best live
機体名はインドラ…… 。
それは先生となった皆さんからは攻撃特化の機体と聞かされている。あの夜も本人からそのように言伝られているだけに本当はタッグを組むのがとても怖い。しかし、修羅兄の話を聞く限りでは現在の状態はそこまででもないという。それでも技の火力で見れば今現在の錦姉が持つ火力とも大差ないとも教えてくれている。シフトが行われる前らしく、本来の姿ではないという事らしい。これらから力の不安定さが浮き彫りになっていて私も困惑を隠せない。
それに私のヴォイスも遷移が近づいているせいか少々どころか、かなり不安定だ。修羅兄曰く、ファイトは波が来ることで進化を促進するらしい。私もそれに呑まれている。二、三日前から妙な感覚……。胸へと押し上げるこの感覚を私は抑えるのにも必死だった。
インドラ、この位置からは初めて見る。何度かちらりと目の隅に入れることはあってもそこまでしっかりと見ることはなかったのだ。こんなに筋肉質だったんだ。
「俺が突貫して奴ら、特にルーイン・ピアスの特性を暴く。ロール・スパイカーは何となく理解できるからな。ヴォイスは広域支援、もしくは攻撃を頼む」
「うん」
私の能力で動くであろうファイトの展開については修羅兄に挙げられ注意されていた。
今回、紫輝にとってはデビュー戦となる。だが、何故か…この戦闘で彼に一度、手痛い苦肉を味あわせるということらしい。なかなかあの人も厳しいことをする。仕方ないのかもしれないけれど、最初の試合くらいは華を持たせてあげてもいいと思うのに……。
そして、対照的に救済として錦姉から問いかけられた私の課題もある。ヒントのようなもので、それはこの度のパートナーとなるインドラについてだった。インドラである紫輝の性質をこの戦闘で読み取る事。それは私のスタンスにはなくてはならない物で彼への支援、もしくは協力の効率化である。
錦姉の話では彼女の未来の旦那様である修羅兄の今回立てた教育案は裏があり、紫輝があまり良い状況にならない場合は見かねた私が戦うことも見越しているというのだ。私にはその裏を教えてもらった。その理由は修羅兄の立案に少々錦姉は厳しすぎると思ったようで紫輝にフォローを回した結果となるのだ。
「錦、教えただろう。八織に」
「うん。さすがに私のかわいい妹分に苦い思いさせたくないし」
「そうか。紫輝に知られていないならいい。順風満帆だと奴は伸びない。あいつの伸びしろはまだまだ長いからな」
開始直後に彼は強烈な閃光を放ちながら雷を体へ纏った。属性により特異性が強く、自身の持ち合わせる属性に対して親和性の高い装甲タイプであるエレメントケースでもない。タイプが大きく異なるのによく纏えるなぁ…と思ってしまう。アライメントケースの彼は人間の体と無機物の中間種だ。しかし、彼の物は中間種の中では人間に近いはず。今の所ダメージはないがフラグメンツ・ファイトはゲーム内当たり判定や属性として振り分けられている物の特性など、リアリティに重きを置いている。このことから言ってプレイ中にはどうあってもエネルギー体を纏うという行為自体に体へダメージがかかってしまうというリスクを伴う。しかし、彼は悠姉に習ったのだろうか、ギリギリの位置でありながら体に沿う形状だ。ここまでの急成長ぶりはどう考えても先生たちがよかったからだろう。
前衛職バリバリである彼の武装はかなり無骨で私の華奢な物とは大きく違う。武器である金剛杵がいくつもある。インドの神話にもインドラ自体は存在するが勇猛の戦士であるインドラとはまた異なるだろう。紫輝からは落ち着きが見られるのだ。
私達のファンタジー感溢れる外装に対し、スレた学生とかヤンキーみたいな服装のロール・スパイカーとルーイン・ピアス。この二人は元々集団戦部門に居たらしい。タッグバトルが最近に解禁されたからだろう。相性が売りの双子で紫輝一人では本当に辛いはず。それでも彼は前線へと向かう。あれが彼なのだろうか。
「インドラ!! あんまり出過ぎないで!!」
「ヴォイスは下がってろ。お前の防御はペラペラなんだからな!! 俺ができるだけ削る!!」
聞いてないし……。はぁ……。
ロール・スパイカーの攻撃はでっかいヨーヨーでの中距離範囲攻撃だ。ワイヤーには切断機能まで付与されているしい。ただ、基本的には物理攻撃のため、紫輝は雷のガードでならなんとか防御して行けるようである。彼のキーマターとなる雷は、悠姉の焔のように無形でありながらその物質を壊さずに干渉できるという特性がある。イオンによる静電気効果で誘電率により斑はあるも、絶縁体以外なら比較的強い干渉ができるらしいのだ。そう考えたらアイツ意外と頭いいかも。それでもイオン効果や静電気の力もしくは電磁力による磁石効果は蓄積や誘電性は敵のタイプにより大きく変動する。それだから何かを消費し、せっかくチャージした雷を放電してまで手の内を探っているらしい。それにしても限界があると思うけど……。
