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穏やかな海岸の波を見ているだけで気持ちいい。都会はごたごたしていて嫌いなのだ。ここに来れて幾分かその空気の中から解放された気がする。俺たちの所属する千歳学園は巨大な学園都市であり、学生達の巣窟とも言える程のエリアで人間の多い場所だから俺はあそこは好まない。基本的なことをいうようだが人間は色々な感性によって区別できるし俺のような人間は社会的に非適合であり、社会のなかで溢れてしまうであろう。しかし、その溢れた人間同士で詰まることは可能だ。結局のところ俺は彼らに助けられたところが大きい。その中で俺が鍛えたのは人間を見る目だ。その後、俺が鍛えたそれは大いに役にたっていよう。修羅さんを筆頭にした師匠たちにより俺はかなり鍛えられている。『インドラ』それが俺の機体の名前。インドの武威と勇気、そして猛々しい強さの象徴とも言えるそれだ。俺のインドラは修羅さんのオウガや他の皆さんの機体とはまた違う。装甲においての大きな特徴から違うのだ。
……あの人あんな表情するんだな。今日の午前中から、いいやもう少し前から彼女の様子がおかしかったことは俺は見て居た。それでも事実など確認する必要はどこにもない。よって俺はそのまま午後から始まる修練に向かう。そこに居たのは悠さんだけだった。にやけていたり急に恥ずかしがったりと絶対に令布さんと何かあったのだ。修練とはいっても三人が別々の方向性を持ち、俺はその三人の物を別々に教えてもらっていた。修羅さんからは基本戦闘の方法、令布さんからは感情の制御の足がかりとなる精神関連の技能指南、最後に彼女である。彼女の教えてくれている物は簡単なようで難しい物だった。
「そうそう、そんな感じ。でも惜しいね。そのパワーはもっといい使い方が絶対あると思う」
「はい」
「ねぇ、紫輝君は射撃以外に何かしてることはないの?」
「特にはないですね」
「なら、何か始めるといいよ。何か熱中できる物があればファイトはかなり楽に運べるし」
「何かですか。何か……」
「ダンスとか武芸とか体を動かせる物ならとてもいいんだけどね」
体を動かす物か。俺はそういえば射撃以外はからっきしなのだ。勉学とかならまだしもスポーツなどは全くしたことはない。基本そういう物はめんど臭いために引き気味になりがちな俺も心情が裏目に出た感覚だ。しかし、いい機会であることも確かで……。始めるのか。それならこれから何かに関わるものがいい。ダンス……。教わるひとがいない事以外は何も問題はない。そのことに関しては修羅さんからもいろいろと言われていたことである。とにかく俺はバランス型の装甲を持つことからどのような武装をどのように使用するに至っても属性的な観念を除けば円滑にどのように事が起きても使用できるとまで言われていた。技芸と言えど色々な種類が存在しているし、俺の体の動かせる方向性を広げるのであればダンスという方向性そのものは間違いではないと俺も考えた。
悠さんの表情が大きく変わり初めていた事には既に気づいていた。まぁ、俺を見るあの目は懐古とか懐かしむとかそういう目の光り方だ。これまでもそうだけれど俺は誰かとの濃密な時間を過ごしたこともあまりない。そこからこのようになれたのだからかなりの変化だとも感じている。今までにない心の動きなどを感じつつその感情を表に出すことを拒んだが今はその必要もない。隠すべき所でもない。はぁ……。しかし、始めるにしてもかなり難しい。
「ストリート系でなければ私教えられるよ」
「ストリート系?」
「私の勝手な判断だけど昔から西洋で格式作られたバレエみたいなダンスがクラシック、最近のストリートダンサーとかが好むのがストリート。私はバレエ系なんだけどね」
「……なかなか難しそうですね」
