表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/22

ruby eye mind

「はぁ……何なのよ。あの子」

「どうしたよ。フェニックス」

「今はほっといてよ。もう何もないんだから」

「あんたさぁ。そんなに修羅(しゅら)のことが好きならアイツ本人に何で言わないんだよ。何故、絢澄(あやずみ)が受け入れられたか……違いはそこにあるんだよ。ま、もう遅いけどな」


 あの子の底知れない戦闘力に押し負けてしまった。決闘を無理やり決行したのは経験も覚悟も、彼への思いも私の方が強いと思ったから。私が……勝てるはずだった……はずだったのに。あの子は修羅君と共に進化し続けているのだと……思い知らされた。彼の隣に見合う女は私ではない。今でも諦めきれないけれど、あの子なのだと……。でも、断じて女としては負けていない。あの子には……人間的に負けたのだ。それに、この仕打ちは絶対に妹の璃梨の仕業だ。というかもともと計画されていた水着パーティー的なのりの旅行があったらしい。はぁ、なんでこんな時に……。

 そう考えると私は一人で痛い子なのかも知れない。修羅君はあの小娘と一緒にどこかへ行っている。璃梨は璃梨で彼氏らしい男とずっとバカンスを楽しんでるし。連れ合いのいない私と為児手(たじた)は各々一人でいる。でも、なんでだろう。なぜかアイツと私の空気は全然違う。あいつは私のようになんというか狭くない。視野が狭くないのだ。為児手は修羅君と共に闘うことを選んだらしい。最初はホモ疑惑を考えたけれど為児手はそんなやつじゃない。どちらかといえば何を考えているか解らないボーッとしたやつだ。全然、能動的でない。


『修羅君も水の中に入って大丈夫なの?』

『俺は鬼だぞ? 普通の生物とは格段に違う』

『へぇ……でも……水の中なら私は修羅君に勝てるよ?』


 見えちゃうと本当にイライラしてくる。水中ランデブー? お幸せなことで……。私は桟橋に腰かけて爪を噛んでいる。本当にただの負け犬だ。あーぁ……。何年片思いを続けたと思っているのだろうて……

? はぁ……。幼い時の私には彼しかなかった。こんな正確で不安定な私は人と接するのが苦手で上手に話すことができなかった。そんな私に修羅君が手を差し伸べてくれた。でも、その彼はいつごろか急にいなくなり私は彼の失踪の原因を知りたかったのだ。そして、幼いころに夢見た私の夢妄想を実現したくて頑張ってきたのに……。横取りされた。あの女を許せなかった。でも、修羅君の幸せそうなあの笑顔をどうしても失いたくなくて。闘った。理不尽でも失いたくなくて……。でも、もう私には何もない。

 そこに為児手が近づいて来る。彼は何も言わずにジュースを置いて歩いていく。はぁ……。なんでそんなに中途半端にしていくの? アイツのことはよく知らないけれど修羅君はやつのことをかなり信用しているのだと理解した。本当にみじめでいたい子……。恋愛も初めてだし失恋も初めてのことでどうにも心の整理がつかない。おじい様が彼に助けられたときに病院で一瞬顔だけは見ていたのに全然気づくことができなかった。それは彼の表情が全く違ったからだ。でも、あの女に向けているその……あの頃の優しい笑顔が私に向いていない。それが無性に腹の立つ結果に結びついているのだ。


「何が違うってのよ。あの女と私は」

「お悩みならお答えしましょうか?」


 この女は……璃梨のメイド? この女には別の意味で腹が立つ。この女とはあまり話したことないから素性を知らないけれど……悔しい。女として負けた。美貌、スタイル、性格から来る知識を持っているという感覚と寛容そうな物いい。この人には負けた気がする。しかし、彼のことを見ている私を見た彼女はため息をつくばかりで何も話さない。何故だかはすぐに見当がつく。この人も修羅君に恋をした内の一人とみた。でも、彼女は何も考えないようにしているように見える。


