brightness
俺が脚光を浴びるのは俺の力が有るとか実力があるからとかではない。俺の周囲の人間がそうであるからだ。最近の俺の主な稼ぎはこの国立大会レベルになるとボロを出す違法な賭博をしている有力者を潰すことである。今の理事長は子供は他界しているらしいが孫娘がいるらしく彼女や他の実力者メンバーで構成されるそれに協力したのだ。理事長としては孫娘がその父母である彼の息子と嫁同様に謎の死を遂げることを避けるべくブラッディー・オウガである俺を投入したことになる。まぁ、彼としては無償で俺たちを保護したかったのだろうが俺はそこまで他人に施しを受ける様なことをされたくはない。だから、この職務を買って出たわけだ。それに自警組織という扱いではあるがファイターの中でも力があり、国立大会に出場できるような面子がそろうらしい。それだから期待はしていたのだが……どいつもこいつもあまちゃんで溜め息がでる。このご時世に正義の味方な居やしない。いるのは偽善者かダークヒーロー程度だろう。俺は幼い頃、ヒーローという名の勧善懲悪の正義の味方を夢見た。……今でも夢見ている。救える物なら救いたい。だが、救うときには何かの代償を払うこととなるのだ。
時には心を鬼にしなくてはいけない。特に、……堕落した心を持つ輩を許してはいけない。完膚なきまでに叩き潰し見せしめなければならない。俺には目標がある。その目的を達成するまでは誰にも心を許してはいけない。だから、数日前までは俺はおかしかった。狂っていた。俺でない心は封じなければ、悲願は叶わぬ。固く結び、しめつけて……終わらせる。そのための鬼の面だ。
「リーダー、来ました」
「初めまして、私がリーダーの香館 悠よ」
「前にもほかの面子にいったが馴れ合う気はない」
前々からこの連中のことは気に入らなかった。生ぬるい育ちをした正義感だけのやつが多いのだろう。前回の出動ではリーダーは居なかった。確かにそこらの雑魚以上の実力はあるのだろうがそれ以上でも以下でもない。リーダーは機体を見なくてはどうにもならないが周囲の補助は地方大会の上位層で限界……。言ってしまえば束でかかるのとリーダーの人望や実力に支えられているに過ぎない。
リーダーも覇気は多少あるが力としてはどうかと言うことはまだ、わからない。だが、覇気のない周囲の補助よりはましか。前回の狩りは小者だったことからダミーホログラムを使って外装を隠していた。今回は前回戦闘で国立大会五位だった奴だ。亡者に成ってしまえばそれは潤いのない金に支配された世界となる。名はサイクロン……。風属の特異性をもつ機動型の高速機体だ。正直めんどくさい。俺のオウガは今のところ速度に対応した物を持たない。それだからあまり相性は良くない。
「貴方の機体名は? 前回の戦闘ではダミーを使っていたらしいけど」
「……」
「テメェ!! 前回といい今回といいなめてんのか!?」
「名乗る時は自ら名乗るのが常道だ。それに、俺はお前と話をしていない。無駄に絡むな」
胸ぐらを掴む男のファイターを俺は容赦なく力流動を利用して投げ飛ばし、リーダーに目を合わせた。別に俺の力を見せたくない訳ではない。俺はこう言った頭の悪いガキが嫌いなのである。すぐに熱くなる沸点の低いやつが一番作戦を引っ掻き回すのだから。それから用意された車に全員を収容して俺たちは目的地を目指す。リーダーの指示する地点まで運び全員の命の保証を行うのが俺の任務。俺の依頼者は理事長の香館 鬨氏だ。連中の言うことは聞かない。最低限師匠の出ない動きさえできれば俺にはもんだいないのだ。リーダーとそれ以外の雑魚さえ守ることができれば俺は問題ないのである。
もう少しで任務を遂行する予定地へ届こうかというタイミングで俺たちは敵襲を受ける。白のバンを俺が運転しているが……。この攻撃はファイターからだ。しかも、機動射撃型で速い。どうせ雑魚を警備に回して張っていたのだろう。それに統制が取れていない。ようは雇われた囮。こいつらに考える力さえあればもうターゲットはロストしただろう。しかし、こいつらが無線機とかそういうものを使わないように俺は手を打ってある。俺は理事長に依頼し俺たちを襲撃した人間やその周囲の電波をジャミングする機材を借用してきていたのだ。
