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10/22

near summer near

 あのバカップルはもう形式的には付き合っているように見えてしまう。アホみたいな話だぜ。やつの言う目的とやらが家のことや過去が関わらなければ相談くらい聞いてやりたかった。俺もシャドウ・テイカーとリンクを深めるにつれてやつの本質であろう部分と俺が融合し始めているのだ。シャドウは文字通り影……俺は修羅の陰になろうと思っている。それに、この装甲を信じて俺はすでに二戦して連勝。まだまだ、サードリーグのアマチュアが集まるところだから絢澄(あやずみ)や俺の主人となるだろう王の素質を持つ修羅(しゅら)に仕えることができるならそれでいい。そうなるとその妃となる絢澄 (にしき)とやつを見守ることも俺の中では趣味のようなところに含まれる。俺は……実は育てたりするのが大好きでだんだんと育っていくのがたまらなくうれしい。


「ここってこれでいいのかな?」

「はは、最初に言っただろ? 君の好きなようにしな。俺は何も言わないし手伝うだけ。錦が好きなようにすればいいんだよ」

「うぅ……難しいでぅ『かんじゃった』」

「フフ」

「で、でも、アドバイスくらいは」

「そうだなぁ」


 けして小さな水槽ではないのに彼は彼女の後ろから手を添えて水草の角度を変えたりしている。俺からするとあれだけ密着していて密室に二人きりで何も起きないのが不自然で仕方ない。俺はいま、彼女らが作業をしている水産科関連棟のA棟の横にあるC棟から彼らを見ている。たまたま休憩室で休憩しているところで目に飛び込んできたのだ。狙ったことなど一度もない。だが、やつらの密会ポイントなど容易に想像できた。そして、俺はこの次の休み時間にとある人物に呼ばれている。あまり気乗りしないし修羅のやつもあまり眼中に入れていない。だからそこそこではいいと思う。しかし、あの人は藍緋家の内情を少し知っているらしい。

 リア充など消え去ればいい。あの二人がくっつかないのは先日の運命の分かれ道で惜しくも負けた。だからだ。それが無くとも彼は大切な物を近寄らせはしないのだろう。ハードボイルド男ってのは小説や漫画であればカッコイイし誰でもあこがれると思う渋いところだ。だが、それが近くにいると面倒この上ない。あいつは本四いを曲げて目的を優先している。さらに言えば俺がシャドウに見入られているようにやつもオウガと強くリンクする上でだんだんとそれに近い何らかの変化をしている。アイツの鎧は大きく変化した。少し前の動画を俺はとある筋から手に入れたのだが……黒血色に染まるあの鎧は最近になって丸みを帯び、とげとげした鋲は全くない。まるで『守る』ための鎧だ。


「……という訳なの!! 気に入らないのよ」

「それなら俺には何も言えないよ。自力でなんとかしたら?」

「あなた、そうとう頭緩いんじゃない? それで煮詰まってるから教えてほしいってのに」

「はぁ、だから……俺はあいつにそういうことを束縛しない。というか言いたいことがあれば自分で言えばいいだろ?」


 彼女がどこから俺が絢澄に協力したことを突き止めたか知らないけれど俺はそれに関しては首を横に振った。だから俺は嫌だったのだ。なぜかと言えばいくら俺らが干渉したところで止まらない。あいつの自分だけ世界観が止まるなら俺はすぐにアイツの動きを止めることができただろう。それに、表面はバカなやつでもあいつは頭の容量の大半がフラグメンツ・ファイトで埋まっている。それに、後の極少量とフラグメンツ・ファイトの外部に関することで本当にいっぱいいっぱいのはずだ。俺にも、やつにもキューブの変異が出ている。特に璃梨の話が本当ならば俺たち以上にあいつは人間から遠ざかっているはずだ。そして、俺はとあるシーンに遭遇する。

 あれは絢澄か? 絡まれている……!! あいつら!! 俺に絡んだチンピラだ。どこから入り込んだのだろうか。警備員の目を盗んで……まさか修羅に復讐するつもりで彼女に手をつけたのなら。本当の下種だ。くそったれ!!

 だが、そこに彼女の友人たちが食ってかかろうとする。俺の役目はその女学生たちに危険な手がかからないように彼女らを抑えることだ危険すぎる。いくらチンピラとはいえ女の子や俺のようなやさおではなんともならない。修羅……なんとかしてくれ!!


