第十六話 無限収納
こんばんは。五月雨葉月です。
遅れまして、申し訳ないです。
今回を含めてあと何回かで魔法回を終わらせたいと思っています。
無限収納。
その名の通り、物を無限に収納出来る一見普通の鞄。
砂ほどの小さな物から、家のような大きな物まで何でも収納出来る、ダニエル作の優れた魔法の鞄である。
ただし、無論便利な物には必ず条件がある。
・命を持った物はしまえない。(死んでいる物なら可能)
・所有権(後述)が自分または設定されていない物でなくてはならない。
・仕舞う時には手に触れていなければならない。
などだ。
所有権とは、物に付いている、その名の通り所有者を表した目に見えない、魔力のような特殊な一種のステータスである。
所有権を調べることも出来るが、特殊な長い呪文を持ち、必要魔法ランクもAA以上と高いため滅多に行わないらしい。
使い方は、まず仕舞いたいものに触れ、収納、と唱える。すると鞄に仕舞われる。
取り出す時は、取り出しと言い、頭に浮かんでくるようにして出てくる、内容物一覧から選ぶかイメージするかして選択した物が出てくる、という順序だ。
無限収納を使わなくても、鞄自体としては使用できるらしい。
最も、そんな機能があると知っていれば使うことはほぼまず無いらしいが。
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要約すると上の様になる説明を、朝食を食べ終わり、魔法練習に指定された中庭に先に来ていたニルムさんに聞いた僕は今、その魔法の鞄の希少性について聞いていた。
長いが、自分で聞いたことだし何よりも知らないことを知るのは面白い。
「この魔法の鞄は、ダニエル・テールズの手作りとも言われている。作られた数は不明だが所有している人物はそうそう居ないらしい」
「おおよその数も分からないのですか? 」
僕の疑問に、うーん……とニルムさんはしばらく答えを詰まらせていた。
そして、
「そうだな……おおよそ、と言うより、私の試算だが、世界に千あるかないかだと思う」
と答えてくれた。
「以外と多いんですね」
「あくまで試算だがな。一般人はほぼもっていないだろう。持っていたとしても、使い方が分からず売るか、ただの鞄としても使えるから、ただの鞄として使っているか、だな」
「ニルムさんも持っているんですよね? 」
僕が聞くと、いつも来ている上着の中から小さなハンドバッグの様な物を取り出した。
茶色と黄色のチェック柄で、素材は革だろうか。
「これがそうだ」
こんなにあっさりと見せてもらえるとは思っていなかった僕は、一瞬反応出来なかった。直後、我を取り戻すと、怪訝そうな顔を
ているニルムさんに慌てて質問をする。
「い、以外に小さいんですね。」
「そうだな。あまり大きくても使いようがないし、私は丁度いいと思っている」
「そ、そうですか」
ふう、と一息つき、落ち着きを取り戻すと、改めて鞄を観察した。
何の種類かは分からないがやはり革でできた鞄の様で、チェック柄の色も、よく見れば細く黒も入っていた。
「柄が付いているんですね」
正直意外だったのは柄だ。
ただの一色で無地の柄かと思ったが、以外にこの世界ではセンスがある、と言えるだろう。
「うん。実は、一つ一つ違う柄で出来ているらしい」
「千個全てですか!? 」
驚きだ。こんな手の込んだ物を一つ一つ違った模様にしているなんて。
「凄いだろう。私が作った訳では無いが。大雑把な模様などはあまり違わない様だが、全てに全く違う装飾が施されている。色もそうだがもうひとつ」
言葉を切ったニルムさんが鞄を開き、中を見せてくれた。
そして、ある部分を指差した。
「ここ。分かるか? 」
「えっと…………」
「ここだ、ここ。良く見てみろ」
じっと僕は目を凝らしてニルムさんが指差す場所を見つめる。
「う~ん…………ん? あっ!! 」
そして、ある物を見付けた。
「おっ、見付けたか。分かったか? ここに花柄が薄く、刺繍されているんだ。一つ一つ違う花が全ての鞄に装飾されている。二つとして同じ刺繍は無いらしいぞ」
へえ。それは偽物を見付けることが出来るからいい機能だ。
「ちなみにこれは…………なんだっけ」
あらら。忘れるなよ。
僕が見てみる。
あっ、これは。
「グラジオラスですね」
僕が聞くと、ニルムさんはやっと思い出したように、ポンッと手のひらを拳で打つと、
「そう、それ! よく知っているな」
と言った。
「たまたま図鑑で知りました」
実は地球にいた頃、祈が花を好きだった事もあり、大体有名な花は覚えていたのだ。
しかし、それを言うわけにはいかない。
適当に図書館にあった本にあった気がしたので、誤魔化しておく。
「そうか……本当に頭が良いんだな…………」
と何故かしみじみとニルムさんが呟く。
何かあまり良くない思い出があるらしい。そこには触れないでおいた方が良さそうだ。
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「…………、…………ー。こっちへ来なさい」
王都シスタリアの郊外にある大きな屋敷。
そこに暮らすある小さな少女が、父親のような人物に呼ばれていた。
「はい、お父様」
椅子に座っている父の元へ駆け寄っていく一人の少女。
しかし、少女の顔に笑みはない。
何故か少女は笑わないのだ。それも、ずっと、毎日。
しかし、この屋敷に住む人々は、初めのうちは慣れなかったものの、今ではすっかりいつもと変わらない日常になっていた。
「リリー。来週はお母さんの誕生日だって知っているよね」
父が問い掛ける。
「はい」
まだ幼い少女にしては年に合わない、淀み無く、はっきりとした返事。それにも皆、慣れていた。
「誕生日には何か、プレゼントをあげる事はさすがに知っているだろう。そこで、私とリリーで、お母さんに花をプレゼントしようと思っているんだが…………」
「良いと思います。何の花にするのですか? 」
返事を予想していたのか、父は満足そうに頷き、少女にこう答えた。
「リリーの名前と同じ、百合なんかどうだろう」
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一日の魔法の練習が終わり、部屋に戻った頃、父が何やら見覚えのある鞄をいくつか持って待ち構えていた。
「ニルムに無限収納の事を聞いた様だな」
「はい」
そう答えながら、ある程度答えを予想していた。
そして、やはり思った通りの事を言ってきた。
ここまでお読み頂き、ありがとうございます。
最後の一台詞が無いのはわざとです。
思った通りだと思いますが、予想してみて下さい。
可能なら明日、次話を投稿したいと思っています。可能なら。
ブクマ、ご感想、ありがとうございます!