「私が相手をするわ。貴方は指揮をお願い」
「俺に指図するな。お前がリーダーならお前の方が纏めやすいだろう」
「なら、こうしましょう? 二人ですぐに片付ける」
「理解した」
アクロバティックな動きで窓から体を投げ出し、一瞬で焔に包まれた。美しい焔は彼女の体を離れて翼のようになる。あの機体はフェニックスだ。凄まじい火力と高速の機動が有名で国立大会に未だ残っているファイターである。夜の空を一瞬で白昼の様な明るさに燃え上がらせるそれは確かに美しい。その背後に回った敵を運転席を任せた状態で俺はスケートボードに特殊なワイヤーを接続したもので飛び上がり首根っこを掴んで地面に叩きつけた。
フェニックスは相当余裕そうに口笛を吹くと背後の二人に高火力の火炎放射を浴びせて撃墜。最後は俺が取った。一匹の装甲に深く爪を突きたててスケートボードに乗った。フェニックスや火炎を操る焔属の期待はかなり燃費が悪い。だが、狙ったように俺の両腕に落下してきた彼女を俺はお姫様抱っこでもするように抱えている。そのまま俺はバンに敵のひとりを引きずり込み話を聞く。相手は政治家らしい。まぁ、その話が聞けただけでも大方の人相をつかめたから用のなくなったそいつのキューブを握りつぶして武装を完全に破壊してから俺は警察に連絡を取る。やつの絶望に打ちひしがれた様なあの顔を俺は国名に覚えていた。それが悪に染まった人間が最後に見せる顔なのだ。
「あなた……ブラッディー・オウガだったのね」
「オウガ……!!」
「まさか、あのオウガなんですか? リーダー」
「えぇ、フォルムからして間違いはないわ。でも、なんであなたがこんな偽善者ぶった真似をしているのかしら」
「俺は偽善者になったつもりはない。依頼を受ければそれを執行する。他のそれ以外に関わる人間のことなど知らないし、楯突くものは皆潰す」
モブ共が寒気を感じ取り瞬間的に縮こまった。しかし、リーダーは未だに俺と張ろうとしている。そんなことをしても無意味にほかならないというのに。そのうちに国際競技場埼玉区間部に到着した。そして、試合は終了していたがやはり、張っていた。俺は既にフェニックスに言伝て部下の三人ほどに同時刻に車が出た場所を張らせ、その車の中で物々しい集団となっているそれを追跡させる。そこにあとから行けばいい。ダミーだったときのために数班に分けている。さらに言えば少し遠くからこの場に策を回させたのは俺が単独で動いていると勘違いさせる為だったのだ。
他の人間は俺といない方がいいと思うに違いない。そして、俺とサイクロンの先頭が始まった。
「ほう、これはこれはお噂は予々。ブラッディー・オウガ」
「サイクロンだな。違法賭博の件で警察から依頼が来ている。来てもらおう」
「はは!! そんな物身に覚えがありませんが?」
「証拠写真や押収物もある。貴様にも懲役がついているからな」
サイクロンは毛皮をまとった狩人の様な形状をしている。かまいたちを扱い斬撃を繰り出すことでファイターをじわじわ嬲るのが好きな嫌なやつだ。口調や声室から男性だとは思われるが今はダミー系のカモフラージュアプリが多くどうにもならないところが大きい。それに奴は武装を所持している。その武装をフルに使い俺を攻撃してくるが……これが前年度五位の実力か? それにしては弱すぎる。ダミープログラムならばこんなに手応えがない。さて、どうしたものか。
「クルーエル・オウガ……タイプ刹那」
速力強化アビリティを使い俺はやつの攻撃を完全に封殺する。風属の攻撃は確かに速力や威力の観点、馬力、燃費の全てに事欠かない高性能さを持つ。しかし、それだけのポテンシャルがあるにも関わらず風属は順位を上げられないのだ。なぜなら、攻撃に連続性を持たせることが本当に難しいからである。風属の大きな弱点は攻撃の収束に時間がかかりすぎてしまうこととその収束を新たなアビリティでも追加に成功しない限りは一回につき一つという手数の異様なまでの枯渇にあった。その点、水族や氷属は収束に時間がかかるがそれ相応の手数と火力、性質的特異性を孕む。焔属は火力も手数もたん的には高いが弱点はやはり燃費の悪さ。ほかにも生物属性は収束的攻撃を持たず破壊的だし、機械属はそれを克服した新属として防御観点が軟弱なこと以外は完全に課題を突破した。俺の特異属はまず一つ一つに区分がない。だから何とも言えない。