「あの方には誰もついていけませんよ」

「え?」

「あの方には彼女のように抱擁的でなおかつおっちょこちょいな弄りがいのある人で無ければダメなんです」

「言ってる意味がわからないんだけど」

「私もあなたも彼には見合わないんです。結局のところ見合わない理由として私は彼には眩しすぎると言われ、お嬢様は暗すぎると言われ……また、あなたは華やかすぎる。彼の的は本当に小さい。全く……身勝手でわがままで……でも、私の始めて好いた人」

「あなたも璃梨も?」

「えぇ、彼は彼の人間性から彼女を選んでいるんです。彼のことをすべて理解できない私ども……いいえ、現状維持で理解しようとしない私たちではついていけないんですよ」

「……」


 そうだ、私は彼を求めているだけで彼のことを考えようとはしなかったのだ。どうして気付けなかったのだろうか。彼を求めるだけでは彼の求めている物を理解することはできない。私が求めていた彼はもう別の人と形を作っている。

 私の体……フェニックスがどうして作られたか……それは理由が思い当たるとすれば過去の彼の言葉で。

『お前は何度でも何度でも舞いあがれる。俺は……守るんだ。自分がしたいように折り合いをつければいいのさ』

 ……と。修羅君のオウガが騎士のような形状をしているのはあの頃の無防備な妹である璃梨を守りたかった彼の心からだと思われる。そして、その鎧が砕けたのは彼に何らかの大きな変化があったからだと思う。その変化を私は彼に与えるどころか停滞の兆しを与えてしまったのかもしれない。あの鎧は最初の鎧とはもう違う。あの絢澄という女のおかげで彼は昔の優しい瞳を取り戻して……。はぁ……結局は私では最初からだめだったのか。


『ん……んぅ…。はぁ』

『ちゅ……ん、クチュ』

『しゅ、修羅君……激しすぎ、いくら人魚でもそこまで深くキス……されちゃうと苦しく……』

『そうなのか? 少し抑えよう』

『ふぅ……ねぇ、この先に無人島があるの見つけたんだけど。行かない?』

『はは、早いお誘いだな』

『もぅ……クスッ』


 あぁ……もう、嫌になる。気分転換に少し飛ぼうかな? あの二人がいちゃつくのがどうしても気になる。けれど……はぁ、行けないよ。決闘の勝者に与えられるのは彼との時間。私はこれからあの二人の時間を侵害することを許されない。でも、もう、割り切ろう。私だってちゃんと義理や理念はあるし、約束は守りたい。新しい恋を探そう。そして、私が服……いや、水着を脱ぎ捨てて体を火に包んで空へ舞う。その瞬間に下方に別の装甲の気配を感じ取る。そういえば全然見当たらなかった為児手の姿が……。あれはシャドウ・テイカーなのだろう。彼のポテンシャルはどのくらいなのか私は知らない。水面を軽快に走る黒い影はアクロバティックな動きで多彩な技芸をこなす。

 すると私に彼は気付いたらしい。水面を走っていた彼が急に階段を駆け上がるようにしてどんどん上にあがってくる。同じ高度のところで止まると彼はさかさまになり落下していく。何をしているのだろうか彼は口を開かない。


「何が言いたいのよ」

「……」

「まさか、その装甲には話せないとかそういうデメリットがあるの?」


 彼が面を取ると……中から現れたのは人間のそれでは無かった。ミイラに近い……でも、彼が装甲を解いてフロート機能が解除されると共に水面へ足を入れた。その瞬間に彼の容姿はそのままの状況に戻った。なんなんだろう。でも、修羅君もあの絢澄も本当に不自然である。おかしくはないだろうか? 彼らは何十分潜り続けているつもりなのだろうか。もう少し常識のある行動をしてほしい。……とは言うけれど私だって人のことは言えない。キューブの『毒性』は私のおじい様も研究している。香館(こうだち)財閥の研究部でも解読できない壁……それが4708桁の暗号。それを解読しない限り私の体の呪いも解くことができない。