先程から見ていると、インドラのプレイ中のゲージはいくつもあり管理が難しそうだ。脳筋とかよく言うよ。それにインドラの帯電や発電の仕方は彼のモーションにより変化するらしい。スタミナを消費して動くことで発電するのかな。動く発電所? そんな感じだ。強力な磁場や放電も駆使して攻撃をするが相手も上手い。明らかに追い込まれているのは紫輝の方だ。
「意地悪がすぎるんじゃないかしら?」
「悠ちゃんもそう思う?」
「そうか。だが、これは俺が言い出したことではないんだよ」
「俺だよ」
「令布? そんなにスパルタしなくてもいいじゃない」
「まぁ、見てればわかる。俺は単に挫折させるためにアイツをこんなに厳しい条件に追い込んでいるんじゃないんだ」
「?」
「?」
「お前も気づいたか。悲観めいたことを呟いていたアイツが変わり、手に入れたことであの力がそのようになったことに」
「俺もそうだったしな」
そして、いつの間にやら紫輝のHPゲージはかなり削られている。司会者の抑揚の強い会場の盛り上げ、解説者の同様の解説も私達プレイヤーには届かない。必死に私は回復の歌を歌い、紫輝の延命を行う。しかし、それでも追いつけない。紫輝…お願いだから下がって!!
それでも彼は下がらない。なおも前線を張り、なおもセンターラインよりも奥へ二人を押しやることを続けている。何か狙いがあるのか? 傍目から見ればただゴリ押ししているように見える。それでもアイツの雷攻撃は緻密性がとても強い。錦姉の練習で私は攻撃の見極めについてはかなり強加されている。その中でアイツの動きはどう見ても狙ってダメージを受けいているようにしか見えないのだ。
「インドラ!! 下がりなさい!!」
「まだだ、まだ足りないんだ。俺は、俺の…俺の力は」
「インドラ!!」
相手は本気とも様子見ともつかない攻撃だ。どうしてかと言えば、おおよそ様子見をしているけれどインドラの地火力が高いため警戒は強めなのだろう。少しでも気を抜けば高火力な技を連発され怒涛の攻めを受けてしまう。それだから相応の攻撃をしないと受け応え難いということなのだろう。ロールもピアスもヒューマニカ。人間味が強く錦姉と同じで属性や特異な形態のダメージの透過性はとても高いはずだ。それでこの状況を見る様な動きをしているということはま……だまだ何かを隠しているに違いない。
そう考えるとインドラこと紫輝の行動はかなり怖い。少し考えれば無謀なのは理解出来ているだろうに。……相手がそれに気づいているかいないかは解らないが、矛盾はここから色濃く見られた。我武者羅しているようだが、あんなに緻密な攻撃……。彼の目的はなんなのだろう。しかもその攻撃は粗暴に見えて、それなりに相手のHPを削っているから驚きだ。これが初戦とはなお驚く。相手は気づいているのだろうか……。
「ここまで俺たちがあいつを追い込むのにはそれがあいつに欠かせないプロセスであると理解しているからなんだ」
「経緯を言うなら、女子陣は知らないかもしれない。アイツは怒りをコントロールしようとしていたんだよ」
「で、でも、それって無理なんじゃ」
「そう、普通なら無理だ。だから俺は令布にゆっくり、じわじわと誘導させたんだ。俺が言葉で伝えると紫輝は気負いすぎる。だから上手く気づかせたかった」
「で、結論は?」
「もう少しなんだろうよ。あの突撃の仕方だと。だが、経験値では相手の方が何枚か上手だな」
そう、ヒーリングに手いっぱいでじわじわと動き出す展開に追いつけていなかったアタシに牙が向く。
予想できなかった理由としてはインドラがアタシに対して二人を完全に近づけなかったことに起因した。しかし、ピアスの技は隠し種があり、それを用いてアタシが先に狙われたのだ。どうやらピアスとロールは攻撃の展開力の高いインドラを警戒していたのだろう。とは言ったものの雷や電気の攻撃特性、範囲と継続時間が短いことに気付いたらしい。そこでインドラの火力の高い攻撃での持久戦を警戒し、それを下支えするヒーラーの私をつぶしに来たということらしい。
ピアスの操る釘のような形の巨大な杭が何本も私を狙い現れる。ピアスの能力は何かの物質を変換し、ピアスを作り出す。そのピアスを自在に操る能力をもっているらしい。ただ、ピアスの造形には時間が多少かかるため、その間インドラの対処には比較的近接戦闘のできるロールが当たっているのだ。それでも急に感情が高ぶったのか強烈な雷光を纏う彼。
観客席より思い思いの強い熱量が飛び交う中で必死なインドラの行動により私は守られた。しかし、インドラの初戦は本当に苦しい物となって……ない?
