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【14】なんだか怖い委員会

改稿しました。


 なんだか怖い名前の委員会は、その名前の雰囲気とは違って飲み物片手にラウンジで開催されるようだった。


 ラウンジの片隅にあった空きテーブルを見つくろうと、ムクさんは、紙コップのような形状の、植木鉢みたいな素材のコップを置いてくれる。そこにはボトルから新しく注がれた水が入っていた。丸型テーブルの中央には、コップよりも二周りほど大きな円柱状の機材があり、その上には7つのライトがついており、先ほどから1つを残して点灯している。



「……やっぱり艦長は欠席ですかね」



 俺の背後でムクさんがリオンにそう言った。



「自分から会ってみたいって言ってたんだがな。まあ、そろそろ時間だからな」



 俺の座っている椅子の背を掴まないでほしい。話すたびに彼らの筋肉が動くのだろう、俺の尻だか背中だかに微妙な振動が伝わってくる。

 円柱の真ん中辺りが一度黄色く点滅したと思ったら、次の瞬間には俺の周りには円卓を囲む6人と、空の椅子が一つ出現していた。



「あ、あの……」


「発言は許可されてからするように。まずはこちらの質問に答えてもらう。この委員会で君の審査に与えられた時間は4分だ」



 出席者の一人である、白髪交じりの髪をきれいに肩の辺りで揃えた女性がそう言った。口調は柔らかいが有無を言わせぬ迫力がある。

 彼女の胸元に浮かび上がる文字を何とか読むと、リリーという名前のようだった。



「は……」


「まず、ムク一等保安官。報告書は確認した。補足は?」



 俺に「はい」という間も与えずにこの会はスタートしたようだ。



「ヒイラギ三等パイロットの健康状態はグリーンになりました。明日から通常勤務を予定しています」



 俺よりもなぜか俺のことを知っているムクさんは、マッチョだけど嫁さんのようだと思う。まあ、嫁を貰ったことは無いんだけど。

 それでも、マメで気の良いムクさんは男でマッチョでなければ嫁さんに来てもらいたいくらいだ。



「では、ヒイラギ。君はダリア三等パイロットを救助する目的で、未確認物質の対処に向かったと言うことで間違いないか」


 急に名前を呼ばれたことに肩を揺らしてしまったが、俺は質問にゆっくりと頷いた。

 確かに服務とやらとの関係では俺は「違反者」でしかないだろう。そのことへのペナルティは受けても仕方がないと思っている。だが、何度同じ場面に遭遇しても、きっと俺は同じような行動を取るだろうなと確信していた。現代社会に生きる他の者の多くは、俺と同じことを考えていると思う。俺が特別情に厚いわけでも、正義の味方と言うわけでもない。

 ただ、あの状況でダリアを放置して帰るのは、寝覚めが悪かっただけなのだ。


 俺の意思は俺の常識に裏打ちされている。だとすれば、俺はこの世界では異端者だ。この世界ではムクさんたちの言うことの方が常識で、俺はその枠から外れているのだから。



「なぜ?」



 ちょうど俺の正面に当たる席に座るリリーの右隣りには、細身でいかにもインテリと言った感じの男が座っていた。その口が動き、予想通りの渋い声でそう言う。

 リリーが俺の方を見て頷いた。発言しろと言うことだろう。



「……助けたかったから、ですかね。助けられそうだったし」


「それは、救命確率と機体、ならびにパイロットロストの可能性を比較しての結論か?」


「いえ。そもそも救命確率とかよくわかんないし。ただ、見えてて生きてるのに何もしないで帰るのはちょっと、その、できなかったというか」


「なぜ?」



 男は淡々とそう聞いてきた。ムクさんたちと同じだ。皆揃いもそろってダリアを助けたことに対して「なぜ?」と問いかけてくる。



「……貴方、なら。助けたくなりませんか。同じ仲間で、直前まで笑いあった友人が窮地に陥っていて、貴方には助けるための手があったら」


「普通は救命確率を」


「数字の話ではなく。貴方の、その……感情というか、心というか」



 そう言いながらも、ぼんやりとした落胆に俺の声は小さくなっていった。

 男は少し考えるそぶりを見せたが、ゆるく首を振ってから「すまない」と返してくる。何を謝ることがあったのだろうかと、いつの間にか下げていた顔を上げると、意外と柔らかい表情を浮かべた男の顔が見えた。



「考えてみたが、よくわからない。僕にも助けたいと言う気持ちはある。だが、それと確率を区別すると言うのが、よくわからない。ヒイラギは数字ではなく、その感情か心に従ったと言うことかな」



 俺は思わず頷いていた。

 そうだ、彼らはいつだって俺の言葉を聞いてくれているのだ。それでいてなおわからないと言うだけ。もう少し話をしていけば何かがわかるかも知れない。



「そうか。まあ、この委員会は、君がこの船に危害を加える者なのかどうかを判断するためのものだからな。君がこの船に害意を持っていないことはわかった。ダリアも助かったしな。とりあえず現況、君の待遇を変える必要はないと僕は判断するよ」



 男がほかの参加者に視線をやると、他の者のネームプレートはグリーンの点滅をした。



「では、今回は必要経費のみの請求で。罰則適用は無しと言うことになりました」



 リリーは点滅を確認してからそう宣言した。

 緑の点滅は、賛成と言う意味らしい。



「では、……3分50秒ほどですが、閉会します。ごきげんよう」



 あっけにとられている俺を残して、皆が三々五々別れのあいさつを述べて消えていった。

 最後に言葉を交わした男が消えると、ムクさんとリオンが機材を片づける。



「あの……さ。結構あっけなかったんだけど」


「なんだ? あれこれ追及された方が良かったか?」



 意地悪くリオンがそう言って眉を上げる。



「そんなこと、は」


「借金だけで腹いっぱいじゃないのか?」


「腹はいつでも空いてます。錠剤とガムじゃ耐えられないし」



 そう言うと、リオンは眼を見開いた。その後、機材を片づけているムクさんを見やってから、そっと耳元に口を近づけてくる。



「え、何? ちょっと、近いんだけど」


「……お前、アレ以外を喰ったことがあるのか?」



 思わずのけぞった俺を気にも留めず、リオンはそう言う。



「アレ? アレが食事だって言う方が戦慄もので」


「チキュウとやらではそれが普通なのか」


「チキュウってよりは、俺の思ってる地球ではまあ国によって差はあれど、普通かと」



 俺がそう言うと、リオンはぐっと声量を落として



「……後で、俺の部屋に来てくれないか。見せたいものがある」



 と言った。その後、すぐにムクさんを手伝うために俺の傍を離れて行った。

 部屋に来いってのは、どういうことだろうか。

 とりあえず、名前を検索すれば部屋番号は出てくるらしい。初日に受けたレクチャーの内容を思い出しながら、とりあえずあまり嬉しくない予定を頭の隅に書きいれた。


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