「チッ……こんなところで」
「まさか、違法チップを使っていたのか?」
「えぇ、こうでもしないと勝てないのでねぇ。この世界で生きていくには強く有るしかない。あなたが一番わかっているはずだオウガ!!」
奴は根底から腐っていた。このフラグメンツ・ファイトの怖い所はその人間の強い感情、精神、向上心、現状のデーターを大きく汲む所にある。だから、リアルで変わることができなければいくら金を積んでも強くはなれない。確かに、プロトタイプのキューブを持てば多少のリンクの速さや利便性の向上という形式的な物は得られる。だが、それは極微量の『工夫』でしかない。結果的に皆が求めるのは究極的な武装強化や耐久値アップなどのチート技術だ。それの一つがあの『違法チップ』である。
それを使うことでメリットがあるかと言えば確かにある。フラグメンツ・ファイトの世界では人間のリアルアビリティを大きく組み込み、課金などでは実力を上下することはおろか何もできないという大きな壁があった。しかし、それを強制的に開いてしまうのが違法チップの本当の恐ろしさである。データデバイスであるキューブは人間との相互リンクを行い。使用者と共に成長し、使用者の死亡が確認されると同時にフォーマット、シャットダウンを行う。データの初期化である。それがあるからキューブあh成長媒体として成り立つのだ。
「わかっていないな。貴様はそれをすることでリアルのお前がどうなるかということを……」
「知っているとも。だが、つまらないそれを送るよりも今を充実させたい!! それでいいのですよ!!あなたのようにそれが行えない弱い人間が……」
それは俺を何も知らないから言える戯言だ。こいつの体がここに無い以上。俺は奴らの本部に飛ぶしかない。破損して回復を求めるキューブはリアルの体の所に飛ぶ。人間の体が傷つけばキューブが助けてくれるのと逆のパターンだ。直後に治すことはできないけれど修理の業者に渡すにはキューブが持ち主の手の中にある必要性がある。サイクロンのダミーナノトランスを撃墜し、俺はそちらに飛ぶあの方向は一番不安な班が向かった方向だ。
「間に合え……」
飛ぶとはいうが俺はナノトランスの持つ高い擬似的身体能力補正でなんとか走り抜けているのだ。俺の装甲であるオウガにはブースターとか加速器とかいう便利な飛行アビリティを搭載していない。俺が空を飛ぶことをもとまないからだ。それに求めたところで俺は空を飛ばない。暗い地底の底で俺は光を拒絶しながら生きている。そんな人間に翼や空を飛ぶための力が得られると思うか? 持つことができるわけがない。それだから必死に走る。名前も覚えない様な雑魚ではあるがそれでも誰かに必要とされているのだと思う。そう考えればどんなに小さなことでも捨てることはできないのだ。
「オヤジ!! 話が違うぜ!!」
「ふぅ、うるさいやつだ。貴様の実力が伴わなんだだけじゃろう」
「んなわけあるかよ!!」
「チッ、来よったぞ」
怒りにまかせて敵を蹂躙すればそれで済んでしまう。済むはずなのだ。なのに、正義感とは時として暴挙となる。俺はギリギリで間に合った三班の内の一班三名が重傷、内二名が危険な状態……なりふり構ってられないか。
「全員除け」
「何!?」
「俺ひとりで十分だ」
「んな訳あるか!! 違法チップの使用者だぞ!!」
第二波の広範囲攻撃を俺の防御アビリティでなんとかしのいだ他のメンバー。ブラッディー・オウガには本当の姿が存在する。絢澄 錦と関わったせいで装甲は腐食して訳の解らない形態とかしていたせいでかなり困惑したし今を持ってあの変化の激しい機体をどうにも扱えていなかった。特異型の装甲は変化が大きすぎる。その変化の速さを御すことが俺の本当に必要なことなのだろう。だが、決めたのだ。俺は変わってはいけない。目的を終えるまでは俺は変わってはいけないのだ。冷徹で残酷な人間でなくてはいけない。それが俺に拒絶というなの鎧を与えてくれる。心の壁が織り成す最強の防御壁こそが俺の武器だ。今も、これからも!!