「インドラ……そんな」
「一機落とした。次はアンタ」
インドラの胸部を貫いたように見えた杭は電熱で融解を通り越し蒸発した。ピアスの杭が何でできているかは解らない。だが強力な電熱は私に近づく杭を全て溶かす。
それでもピアスの杭は私を狙う。ただし、その杭は私には届かなかった。それにインドラのHPは尽きていないらしい。フラグメンツ・ファイトのゲーム中に撃破された場合、キャラクターの画素が急に荒くなり消えるように見える。
しかし、紫輝の体は消えない。そればかりか彼の体からは私すら火傷を負いそうな程の熱量を覚える。そうなれば彼の体付近ではかなり高圧の電流が流れていることになる。いいや、アライメントケースなら彼は自身のダメージで消えてもおかしくない程強力な電圧が体自体から沸き立つように出ているのだ。インドラは人間の体と近似した組成の上に雷をまとうはず。しかし、今は……。
「修羅さん、令布さん。ようやく解りましたよ。怒りではなく。俺が使えるのは……『闘志』なんだ」
私は腰が抜けて動けない。
彼は電流が私へ飛ばないように注意深く私から体を離す。すると背中に背負っていた金剛杵を一つ握り再び前進した。そして、彼は渾身の一撃と思われる打撃を反応に遅れて防御が遅れたピアスへ打ち込む。金剛杵による打撃がピアスへクリティカルヒットし、おおよそ7割近いピアスのHPゲージは一気に落ち込んだ。ピアスの画素が荒くなりユニットが霧散した。撃破できたのだ。
だが、この攻撃はギャンブル要素が強すぎる。あたしは冷や汗ものだ。なぜならこの時、同時にインドラのHPも危険域だった。反撃をかすめでもしたらその段階で終了……。彼が緻密な考察を働かせた戦いをしている間、電流によるダメージは無いらしいのだがこの状況でダメージが加算されていく状態の負荷は危険すぎる。
それに問題はもう一つ。タッグバトルにのみ、上げられる特例ルールがある。
タッグバトルには倒された味方のHPへ自身のHP領域を任意量だけ託すことで復活させる事ができるのだ。ピアスは撃破したがプレイに関して上手なロールが自身のHPを譲渡してピアスを復活させた。闘いは振り出しだ。……いいや、そう言う意味でお互いを知ることが出来ていない私達が幾分か劣勢な感が強い。インドラの体力は現在1なのだ。
「覚悟……あたしが変わらないと……」
もう一度インドラにヨーヨーが向かう。しかし、そのヨーヨーは彼にヒットしたはずなのに彼は倒れない。どうしたというのだ……。硬い防御力がある訳でもない。ただ、ただ、我武者羅してるだけのアイツにあんな力は無いはず。
そう思った瞬間にロールの表情が強ばる。ヨーヨーが動かないらしい。いや、ヨーヨーどころか腕に違和感があるのだろう。動きも鈍っている。その援護にピアスが入るために雷の恩恵が薄いらしい背後から狙おうとピアスを大量に展開した。でも、インドラには刺さらない。ピアスもヨーヨーも……動かない。
「その程度か? お前らに脳みそはついて無いみたいだな。電磁石って知ってるか?」
「?!」
「俺は……師匠達から学んだ。冷静で居ながら極限まで力を高めるためには何を研ぎ澄ませばいいか」
胸が熱い……。
何だろう。私の目の前にいる男の子は自身を鼓舞し、力を高め、私を守りながら相手を圧倒している。確かに私も万全では無いにしろ……紫輝を守りたい。
私が皆さんから教えて貰った事? 力の使い方? 気持ちの使い方? 仲間の守り方? 技の特異性? ……違う。私が錦姉から教えて貰った事、修羅兄から学んだこと、良布兄から真似た事、悠姉から教えて貰ったこと……。それは……。
