第二話 駅からの帰り道
こんにちは。五月雨葉月です。
第二話です!
またお読み頂き、嬉しいです。
では、今話も、よろしくお願い致します!
「何か他に用事はある? 」
三月が着いたばかりの祈に気をつかって聞いた。
「ん~ん、ないよ。早くミキと帰りたい」
その言葉に、三月は照れたように頬を小指で軽く掻き、 こほん、と咳払いしてこう言った。
「僕もだよ、祈」
二人はじっと見つめ会い、ゆっくりと、少しずつ顔を近づけた。それぞれの息づかいが聞こえてくるような、とても近い距離まで近づくと、三月がぐっ、と一気に顔を寄せ 、祈の唇にそっと自分の唇を触れさせた。 そして祈の体をきゅっ、と抱き寄せた。祈も三月を抱きしめる。
「ちゅっ♪ ちゅぅぅぅっ、っはぁ……んっ」
甘くてとろけそうな感覚と共に、いとおしさを感じた。 そして、長いようで短いキスが終わり、すぐさっきまで触れあっていた唇に切なさが込み上げてきた。 そして祈が、
「もうおわり? 」
と、お互い抱き合ったまま上目使いで三月を見つめる。 三月の方が若干背が高く、三月の見る角度からは、上目使いをする祈は最高に可愛く見えるのだった。
「今度は祈からって……ん」
三月の言葉が終わる事も待たず、祈は三月にキスをした 。
「ちゅぅぅ、ちゅ……はぁはぁ、ちゅぅぅぅぅう♪」
三月は、唇をふれ合わせている祈を優しく見つめると、目をつむって、祈の可愛い口の中に、自分の舌をそっと入れ る。
「ちゅぅっ。 !?むぐっ……んっ……みちゅきぃ…………はぁ、んんっ」
接している唇と唇の中と互いの口、その小さな空間で二人 の舌は情熱的に求め合っていた。
そして唇を離し、二人は見つめ会いながらそっとはなれる と、
「祈」
「なぁに、ミキ」
「大好き」
三月のその言葉を、満面の笑みで聞いた祈は、思いっきり三月に抱きついた。その勢いが思ったより強く、三月は少しよろめいた。
「おっと…………」
「わたしも、ミキのこと、大好きよ」
「祈」
「ミキ」
短く互いの名前を呼びあった二人は、またも互いの顔を近づけ、 キスを………………………………することが出来なかった。
「ん? 」
「どうしたの? ミキ」
「いや、妙に注目されている気がして……」
そう。あまりにも情熱的なキスを続けていたせいで、周りの注目を集めてしまっていたのである。
まだまだ帰宅途中のサラリーマンやOLが多い時間帯、 そこそこ人の多い駅のなかでイチャイチャしている二人を、もう誰もが見ていた。
サラリーマンは殺気の籠った嫉妬の眼差しで三月を射殺すかのごとく睨み、OLは祈を羨ましげに見ていた。
「きゃっ、本当……ミキ……」
「そうだね。行こうか……」
恥ずかしがる祈は、ミキの右腕にそっと隠れるように抱きついた。 祈が恥ずかしい時についやってしまうクセだ。
その事を理解している三月は、これ以上祈が恥ずかしがら ないよう、その場を離れようとする。
そしてその様子も周りに見られており、たまたま居合わせ二人の様子を見ていた女子高生が、顔を真っ赤にして二 人が見ないように、両手で顔を覆っていた。しかし、その 友達だろうか。同じ制服のこれまた顔を赤くさせた女子高 生に、いやあんたそれ隠れてないじゃん、と突っ込まれていた。両手の指の隙間はしっかりと空いていたのである。
二人は周囲の目から逃れるようにして駅を後にした。 もちろん祈は三月に抱きついたままだった。
駅から歩くこと数分、桜の並木がある大通りまでやってきた。 二人は相変わらずくっついたまま、三月が祈の話を聞く形で会話をしながら歩いていた。
三月が駅へ向かった時の、半分近い速さで二人は歩いて いたが、一緒に居られる幸せが、時間を忘れさせた。
二人はさらに歩を進め、緩やかなカーブにやってきた。
駅から二人の家へ向かうときは、坂を上る形になる。
「ここの桜もほとんど散っちゃったね……」
「そうだね。見に来る人も少なくなったね」
「ミキと桜を見ることは、最近あんまりなくなっちゃった 」
「ごめん……」
「ううん、二人とも忙しいから仕方がないよ。また来年、 二人で見に来よう? 」
「そうしようか。一年後のデートの予定も決まったね」
そんな他愛のない話をしていた、その時。
三月は緩やかな坂の上からやってくる、猛スピードで小刻みに蛇行しながら下り降りるトラックの姿を見つけた。
(危ないなあ……)
祈は、三月と喋っていて気づいておらず、また、危ないなと思いながらも三月は祈との会話を再開した。
しかし数秒後。
視線を前に戻した三月が見たもの、それは、カーブであるはずなのに、真っ直ぐ猛スピードで自分達に向かってくるトラックの姿だった。
三月は自分の見たものが信じられなかった。 しかし、何もせずに見ていることは出来なかった。 何せ、自分達に向かってくるのだから。
意識した瞬間、咄嗟に三月がとった行動は、さしていた 傘を投げ捨て 、思いっきり祈を抱き締めて、自分の背を迫りくるトラ ックに向ける事だった。
何より大切な祈を守ろう、その一心で体が動いたのだ。
突然の三月の行動に、トラックが見えていなかった祈は戸惑った。
「きゃぁっ、ミキ、こんなところで何をっ………………えっ? 」
三月にいきなり抱きつかれたことで動転した直後、祈が見たものは、 自分達のすぐ、祈から見るとすぐ目の前にいる巨大なト ラックのフロント部分と、真っ青になり気を失ったドライバーの姿だった。
次の瞬間、二人を襲ったのは、突然の浮遊感と、声も出ないような全身を突き刺すような傷み。 直後の、ドンッと地面に打ち付けられる感覚は、既に感 じている痛みのせいで感じることは出来なかった。
二人が、トラックに轢かれた、と理解するのに時間は必要なかった。
ここまでお読み頂き、ありがとうございました!
まだまだ続きます。
物語はまだ始まってもいません。
次話の前に、少し登場人物の紹介(現時点)をしたいので、第三話の前に、登場人物紹介を入れさせて頂きます。
投稿時間は、午後6時に予約投稿を設定しています。
第三話は、午後9 時になります。
ブクマ、ご感想、ありがとうございます!