彼女に教えてもらっているのはファイトの中で俺たちのようにエネルギーを制御する事が重要になるパワーファイターの基本技能であるチャージの補正方法。このフラグメンツ・ファイトにおいて得意技能であるらしい空中や陸上でのアクロバットのような起動方法などがそれに当てはまる。平時はいつもにこやかな悠さんもその時ばかりは真剣になる。今は機材や練習用のイメージトレーナーがないことから口頭の技能通達や説明、俺が個人で行える練習を彼女が見てくれているという程度……。パワーファイターは確かに集団戦闘では嫌煙される。特に俺や悠さんのように拡散しやすい炎や雷といった人間の生活の中でもなじみの深いエネルギーを直に扱うこととなるファイターはなおさらだ。修羅さんのような特殊な形態は本当にまれだとも感じる。彼の機体は弱点こそ克服できてしまえば使いやすいと本人が言うとおり、いくつかの条件を満たせばそれで円滑に周囲の人間をサポートし攻撃に転じ、守ることも可能なのだろう。俺のインドラはまだ本戦を経験していない分だけ同じく一番下につくであろう八織よりも幾分か出遅れている。それを補うために本気で鍛錬を積まなくてはいけない。
悠さんが言うには俺がしてきた射撃系の訓練は無駄にはならないともいう。それがどういうことなのかは俺にはよくわからなかったが彼女は実戦ですぐにわかるという。特に同じパワーファイターとの戦闘になればなるだけ俺の機体となるインドラは本当に強みを見せることができるとまで断言されている。エネルギー体のファイターには幾つかの種類が存在し、その種類によりさらに戦闘が区分されているとも知識的に博識な修羅さんからも教えてもらっている。俺のようにエネルギーを体に蓄積し、それを強力な何らかの波長として放出するのが俺の力『ハイベース』。次に悠さんのように体自体が焔となる『ライトエレメンツ』、最後に、岩石系などの本来エネルギー体として認知されていないがそれがほかのエネルギーを利用して攻撃してくるタイプが『サブベース』。多くはこの三種類だ。ついでだから俺や悠さんのような格闘タイプの天敵となる射撃型にも目を向けよう。綾太郎のように高速で機動しながら様々な未来、近代、古式の射撃を繰り出すタイプを三つの単語から駆使し、オールレンジ、フルカスタム、ハイアクターと名称を『AHH』と言う。射撃型は用語が多く観点も複雑なために一概に言えないのが苦しいが大まかな形としては……射撃距離・射撃兵装種及び年代・媒体の種類などにより大きく分けられている。その中でも俺はいろいろとまだ選択しを広げられると伝えられていることから一番小さい後輩として早い段階の進歩を望まれても対応できるだろう。
「綾太郎」
「ん? 何だい? 紫輝」
「練習に付き合ってほしい」
「それは構わないけど。僕の装甲は生身じゃ危ないよ。ここじゃ無理だ」
「それだから頼めるんだ」
加速的な進化を迎えるには相応のことをしなければならない。基本的に俺はいつもそういう行動を組み込むことで大きな飛躍をしてきた。だが、俺が綾太郎に及ばない理由を俺は考えて、ここ数日で見つけたのだ。俺の超加速は一時的で放物線を描くようにピークを抜けると一時沈降する。そして、努力をもう一度積み重ねることで回復し、その回復分の容量を一気に凌駕する飛躍を繰り返すのだ。大きな波であることには変わりない。
綾太郎のメガニューラは機動力と射撃の威力に関してずば抜けている代わりに防御の観点に難が大きな性質を持つ。俺のものはバランス型で飛び抜けた物といえば電気や雷の持つ空気の内部を貫通する速度と熱量的火力。それ以外は至って普通だ。そこで……。
「それは許可できない」
「なぜですか?」
「危険すぎるからだ」
「……」
「納得していないという顔だな。説明してやる」
修羅さんの話ではこれから俺が行おうとしていることについての危険性を大きく物語る。俺が行おうとしたのは天敵となる綾太郎の様な射撃系ユニットの攻撃を完全に見切ることをしようという俺の考えからだ。そうすれば俺は一気に飛躍できる。最初は正面からやつの射撃を完全に遮断する特訓をするつもりだった。しかし、それがどれだけ危険なことかを彼は淡々と説明してくれる。