「「互いに求め合い協調すること!! シンクロシフトォォ!!!!」」
紫輝に与えて貰っていた私が迷走できる時間。
やっとわかったよ。私が出来るのは回復だけじゃない……。ヴォイス、私は変わるよ。
『貴女の波を私と……伝えましょう。八織ちゃん』
だから、もっと楽しいステージを私達のために用意して。錦姉みたいな愛らしさも、悠姉みたいな綺麗さも、璃梨さんのように妖美である必要もない。私は私だ。私の力を、今はパートナーの紫輝に注ぐ、私の強さはそれだけじゃない。私を支えてくれる皆の力……。良布兄、力を借ります。
決意を心に仕舞い、新たに地に足を付けると先に紫輝がシフトを終えていた。彼の方は裸族かと思われた露出から、スキルゲージバーが更に増え、服装がかなり現代風になっている。紫輝のイメージからは少し外れるけれどかなりダボッとしたカーゴパンツに、上半身はピタッと体に着く戦闘服に見える。カラーリングは見事に迷彩柄、ミリタリー?
「遅ぇぞ、ヴォイス」
「私はもう、ヴォイスじゃないよ?」
「ん?」
「私はアンタの相棒……アルティマ・ウェーブだから」
「それを言うなら、俺もインドラじゃないんだぜ?」
「へぇ……」
「俺はマキシマム・ヴォルテックス」
ヴォイスはこれまではできてもマイクや衣装を変えるまでに留まり、他のプレイヤーの容姿までには至らなかった。小さな範囲の強化や回復以外は使えなかったのだ。
しかし、ヴォルテックスに向けて、私は強烈な強化を飛ばした。ピアスもロールも警戒体勢だ。普通はそうだと思う。でも、私のは直接の攻撃じゃない。引き立て役? 違う。私と紫輝のステージ……紫輝の力を上げるための……私が万全に歌うための……デビューライブだ!!
修羅兄は笑顔で称えながら拍手をしてくれている。錦姉は涙を貯め、令布兄はいつもの不敵な笑みを…悠姉は満面の笑みでガッツポーズ。
皆さん……ありがとう。
それに合わせて私の心が揺れ、脳内に流れるイメージが曲とたり流れ出る。……私達のリーダーである彼を称える重低音が響きだした。イントロだけでも強い威圧感を与え、荘厳で厳格な彼をイメージさせる強烈な曲調だ。そんな曲に合わせてだろうか、黒い鎧のようなコスチュームになった私は自身の声域で最も低い音程を絞り出した。テーマは……『black・knight』。凄まじい空気振動……。空気が振動する事で風が起きている。やっぱり彼は重い。まだ、私の域では彼を十分に表せないのだ。深く、広い人なんだなぁ。
「ほぉ、外観からならば良布に近似する能力だな。他者のコピー&ペースト、元からあった楽曲による増幅強化。さらに周波数により変化する複合効果を連続投入とは……お前の妹分は恐ろしい新境地を得たぞ。錦」
「八織ちゃん楽しそう。それに力強い曲だね……。修羅君かな?」
「いや、二人共だよ。よく見たら解る。黒い衣装をした彼女の後ろに錦に似たダミーホログラムの彼女がいる。俺の類似装甲……いや、八織の装甲は俺なんかより数段化け物じみてる」
「複数別理性装甲……。良布のは徒締と二人だけ……でも、八織は」
確かにパワーアップしてる。でも、修羅兄の装甲は紫輝や私には重すぎるらしい。その辺りの配慮が居るかも。
それに一緒に錦姉の装甲を展開しようとしたのに出来ないのだ。多分、このウェーブは良布兄とは違い、私単一の理性体での挙動なのだろう。なら、歩合を軽くするだけだ。多分、修羅兄の装甲は経験や志が私には重く完全には扱いきれていない。それなら部分的に力を使うため、修羅兄の能力を武器として展開する。
紫輝……貴方の望むライブをしよう!!
