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【23】タブー

俺がガッカリすぎる夕食をとって部屋に戻ったのは、22時を僅かに過ぎた頃だった。


セレナとダリアとは夕食まで一緒におり、二人は相変わらずの険悪ムードだった。

というよりも、すでにセレナとダリアはお互いに引けなくなって言い争い続けていたというのが正しいかもしれない。



それでも俺が部屋に戻るというとダリアは自分も部屋に戻ると言い、一方セレナは、当然のように俺の部屋の方へと一緒に歩き出そうとした。無理やりダリアが格納庫の方へ引きずって行ったが……まあよしとしよう。

それほどまでにダリアの笑顔が恐ろしくも可愛らしかったのだ。



あれが、有無を言わせぬ笑みと言うやつだろう。

美人は怖い。







それはそうと、今日は驚くことやらなんやらが多すぎて、料理の原材料の事を確認する機会を逃してしまったのが悔やまれる。

水のボトルを振り回しつつベッドに腰を下ろしたところで、モニターにメッセージが表示されているのが目についた。



「誰からだ?」



 モニターに表示されている名前らしき文字が、この時代の誰を示すのかがわからない。

 何千年も経った未来であっても、使われている文字は見覚えのあるアルファベットによく似ている。

 むしろまるで同じなのではないかと思うくらいだ。

 昼間のリオンが「今使われている文字と同じものが含まれている」というような言い方をしていたから、多少の違いはあるのかもしれないが。


  俺は、アルファベットっぽい未来文字の綴りを無理やりに読んでみた。



「ダン、デ、リ……あ、もしかしてリオンのことか?」



 ダンデリオン、いや、ダンデライオンか。口に出してみるとどことなく聞いたことのある音が生まれる。



「なんだっけ……、ダンデライオン」



 俺は何度かその音を口に出した。

 思い出しそうなのに、あと一歩で思い出せない。

 もやもやとしたものを感じたものの、とりあえず差出人の見当はついたのでそのメッセージに手を伸ばした。

 ポンという音がしてから、画面には先ほどと同じ服装をしたリオンが現れる。



「よう。先ほどぶり」


「ああ、先ほど」


「言い忘れたことがあってな」



 俺の返答を無視してリオンは口を開く。

そうか、これってビデオレターみたいなもんなのね。

 考えてみりゃそうだ。

 これがライブ映像なら、リオンは俺の帰りを今か今かと待っていなくてはならなくなる。そんな面倒なことは、この合理性を重視しそうな未来ではありえない……気がした。

 

 くそ、返事しちゃったのが恥ずかしいじゃないか。

  俺は誰もいない室内なのに、思わず首を巡らせてあたりを確認してしまった。

 そんな俺に構わず、リオンは先を続ける。



「セレナやコハクのことなんだけどな、念のため他の人には言わない方が良いと思う。詳しくは明日話すけど……、クライシスやノーマーク時代の事ってのは、口に出すとあまり良い顔をされない。俺の歴史好きだって完全なる奇人変人扱いなんだ」



 そう言えば、最初にリオンが俺を自室に呼んだ時、確かに彼は声を潜めていた。

 料理という物がこの世界に無い以上、それはおそらく「不要」と判断されたか「不可能」と判断された物なのだろう。そして彼が声を潜めたという事は、きっと前者。

 俺が服務規程違反とやらで委員会に呼ばれたときですら、ニヤニヤと余裕の笑みをみせていたリオンが、一転、そんな行動をとっていたのだ。


 きっと「料理」も「昔の事」も、タブーとなっているものがあるのだろう。


 アレはそう言う事だったのかと合点がいく。


 リオンは、少しだけ眉を寄せてからさらに続けた。



「それに、コハクが言っていた判決ってのも問題でな。要は、機械類に感情は無い、無駄なコミュニケーションツール等はアンインストールしろっていう判決なんだよ。だからおそらく、セレナのこともコハクの事も歓迎されない」



 リオンはそこで言葉を切った。

 何となくその続きはわかる。

 俺は高揚していた気持ちが、ゆっくりと自分の中でしぼんでいくのを感じていた。



「それに、ヒイラギも外でうかつに機械類……いや、セレナとコハクな……彼女たちに声をかけないように注意した方が良い。念のためダリアにも連絡は入れておく。それだけだ」

 


 リオンはそう言うと通信を切ろうとしたのか、手を伸ばすような動きをした。

 だが、何かを思い出したように顔を上げる。



「そうだ。俺が部屋の中でこんな格好をしていた、ってことも他言無用で頼む。基本的に自室内でもスーツ着用が……その、普通なんだ」



 リオンが苦笑とともに、自分の来ているTシャツの様なものをつまみ上げた。そして、今度こそ通信が切れる。



 俺は盛大に肩を落としたまま、ベッドに再び沈み込んだ。



「はあ……俺もTシャツ、欲しかったんだけどな」



 もれなく奇人変人の仲間入りって事なのだろう。

 生まれてこのかた地味一筋の俺は、ちょっと憂鬱な気持ちで目を閉じた。



ま、間に合った。

帰宅が日付変更に間に合わないかとヒヤヒヤしました。

明日以降は投稿予約したいです。

夏目

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