ハジマリ
これは、
http://celestie.info/
このホラーサウンドノベルを文章化したものです。
一日に一話づつ、最終的に起承転結の起の部分まであげる予定です。
読んで内容が気になった方は、フリーですのでゲームをプレイしてみてくださいm(_ _)m
では、本編をどうぞ。
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夜の帳が深く落ちて、淡い月明かりと机に立てられた四本のロウソクだけが頼りなく周囲を照らす……そんな厳かとも、不気味ともとれる深夜の教室で、高校生の男女四人は二枚の紙を広げて机を囲み、四人で一本の万年筆を握っていた。
誰かの手が震えているのか、万年筆が微かに揺れて、小さくカタカタと闇を震わせた。
四隅に立てられたロウソクの炎が、四つの小さなオレンジ色の灯火となって、四人の影をうっすらと浮かび上がらせる。
机の上に置かれた紙には、上中央に真っ赤な鳥居が描かれ、その両脇に「はい」「いいえ」の文字、そしてその下に五十音がぎっしりと書き込まれていた。
――コックリさん。
……そう。
その紙と、全員で握るように持った万年筆、そして何よりその場に漂う奇怪な雰囲気は、コックリさんを嫌でも彷彿とさせるものだった。
ただ一つ違うのは、五十音の紙の下にもう一枚、大きな魔法陣の描かれた紙が敷かれている事。
じじっ、とロウソクの炎が頼りなく揺れて、ブレたような音を立てる。
それを静かに見つめ、右端に立った女子が、暗く、しかし厳かな声音で言う。
そして空気を震わせ、暗鬱とした音階が教室にわだかまる闇へ溶けるように広がった。
「サカキさん、サカキさん。貴方の望んだ右腕はここに」
その右隣の男子が、場に満ちる緊張感に微かに顔を引き攣らせて続ける。
「サカキさん、サカキさん。貴方の望んだ左腕はここに」
その真向かいの女子が、雰囲気に呑まれたのか脅えたように縮こまり、怖々と続けた。
「サカキさん、サカキさん。貴方の望んだ胴体はここに」
最後に左端の男子が、ゆっくりと韻を踏むようにして言った。
「サカキさん、サカキさん。貴方の望んだ左脚はここに」
最初に厳かな声音を出した女子が、くるりと一同を見渡すようにして一度頷き、そして詠うような軽やかな旋律で続けた。
「どうか、私達の願いをお聞き届け下さい。今この場には居ない、女子の左脚を贄に差し出します。その者の魂を贄として差し出します」
四人は一度、顔を見合わせる。
オレンジ色の灯火が僅かに揺れて、四人の顔に深くて暗い陰影を浮かび上がらせていた。
薄っすらと染み渡るような夜気の中、暗鬱とした空気がその場へ流れ込んでくるようで……声を出した女子、七瀬愛梨はぞっと怖気だった。
――今日が、五日目。
儀式を始めて、五日目なのだ。
怪談が本当なら、これで「何か」が起こる筈、なのだ。
初めから嘘だと解っていて、手慰みのつもりでやっていた。
……いや、ついさっきまでは、そう思っていた。
これで何かが起こって、凍川葵が死ねばいいとすら願っていた。
…………だが。
今この場に満ちる、冷たくも暗い、異様とさえ呼べる妖しい空気が、口から喉の奥、肺にまで浸透して、体中へ巡り、芯まで侵されていくようで……背筋を冷たい汗がダラリと滲んだ。
――でも、もう後戻りはできない。
自身の声すら不気味に響く、得も言われぬ異界のような雰囲気の中で、意識に力を込めて七瀬愛梨は言葉を紡いだ。
火の消えたような静寂だけが満たす暗い教室内に、静謐で陰鬱とした呪言が波紋のように広がる。
「その者の名は『凍川葵』です。今から書き添えます。サカキさん、サカキさん、お受け取り下さい。そして、その者の左脚を奪い、魂を贄として下さい」
四人はもう一度顔を見合わせて、握った万年筆、そしてその下の五十音が書かれた紙へと意識を向ける。
そして『とうかわあおい』と、文字をなぞろうとして――……
「そこまでだよっ!」
ガラリッ、とやや乱暴に教室の扉が開け放たれて、一人の男子が飛び込んできた。
その後ろには件の『凍川葵』を含めた女子二人と、もう一人、男子が厳しい眼差しで入ってきた。
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