「何をしているんですか?」

「璃梨!?」

「どうかしたんですか? 令布さん。兄上がいなくとも私でことたります」

「あんだってんだよ!! やさおとガキはすっこんでろ!!」

「はぁっ……!!」


 一人目の男に彼女のなめらかな足技がヒットし吹き飛ばされコンクリートの壁に激突し伸びている。それをみていきなり警戒し攻撃的になるチンピラ。しかし、そこに……きた。


「はぁ、際限無いよな。暇なのか? あんた等」

「て、テメぇ!! あの時の!!」

「俺の目の前に二度と立つなと言わなかったか? それとも二度目の死に目を見たいか?」


 その瞬間にチンピラは逃げていく。本当にこいつは……いいとこだけ持って行きやがる。絢澄はあいつに抱きついて泣いているしもうてんやわんやの状況だ。そして、その夜。俺たちの初めての集団戦が開幕した。集団戦闘部門のスポンサーが藍緋家……正しく言えば璃梨の経営しているプラチナ・ローズが大きく割を占めているためにここはリーグの名前がそれにちなんでいる。大きな御所として名をとどろかせるチームが多く名を連ねるのがプラチナリーグ、次がゴールド、シルバー、ブロンズ、アイアン、ボトムとある。その中で所属メンバーがとても有名なこともあり俺たちはいきなりブロンズリーグからとなっていた。


「修羅君……ありがとう」

「あ? あぁ、あのことか」

「お前ってホントいいとこだけ持ってくよな」

「それに関しては同意します。ですが、まさか兄上が呼びだすということでタイミングとしては本当にベストでしたからね」


 今、俺たちはチームの結成と同時に顔合わせをしていた。このチームは本当に統一感とかそういうものは何もない。しかし、このチームほど強い物はないと璃梨は断言した。そのうちにすぐプラチナリーグまで昇進できるとまでいう。

 本当に顔ぶれが嫌になる。


「兄上にはお話いたしましたがこのチーム唯一の空中射撃型のユニットとして参加してくださいました。斑輪(ふわ) 綾太郎(りょうたろう)さんです」

「よ、よろしくお願いします」

「それと、いきなりの参加で悪いけど。空中格闘を専門にしてるわ。フェニックスこと香館(こうだち) (ゆう)……よろしく」

「んで、斑輪君には知られてねぇと思うから一度挨拶だな。俺は為児手(たじた) 令布(りょうふ)だ。これからよろしくな。俺の機体はシャドウ・テイカー」


 メンバーはこうなる。防御と陸上格闘の要で『ブラッディー・オウガ』と同じ格闘という観点では近いが防備には向かないオールレンジアタックが売りの妹で『アビス』。次に格闘補助で俺、『シャドウ・テイカー』と『ウンディネ』。そして、空中補助において『メガニューラ』と格闘もできる『フェニックス』何とも豪華すぎる顔ぶれだ。

 特にフェニックスは世界大会の選手層でも常連さんだし、藍緋兄妹は隠れているだけで本来はフェニックスよりも強いとフェニックスの使用者である香館が言う。さらに、そのオウガ……藍緋 修羅をある程度まで抑えたウンディネ。メガニューラは生物型でも珍しい古生代生物種。何ともはや……頼もしすぎる。


「ねぇ、絢澄さんだっけ?」

「は、はい」

「率直に聞くわ。付き合ってるの? あなたと修羅君」

「……いいえ」


 はぁ……必ずこうなるとは踏んでいた。しかし、こうも早いとは……。そこに聞いていた張本人が割って入る。本当にめんどくさい。俺にはどうにもならないことだからなるようにするしかないけれど。

 それからまた数日。このチームの合わせもなんとか形になり始めている。リーダーがなぜか藍緋兄ではなく藍緋妹だったのが気がかりではあるも……。その後、以前の歓迎会の時にあまり皆乗り気でなかったことからか上の二クラス合同の先輩たちがカネを出してくれるらしい歓迎会が開かれる予定を藍緋が教えてくれた。それまで、だいぶあいつは陰から知られないように絢澄のことを気にかけていたようだ。本当のあいつは優しいやつなのだと痛感する。心の真から優しくなければ他の人間にたいしてあそこまで過剰に思いやりを持ったり周囲の人間関係を気にしないだろう。それだけではない。アイツはオーバー・キルをしたために体にかなりの負荷をかけて絢澄を入院させてしまったことに責任を感じたらしく……アイツらしくもなくネットノートを使い、音声と動画で板書を残して逐一、入院先している絢澄へ見せに病院へ通っていたらしい。