「今のが貴方の呪い?」

「呪い? あぁ、キューブの流入事象のことか」

「流入? なんであなたがそんなことを知ってるの? どうして? ならこれを直すことも!」

「できない。それに、俺は王に仕える暗殺者『シャドウ・テイカー』。修羅が望むままに暗殺、謀略、減流、破壊をする」

「な、何? なりきりか何か?」

「違う。これはもう止まらないことだ。それに、ことが動いていないだけで……アイツが目指す目的を遂行するのみだ」


 え? どういうこと? 意味が解らない。でも、目が真剣でなんともならない。ブロンズリーグの戦闘では彼の出る幕はほとんどなかった。修羅君や璃梨のせいで私や絢澄すらでることもなかったのだ。そして、この呪いを解く上で……彼らの目的である究極の行動『キューブターミナルの停止』が必要なのだろうか? というか、そんなことが可能なのか? 私は私の弱点を理解しているつもりだ。でも、私は……それを直そうと努力しなかったのだ。怖くて……自分が変わることは怖くない。でも、今の状態が私にどう降りかかるかは分からない。だって、私は周りからいつも目が合っていい子だという風に見られていないと……おじい様のお名前にも。私……は。


「俺はもともと日陰になるように生きてきた。目立つことが嫌いとかそういうことはなかった。だが、俺はこのように何かを起こすとかそういう気力はない。アイツがいたからこうなれた」

「なんであなたはそんなに前向きで彼に対して忠誠を持てるの?」

「これは俺の悩みであり長所だ。だが、それをわざわざ表向きにする必要がないことだと俺は思う。誰にでも特殊な部分があるんだからな。俺は誰かの付属品になることが多い。だが、それは苦痛じゃない」

「どうして? だって……自分は一生きらびやかに輝けないじゃない」

「そこが俺とお前のそもそもの違いだな。俺は『輝こう』なんて考えたことがない。誰かの手となり足となり最終的に自分のメリットが満たされればいいんだ。今、俺は修羅に使えている。あいつが正しいと思うから俺はあいつのところで働くんだ」


 ……人というのはこうも違うのか? と私は心の底から思っていた。シャドウ・テイカー……『影の使い魔』はそうしてできたのか? 綺麗じゃなければ意味がない。輝かなければ本当にそこに存在しているか解らない。高く舞い上がりキラキラと輝くことで人は大成し……形をなすことができる。あぁ……、こういう人もいるのか。少しも考え付かなかった。支えること……それが私にはかけていたのだ。自分が輝くだけではだめなんだと彼に教えてもらうことがでて。

 あぁ……まずい、スタミナが切れてきた。このままじゃ……。すぐに……。彼が上着を私にかける。私の装甲の機能をチームの人間ならば理解しているはずだ。だから彼はすぐに動けた。般若の面をつけている彼は口を開く。しゃがれた声で聞き取り辛いから彼は空中での会話を止めたのだ。


「お前が望むことをすればいい。しかし、おまえは前に出たがりすぎる。俺はお前と逆で少し日陰を好みすぎるが……俺はこの位置が気にいっているんだ。お前が……やりたいようにすればいい」


 長い髪は手入れをしていないからボサボサなのではないらしい。彼が養殖系のコース選択であるから塩にやられているらしい。上着をはおった状態で私は最短距離を抱きあげられたまま元の桟橋近くの茂みに返される。上着を返さずに私が茂みで水着を着終えると彼は装甲を解く。変な人もいるものだ。このご時世に自分を目立たなくしてまで自分が信じる人間をたてる人なんていないと思っていた。でも、彼は違った私はそれが解らなかったのだ。慕うべき人間のことを考え……その人に本当にしてあげたいと思うことを考える。それが……。まぁ、修羅君ではないのだけれど……私が慕う人へすべきことなのだ。

