグラと揺さぶられる感覚。
しかしそんな事はお構い無しと痛みは更に増し続ける。
遂には痛み以外には何も感じなくなった。自分の発する声が頭の中で延々と響き続ける。
うぅ、助……けて…………
そして――――――
『貴方の望みは聞き届けました』
突如の完全なる静寂。
そして、不思議な声が体全体を包んだ。
『十度目の誕生日、つまり貴方が十歳になった日の夜の日付が越えた頃、貴方の願いが魔法となり届けられるでしょう』
そして、不思議な事に、今まで感じていた訳の分からない強烈な痛みが嘘の様に消えて無くなった。
『これは、永遠の血の恩恵を与える儀式。よく耐えましたね。願わくば、貴方がずっと健康でありますように……』
その声は、ポカポカと暖まる不思議な声。
最後の言葉が終わると同時に、体の中の血が熱くなって全身をくまなく巡っている様な感覚がした。熱いと言っても、心地よい、お風呂の温度くらいになって、それに浸かっている感じだ。
しばらくして、熱が失われ、無くなっていた体の感覚が戻ってきた。
床に倒れた筈なのに、下が柔らかい。何処かに寝かされている様だ。
(誰かが運んでくれたのかな? )
そう思った後、まず第一に痛みが無いか、そして、どこかおかしな所は無いか、ざっと元に戻りつつある感覚の中で確認してみた。
「どこも……痛くない、よな? 」
試しに声も出してみる。
ちゃんと聞こえているな……
手をゆっくり握ったり開いたりしてみる。
どこもおかしくないのでもう少し早く握ったり開いたり。
「感覚は戻ったか? 」
頭も段々スッキリとしてきた。
「ルイス、大丈夫か? 」
父様の声。
目を開けて周りを見てみると、父様と見慣れた空間だった。どうやらここは、この前新しく貰った自分の部屋の様だ。
「はい、大丈夫です」
その言葉に、ホッとした様子の父様。
「ところで、何があって、何を聞いたんだ? 」
ん? 父様は何かを知っているのか? そう言えば、さっきの声も何やら言っていたような……
「あっ、えっと……考え事をしていたら急に体が痛くなって…………」
「うん」
「いきなり静かになったと思ったら、不思議な声が聞こえました。そうしたら、痛みが無くなって、血が……うん。血が全身を駆け巡るように流れた様に感じました」
そう言った後、何かを思い出そうとする父様。
「その声は何を言っていたんだ? 」
僕は、あの不思議な声を思い出していた。
これでも記憶力は良い方なんだ。
「確か……『貴方が十歳になった日の夜の日付が越えた頃、貴方の願いが魔法となり届けられるでしょう。これは、永遠の血の恩恵を与える儀式』――――」
そこまで言った途端、パチン! と指を鳴らし、やっと思い出した事を喜ぶように、
「そう、それだ! 」
と言ってきた。
ここまでお読み頂き、ありがとうございます!
タイトルに、『前編』とついています。
多分2~3話に別れてお届けする事になります。
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