「その後調子はどうだい? 絢澄さん」

「う、うん。修羅君も二人きりの時は名前で呼んでくれるし適度なスキンシップもできてるかな?」

「それならいいや。……というか今、少し物足りないでしょ?」

「へ?」

「甘い空気に浸りすぎで次を求めてるでしょ?」


 誰が見ても明らかな程に彼女は藍緋を求めているのだ。それなのに奴は解っていて答えていない。たまに見る二人で歩いているときや時間の兼ね合いや偶然からだろうけれど彼女を目の隅に入れた時に見え隠れしている彼女の憂い。なんとも言い難い残念な感情を人間が持つとああなる。もどかしいと言うと理解しやすいだろうか? 誰だってなるだろうよ。絶対。欲がなけりゃ人間じゃない。それは言いすぎかも知れないけれど彼女がそれを求めているのは事実であいつはあまりにも空気を外しすぎる。

 夏の近づくこの時期は色々なイベントが多い。そういうことをすぐにアピールできない絢澄には酷な状況下だ。こういう時こそ俺や璃梨が動くべきなのだが……俺にはあいにく連れ合いはおらず璃梨もあの綾太郎もだいぶ奥手な性格から璃梨のアプローチに少々困惑気味と来た……。どうにもならんのか? その上に絢澄にはプレッシャーというか敵対者となる香館が現われているどうなるのだろう。修羅の話では今晩らしいのだが彼女がどのようにでるか……。


「お、藍緋も来たじゃないか」

「せっかくお招きいただいたので」

「はは。俺たちとしちゃぁ来ないに越したことはないよ。お前に限らず人数が増えるとな。ははは!」


 俺は部屋であいつを送り出してからは同じ学科の連中と夜釣りを楽しんでいる。どうにもこうにも俺が悶々とすべきところでは無いのだ。堤防近くで三人で話をしながら魚の当たりを待つのだが……あいつらのことが気になって仕方がない。ここにきてどうにも不安になって来ているのだ。藍緋 璃梨の存在が俺としては本当に不安なのである。あいつの家の問題というのがどういうものかは知らない。それでも、妾問題だとかそういうものだと俺はアイツと璃梨に関しても大きく問題を持つと思ってしまうのだ。兄としての修羅と男としての修羅を混同してみてしまった璃梨はやはりそれだけ何かがずれているということなのだ。普通の兄妹であればそういう感覚はあまり出ない。なぜなら兄妹という根底意識が抜けきらないというものがある。まぁ……時たま兄だから好きという輩もいなくないが……。璃梨はそうではない。それにあの兄妹の内情を多く知らない俺には懸念しか浮かないのだ。

 そんなこんなで俺は絢澄の人柄に好感を持てることからあいつに肩入れしている。それをあの修羅がどう考えているかも不安な要素の一つだ。頭が悪い訳ではない。考えることの比率に学業を含むことができないのがやつだ。そう考えると本当に哀れなやつなのかも知れない。俺はただ傍観しているだけ。そんな人間にやつが語ってくれるとも思えないし……。俺としては足りない脳みそをフル稼働していていろいろ聞きたい。


「なぁ、藍緋」

「ん?」

「お前が藍緋の家を出てるのは璃梨から聞いたんだが。何故なんだ?」

「まぁ、俺としては俺の最終目的に璃梨を巻き込まないためってのが一番だな。だが、お前にも言われたしその次には璃梨にさえ言われた。人間はだれかと関わり社会の中でしか生きられない。結論……結局は巻き込んじまうんだよな」


 こいつは勘違いまで甚だしい。盛大だ。実に……。人間の心の中ではいろいろな面を含んでいる。俺はやつのように悩めるやつを何人も見てきた。けれど大概のやつは芯の無いやつでほとんどが途中から折れていくのである。だが、こいつはどうにも違う。曲げることができないのか曲げるという方向性を取れないほど緊迫しているのか……。