「ミュージック……チェンジ!!」
途端に空いた私の容量。そこで、私は自分の限界に挑戦する。複数の楽譜をどこまで一緒に行けるかな? 曲調の変更と共に紫輝の防具が消え、彼の所には重厚な拳銃と小さな拳銃が現れた。
さあ、開幕だ。不協和音は奏でない。私は音楽家でもあるんだ。作曲するよ。音が、私が、観客の皆さんが……何よりも相棒が求める歌を私は歌う。
修羅兄のblack・knightには重く響く悠然な曲に似合う楽器が多い。どの楽器もその類では最も大きいのだ。頻度を下げ、調和する楽器を選び、錦姉のmarine・princessに移る。錦姉は柔らかな音が好きだろう。弦楽器……修羅兄はコントラバス、錦姉はバイオリン、自ずと決まった。
「最初が俺らしいな。どうにも俺の曲は重たいな。だが、好ましい」
「綺麗な曲調……私ってこんなイメージなのかな?」
良布兄は和調な配色……illusion・bluefire。全てに調和する細く滑らかな音調を奏でて貰う。篠笛……。悠姉には華やかな華であってほしい。でも彼女も和調な曲調……Resurrection・wingで楽器は琴。
「和調な辺りから俺だな。ははは、なめらかな調べ……全てに滑り込む繋ぎ目の役割か」
「は、恥ずかしいわね。でも、大好きよこの感じ」
千歳兄は私達全てを合わせる役目をしてくれている。そんな彼のcometにはピアノを。エリュには凛とした彼女を表す、El・noil。フルート……。
「ほう、千歳さんとエリューゼだな」
綾太郎には寄り添う優しげで暖かな音調……Breeze。楽器は……トランペット。璃梨にはお兄さんである修羅兄に似た風格だけど……寂しがり屋な彼女と綾太郎とでsoul・breathかな? 楽器は……サックス。
「急にジャズみたいね。璃梨と綾太郎少年でしょうね」
「綾太郎少年……? 新しいあだ名か何かか?」
「クスクスっ」
「ははは」
「むぅ………」
紫輝……軽やかに私達に力を与えてくれるパワフルな貴方にはHightpower・beat。楽器はドラム。
私は……この場所だけは譲らない。皆に助けてもらうよ。でも、私達は皆で一つ。私も皆を助ける事ができる。私はマイクを握る。Ultimate waveを胸に!!
「まさか、こんなにも強力になったなんてな。なら、俺もやらなくちゃならん。マキシマム……チャージ!!!!」
「な、HPが全快?!」
「もう、お前らにはやられない。様子見は終わりだ」
途端に紫輝は前進する。動きが先程までとは段違いに速い。修羅兄の重厚な拳銃と錦姉だろう小さな拳銃には小さな刃が上面に接続され、背中には何やらタンクのような物が結わえつけられていた。曲が加わる事に私や紫輝の武装は増えている。私が展開しているから本来ならば私が理解していないと行けないのにミリタリーな知識は私に無いから……あぁ、勉強しよ。
紫輝の怒涛の攻めはなお続く、ピアスの杭もロールのヨーヨーも彼はダンスの振り付けでもしているように華麗に回避し、反撃に転ずる。先程までは銃に付いているナイフの近接に特化した物だったのに急にバク宙し、体を捻った。銃口からは規格外な衝撃を放ち、空中で彼を更に高くまで跳ねあげる程の反動を持っていた。攻撃力と破壊力から推察するに修羅兄の拳銃だろう。そんな重厚な拳銃が火を吹いた。
ロールは既の所でヨーヨーを使いガード、回避をした為に重傷ではない様子だが直撃して無くてあのダメージ……、あれは不味い。拳銃? ミサイル? バズーカ? ……解らない。直後に反対の手に握られていた錦姉を模したウォーターカッターが炸裂。反撃のために紫輝に向いていたピアスの杭が断ち切られてゆく。本体はロールを守るためにらしいが撹乱をするため走り回っている。それでも……紫輝の容赦ない追撃が火を吹く。背中のタンクからノズルを引き出し、火炎放射?! 更に追撃…ショットガンに手榴弾……何でもありだなぁ……。テンポの速いオリジナルアレンジの曲は軽快に動き回る紫輝の背を押しているらしい。