綾太郎の持つ実弾兵器は凄まじい火力と補正能力を持っている。それだけではなく熱線兵器や光線銃などと武器は多彩。その中で主体となる実弾兵器の中でも弾丸と呼ばれる物は雷や焔などのパワーアタッカーには致命的な一撃を生むのだという。なぜなら、俺の装甲はアライメントケースだ。これが悠さんのようにエレメントケースであるならば弾丸は貫通しダメージも皆無となる。俺はアライメントケースの中でも一番人間に近いロウタイプ。そのタイプであるからして弾丸は命取りとなるのだ。加え、綾太郎の弾丸は特別性らしい。二段式特射弾と本人は名づけ、空中で二段階の加速とダメージ増加の破烈というプロセスを生むらしい。岩石属や修羅さんの様な装甲であってもこれは対処がしづらいらしい。ただし、俺には有利に働く点もない訳ではない。ミサイルや誘導弾系の攻撃においては簡単に対処で切ることからそれに関して練習することを教えてもらった。
「どうしてもやりたいならば先に俺と武装を展開する特訓を行ってからだ」
「どうやるんですか?」
「焦る気持ちもわかるが、ファイトの修練を生身で行うのはリスクが大きすぎる。お前のようにアライメントケースで人間に近いのにエネルギー体を直に受けるタイプはなおさらだ。俺はエレメントケースだからいいものの」
「……でも、俺は強くならなくちゃならないんです」
「理由は?」
「……漠然としたそれでもよければ」
「構わない」
「守りたい」
「……」
「せっかく仲間が俺にはできました。これまでは周囲に流されたり自分のリズムを崩される事がいやで嫌で仕方ないことから近寄る者は皆拒絶しました。ですが、今は違います。どれだけ人を木津つけ易い力でもやり方を間違えなければ悠さんのようになれることを学びました。俺も、今は本気で自分をすくい上げてくれた皆さんの役にたちたい。それに、守れるなら守りたい」
修羅さんは唸る。気持ちは前向きに揺れるがどうしてもこの場では辛いというのだ。以前のプライベートビーチでは全員に体を守るシステムを提供できたが今の俺にはそれが備わっていない。それが気がかりで仕方ないのだろう。
次の瞬間、綾太郎が前に出る。あいつのあんな表情も久しぶりだ。俺のために頭を下げる。親友と呼べる唯一無二の腹を割って話せる男。それが綾太郎だ。こいつに苦しめられたが今の実力はアイツがいるからあるとも言える。俺のこれまでを支えてきてくれたのは目標として真上を飛んでいるあいつをけおとしてやろうと戦えたことからだ。大きなため息をついた修羅さん。
「いいだろう」
「本当ですか?」
「ただし、条件がある」
「はい」
「一日三十分まで、そして、俺の付き添いが必須だ」
「はい」
その会話の最後の一瞬を見たらしい周囲のメンバーは皆頭の上にはてなを浮かべて居た。令布さんだけはわかっていたらしいが女性の皆さんはよくわからなかったようで完全に蚊帳の外だ。さらにからかわれていたらしい錦さんに至っては完全にボーッとしている。
嬉しくもあり緊張もする。修羅さんに一度叱られたあの日以来、彼と話す時はおおっく緊張してしまう。そんなこともあり今日の夜は寝付けていない。悶々とすることはよくあるがこんなに寝れないのは生まれてから初めてだ。なんだというのだろう。そして、もう一つの違和感を覚えた。八織がいない。それが気になり俺は表の浜へ出る。
美しい歌声が聞こえる。小学生の時に習った歌だ。なんという曲だったろうか? どこか物悲しい曲なのだろうがアイツが歌うと……。
「春……の………さかづき、今、何処」
「よ」
「わっ!! びっくりしたぁ……紫輝じゃない。どうしたのよ」
「すまん。眠れなくてな」
「ふーん」
「お前こそ何でここにいるんだ?」
「気分よ。なんというか。胸がザワザワして」
「ほう」