 その時、背後から声が響く。いいや、上空だ。それはフラグメンツ・ファイトの装甲……。しかもその装甲は藍緋の物と酷似している。そして、俺は視線を目の前にいた男に戻した瞬間に腰を抜かすほどゾッとした。震えが止まらず刺すような人間の物とは思えない覇気という感情表現のツールを受けてその場で尻もちをつき立ち上がれない。それに、聞こえた声は修羅にそっくりだった。あいつにはまだ家族がいたのか? 漫画や小説などならば憎い肉親の一人や二人が現われてもおかしくはない。しかし、それが……本当にあるのかどうか俺には確かめなくてはならない。


「どの面提げて俺の目の前に出てきやがった!? 親父!!」

「親父!?」

「……顔を見に来ただけだ。お前たちが息災ならばそれでいい」

「抜けぬけと!! 俺や母さんを見捨てて逃げやがった卑怯者め!」

「…………すまない。そのことに関しては何も言えん。俺が弱いばかりに」


 そして、その装甲の主は俺たちの装甲のレーダーさえ届かぬ位置に一瞬で移動し反応が途絶えたために右腕の装甲を怒りに任せて解放していた修羅も瞬時に元の腕に戻した。……次の瞬間、修羅はコンクリの壁を殴り付けて……砕いたのだ。俺が唖然としていると修羅は俺に方を貸し茂みへと連れて行く。俺も……当事者となったということか。あれが修羅の親父だとすればファイトの中に出ているのだろうか?

 修羅は茂みの奥で恐ろしいことを口走る。確かにそういう異なれば物事が支離滅裂であったこれまでのあいつの感情変化やいびつな生活をしても耐え抜ける体のこと、さらに兄妹の縁を切って妹は財閥総帥へと帰りざいていること……家の問題のこと……すべてがとは言わぬもつながるのだ。


「あいつの名前は藍緋 荒神(こうじん)。俺の実の父だ」

「あぁ、物言いで大かた理解したが。なんなんだよあの状況」

「くれぐれも他言無用で頼む」

「お、おう」

「『クリムゾン・イーター』という組織を聞いたことがあるだろう?」

「あぁ……ま、まさか!!」

「そうだ。俺の父、藍緋 荒神……いいや、今の名は『クリムゾン・オウガ』は……国際テロ組織『クリムゾン・イーター』のリーダーだ」

「う、嘘だろ?」


 修羅の目は嘘などついていないことは明白だが、俺の貧相なボキャブラリーや凡夫としての感性からお決まりのセリフがこぼれ出た。『クリムゾン・イーター』と言えば本当に過激な集団と聞く。この2144年現在で軍事転用を危ぶまれたキューブ・ナノトランスリンク機構はとある科学者が4708桁の暗号を作成しそれに守られ誰もがその基本構造を弄ることができず複製も不可能なのだ。そして、その鉄壁の壁である4708桁の暗号を打破したのがクリムゾン・イーターだったのだ。彼らは軍隊にも勝る戦闘技能及び危険な思想を持ち合わせ、初期型ナノトランスが作成されて発表された2130年に発起した。その翌年、アメリカのワシントンDCで起きた中国人系アメリカ人による日経アメリカ人射殺事件においてクリムゾン・イーターは中国の首都の北京で13万人をキューブ・ナノトランスシステムにより大虐殺したという。メディアは日本政府の関与を強く否定し、中国もクリムゾン・イーターの独断だという認識を表明。しかし、修羅によればそれは違ったという。


「あれは俺の父親である荒神が秘密保持のために行ったんだ」

「……キューブシステムとナノトランスシステムにそんな重い過去があるのか?」

「あぁ、それに、中国の北京で死んだのは中国人の一般人がほとんどではある。だが、それをする上で必要になった原因は数百人の金の亡者と軍人、政治家、他にも色々な欲深い人間たちだ。あの男はそれを皆殺しにし、本来開示してはならないキューブとナノトランス、ひいては人体とのリンクを開示させないように隠蔽(いんぺい)しようとしたんだよ」


