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【24】沈黙の理由

翌日、俺はコックピット内にいた。

初日にレクチャーを受けて以来、初のお仕事だ。

格納庫ではダリアの戦闘機のコックピットカバーが閉じていたので、ダリアも仕事中なのだろう。



「セレナ。ちょっと聞きたいんだけどさ」


「はい」



 相変わらず、セレナは可愛らしい声だ。

 今では頭の中にあの少女が映像として浮かぶ。



「何から聞けばいいのか、考えているんだけどわかんなくて困ってる」



 聞きたいことは山ほどあるけど。



「あの後は大した喧嘩はしていませんよ。私が戦闘機内にあるスロットに体を横たえて接続を切ったら、ダリアはブツブツ言いながら帰って行きました」


「あ、いやそうじゃなくて。……そうでもないか。それも気になってたんだ。教えてくれてサンキューな」

セレナは嬉しげにライトを点滅させる。


「まだ時間はあります。ヒイラギの疑問をどうぞ」



 何を聞けば良いのだろうか。俺が迷っていると、セレナが先に言葉を発した。



「決めかねている場合は、自分に一番近い疑問からどうぞ」



 セレナがそんな風に俺を促す。

 思わずコンソールを見てしまった。

 どうにもセレナと話していると、生身の人間と話をしているような気がしてくる。

 これも昨日の少女姿の威力だろう。



「自分に一番近い疑問、か。そうだな……やっぱり声のことかな」


「コマンドの入力可否の件ですね」


「うん。セレナの声がダメってのはさ、生身の人間の声帯じゃないからって事で一応の説明はつくような気もするんだけどさ」


「……そう、ですね」


「何でリオンやダリアの声もダメなんだろう。セレナからしたら、どう思う? やっぱり、何か違うもの?」


「ヒイラギの声とリオンやダリアの声ですか?……ええと」



 セレナは少しだけ何かを考えるように言葉を切った。



「昨日の会話を再生して分析してみました。結果、ヒイラギには高音域に独特のブレが有り、一方、ダリアとリオンはそれがとても少ないのです」


「ええと……一体、それはどういう?」


「音は古来から波形でのデータ描写が適した物で、コレをフーリエ変換から派生したゴタンダ変換」


「ちょっと待って、もう少し、噛み砕いて!」



 きっとちゃんと説明してくれようとしているのだろうが、いかんせん俺の頭はファンタジー仕様なのだ。

 セレナは困ったように、機器類を点滅させる。



「人が発する音は高かったり低かったりしますよね。それをこう、波のような図で表すのですが」



 モニターには、どことなくみた事のある図が現れた。声や音に反応して針が上下に振れるアレだ。



「このように上下の幅と、声の周波数を……まあ、特殊な計算式やらグラフやらを用いて計算したところ、ヒイラギの声には、現代人よりも大きな「ブレ」がみられます」


「自分の耳じゃわかんないけどな。って、現代人には無いって……」


「データ上ではAF400頃を境にマカヴィル法という声帯破損の治療法が確立され、当時流行していたグリマ熱によって声帯破壊を余儀なくされた人々が声を取り戻しました。その後も千年規模で治療は受け継がれもしましたが、その間に人はグリマ熱に耐えられる声帯を持つに至ったとされています。その後からは耳では聞き取れないほどの微細なブレが肉声からは大幅に減少したと考えるのが自然かもしれません。特に熱心に研究がなされている分野ではないので、あくまでも一般書レベルの推論ですが」



 俺は自分の喉を触ってみた。

 俺が行きていた2016年よりも遥か未来、恐ろしい熱病で声を失った人たちが熱病を克服した。

 それと同時に、俺とは違う声を持つに至ったという事だろう。

 なんとか自分でも首を振れる程度に説明を簡略化させてくれたセレナに感謝だ。



「ってことは、そのブレが無いとコマンドが認識されないってこと?」


「……だと、思います」



 では、ダリアの声は機械には認識されないのか。

 もしかしたら、今まさに戦闘機に話しかけているかもしれないダリアを思うと、早く教えてやりたいと思ってしまう。

 だが、俺の心配を見越したのか、セレナはさらに続けた。



「コハクは一般用旅客船のシステムですので、判決後に音声認識システムは使われなくなったのでしょう。アップデートで消去されず、そのまま古いシステムだけが残存したとも考えられます。一方、私たち戦闘機はその利用都合上音声入力が必要な事が多いため、音声認識システムは最新型にアップデートされています。ダリアも、音声でコマンドを入れていると言っていたでしょう」



 そう言えばそんな気もする。



「戦闘機は音声でも動かせるが、他は駄目ってこと?」



「はい。現在一般人が利用する機械類は、全てモニターをタップしてコマンドを入力する形を取っています。例えば、本船の航行に必要なコマンドは約120程ですが」



 画面には沢山のアイコンが並んだ画面が映し出された。

 まるでアプリを取り過ぎたスマホ画面だ。



「通常はこの中の6つを適切に選んでタップするだけで船は動きます。例外的に音声入力が許されている戦闘機であっても、学校で入力できるコマンドを教えられていますので……まあ、ダリアが私たちに話しかけなくても、自然なのです」



 セレナは昨日とは違い、そっとその事を音に載せた。ダリアの非では無いという事なのだろう。

 それにしても、この巨大船を動かすにはやけに簡単な操作方法だ。それだけシステムが優秀という事なのだろうか。もはや操縦士やら航海士やらは不要なのかもしれない。

 まあ、戦闘機も全自動だもんな。



「したがって、音声機能は不要となり、判決の後押しを受けて船は沈黙したのです」



 セレナの語りも僅かに沈んだ。まるで人の代わりに船が言葉を失ったようだった。

 それにしても、ちょくちょく出てくる「判決」とやらも気にかかる。これまで何度か耳にした感じからすると、機械に心は無いから、コミュニケーションもけしからんという判決のようだが。





 次の質問をするために、俺はそっと手を挙げてみた。


 子供の頃から染み付いたスタイルってのは、そう簡単には抜けないもんなんだ。





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