キューブに変遷が訪れているという印らしい。絢澄さんに言われ、八織の今日の特訓はなしになったのだとか。俺はそんなざわつくとかなんとかはこれまでも今もない。いずれかは来なくてはならないのだが。たわいもないことを八織と話す。こいつはかなり小柄で本当に同い年か心配になる。まぁ、俺も人のことを言えたぎりではないが。綾太郎はひょろ高く、令布さんはそこそこの身長。修羅さんは小柄と言えどあれはキューブの動きであるために例外的だ。千歳さんはがっしりしていてなかなかの美男。俺も身長は欲しかったが今となっては特に欲しいとも思わない。静かな夜は微風が流れ海辺特有の潮の香りが肌に優しい。都会の排気ガスが混じる重く澱んだ空気なんか比にならない程綺麗だ。俺はこういう場所が好きだ。
月明かりが反射する綺麗な海の辺で砂浜に座り話す。世間話や学部の話を経由し、今度はファイトの話が飛び出した。そういえばこいつの装甲を俺は見たことがないな。
「さっきのあれはなんなの?」
「んぁ? あぁ、あれか。あれはちょっと危ないらしい特訓を修羅さんが許してくれたんだ」
「危ない練習?」
「まぁ、お前には関係ないさ。俺のように馬力しかない脳筋の特訓だしな」
「脳筋って……。まぁ、いいけど。そこそこにした方がいいわよ? あんまり過密にしても伸びないし」
「そうだな。だが、俺は早くお前たちの居る段階まで行きたいのさ」
「へ?」
「ファイトの経過時間では俺が一番下だからな」
八織は不思議そうな顔をした。人間ひとりひとり考え方が違うとは理解しているつもりでもなかなかそれに対面することは希である。その結果、考え方が違うこともわかる。インドラ。この機体は未だ俺に火力という概念しか教えてくれていない。さて、これからどうなるのだろうか。
形式……。これがなんなのか。そして、俺たち馴染みすぎていくこの危険な機械。キューブ、修羅さんたちの話だけでは不明瞭なところが大きい。
『違うやろ』
『ん?』
『あんさんはは解っとらん』
『どういうことだ? その前にお前は誰だ?』
『おー……怖。わいはインドラ。あんさんに教えに来たんよ』
『ほぉ、それで?』
『力ってのがどんなもんかをあの大将は伝えたいんや。あの人の力は壊すだけの物だったけかい?』
『いいや。彼は俺たちの形を築き上げた人だ』
『そう、そうや。この力も。いいや、すべて、ファイトの中枢であるスカーレット・マザーの願い、形作る世界は壊す物は少ない』
『中枢? スカーレット・マザー?』
『あんさんの思い描くとおりにわいは形を変えるんやで? 旦那? あんたの力はなんのために使いたいんだい?』
直接的に俺に語りかけてくるこの強い脈動感。朝の日と共にそれは去って行った。八織と夜に長い事話したせいなのか眠りもかなり濃密で朝の五時の朝焼けのタイミングで俺は起きている。寝間着からジャージに着替えて浜に出ると既に二人は居た。綾太郎と修羅さんだ。待たせてしまった。そのことを詫びながらその二人の所にいき、修羅さんから説明を聞く。
距離にして三キロメートル。速さは毎秒1キロと半分。普通ならばおよそ二秒で俺の地点まで到達する高速の弾丸を俺が電気の放つ高熱で焼き切るという狂った様な訓練だ。これの概要だけは俺が考えた。細かい所は修羅さんだけれども。
致命的なものであればそれを克服してしまうにこしたことはない。だが、条件がある。一日に行う訓練は十発までで修羅さんの監視のもと、執り行うこと。そうでなければこの訓練は危険すぎた。普通の弾丸ならばそれでも対応できた。あいつの弾丸は加速する。空気抵抗を完全に無効化し弾丸自体に加速機能がついているのである。
第一撃、これは修羅さんに止められてしまった。正直に見えなかったのだ。修羅さんはそれをいとも簡単に拳で握りつぶした。しかし、その彼の掌にも大きな擦過傷が見える。それほどにまでこの弾丸は威力が高いと見える。それもそうか。綾太郎の攻撃性能は低い分の防御を補う力だ。俺にはそう考えると防御力も大きくあるのだろう。なんだろう。これまで理不尽と考えた攻撃しか取り柄のないこの機体と考えていた。だが、違うのだろう。令布さんの言う精神の安定化その能力を力へと流動させる方法。俺はまだファイトの真髄にたどり着けていない?