 しかし、そのもくろみは小さな穴から漏れていた。中国は広大で地下ラボを作るには好都合な場所だった。その為に多くのキューブ関連の研究施設が存在したのだという。それの中で一つだけ……。針の穴に糸を通すようなごくごく小さな穴に一つの簡易研究所が当てはまったのだ。そこに保管されていたプロトタイプナノトランスシステムが理論やリスク、形式的順応性をうやむやにされたままに開示、公表された……。 

 その後、そのナノトランスの完成とクリムゾン・イーターのさらなる驚異を恐れた各国政府と内情を知らない外部のキューブ研究者や専門家チームが形だけの条約と各国に義務づけた司法追加条文……さらに罰則や権利章などなどを押し付け今に至る。だから、キューブは今を持ってブラックボックスなのだ。彼がクリムゾン・イーターである限り抑止力となる。だが、修羅はさらにそこからできてしまった穴を懸念していたのだ。


「だから、俺はお前たちを巻き込みたくなかった。俺は藍緋 荒神の息子として政府から目をつけられている。アイツと俺が接触すること……すなわちそれは世代交代を意味する。俺がそのうちにクリムゾン・イーターのリーダーとなると懸念しているんだ」

「そういうことだったのか」

「それに……」

「それに?」

「ここからは単に俺が女々しいだけだがお前にだけは言っておく。俺はこういう出生をした分……絢澄を危険にさらしたくない」


 まぁ、そうなるか。それに、暗い部分はここでは終わってくれなかった。何故、クリムゾン・イーターがナノトランスを使わずに装甲を強く体に維持できるか……驚いた。それはキューブを体に取り込むことで人外化すること。キューブを設計しプログラムする技術を考えたのも修羅の父である荒神氏。そうなれば修羅や璃梨にもそれがあることが見て取れる。

 そして……、彼の口から彼の最終的な目的が不意に飛んだ。


「俺の最終目的は……キューブターミナルの停止。そして、世界のリセットだ」

「お前……何を言っているのか解って言ってるんだよな?」


 今や世界の取引や人間の生活などに完全に浸透しきってしまったキューブシステム。そのキューブが小さな小さなナノマシンの小端末だけで処理を行えるとでも思っていたのかと聞かれれば無知な俺は最初はYESと考えた。しかしだ。そんな訳がない。一世代前のパソコン時代においてもそれは存在した。ケータイゲームでもネットゲームの世界であってもそのベースデータは存在しており大本とその端末の処理力によって物事を転がす。キューブとて例外ではない。キューブの場合は何本もの柱によってそれが支えられている。言ってしまえばキューブにも何個もの機能が存在しそれを支える柱は個別に分けられているのだ。それを破壊し、キューブを停止させて人間の文明と人口を大きく減退させるということを言ったのだ。

 それの際に敵になる組織は多いという。クリムゾン・イーターも結局はキューブ依存社会を変えるのではなくキューブの在り方や政治や人間の体制を変えるべきだという思想主義でそれをなくそうとは考えていない。さらに、それを利益にしているキューブの媒体であるナノマシンの製造機関に関する組織……暴力団や自衛軍、マフィア、宗教系武装集団のど。さらに、国連軍などなど……。だが、修羅の思惑でなければ世界は終焉を迎えうるという。


「キューブは管理された媒体だ。しかも、キューブの管理している組織はなんだ?」

「国家行政……」

「国は……今、キューブを使って人間を統制しようと考えているんだよ」

「なんだと!?」

「しかも、今この世界にいる100億人近い人間の約七割がナノトランスを介してファイターとなっている。それが……キューブのパルス回路を逆流用されてマインドコントロールされた日には……世界が崩壊するんだ」

「ま、まさか……そんな訳が」


 確たる証拠を見せつけられては何とも言えない。ブレイントレーナーウイルス。それは最近出回っているキューブに快楽思考を打ち込み判断基準を鈍らせ、人間のパルスを読み込む速度を極端に上げるウイルスだ。それを使い人間とのリンクを強めることで本来は人間のパルスから読み取られた指令をキューブが遂行する形態を逆転させ……疑似パルス流入で人間を操るという。それの発信元を修羅はすでにつきとめていたのだ。