 ここには数日滞在する。六月が始まるころに長い夏休みが始まっている。うちの大学に関わらず一貫校の夏休みは本当に特別。小中学生は含まれないけど。カリキュラムをちゃんとこなせている人はそれだけの時間がすべて休みになる。最長二ヵ月で最短は……なし。だから、ほとんどの学生がまじめにしようとするのだ。まぁ、がり勉秀才系の人は単位があっても続けようとするのだけれどね……。それにほとんどの人が寮生であることから皆実家に帰りたいし、このように旅行もしたい。ここは藍緋財閥の私有地でプライベートビーチ……。いいなぁ……。


「二人とも焼けないの? そんなに肌白いのに」

(ゆう)さん。私は光に関してはほぼ干渉を受けませんし」

「さすがね天の使いである天使は光の権化な訳か」

「それに、私も人間系の生物種なのである程度は日焼け止めでなんとかなります」

「それはよく解らないわね……。そういえばそこの子はなんでずっと赤い顔してんのよ」

「あぁ、彼はまだ戸惑っているんですよ。自分の能力で思わぬ眼福を得ているのでしょうから」


 璃梨はなにが面白いのか一瞬彼女にも珍しく微笑を浮かべ彼を誂う。それから彼女らから前々より聞いている彼の力の話を思い返す。彼の力も本当に珍しいらしい。メガネをかけているただのガリガリのおぼっちゃまに見えるけれど……。璃梨が彼を海に誘う。そして、すかさずエリューゼがスキー板と両端にフックがついたロープと登山用に近い命綱を通すベルト? あぁ、水上スキーでも楽しむのかな? それには少し雰囲気が異様だ。璃梨はスキー板をつけようとしない。さらには必要ないとばかりに命綱すら使おうともしない。まさか……装甲使うの?

 その予想は大当たり……。『メガニューラ』の本質を今見ることになる。彼は複数戦闘では一度たりとも飛んでいない。しかし、その彼が飛ぶタイミングが来た。何故と聞いてみるとあの璃梨がこの世界へ男を引き込んだというのだ。あの大戦士の妹として育った璃梨は兄の残したビデオやその他いろいろのデータで彼の最高の活用方法及びコンビネーションの合わせを研究しているのだとか。そして、アビスの本来の力をここでも見ることになるとは思わなかった。スピード、火力、範囲においてどのファイターのポテンシャルでもついていくことが不可能なあのアビスがポテンシャルとして欠いているのは二つ。飛行能力の極端な低さと防御性能だ。速度やパワーは火力において極端に高い私たち焔属の人間すら越えられている。それに空中の動きが追加されたのでは集団戦闘も新たな方向に指向性が動いているのかもしれない。最近はニーズや心の変わり方から飛行アビリティや新属性の発生まで確認されている。


「行きましょう。たまには合わせて練習するのもありですし」

「それはいいんだけど……まさかその……」

「水着ですか? 気になるならバトルスーツに変えますよ?」

「あ、えぇとそれがいいな」

「なんて言うと思いますか? こういう場で……あなたとのスキンシップを私が求めなかったことが一度でもありました?」

「えぇと、ない」


 アビスの戦闘はあまり気分がよくない。大部分のファイターはその高いポテンシャルの格闘に翻弄され武器をふるう心を完全におられて倒される。それが彼女、『深淵姫アビス』なのだ。それに、これも驚いた。まさか……二属性混合装甲を持つ人間が私たちのチームにいたなんて……。『メガニューラ』は聞かされていただけでは生物属の中でも数の少ない古生代種の昆虫種だ。それに新種属『機械属』の特徴までもが追加されていたなんてそんなことが……。フラグメンツ・ファイトはチート機能が完全に遮断されることから完全実力制の格闘ゲームとなっている。その中で……こんなにすごいメンバーが集まるなんて……。空中からの格闘と砲撃のできる『ヴォルサリオン』、鉄壁の防御と変換機能をフルに使う変容性に富んだ『オウガ』、これも変容性という意味ではとても高く、火力俊敏性はなおのこと高い『アビス』、ステージに左右されることが多くても武装の強力さにおいてはヴォルサリオンを抑える『ウンディネ』、トリッキーな攻撃とステージの属性に左右されない隠密機能を持つ『シャドウ』、そして……空中の王者である昆虫系の中でも群を抜く飛虫系の装甲を持ち、なおかつ火力に事欠かない機械属の特徴も持つ『メガニューラ』。おかしいわよ。こんなの。

