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カガミノカイダン

これは、

http://celestie.info/

このホラーサウンドノベルを文章化したものです。

一日に一話づつ、最終的に起承転結の起の部分まであげる予定です。

読んで内容が気になった方は、フリーですのでゲームをプレイしてみてくださいm(_ _)m

では、本編をどうぞ。



「アンタ達はどうするの? 隣に男子トイレもあるけど?」


 トイレの前に着き、七瀬愛梨は高槻晶と江藤敬吾に視線を向けて問い掛けた。


「俺は待ってるよ。江藤はどうすんの?」


「俺も待ってる。つうか、別に行きたくねえし。さっさと行け」


 面倒くさいとばかりに、しっしっと手を振る江藤敬吾。

 そんな江藤敬吾に萎縮したように、宮月美弥はびくっと小さく身体を震わせた。


「宮月。いちいちそんなに脅えなくていいから。そんな生き方、疲れるだけだよ。……はぁ。もういいわ。私も行くから、男子二人はそこで待ってて」


「覗かないでよ?」と、冗談交じりに釘を刺して七瀬愛梨は宮月美弥と二人、トイレに入った。

 トイレの中は長方形の小窓しかなく、月は反対側に出ているのか、月の光すら差し込まなかった。

 ただ、暗鬱とした蒼い闇がわだかまっている。

 透明で、静謐な音のない蒼い暗闇が薄っすらとトイレ全体を覆っていた。

 ……なんとなく、目を落とす。

 暗闇の中で、自分の手の甲がいやにハッキリと白く浮かび上がっていた。


「じゃあ私、入るね……?」


 宮月美弥の声に、七瀬愛梨の意識が現実に引き戻されて、はっと目が覚めたように顔を上げた。


「え、えぇ……。私は、少しメイクを直すわ」


 そう言って、七瀬愛梨はスマホの明かりを点けた。

 トイレの明かりを点けるわけにはいかない。

 警備員に見つかる可能性が飛躍的に増すし、流石にそれは無用心すぎだ。

 宮月美弥もそれを解っているのか、小さく頷いて個室へ入った。

 七瀬愛梨はそれを黙って見送り、洗面台の鏡へ向き合う。

 酷く疲れたような、憔悴した面持ちが映った。

 ……無理もない。

 時間も時間だし、今日は予想外のでき事が起こりすぎた。

 化粧道具は最低限しか持っていなかったので、軽くメイクを直して唇の傷を確認する。

 幸いと言っていいのか、正面からではほとんど見えない位置にその傷はあった。

 七瀬愛梨はほっと安堵して、スマホの明かりを落とし、鏡から目をそらす。

 扉を一枚挟んだトイレの外では、江藤敬吾と高槻晶の談笑する声が、小さく漏れ聞こえてきた。

 もう少し声を抑えて、と注意したくなったが、その二人の声に「日常」を感じて、安心している自分がいた。

 注意する気が失せたのも手伝い「短い時間だから大丈夫」と自分に言い聞かせて洗面台に背中を預け、もたれるような体勢を取った。

 なんとなく、宮月美弥が入った個室へ目を向ける。

 微かな音が静寂を乱すだけで、何も動きはない。

 当たり前と知りつつも、黒い不安が小さく過ぎった。

 …………ふと。

 トイレに満ちる、重苦しい暗闇が襲って来るような妄想に囚われて――その妄想に耐え切れず、スマホの電源を再び点けた。

 ぼうっ、と人工的な白い光がトイレに満ちる暗闇を照らし出した。

 別に、異常は何もない。

 トイレの闇に何かが潜んでもいないし、襲ってくるような不穏な気配もない。

 当たり前だ。

 そう頭で解っていても、どうしてだか不安が拭えなかった。

 ――……ふと。

 カサリ、と衣擦れのような音が小さく聞こえた気がした。

 七瀬愛梨はスマホを明かりの代わりにして周囲を照らし、闇の奥を伺うようにそっと耳を凝らす。

 ただ、宮月美弥の入ったトイレから微かな音がするのと、外で高槻晶と江藤敬吾の話し声が聞こえるだけだった。

 後は、夜の闇がわだかまったように暗くて、何も見えないし聞こえなかった。

 ほんの少し不気味に思うも、外から聞こえる男子二人の明るい声が恐怖を薄れさせた。

 七瀬愛梨は気のせいだと胸を撫で下ろして、スマホへ向き直る。

 今日ダウンロードした新曲を確認して、ラインやメールの確認もしようとして――七瀬愛梨はある異常に気付いて、薄く眉をひそめた。

 スマホの電波が立っておらず、圏外となっていた。


「…………はっ?」


 小さな驚愕が、七瀬愛梨の口を突いて漏れ出した。

 焦ったように、スマホを操作していく。

 繋がらない、繋がらない、繋がらない。

 そうして、七瀬愛梨が焦ったような思考に囚われている……その背後では、何よりも奇怪で不可思議な「異常な状況」ができ上がっていた。

 七瀬愛梨は気付かない。

 背後の鏡で異常が起きていたのを。

 七瀬愛梨は気付かない。

 背後の、七瀬愛梨の後頭部が映った鏡の中で――鏡面世界の七瀬愛梨がゆっくりと振り返って、無機質な双眸で七瀬愛梨をじぃっ、と見ていたのを。

 無機質な、いっそ硝子玉のような瞳なのに、その口だけが異常なまでに吊り上がっていた。

 真っ赤な口腔内が薄く覗き、顔面の皮膚が引き裂けてしまいそうなほど唇を吊り上げた、壊れた笑顔を浮かべていた。

 鏡面世界の七瀬愛梨が、二ィィと嗤う。

 現実世界の七瀬愛梨は外から聞こえてくる男子二人の声を意識から外し、混乱した思考でスマホに目を落としている。

 その背後でどんな異常が起きているかも知らずに。

 ただ、スマホに目を落として操作する。

 その様子を見て、鏡面世界の七瀬愛梨の唇が、ますます歪に吊り上がり、七瀬愛梨へと向かって両手を大きく伸ばした。

 ズルリ、と――そう形容したくなるような、しかし音もなく鏡面の中から二つの白い腕が飛び出した。

 ただ、鏡面には小さな波紋を打つだけで、まるでそれが当然であるかのごとく、抵抗もなく白くて細い腕が飛び出した。

 しかし、七瀬愛梨は気付かない。

 気付かず、ただ視線をスマホに落として操作している。

 その様子を見て、鏡面世界の七瀬愛梨はますます壊れた笑みを深くして、まるで昆虫が獲物を捕食するような無機質な動作で目の前にいる七瀬愛梨へ両手を伸ばし、顔ごと覆うように唇を塞ぎ、ぐっと引き寄せた。

 背後から突然掛かった激しい負荷に、七瀬愛梨は驚きに目を見開いて必死で藻掻くも、バタバタと宙に浮いた足だけが虚しく空を掻いた。

 持ち上げられた七瀬愛梨と、鏡面世界からはみ出した七瀬愛梨の目が――遭う。

 鏡面世界の七瀬愛梨は血走った目を限界まで見開き、唇が真っ赤にまくれ上がった、いっそ狂的なまでに歪んだ笑顔で七瀬愛梨を力任せに鏡の前まで持ち上げて、


 そして――……


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