「クソぉ!! 二人纏めて死ねぇ!! スクラップ・ストライク!!!!」
痺れを切らしたのか、切羽詰まったのか……。ロールはピアスが彼女に近い場所、安全圏に入る所を見てから必殺技らしき技をおおっぴらに発動した。鋲が突き出した巨大なヨーヨーを私達の上空から落としにかかる。無表情に紫輝が武器を構えるが……。ここは私の出番かな? 私は攻撃ができなかった。しかし、ウェーブになってから。胸が熱い。
ヨーヨーが落ちてくる。しかし、ロールの華奢な腕では質量運搬は見込めないようで動きが非常に遅い。落下開始の数秒前、私のダミーホログラムがおよそ人とは思えない速度で走り込む。そして、真横に私の分身が現れた事に驚いている紫輝を引っ張り出す。凄まじい速さだ。ダミーホログラムとは言っても質量はあるはず……。しかし、速い。
喉元に熱量を感じる。でかかってるんだ。私の心の叫び……。言わなくちゃと……。言いたいんだ。この高鳴る心音は私の気持ちを表してる。私の……いや、私達が開くライブを……熱狂のまま次への活力にするんだ!!
「皆!! 楽しんでるかぁぁぁぁぁぁぁぁぃ!!!!!!!!」
『ワァァァァァァァ!!!!!!!!』
「すぅッ…………………………アルティメット・ウェーーーーーーーブ!!!!!!!!」
ヨーヨーの隕石諸共、相手選手の二人を薙ぎ払い私達は勝利を納めた。
今はと言えば……紫輝に頼み込んでいる。
紫輝はスポーツの射撃で生きていきたいらしいけど私は彼が欲しい。戦闘中の彼はかなりダンサーとしてのセンスを伺わせた。あれで最近始めたらしいから……。成長したら凄い人になる。確信を持って言える。私は彼が欲しい……、彼と歌いたい。
あんなに燃えたステージは無かった。私が……いや、私を相棒にして欲しい。私の相棒はアンタなんだから。いつまでも待ってられないよ。時間は有限だし。鬱陶しいらしい紫輝は射撃演習場で喚いている私を使っていた銃を片してから連れ出す。そこは芸術系の学科生が用いるレッスンルームの一つだった。
密室に二人きり……。え? こ、これって……。もしかしなくても……。
「ん? 今日は八織も居るのか」
「え?! 良布兄?! 悠姉?」
「この二人が今は俺の専属コーチだ。俺は構わないし、お前はもう『相棒』だからな。お前の願いはできるだけ叶えたい」
「あのさ、二人で話すのは良いんだけど私らに話が見えるように説明して?」
「まぁ、大方は紫輝の才能に八織が気づいたってとこだろ?」
「ぁぁ、そゆことね。なら、私達より璃梨に許可取らなくちゃ」
電話越しの璃梨は私の言わんとしたい事が最初から解っていたらしい。紫輝の予定や様々なケアを二人で相談しておけ……、といわれた。素直に恥ずかしい。だって、璃梨は話の語尾になにやら私をからかっているような笑いを含んでいたからだ。
紫輝と私は契約や様々な制約を聞くために悠姉に送ってもらってシルバーローズの本社へ向かう。そこには既に錦姉やエリューゼもいる。それに……お母さんまで……。
「やっと貴女も連れ合いを作る気になったんですね?」
「ふふふ、これからが楽しみね。八織」
「なっ……否定は……しないけど……プライベートを暴露しないでよ!!!」
「あらあら…」
「おめでとう、八織ちゃん」
「錦姉まで……ありがとう」
いろんな事に大小の波がある。落差が無ければ、人生はおそらく楽しくないのだろう。わがままな生き物だ。人間は……。私は波を司る。私を導いてくれる皆さんに精一杯、私がいい波を流せるように……私は強くなる。
今は契約のために両親と連絡を取っているらしい紫輝と、私は新たな起爆剤になるんだ。解らないこともたくさんある。しかし、これから切り開くための……私達の人生だ!!