「ブラッディ・シェル!」
幾重にも折り重ねられる心の壁。俺の装甲は取り外し、展開することで強力な壁となる。味方を守り、すべてを遮断するのだ。ただ、このブラッディ・シェルの弱点は俺の体にまとう外装を展開するために俺の体は無防備になる。それでも、俺の武装は弱くない。本来のブラッディー・オウガは騎士なのだ。俺の心を鎧で包み、幾重にも重なるなめらかな光沢により弾き返す。黒血色の破騎士は破壊力には何も文句を付ける必要がない。狂ったように壊せばいい。それが俺の力。
「思い出した……」
「リーダー?」
「フラグメンツ・ファイト始まって以来の危険な武装。あの装甲が……」
「『リーダーが震えてるなんて……一体何者なんだ?』」
蹴りはほんの数分でついた。何も俺の実害はなく、その鎧の壁が退かれた瞬間に自警団の総員が目にしたのは赤く、轟々と音を立てながら炎上する邸宅となんの罪もない使用人が怯える姿。また、その館の主人たちの無残な状態だった。俺も、心を閉ざしすぎると途中で何をしているかわからなくなってしまう。キューブ化は恐ろしい。キューブとのリンクが密になればなるだけ俺は人ではなくなる。虫の息ではあるが俺は奴らを生かしてあった。昔の俺なら本当は殺していただろう。やはり、変化し続けてしまうのか? 人間は変化がなくては生きていけない生き物だと聞いたことがある。しかし、俺はそれを望んでいない。どうしてなのだ? それを望まない物にも時間という有限の資産は供給され、消費される。
「後は……頼む」
「おい! テメェ……」
「みんなはよろしく。私が追うわ」
俺の背後からはやはり暖かな熱感覚がする。キューブ化した人間はわかりやすい。特にエレメントを体に強く含んでしまった人間などは言うまでもなくわかる。フェニックスが俺に近づいて来ているのだ。
「修羅君だよね?」
「何故、俺の名を?」
「やっぱり……覚えてないんだ。昔、私が告白してものの見事に振ってくれたじゃない」
「知らん」
「これでも?」
彼女は長い赤い髪の毛を二つに分けて束ねまとめあげる……。おぼろげな所にある記憶に結びつく。あの頃はまだ父がいなくなったことを完全に理解しきっていない頃だ。だが、やはりこうなる俺を形作っているのは結局俺の根底にある資質が強い。俺は人を傷つけるのを極端に嫌うところがあの頃から強かった。だから、他人との関係を絶てば誰も傷つかない。それがわかっていたから俺は彼女を振ったのだろう。まだ、幼稚園の話をよくもまぁ……掘り返してくれた。だから何だ? という感が否めないも、俺はそのままに歩きさろうとする。しかし、彼女はそのまま行かせてくれない。
「ダメ……。行かないで」
「俺は誰にも束縛されない」
「うん、私は束縛はしない。でも、あなたのことは愛してる」
唇を重ねられ、俺は一瞬当惑したがすぐに体を引いて逃げるように夜闇に溶け込んだ。感情の整理など付けている余裕すらなかった。だが……。俺にも変われという神からの敬司であることは確かだ。それ以外に俺のこれまでの生活を阻害する要因が集まるなんて考えることができなかった。絢澄にしても、この香館もだ。
どれだけ俺を惑わせれば気が済む? 俺のどこにそんなに良いところがあるのだ? ただ、陰険でチキンな野郎のどこに本当に……惹かれているというのだ? それから毎日のようにあの女は俺の所に来るようになった。そして、俺も心の中にとある変化が訪れた。それは俺が引きずり込んだ為児手 令布の影響が強い。もう少し周りのことに関して目を向けろとのことだった。ことに、人間関係をもっと柔軟にすべきだと言われたのだ。あの時は俺は確かに機嫌も悪いし、フリーのファイター集団に襲われたこともありかなり心情が沈んでいた。だからと言って……。
「うぅ……」
「お前等……」
「うぅ~~~」
「ここは動物園か!? 喧嘩なら外で頼む!!」