 そして、彼女らの美麗と言える舞いが始まる。メガニューラは機械系の装甲の中でも珍しくエレメントケース、なおかつ属性遮断機能……羽にも特殊な金属加工……水の中にも入れる。アビスの本当に怖いところは人体にも負担を掛けかねないほどの細胞分裂速度の加速化。さらには人体の組成物の変容。彼女の装甲の機能はそこから来ている。彼女は本当に危険な人物だ。もしかしたら闘うことで寿命を縮ませているのかも知れないからだ。


「こんな感じ!?」

「そうです!! 反転に合わせて私を空中に巻き上げてください。高度と速力を落とさずに合わせます」


 飛んでいるメガニューラはアビスが伸ばす背骨の形状をした鞭を掴んで彼女を界面で滑らせるように動く。アビスの防御力と属性的順応性があればどのエリアでもあの動きは応用が効くだろう。さらに、背中に乗せたり、メガニューラが抱いたりするなどの飛行形態に合わせた動きの練習も見て取れる。そして、先程まで為児手ことシャドウが技芸の一人稽古をしていたかが浮き彫りになる。水着のままだとホントに破壊力のある見た目のヴォルサリオンとほぼ同時に装甲を開放して空へ浮き上がった。どちらもアビリティや技能にかけてはプロ級だ。シャドウに関していえばあれで初心者なのが恐ろしいくらいだけど……。

 それに彼らの動きを見ているとこれは単なる演習ではない。実践系統だ。私はこれまで定期試験の関係で合わせになかなか参加できなかったけれど敵役にはヴォルサリオンとシャドウがついて二人のコンビネーションを確認している。それと同時に彼ら二人もコンビネーションの研究を交えているのだ。そこに……無人島の方へ泳いで行ったはずの二人が加わる。三つ巴……。凄い、練習すらハイレベルすぎる。これにまだメンバーが追加できるなんて信じられない。アビスの能力で骨を無限増殖させ、伸縮や方向転換の応用からか彼女は背骨をよく使う。メガニューラは空中でアビスの機動を安定させながらタイミングよく旋回、ホバリング、回避をくしし、合間に砲撃を行いアビスを援護、さらにはアビスは分裂速度を速めて無数の骨の鞭を繰り出し空中のヴォルサリオンと機動力の上げている形態のオウガの動きを封じる。しかし、ことは簡単に動かない。そう、まだ、メガニューラはファイトに慣れていない。だから、機体の放つ独特の気配を掴むのがうまくはない。だから、アビスの補助なしでは戦えないのだ。その状況下でやはりアビスが二人を相手にするのはあまりにも荷が重い。

 結果的に勝利するのエリアの条件的にもウンディネとオウガのペアだ。シャドウはオウガに先読みされてしまい先に沈められ、砲撃も格闘もある程度なら円滑に防御できるウンディネにヴォルサリオンは手を焼く。そして、沈められたシャドウが空いたオウガに落とされた。


「やはり、経験は一朝一夕にはいきませんね。稜太郎さん」

「当たり前だ。俺だってお前とかなり訓練したんだからな? 璃梨」

「てんてんそれにしても皆さんすごいんですが。中でも修羅さんは郡を抜いてますよね。あんなに的確に透明になっていた為児手さんを見つけるなんて」

「俺の場合は特殊だ。オウガにはそれだけの機能があるし闘う上での実力も違う」


 食事の席でもやはり私だけがこの話に参加できない。それに……なんでだろう。寂しい。どうしてか解らないのに寂しい。修羅君と錦って子が話しているのはどうしようもないけれど……為児手のことをこんなに意識したことはない。けれどどうにも……。エリューゼと話しているアイツはいつもと変わらないのに私は全然違う。はぁ……。世も末ね。こんな節操なしじゃお嫁にいけないかも。