「速いだろう?」
「ハァハァ……これが、本戦を経験した人間とそうでない人間の差?」
「だろうな。だが、綾太郎も本気で弾丸を打ち放つのはこれが初めてだ」
「はい?」
「あいつはこれまではアサルトライフルやクラスターガジェット、バズーカ、収束銃砲をメイン武装にしてきてんだ。だから、あのスナイパーライフルは初めて使うんだろうな。空間訓練はしていてもそんなに使い慣れてはいないんだろう」
彼のように空間をしっかりとつかめるようにならねばならない。その方法を次は令布さんの訓練でつかむ。彼の訓練は三人の教官の中でも特殊で精神統一から来る波脈の調整である。簡単にいえばどれだけの力を放出するかを多方決めるのは俺が神経を研ぎ澄まし、伝達系を強化して流す量を決めるところがあるのだ。それで火力やアビリティの調整を行うのだ。
これが本当に難しい。集中するのは難しい。気持ちを集中させるだけではない。特に火力を集中させる事が必要なのは何も俺だけじゃない。悠さんもそうだがエネルギーと名のつく物を調整するのはこの精神統一が難しい。だが……。
「電気の特性を考える?」
「おう、その通りだ。お前の力はパワーだけじゃない。雷という特性何なんだ」
「特性?」
「これまでの訓練はこれのためだけとも言える。俺のシャドウの形作る力は影から遷移し、媒体をコピーして自らの力に変えることが本当の能力だ。これから変わると言ってもこれが本当のベースとなるのさ」
「俺と、雷の特性ということですか?」
「だな」
「……」
「ふむ、理解が速いのは本当に武器になるな。それなら、いっちょやってみよう」
「はい」
イメージを膨らませるのはそれが力を増幅させることに関して大きく関わるのだ。
最後に悠さんとの訓練となる。今日は帰る前日だからほぼ、最終訓練に近い。悠さんとの訓練はほとんど火力と火力のぶつかり合いだから本当に辛い。体力が本当に崩れてしまいそうだ。俺たちのように高熱量を扱うファイターはホントにスタミナを大きく消費してしまう。
「へぇ、流石にあの二人が先生すると成長もこれだけ速いよね。ふふ。それじゃ、実践的な訓練してみる?」
「……」
「緊張してる? ははは、そんな緊張する必要なんてないわよ。それじゃ、これまでの集大成。力のコントロールを練習するわ。変身して!!」
悠さんが飛び上がり一瞬で焔に身を包む。そこに、一瞬で高熱の火炎弾が打ち込まれる。だが、俺は彼らにここに居る数日だけで多くのことを教わった。雷の特性、それは物理干渉系の攻撃はほとんど受け付けないけれど空間的に不定形な物質的事象に関しては影響力を持つことができる。火炎弾を雷を薄く張り巡らせたバリアの様なもので完全に弾き返した。それでも、ファイトにおいて、いくら物理的な拘束を受けない悠さんの様な装甲の形式でもこういう場合は物理判定を持たれる。シールドに彼女は拳を突き入れて俺に攻撃を仕掛けたが一瞬で回避して避けることができている。
薄い電磁膜を張るという技能は令布さんに教えられた。彼は俺が自分で気づいたというけれどそれは違う。彼の教え方が上手いだけだ。そして、こちらも攻撃に転じる。高圧電流を決まった所に放ち距離を取り連続して放つ。それが俺の今できる最強の攻撃だ。やはり、力を強化できてもまだそこから派生した強力なそれを使うことはできないのである。これは皆さん共通で焦らないことを進められているために俺も心に深く刻み込んでいる。我流もいいが我流だけでは人は成長しきれない。そうだ、俺は支えられている。
「本当に上手くなったよ。紫輝君」
「強くなった……ではないんですね」
「はは、だって、まだ実戦を経験してないしね。そろそろ修羅君が試合を持ってきてくれると思うけどね」
