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【10】お前らおかしいよ

 冷たい汗は、苛立ちに変わって俺の腰のあたりに溜まった気がした。



「ダリアを放っておくってのは、賛成できない」



 そう言うと、反対すると思っていたセレナは簡単に「はい」とだけ返してくる。



「だから、助けにいく」


「かまいませんが。ロスト2台となると、テラは複数機配備要件を欠くことになります。要件を欠く可能性のある行為には運営部の許可が必要です。運営部に繋ぎますか」


「繋がない。ちゃんと聞けよ。繋がない。運営部の許可は取らずに、ダリアのところへ行く」



 一瞬セレナは沈黙したが、すぐにコンソールにピンク色の光がついた。次いでスクリーンが展開する。

 写ったのはムクさんだ。



「……繋ぐなって言っただろ」


「運営部ではなく、保安部に繋ぎました。この戦闘機は保安部の備品ですから」



 写っているムクさんは首をかしげている。そして、そのまま疑問を口に出した。



「状況は把握している。なぜヒイラギは帰還を拒むんだ?」


「なぜも何も、ダリアが取り込まれてんだろ!」


「……ロストは一機だけで運行に支障は」


「お前ら、揃いも揃って一機だけって何だよ。戦闘機もそうだけど、ダリアも居るんだぞ」



 ムクさんはきゅっと眉を寄せた。



「何を言ってるのかわからないのはそっちだぞ。簡単な計算だろ。マイナス2より、マイナス1の方がずっといい」



 俺はなにをどう説明すればいいのかわからなかった。こいつらはみんな数字の話しかしていない。ダリアは数字ではないのに。



「仲間だろ。し……いなくなっちまうのが悲しくないのかよ!」



 俺はコンソールを蹴飛ばしながらそう言った。きっと悲しくないと言うのだろう。こいつらの今までの会話ならそうだ。きっとそうだ。

 でも、そんな俺の予想に反し、ムクさんはさらに首をかしげた。



「悲しくないのか、ってのは、なんだ。どういう意味だ」



 俺は口を何度か開けては、その度に無意味な呼吸をくりかえした。それ以上のことができなかったからだ。

 悲しいって何だ。

 そんなセリフはどこから出るのだ。

 笑ったり、不思議そうな表情をしているのにどうして、どうして。



「お前ら……おかしいよ」



 ムクさんはやはり理解できないと言う表情で首を横に振る。

 その時、ポンと音がしてダリアの満面の笑みを浮かべたID写真がちいさく映った。



「ヒイラギ。あきらめなよ。ロストは1の方がいいんだよ」



 ダリア本人の、その能天気な声にもいらだつ。

 何を思っているんだ。なんだと思っているんだ。



「あきらめるなってなんだ。お前も自分を数字だと思ってるのか。1とか2とか、それ以上の意味があるだろ」



 沈黙が俺の言葉を跳ね返す。きっと誰にも届いていない。



「セレナ、ルビーに近づいてくれ」


「許可なく接近はできません」



 俺の依頼は冷たくあしらわれた。

 確かにルビーの近くに行くことはロストに近い行為だろう。そう、ロストの可能性のある行為には運営部の許可が必要だと言っていた。



「じゃあ、近づけるところまででいい、近づいてくれ」



 すると、セレナはゆっくりと機体を旋回させて、ルビーの真後ろに距離を取って停止した。正確には停止してはいないのかもしれないが、少なくとも俺の前にあるスクリーンにはルビーが捉えられている。

 引っ張ればどうにかなりそうなのだ。若しくは焼くとか、凍らせるとか。

 俺の頭の中には、何かのアニメにありそうな解決策しか浮かばない。



「セレナ。君には何ができる。どんな機能がある? たとえば、腕みたいなものは伸ばせないのか」


「作業用アームはノズルを伸ばせば30メートルになります。他には外殻を掴むアームは八方向に出せますが、これは機体を安定させるためにしか使えません。アーム作業に耐えられるよう、足の高さは最大で120メートルです。屈折固定をした状態で本体と外郭は約25メートル離隔します」