それから文学科の香館は帰って行く。このあと講義があるのだとか。そして、絢澄は俺に弁当を……差し出してくれない。彼女の膝の上の弁当箱は確かにいつも俺に作って来てくれた物だ。だが、今日は難しい顔をしている。香館のことを意識しているのか? 俺はああいうタイプはあまり好きではない。絢澄のように少し落ち着いたタイプが好きだ。それくらいがいいのである。
すると、絢澄が口を開いた。どうやら、俺のことに関して少し聞きたいことがあるという感覚の内容だ。だろうな、オウガのことも関係し、俺は心情の変化が急でおかしな変化をしてしまう。それが原因で彼女を傷つけてしまったのは事実だ。しかし、オウガのことは言うべきではない。心のひび割れはいい方向に進んでいるという現れなのだ。璃梨にも令布にも叱られた。俺はもっと素直になるべきだ。そして、目的に周りを巻き込まないなんて不可能だと断言された。それもそうだ。俺という存在が消えない限り結果として周りは俺に影響されてしまう。それが関係しているのだ。璃梨にそう諭され、俺はこれまで変わらなかった俺を変えるようにと考え始めている。
「藍緋君がブラッディー・オウガというのは本当ですか?」
「……」
「答えてください」
「そう聞いた時点である程度はわかっているんだろ? 璃梨に聞いたか令布に聞いたか…あるいは他の線か……。そうだ、俺がブラッディー・オウガだ」
「なら、次の試合は……賭けをしましょう」
「何?」
「私が、あなたの次の対戦相手であるウンディネです」
ほう、面白くないジョークがここで飛び出した。ウンディネ……ここで力をつけてきた機体だとは聞いている。俺はセカンドリーグに移っていた。ファーストリーグは基本的に強い人間だけが生き残れる高額の資金を稼ぐのに適したそれだ。しかし、国立大会に出場するのはいろいろな仕事を掛け持ちする俺にとってデメリットが多すぎる。スポンサーとして企業も動くし、それだけ有名になれば俺が密かに燃やしている目的も達成が遠のく。第一の目標……それは俺の体の中に溶け込み続けているキューブに関しての新しい情報を自らが見つけ出すこと。第二に父親の捜索、または安否の確認。第三に……俺の未来を決めること……。
セカンドリーグで自分探しをしていた彼女と鉢合わせしたのだ。俺が勝っても負けてもセカンドリーグ程の稼ぎでは子供の小遣い程度の稼ぎにしかならない。大きなスポンサーや俺は望まないけれど国営の賭博に名を載せ、勝利してその一部を見返りとして受け取るという方向性こそが本来のファイターたちが望む物だ。だが、俺はそれを望まない。俺が望むものが彼女のように別の所にある以上金は二の次で仲間に大きな迷惑やダメージを背負わせないために一人でやって来た。それを今更変えるのもどうかと思う。だが、どうあっても周囲の人間が俺に影響されてしまうというなれば俺は守りきって見せる。俺の鎧はそのためにあると思いたい。俺が俺自身だけを守ることをやめた瞬間からこの鎧は俺のためにある訳ではない。この鎧は俺を支えようとしてくれる仲間のためにあるのだ。
「いいだろう。その賭け、受けてたとう」
「本当に……いいんですね?」
「あぁ、俺は嘘は付かないし、家の関係から俺はまだ皆に言えないことは多い。それでもいいならだがな」
「構いません。私が望むのはそれを含んだすべてですから」
いつになく厳しい目つきの彼女を前に俺もなぜか真剣にならざるを得ない状況となっていた。このあとに俺は久しぶりに道場で嗜み程度に習っていた古武術をするために模造刀や鎧などを一式持ってきていた。それをいれたバッグを除けて彼女の方向に視線を移す。俺はやはりオウガとのリンクが強まる中でどんどんと視力や体の感覚が低下している。それに痛覚など最近はもう、ほとんど感じない。よくもあるし悪くもある。痛覚がないと言うことは温熱感覚や空気的なものを何も感じ取ることができなくなって行くということになるのだ。どうしたものか。