俺は都会が嫌いだ。車の音、ビルが放つ熱。何を考えているか解らない雑多の往来するビル街。自然とかけ離れた家や集合住宅の集まる居住区……。うんざりだ。いっそ令布さんの家に養子として行こうか……。学園に変える途中でさえそう感じた。そして、ろくそこ練習することなく俺はとある人物とタッグを組むこととなる。ビギナーの集まる最下層のタッグ戦形式のトーナメント戦。それに今回は出場することとなる。俺たちがローズクォーツに在籍していることはまだ公にはされていない。そのためにネームバリューも何もない。だから、二人の実力から鑑みたリーグへと修羅さんが押し込んだらしい。スタジアムに向かう列車に一緒に乗るのは……嶋中 八織だ。こいつの『ヴォイス』を俺は見たことがない。急備えの説明資料は読んだがそれだけでは解らない点の方が多い。どうしたものか。
向こうも同じだろう。あからさまに不安そうな表情は俺に向けられている。さらに、アイツは別の方向にも注意を向けている。アイツ、八織は今をときめくトップアイドルと呼ばれる人間だ。周囲の目を気にするに決まっている。それが当然だが。『ヴォイス』は広域周波攻撃型支援装甲。その能力は攻撃から回復、支援という珍しい特徴を持つ。攻撃と特徴を兼ね備える物は少ない。その中での俺たちのチームへの参戦。これは大きな波になるだろう。
「不安だろう」
「え?」
「俺みたいな素人が足でまといになるだろうからな」
「全然。その点に関しては修羅兄と令布兄と悠姉を信用してるし。緊張は誰でもするわよ」
「俺は、信念を一つも持てずにただ結果を求めていた」
「へ?」
「いきなりで済まないな。結果がつくことが俺への評価を変え、その評価が俺を上へとお仕上げてくれると勘違いしていたんだよ」
「……」
「だが、ちがう。結果はついてこないことも多い。だが、これまで努力してきたことは無駄にはならないんだよ」
「先生が良かったんだね」
「全くその通りだよ。さて、そろそろフィールドに入るぞ『ヴォイス』!!」
「えぇ、お手並み拝見だね。『インドラ』」
今回のステージは金属の幾何学ステージ。像の様な造形が多くエリアにばらまかれていてそれが大きな障害物になりそうだ。ヴォイスが軽快に動けるかどうかは知らないがこの戦闘でキーマンとなりうるのは俺だと言うことはよく理解できている。ヴォイスは戦闘データがある程度残っている。最近の物はなくとも想定できる力はデータから推察されているだろう。それを持たれない俺はより強く戦える。さぁ、インドラ!! 答えろ。俺はどう変わった? 俺の力は? 怒りは? 高揚は? 感情波脈は? 俺はお前の目にどのように写った? それが俺の姿だ。俺を受け入れろ。俺を、本当の俺を映し出せ!! 結果だけではない。俺の力は俺があがいただけ掴んだ物だ。
ヴォイスも装甲を見せている。初期の物とは全く違う。どの様な力なのだろうか。気になる。それ以前にファンキーな相手の力が気になる。
『今夜もやってまいりました!! フラグメンツ・ファイト、トーナメントタッグ戦部門一回戦!!』
『今回は久しぶりの出場となるヴォイスも参戦してますからね戦況が楽しみですね』
『ですねぇ、さらに、今回は新しいファイターのインドラも参戦しています。彼の実力も楽しみですよ』
『それに対しますはタッグ戦部門では有名どころのロール・スパイカーとルーイン・ピアスです。そこまでインドラ、ヴォイスペアが健闘できるかが楽しみですね』
インドラ……。行くぞ。
『おうよ。今日までのあんたの努力には目を見張る。あんたは目を肥やした。それ相応の力をこの試合で開花させるようにサポートしてやんよ!!』
「行くぞ、ヴォイス」
「わかった。戦法は?」
「即擊突貫!!」
「了解!!」
腐った日常しか映し出さないと勘違いしていた。それは違う。心が曇り、俺の視界は濁っていただけだ。俺の目は今澄んでいる。どこまででも見渡していける。俺の本当の進むべき道を探して。絶対に見渡せる。俺の力を見せつける事ができる!!




