第十九話 冒険者
こんばんは。五月雨葉月です。
今回はもっぱら説明が多いです。
この世界に来て、八年と半年程が過ぎた秋。
日本とほぼ変わらない気候のサイクルである、ここ、シスタリア王国の暑い夏が過ぎ、過ごしやすい季節になり始めた。
三ヶ月ほど前、ニルムさんから、
『もう私に教えられる事は無いよ。免許皆伝だ! 』
と言われた。
免許皆伝――と言っても免許などは無いので口だけだが――の辞を受け、最近は魔法以外の事に取り組んでいた。
ニルムさんは世界に三人しかいない世界最高ランクのランクSS。
そんな凄い人直々に教えられ、免許皆伝――本当に口だけだが――の教えを受けた僕は、世界中から注目された。と言っても、日本の様に取材が来たり、何やら押し掛けて来たりする訳ではなく、単に魔法や冒険者などの業界の新聞、というよりニュースに載っただけ、という事だが。
ニュースに載った、というのは、高ランクの魔法使いは魔法協会に登録する必要があるので、免許皆伝の辞を受けた後にニルムさんと登録をしに王都シスタリアの中心部にある魔法協会本部に行った時、ニルムさんに、
『私の弟子だ』
と紹介されただけではなく、登録の際に最新の魔法ランクを調べる必要があったので測定してみたら、なんとSランクと言われたのだ。そして、王国筆頭魔法使いのニルムさんと、王子の僕がが居る、ということで立ち会った魔法協会本部の本部長さんが、
『まだまだ王子様には伸びしろがある。これからもっと成長する事でしょう』
と言われた事で注目されたのだった。
国会議員の時に十分注目される事には慣れていたものの、八年以上人前に晒される事があまり無かったので少し照れてしまったが。
その時、本部長さんが気になる事を言っていた。
『最近の子供は類を見ないほど凄い才能を持っている』
と。
詳しい事は分からなかったが、どうやら僕と同い年でAAAランクの女の子が登録をしたらしい。
それもつい先日の事だそうだ。
それを聞いたとき、頭の隅で何かが疼き、少し頭が痛くなった。それに何故か分からないが、直感的にその女の子について知るべきだと思った。
しかし、さすがに女の子の事を調べさせるのもおかしいし、逆の事を自分がされていると考えたら嫌だったので、世間で知られている程度に留めた。
魔法の業界に詳しいニルムさんに聞いたところ、なんとその女の子は僕と同い年で、同じ誕生日だと言う。
その娘の名前は、リリー・リナ・リーアシュトラーセ。
リーアシュトラーセ侯爵家の一人娘で、幼い頃から天才と言われた娘だそうだ。容姿も良く、可愛い女の子らしい。今まで聞いたことが無かったのは、僕が注目され過ぎたせいらしい。
(何とも悪いことをしたなぁ……)
さらに、天才ともてはやされている割にはそれを誇る訳でも無く、普段から物静かでいつも何かを考えている様な雰囲気を醸し出している、と言っていた。
誇る訳でも無い、か…………。
(祈に似ているな……。祈も頭が凄い良いのに自慢する事もなく黙々と勉強する娘だったし)
気になる事も多かったが、これ以上調べる事は気が引ける。
その娘の事は頭の済みに軽く留めておくくらいにして、最近始めた剣術や柔術の予習を始めた。
この世界での剣道や柔道な、日本での剣道や柔道とは全然違う。
日本では、精神を学ぶ事や、自らの体を鍛えるためなどに剣道や柔道を学ぶ。
しかし、この世界では、言葉の通り、自らの命を守るために使われる。
所謂モンスターとも言える、害獣。
害獣と言っても、地球にいる凶暴なクマなどとは格も種類も違う。
小さな物では、ネズミのような姿をしたものから、大きな物ではドラゴンの様な生物まで、多種多様に生息している。
害獣がいる、という事は、それを討伐するための冒険者も存在する。
冒険者にもランクがあり、冒険者カードに記された討伐記録や、そもそもの能力などから換算されてランクが決められる。
冒険者カードは優秀で、どういうシステムなのか分からないが、個人情報と連動し、害獣を倒すと勝手にカードに記録されて、その分の所謂経験値が加算される。
本とかで読むような異世界と同じように、経験値が増えればレベルも上がり、ステータスも上がる。そして、それらが上がれば受けられる任務や依頼が増え、収入が増える。
害獣を討伐したとき、よく有るような倒した後の死体が消えてドロップ品が出てくる、ような事は無い。
倒したら自分で後始末をし、使えたり、売れたりする部分を自分で採取する。そして、死体が残っていると他の害獣が死臭で寄って来てしまう。だから魔法等を使って燃やすか、埋める等の後始末をする。
倒したり、交戦した記録は全て冒険者カードに記録されるため、倒してそのまま後始末、という事でも構わないのだ。
殺して、記録されるのは害獣だけではない。
勿論、人も記録される。
戦争中や、盗賊に襲われた時。
人を故意に殺した時。誤って殺した時。
関係なく、カードに記録される。
個人の情報の為、名前は記されず、種族名だけが記録される。
害獣でも、人でも。
命の駆け引きであることは間違いない。
いかに長く生きられるか。それは、自分の力に左右される。
この国の冒険者になれる最低年齢は十五才。
それまでに、命を守る術を学んでいくのだ。
王都などの都市部では、そもそも都市の周りにあまり害獣がおらず、さらに冒険者以外の職が多いため冒険者を希望する人が少なく、田舎に行くほど希望者は多い。
しかし、都市部では男女問わず憧れである騎士になりたい人が圧倒的に多く、騎士もその様な技術が必要であるから、その手の道場や師範は多くいる。
就学率ほぼ百パーセントのシスタリア王国では、各地に学校があり、その学校でも剣術や柔術を教える所が多い。
軍にも数々の武勲を立てた人々を育てた師範がおり、僕は今、その師範に剣術や柔術を習っていた。
ニルムさんとはまた違った教えかたで、さらに体のせいで若干難しいが、少しずつ成長していく感覚があるのは嬉しい事だ。
ここまでお読み頂き、ありがとうございます。
次回は、ルイスの初めてのおつかい……もとい、初めてのお出かけになります。
今回の作中にもあった、魔法協会への登録の時ですね。
ただ、登録の場面は出てきません。あくまでお出かけがメインです。
ブクマ、ご感想、ありがとうございます!