「ちょっと出してみてくれないか」



 そう言うと、セレナはいくつかのコンソールを順に光らせながらアームと固定足をだして見せた。



「動かしてみてくれ」



 さらにコンソールのいくつかがひかり、俺の目の前にあるハンドルが小さく動く。



「じゃあ……次は」



 俺はごくりと喉を鳴らした。

 セレナの行動は運営部とやらに制限されている。だとすれば、これしかない。



「自動運転を解除してくれ」


「承知しました」



 そう言う声と、ムクさんが驚いた表情で固まったのは同時だった。

 彼らができないと言うのなら、こいつを使ってみるしかないじゃないか。

 英雄になりたいわけじゃない。なんだかおかしな状況だとはわかってる。でも、見知った顔を放置したまま、何もせずに帰って寝られるほど俺の神経は図太くない。

 きっと精一杯努力して、それでダメでもきっとすごく落ち込む。落ち込むなんてもんじゃないかもしれない。だから。

 セレナが解除を宣言するのと同時に、俺の視界は右側に傾いた。



「ヒイラギ。勝手にそんなことをしては」



 ムクさんの声を無視して俺は首を振る。



「ごめんムクさん。帰ったら説教されるから。セレナ、回線を切って!」


「承知しました」


「ヒイラギ!」



 その声を最後に、コックピットは静かになった。俺はゆっくりと息を吐く。

 落ちつけ。

 きっと落ちつけば大丈夫だ。



「セレナ、教えて。前に進むにはどうすればいい?」


「左右の操縦桿を前に倒せば前進、後ろに倒せば上昇します。左右に倒すと、同じように機体が傾くようになっています」



 俺は言われた通りに少しだけレバーを動かしてみた。ぐらぐらと安定しない視界は突然ぐるりと一回転したりする。その度に放り出されたままのアームが不機嫌そうにゆらりと動くのが見える。

 ちょっと、ちょっとだけわかったぞ、このくらいだろう。

 俺はそろそろと機体を動かし、ルビーの近くへと寄ってみた。動かしてみて初めてわかる。おそらくモニターは何倍にも拡大したルビーを映していたのだ。結構な勢いでレバーを倒してみてもなかなか近づかない。それほどまでに距離があったのか。



「ヒイラギ。このままだと20秒後に外壁にぶつかります」


「ブレーキは!」


「指部分のレバーです」



 言われてみれば自転車みたいなレバーがついている。

 俺は思いっきりそのレバーを掴んでみた。

 すると画面の両サイドに赤い炎のようなものが見えて、その後すぐに視界が落ちつく。

 よく見れば次第に計測器の何かの値が下がっている。これがスピード計だろう。



「よ、よし。アームはどうすればいい」


「作業桿と専用モニターを出します。ヒイラギ、頭を操縦席のヘッドレストに預けてください」



 セレナがそう言うと操縦桿の直ぐ脇に下から何かがせり上がってきた。それはいわば棒にくっつけられた手袋だった。わかったぞ、これに手をつっこむんだな。

 俺は不思議な手袋に両手を入れてみた。中は意外ともっちりした、鍋摑みみたいな感触だった。

 いわれるがままに、頭を操縦席に預ける。

 すぐに右側から金属の棒のようなものが滑りでてくる。よく観るとその中央には何やら黒っぽい部分があって目を覆うようになっているようだった。あっという間に目の周りを一周され、次いで何かが出て来て顔に密着した。こ、これは、なんとも不思議な



「ゴーグル?」



 これが専用モニターかと思っていると、首回りにも同じような感触を感じる



(え? 首輪?)



 そう思った瞬間、俺の視界は一瞬ブラックアウトした。





 





ご指摘ありがとうございます。

暫定的に、ゴーグル状のものと首輪を付け足してみましたが……ゴーグルあればいけるのか?首輪いらない?

悩み中です。


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