 警察庁公安部……その公安部やアメリカのFBIなどの機関、EUの特殊警察、アラブのITパーソナルポリスが関わっている。もう、八方ふさがりなのだ。そして、彼はそれに一人で挑もうなどと口を開いていたのだと俺は話の開基に記憶を戻して理解した。こいつの危ない思想を……俺は受け入れることにしよう。闘う。こいつの見る未来とやらに興味がわいた。キューブを展開しやつに双剣を手渡す。


「良いだろう。今日……この日から俺はお前を王と認める」

「あ?」

「先に忠誠を誓う前に言っておく。んなバカげたこたぁあるか!! ダチ一人守れねなら。俺はただのクズだ。弱えぇんだよ俺は。だがな、一人で苦しんでるやつを目の前にして逃げるなんて男がすたらぁ!!」

「お前、何を言ってんのか解って言ってんだよな?」

「あたりめぇだよ。この剣に誓って俺はお前についていく。その為には仲間が必要だよな? おい!! ウンディネ。聞いてるんだろ?」


 これも予想外ではあったが弁当の風呂敷包みを抱えた絢澄が現われ、苦虫をつぶしたようなあいまいで苦笑いともうれいともつかぬ表情をする。このようなところで知る羽目になったのだ。本当はやつの口から直接聞きたかったに違いない。それでも彼女の気遣いとも取れなくはないけれど普通に彼女のお誘いの言葉が飛んだ。


「お、お弁当食べない?」


 絢澄とはこれといって何もなかったという。帰ってきたやつは何か複雑な面持ちだ。そして、いきなり、やつは俺に向けてまた違う形態の装甲を見せる。あの装甲をなんと言っていいかわからない。それでもいつものまがまがしさはなくどちらかというと人間味の強い装甲で驚いている。体中に携えた武装は戦士そのままだと俺は思う。いつも闘うあいつを体現しているのか?


「俺を王といったよな?」

「あぁ、璃梨じゃないんだよ」

「……」

「ほんとお前は解ってない。お前だから皆ついてきたんだ。理解してるんだろ? いくら璃梨に豪傑の才があっても、俺が心を呼んで流動しても、キューティー絢澄が頑張っても……誰もついてこない」

「あ、あの……私キューティーなんて冠詞はつきませんけど……」

「俺はお前だからついて行くんだ」

「あ、あのぉ……」

「良いことを教えよう。俺は闘いの中に身を置くことで本質を発揮する『(オウガ)』だ」


 そして、アイツはまたもアクアリウムデザインの世界で名をはせる作品を作り新聞にまで乗った。この日本の内部でこんな見向きもされないような技術屋が新聞に載るなんてことはまれだ。しかも、言えば水産系の人間なんて養殖や研究で大っぴらになることはあれどデザイン系でとは珍しい。

 本当にすごいやつだ。鬼……か。にわかに信じがたい。あの腕や繊細なタッチのできる指先が破壊の権化である鬼に備わっていようか? 否、俺にはそうは思えない。あいつは……何かを作れる。壊すだけではない。一度崩し、作り変える才能を持っている。そうか……だからアイツの装甲はそうなっているのだ。オウガの装甲は砕けやすい。水槽の壁を取り除くと、あいつの体は栄枯盛衰だ。壊れることと作り出すことを行っている。だから、凄まじい回復と枯渇……それができる。失うことをすりつぶし、なおかつ汲みあげることが可能な全知全能か。都合のいい人間だ。


「おい、藍緋」

「なんだよ?」

「少しは絢澄のことも考えてやれよ。あいつの場合は俺とは少し違うんだ。お前がいるから前向きになれてるんだそうな。だからよ」

「お前はうるさい姑かよ」

「せめて口うるさい大臣と言ってほしいね」

「ははは……」


 夏が近い。やつの汲みあげる水槽では少しきついと思うけれどな。夏場は魚でも水草でも温度が高くて管理が難しい。だから、あの子も大変な時期だろう。絢澄はどうやら魚のような変化をしているという。絢澄……彼女と俺たちの王はどうなっていくのだろうか……。彼女は繊細な魚。ブリーダーとしての腕もある修羅が本当に気をかけてやればあの子は幸せになれる。

 熱い夏が来る。俺には暑すぎて嫌になるぜ。これだけは先に言わせてもらう。

 世界中のリア充が憎い……なんでこんなにめんどくさいんだよ……。恋愛ってよぉ。熱い。あいつらが。

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