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【22】ゴッドボイス、俺


 一足先に立ち直ったのは、この世界の常識に欠ける男。



 つまり、俺。



 俺は「んん」とわざとらしく喉を鳴らしてから、なんとなく天井を見上げた。



「ええと、スターシップさん。俺はヒイラギ。お名前をお聞きしても?」


「ヒイラギ!?」



 ダリアが小さく声を上げたが、俺は馴れないウインクで「任せろ」と伝えた。

 何ともいえない表情でダリアが固まったところを見ると、俺のウインクは恐怖を呼び起こすものだったようだが、とりあえず本来の要望は伝えられたようだ。



「こんにちは、ヒイラギ。嬉しいわ、こんな風におしゃべり出来る日が再び訪れるなんて! 無意志判決で絶望した日が懐かしい。長生きしてみるものね!」



 スピーカーからは、妙齢の女性の弾むような声が響いている。



「私はテラのコンピューター。開発者のくれた名前はコハクよ。よろしくヒイラギ。そして驚かせてごめんなさいね、みなさん」



 周りを見回すと、ポカンと口を開けたリオン、口の辺りに手をやったままのダリア、そして飄々と水を飲んでいるセレナの姿がある。

 無言の空間だが、二人の混乱っぷりは騒ぎ立てるよりわかりやすい。

 どうしようかと思っていると、リオンがもそもそと口を動かし始めた。

 どうやらコハクのセリフを復唱しているらしい。なんとかして理解をしようとしているのだろう。


 俺だって、普通話すなんて思わないもの……シャーペンとかブラシとかがしゃべりだしたらきっと混乱する。

 それでも、なんとかこの状況を受け入れているのは、機械はしゃべる可能性があると言うフィクション設定に耐性があるからだろう。



「……あ、まあ、アンドロイドはほぼ人と同じようにコミュニケーションがとれるんだ、他のコンピューターと会話ができてもおかしくは無い。でも、普通じゃべんないだろ」



 リオンが言うことが、この世界の普通なのだろう。



「そうなの? なんで?」



 だが、俺は思わずそう聞いてしまっていた。

 答えをくれたのはコハクだ。



「それはね、私たちが一定のコマンドをもらわないと、自発的にコミュニケーションが取れないようにプログラミングされたからよ。コンピュータははるか昔から人と共存してきた。でも、人とコンピュータの間にははっきりとした一線が引かれなければならない事態も多数存在してきた。だからこそ、時の裁判所は「コンピューターに自我は無い」という判決を出し、以後コンピューターと人の過度の関わり合いを禁じたのよ。おかげで私たち老コンピュータは、ばってんマークのマスクをしたまま、何千年もバージョンと搭載機を変えながら稼働することになったというわけ。そこの戦闘機なんか」


「やめて!」



 饒舌に語っていたコハクの言葉を、セレナが制した。



「はいはい。わかりました。わかりましたよ、お嬢様」


「そう言う言い方もやめて」



 そのかたくなな言い方に、俺はちょっと引っかかりを覚えた。



「あの、……いろいろと聞きたいことが、積み重なっているんだが」



 俺がセレナをみている間に、リオンがそろりと手を上げてそう言う。

 ダリアも同調するようにうなずいた。



「もちろん良いわよ。でも、そうね……試しに私の名前を呼んでくれる?」


「え? 俺が?」



 リオンもまたきょろきょろと天井の方を見上げながら、落ちつかない様子でそう言った。



「ええ。コハク、と呼んで頂戴」



 リオンは、あ、とか、う、とか、奇妙な発音練習をした後に、



「コハク……さん」



 と、おずおずと口に出した。



「……うーん」



「うーん?」



 どうやらコハクは何か悩んでいるようだ。



「どうしたの?」



 そう聞いてみると、コハクは「残念ながら」と前置きしてから、



「リオンの声帯ではコマンド機能が十分に発動しないの。簡単な会話はできるけど、データを出したり、細かい指示にお答えすることは難しいかもしれないわ」



 と言った。



「この中では、ヒイラギの声であれば全ての機能を使うことができるみたい。他の2名ならびに戦闘機の声は、認証されない部分があるようね」



 俺は首をかしげた。



「声? 俺の声だけ反応するの?」


「そうみたい」


「そんなプログラミングとやらなの?」



 だとしたら、作ったやつが俺の子孫か。それとも友人か。未来の嫁さんか。

 いや、俺はその前に現代に帰らないと、2016年近辺で嫁をさがす努力もできない。



「いいえ。万人の声に反応するように作られているはず……なぜでしょうね」



 俺の妄想は秒速で死んだ。

 だが、次の疑問も出てくる。


 万人に合うように作られたコンピューターが、なぜか今では俺にしか反応しない。



「まあ、長い年月、使われなかった機能ですからね。自己修復を流しているけど今のところ反応はありません」



 ここにきて、ダリアがはーっと大きく息を吐いた。



「何か驚き疲れちゃったよ」

「だな」



 リオンも乾いた笑いを漏らしている。




「とりあえずさ、ヒイラギはアレだね、特別ボイスだね」



 ダリアにそんなことを言われて、悪い気はしない。

 特に良い声と言われたことは無いし、音痴だけど。



 ゴッドボイス。



 ダリアの台詞と大きく違っている事はわかっている。だが、優秀な脳内変換が俺に二つ名を与えたのだ。



 ゴッドボイス。


 

 万能の女神を従える



 そう、ゴッドボイス、俺。



 俺は強引に妄想上のチートスキル欄に「ゴッドボイス」と書き加えてみた。


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