【25】判決
「はい、ヒイラギ君」
セレナもまた、結構ノリの良いところを見せる。
「あのさ、この間からちょくちょく出てくる、判決ってのは何?」
俺がそう言うと、セレナは画面に幾つかの写真を映し出した。
「事の発端は、アルベルト・マインダー事件という殺人事件でした。30代の男性で、高校の教師をしていたというアルベルト・マインダーの自宅から彼の両親、妹、近所で失踪扱いを受けていた少年少女3名の遺体が発見されたのです。
彼はパメラという女性と生活しており、周囲の評判も好印象のご夫婦だったそうです」
画面には夫婦の写真と、被害者の生前の写真がピックアップされてズームされた。
「ですが、このパメラという女性が、実はアンドロイドであったことがわかりました。アルベルト・マインダーが子供のアンドロイドを注文し、そのアンドロイドを成長させることはできないかと問い合わせをしたからです」
アンドロイドとの生活。奇妙な感じはするが、犯罪というほどのことだろうか。
俺はそのことを素直に疑問の形にした。
「アンドロイドと恋人とか夫婦にはなったらだめなの?」
「当時はそういった生活をする人も多かったので、アンドロイドを家族として扱う場合も多かったのですが、その結果としてAC時代は人口減少が著しい時代でもありました。
また、基本的に人に忠実なアンドロイドに依存するあまりに出る、実生活への影響が幾度となく問題視されていたのです」
そう言いながら、セレナは画面に新聞記事のようなものをズームさせる。残念ながら読めないなと思っていると、次第に文字が変容して見知った言語に変換された。
日本語だ。驚きつつも画面に目をやる。
そこには、アンドロイド依存の弊害か、という文字とともに、餓死や殺人事件の見出しが躍る。
記事を読めばアンドロイドと生活し始めた男性が、同じ生活をするために食事を抜いて餓死したとか、恋人や伴侶、はては子供のアンドロイドを手に入れたものが、不要になったと感じた現実の存在を殺してしまったなどという事件のことが書かれている。
俺が読み終わるのを見越したように、セレナはさらに説明を続けた。
「こういった背景のもとで起きたアルベルト・マインダー事件も、パメラに依存した男性が起こした事件として報道されました。しかし、一点だけ違いがあったのです。事件発覚後、パメラのシステムが捜査のために検証されました。その結果、パメラには持ち主一家の殺害が予定として組み込まれ、その過程では3体以上の実験をなすことが組み込まれていたのです。パメラを購入したオーナーはパメラとの交流を通じてパメラのいいなりに動くよう、簡単に言えば洗脳されていた可能性がありました」
「可能性?」
「アルベルト・マインダーは捕まってすぐに、自分で自分の舌を噛み切って自殺しています」
俺は思わず、自分の口の中で舌を動かした。
こいつを噛み切るのはきつすぎる。
「彼が自殺する直前に、拘置施設の係員に、あと何日で出られるのか、妻は無事か、夕食は何かなどの質問をしており、係員が立ち去るのを待たずに舌を噛み切ったため、この行為にもパメラの洗脳があったことを否定できませんでした」
「捕まったら自害しろってこと?」
だとしたら特殊部隊並みの行動制限だ。洗脳って恐ろしい。
「可能性です。しかし、このことによって世間の認識は、アンドロイドに依存した弱い人の起こした事件から、アンドロイドに洗脳された男の起こした惨殺事件に変わったのです。そして、時の学者の多くは、アンドロイドだけではなく高度コミュニケーション能力を持った機械類にも同様の危険があると説きました。その結果、当時の大裁判所が出した判決が、アンドロイドを始めとする機械類に意思は無く、コミュニケーション能力は不要である。必要最低限のツールを残し、他のコミュニケーション機能は危険性が高いため今後の装備・使用を禁止するというものでした。反発も多く利用者もすぐには減少しませんでしたが、違反者には刑事罰が加えられる事となり」
「最終的には減ったってことか」
「はい」
アンドロイドを家族や恋人としていた人もいると言っていた。その人たちにとっては、急に家族や恋人を殺されたのと変わらなかったのではないだろうか。
だが、時代は機械とのコミュニケーションを切り捨てた。
「あれ、でも……今でもアンドロイドっているんだよね」
「いますよ。ですが、会ってみればわかりますが彼らには目がありませんし、言葉を発しません。コミュニケーションの重要ポイントとされる視線と言葉を持たないのです。人と同じ作業はできますが、文字を書いたりする事もできません」
「ん? でも食事はするんでしょ?」
「彼らのエネルギーと人間のエネルギーを同じにしておけば、管理が楽ですからね。食料不足になった場合には、外部バッテリーで動く事もできるのが、人とは違う点でしょうか」
俺は思わず頭を抱えた。
言っている事は理解できる。どうしてそうなったのかも理解できる。
でも、何かもっと違う所を理解しきれていない気がした。