 失恋の後に優しくされてた訳じゃないけれど何かを彼は与えてくれた。それが何かのはずみでそういう感情に変化したんだと思う。けどなんでか動こうとはしなかった。結局食べることができずに私はそうそうに用意された部屋に帰っている。全員が一人一部屋だろうけど……。大学生にまでなって何も起きないなんてことはない。特にあのイチャイチャ二人組は如何ともしがたい。止める気もないし。璃梨はあの子は見た目も大人びているし精神年齢も高いから何も言うことない。心配なのはエリューゼと為児手だ。


「私たちはやはりコンビネーション的には適合は無いようですね」

「そうだな。俺が器用貧乏過ぎてお前さんの特化しているところに合わせられていない」

「あなたも初心者なんです。それは仕方ないですよ。で? なんなんですか? 相談と言うのは」

「お前は璃梨に仕えていると聞いた。言えないならばいいが。知っている限りで藍緋の家のことを俺は知っておきたい。あいつは母親のことを全く語らない」


 それはそうよ。私は彼から直接聞いたことがある。幼い時に父母を同時に失ったという経験においては私も同様だからだ。そこからも彼は私を助ける意味で教えてくれた。

 彼らのお母様であるアルフォリオン・エレノア・シルバーナさんは御病気でなおかつ璃梨がおなかにいたのに……そして体の弱かった彼女は会社の経営をワンマンでこなしていた。そんなことは目に見えているという過労で倒れ……介抱もむなしく、璃梨を出産と同時に天に召されたのだから。正しくは、彼に生まれたばかりの璃梨を抱かせて一言残した直後に息を引き取った。だから、彼はお父様を恨んだ。心労は会社や子育てだけではなかったろう。その時、彼女はテロへの関与を疑われていたのだ。直接ではなく資金的に援助しているというような有りもしない疑いを公安にかけられていた。けれど、公安もクリムゾン・イーターのリーダーである修羅君のお父様が極度の愛妻家であったことを知らないはずもなく……手を出せなかった。でも、結果的にダメージは減ることはない。その心労も体に深刻なダメージを残したに違いない。


「私やお嬢様は知らないのです。修羅様はそのことに関して頑なにお教えになられませんでした。何故、彼がそのようにしているかは不明ですが……」

「そうか……何か、アイツの重荷を減らせればと思ったんだが」

「そうですね。あの方は重荷を抱えすぎています。誰かが放散させなければ……あぁ、錦さんがいましたね」


 そして、為児手の部屋の前で待っていると彼は数分後に歩いてきた。彼には何も言わずに明日の早朝に昼間の浜へ来るようにとメモだけを手渡して私は部屋で寝る。彼が知ったところで……彼の父親への恨みは晴れることはない。それに彼が恨んでいるのが彼のお父様だけではないとなればどうだろうか? これは私の考えすぎではあるけれど彼がお父様自身だけではなく、そのお父様をそこまで追い込んだ世相までもを恨んでしまっていては……私たちごときでは何もできない。彼が為児手の話すようにキューブターミナルのすべてを無事に停止させ、ブラックボックスを破壊したところで目的が一つ達成しただけ。何故彼が目的に誰も関わらせたくないかは為児手のいうキューブターミナルうんぬんで私は確信に近づいた。残酷なことが起きることは必至……それだけではない。キューブが止まれば……今、人外と化している修羅君や他のメンバーは怒りのままに敵対するものを殺せる。それを止める抑止力はないのだ。これは絶対に止めなくてはならない。それを解っているというのならそれは相当な覚悟の物……解っていなくてもこれを聞いたうえで考えを改めないのであれば……それも……。