しかし、それを失うも変わらない物はある。感情としての心の痛みだ。俺は傷つくことが嫌でこれまで心の分厚い壁を引っ張ってきた。それが結果的に俺を苦しめている。俺はこれまでは自分で水槽の壁の様なグラスウォールを作って来ていたのだ。それを今更急に取り払えば危険な河川に放された飼育魚と同じ状況に直面する。知ることができなかったり拒んで来ていたそれを俺は今更大きく知ることとなっているのだ。
「私が勝てたら……私を彼女にしてください」
「……は?」
「だ、だから、私を……」
「すまん、そんなことだったのか」
「そ! そんなことって!! 私の三ヶ月分の気持ちを返してくださいよ!!」
「あ、いや、ごめん。絢澄はまだ本当の俺がどんな人間か知らないからそれを言える。こんな俺でそれに見合うかどうかは……」
「これから、それを探って行くのが……私の望みでもあるんです」
確かによくよく考えればそうか。女子が手製の弁当を作るなんてそうとう珍しいことだと思う。自前で自分の弁当を作るのであらばそれは普通だが……男にそれをするなんてことは極希なこと。もっと早く気づくべきであった。感情の流動は読みづらい。俺は相当鈍いらしいのだが……膨れっ面の絢澄も相当だ。これまで俺がオウガであることを匂わせてあったのに核心に行き着いたのは今なのだとか。令布はすぐに気づいた。璃梨はもとより知っている。さぁて……。
「もう、いいです!! 今日のお弁当はあげません!!」
「俺は我慢すればいいだけなんだが」
「う……。ひ、卑怯でぅ!! 『かんじゃった』」
「かんだよね? 今」
「うぅ……。意地悪です」
こうやっていじるのが楽しい。それで和んだ俺たちの会話のあとに絢澄が弁当箱を広げてあのキャラクターが描かれたわりに小さいフォークにウインナーを突き刺して俺の口へ運ぶ。とは言えまだ彼女は少しムスっとしているようだ。これから闘う人間同士とは思えない。これが続けばいいのに……。それは続かない。それを許してくれないのが人生というナノ波である。俺も彼女もその中ではただひとりの主人公。輝かしいスポットライトに照らされた人生という名の海に住んでいる住民だ。各々が主人公で誰かが登場人物。その混ざり合いで俺たちは人生を歩んで行く。制限してはいけない。これから広げたいと思うのであれば旅をせよ。見聞を深めて闘うことこそ俺たちに求められたことなのだ。
輝かしい人生を望むならば抗わなくてはいけない。その目的がいかなるものであっても俺は……俺たちは戦い続ける。輝かしい檀上に残る為、俺は仲間を誰ひとり失わぬために戦おう。力の限り。
「璃梨ちゃん」
「なんでしょう」
「私に……オウガの昔の姿を教えて」
「それは、本当に覚悟ができたということだと受け取ってもよろしいですか?」
「うん」
俺が主人公であれば他の誰かは他の誰かを主人公にした物語がある。これまでの俺は傷つくことを極端に恐れていた。オウガはその現れだ。その傷は傷つかないことを望み他人との共有を拒んだことで広がっていた事に俺は今気づいている。心の壁で遮断した輝かしい光に充てられ、自分に足りないものを痛感しながらもそれを拒絶し、自らを拒絶していたのだ。それは言うまでもなく虚無を意味した。にもなくなれば欠乏する。欠乏した俺の心は構成要素を失うことでボロボロと崩れていったのだ。これまで築けていたこころの壁はもう、築くことができない。一度変化した物は簡単には治らない。心には法則も何も通用しないのだ。
俺には俺に必要な光がある。輝かしいとは限らない。俺に必要な優しい光を……俺は守りきることはできるのか? いいや、守りきらねばならない。もう、何かを失って自分の中に虚空をつくらぬように。俺は血の色を体に持つ鬼だ。木津付けることしか知らない。なれば、できることは本当に限られる。俺と俺に必要な皆を誰も傷つけさせはしない。
絶対に……俺の光を閉ざさせはしない。俺の大切な仲間を傷つけさせるなど……許さない。