第十七話 百合
こんばんは。五月雨葉月です。
タイトル、百合ですね。
…………すみません。女の子同士がイチャイチャするわけでは無いんです。書きたいんですが。
花の方の百合についてのお話になります。
「倉庫にいくつか無限収納が余っているんだ。取っておいても仕方がないから、一つをルイスにあげよう。何個か持ってきたから選ぶといい」
そう言ってきた父は、机に置いたいくつかの無限収納を手で示した。
「ありがとうございます! 」
お礼を言うと、嬉しそうに頷く父。それを横目に早速選びにかかる。
どれもニルムさんが持つ無限収納と同じチェック柄で、色の違いがメインだ。
特に色へのこだわりは無いので、一つ一つ違った花の模様で選ぶことにした。
ひとつ目。
緑とオレンジのチェック柄で、刺繍はオリーブだった。
これは悪くは無い。どんどん見ていこう。
二つ目。
プルメリアの刺繍に青と紫のチェック柄。
どうやら色と花は関係無いようだ。
三つ目。
エメラルドグリーンと紺のチェック柄、リナリアの刺繍。
ここまでのどれも悪くは無い。最後の物を見てから決めよう、そう決意して、最後の鞄へと目を向けた。
色は、白とピンクのチェック柄、間に細く濃いめピンクのラインが入っていた。
色は可愛くて良さげだ。
残る問題は、刺繍だ。
僕は、刺繍がある部分を探し、何の花かを見つけようとした。
そして、何の花かを見た瞬間、無意識に口から言葉が出ていた。
「これにします」
その言葉に、父が僕の上から撰んだ鞄を見ようと覗き込んで来た。
「どれどれ…………ふむ。色は……個人の好みか」
やはり突っ込まれる所は色か。
やはり|男の子《現在のルイスの年の男の子》が選ぶ色ではまず無いだろう。
この世界でも、ピンクなどは大抵女の子が好むはずだ。
しかし女装好きの僕としては、可愛いものに目がない、と言っても過言ではない。以前祈にも、
『本当にミキと一緒にいる時と、友達と居るときってあんまり変わらないな~』
と言う言葉を頂戴したほどた。
そう言うことを言われるのは慣れきっているし、今更変えるというのもおかしいだろう。何よりも重要なのは…………
「色で無ければ刺繍か? どれどれ―――」
本当は色もそうなんだけれど。
まあいい。
僕が選んだ刺繍、それは…………
「ほう。百合か。ルイス、良いものを選んだな」
そう。百合だ。
前世で祈が一番好きだった花。
強く、美しく、清らかな気品溢れる花だ。
祈が好きだった花、という理由もあるが、何故かこの刺繍を見た瞬間、言葉に出来ない、不思議な感覚に捕らわれたのだ。
運命。
この事を言うのかもしれない。
とにかく、直感的にこの無限収納を選んだ方が良い、と感じたのだ。
「はいっ! 」
僕は元気よく返事をした。
そして、父から差し出された、新たに自分の物になった無限収納を見て、嬉しくなり、つい抱き締めた。
「そんなに嬉しかったか? 」
と父に言われた様だが、その時の僕はその言葉も聞こえないほど嬉しかったのだ。
翌日。
いつもの場所に出掛け、早速ニルムさんに無限収納を見せた。
「おっ、早速貰ったか。どれどれ…………」
僕から無限収納を手渡されたニルムさんは、無限収納を観察し始めた。
「私の持っている無限収納以外の物を見るのは初めてなんだ」
という事らしい。
意外だったので聞くと、
「いくら筆頭魔法使いと言えど、貴重な物だからな。滅多に目に出来ないんだよ」
と答えてくれた。
どうやら昨日見た四つの無限収納、と言うのは、一度にそうそうお目にかかれない数らしい。
「実は――――なんですよ」
昨日の無限収納選びの事を言うと、拳を握って羨ましそうに、
「良いなぁ!! 私もそんな沢山の無限収納、見たかった! 」
と叫ぶように言った。
そしてその後、
「しかし……選べたんならわざわざこの色にしなくても…………」
と、やはり色について突っ込まれた。
いくら慣れていても、やはり久し振りなので若干恥ずかしい。
僕が恥ずかしがっている間にもニルムさんは、ずっと観察し続けていた。
そして、ふと刺繍の部分で目を止めると、
「百合か。良い花を選んだな」
と言ってきた。
なぜ皆、百合が良い花、と言うんだろう。
地球にはたくさんあったので、特に良い、という訳ではなく、ただ単に綺麗だから、という理由であったことしか覚えていない。
「百合って、そんなにいい花なんですか? 」
気になったことは聞くタイプ。
聞いてみる事にした。
するとニルムさんは、ルイスでも知らないことがあるのか……と驚く――人が何でも知っていると思うのはやめてほしい――と、ちゃんと詳しく説明してくれた。
曰く、
百合はこの世界では滅多に生えず、その希少性から、精霊に好まれる神聖な花らしい。
百合を目に出来た者は精霊の加護を受ける、とも言われていて、実際に長生きしたり、魔法のランクが上がったり。
色々な恩恵があると言われる。
しかし、本当に目にすることがなく、世界中の花を集めている、世界一育成している花の数が多いと言われるこの王城の庭園にも無いらしく、見つけるのは本当に偶然らしい。
見つけられるのは普段から良い行いをしている人、などの噂があるが、本当かは分からない。
子供が良い大人になれるように、リリーと名を付ける親も多いとか。
現代の日本などでは、ガーデニングで育てられる育ちやすい花だが、この世界では育ちにくいようだ。
場所が違うと、価値観も違ってくるのか……としみじみ感じた。
そして僕は、百合の刺繍が入ったこの無限収納を大切に扱う事を決めると、いつもの様に魔法の練習を始めることにした。
ここまでお読み頂き、ありがとうございます!
今回で魔法パートは終わりです!
次回から、幼少期の日常編へ突入です!
ついに、○○キャラが出てくるかも!?
ブクマ、ご感想、ありがとうございます!