「触りだけ言えばこういうことよ」

「そうか、なら、俺は世界を壊す手助けをするだけだ」

「……そこまでなのね? あなたも……血で血を洗うような道を進むと」

「いいや、あいつはそんなことを望んじゃいない。世相を恨んだところでアイツの発散するべき人間はすでにあの世にいるか……もしくはその子孫くらいだろうよ」

「まさか……あなた」

「言わなかったか? 俺は暗殺や謀略もいとわない。アイツのためならな」


 男って不器用だから嫌。なんでこんなに頑固なのよ。少しは逃げ道を見つけなさいよ。修羅君にしてもそう。なんでそれを見つけようとしないの? 錦が側にいても彼女が横にいないときの彼は違う顔をしている。何が彼を変えられるの? 何が彼らを変えるための物となるの? 為児手だって同じ、男が壁になって守るのは昔に戦争が頻発していた時期だけよ。もうそんな風潮ははない。弱い人は守られるし無理に戦うこともない。

 でも、闘いに行くのが男の本能なのだろうか? でも、それは身勝手だ。私のように戦地へ送りだして帰りを待つことのできない短気な女もいる。だって、そうではないか? 神頼みなんて柄じゃない。何もできないなんてことは多いことだ。けれど……何かしたいのではないだろうか?


「あんたも同じじゃない」

「あ?」

「修羅君と同じ」

「俺はアイツの陰だからな」

「でも、怖いんでしょ? 本当はさ、あんたも命は一つしかない」


 私らしくもない言葉が次々に飛び出ている。どうしたらいいのだろう。錦も璃梨も体験している。これが駆け引き? でも、私だってバカじゃない。まだ、その時期じゃない。この早死にしかねないバカどもを……私は助けなくてはならないと思う。だって、私は焔だから。不死鳥の力……。それは復活と正しい道への引導。鳳凰やフェニックスと呼ばれる私の装甲はそれを私の体にももたらした。家の重圧から父と母は私を連れて一家心中を決行した。しかし、私は死ななかった。三人でそろって首をつって……おじい様の話では私の脈も止まっていたが……私だけ生還したというのだ。それから何度も試した。ビルから飛んでも、リストカットしても、何をしても死ぬことはなかった。

 だから、私は彼らを守れる。死ぬことはない。私は例外でも生き物であるからには一度しか生を帯びることができないのだ。失えばその体に帰ってくることはない……絶対に。私の前でただ絶句している男を私は守る。錦は修羅君を守ってくれる。彼女がいる限り修羅君は無謀なことをしない。だから、私が守ればいい。


「私が守ってあげる」

「は? どういう意味だ?」

「あんたは忠誠心ばっかりで実力が伴って無いってことよ。私が居ればそれも補えるでしょ?」


 あぁ……アタシって素直じゃない……。なんで上からしてんのよ!! それが行動に出てしまい変な風に思われた? 為児手は笑い出す。おそらく私の顔は怒りと恥ずかしさとよく解らないホワホワしたかんじょうで紅潮と涙と……気の緩みが加わり酷い顔のはずだ。


「ハハハハハ!!! アハハハハハハハ!!」

「な! 何よ!! 人がせっかく心配してやってんのに!!」

「これで修羅のことはふっきれたか?」

「えぇ!! おかげさまで!!」

「まぁ、絢澄のときとまではいかねぇけども……最大限協力してやるよ。あんまりあてにはしないでほしいが」

「えぇ、絶対あてにしない!」


 ……。なんと言うか……誰かを失うなんてもう嫌だからさ。少しでも誰かを大切だと感じているのが解った瞬間に私はそうやって闘っていこうと決めたのだ。皆がああやって闘うのなら私もそうしようと思う。でも、どうしても……これだけは思ってしまうのだ。男ってどうしてこうも鈍いんだろう。あーあ、あいつもこいつもどいつもそいつも……鈍いなぁ。

 実は私自身も鈍いのかも知れない。私の心はまだ原石のまま、錦みたいにもともと透明ではない。私はこれから磨き上げていけるのだ。私の原石は赤い赤い石……。ルビーが好きだ。それに、私は赤い物が好き……焔は温かで私は心を燃やせる。燃やすべきものがあったから……温かく頑張れる。さぁ、飛んでいけるんだ。隣にいる人を守れるなら。私は闘う。赤く、目を燃やして……闘志を燃やして!!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